11/16 町案内、という名のWデート? 雲の上で
汐ちゃんとフィル
「準備、良すぎだよね?」
鷲ルドの背に乗り、空を覆う雲の上まで突き抜けて。
ルドが首から下げていた袋から取り出された赤色のポーチを斜めがけに下げ、焦茶の靴を履きながら。ジト目を向けて汐が言う。
袋の中には他に二着のコートまで入っていて、流石に用意周到すぎだった。
しかしそれを特に気にする事なく、告げるフィル。
「そっかぁ? ま、細けー事は気にすんなよ。俺様一人でも構わねぇけど、どーせならってんで準備だけはしてたんだよ。タイミング合わなかったからな〜。汐微妙に俺様の事、避けてるもんなぁ?」
「…………」
二人きりになったからかここぞとばかりに言ってくるフィルに、むぅ〜っとした顔を向けて。
「そんなことないもん」
呟いてぷぅいっ、とそっぽを向く汐。それに肩を竦めてフィル。
「ど〜こが、だよ。極力〈二人きり〉になんの、避けてるくせによ」
「そんなこと……」
「あるだろが」
「……っ……」
確かに少しばかり、フィルを避けているのは事実で。でも本当は、その事だけが原因ではないけれど。
フィルとは顔を合わせずに汐は押し黙り。
雲の絨毯の上を優雅に飛ぶルドの羽音だけが、耳に響く。
そんな中一つ、深呼吸して。くるりと身体ごとフィルに向き直って、ひたと。その蒼の瞳に自分の栗色を合わせて。
監視の目が離れている今じゃないと、聞けない事を訊ねる為、口を開く。
「……だって。まだ……教えてくれないんでしょ?」
何を、などと言わずと知れている。
十月の終わりと十一月の初めに起こった、事についてと。
汐が〈知らない〉事について、だ。
何時かは、話さなければならない事ではあるが。
汐のその言葉に、やれやれと息を吐く。
「何時か、だって言ったろ? まだ話さねぇって事は、時期じゃねぇってこった。今の段階じゃ特に……、な。それに〈この事〉は本来なら〈告げない・関わらせないのがルール〉なんだよ。永遠様や所在さんから何も聞かされてねぇのに、俺様がそれを汐に、言う事は出来ねぇんだよ」
「ならどうしてっ!」
記憶を消してしまわなかったのーー、という汐の、その言葉に被せるように。
「本意じゃねぇのが、わかってたからな。それに絶対に話せない、って訳でもねーんだよ。汐に関しては、な」
「え……?」
フィルのその言葉に、きょとんとして。ぱちくりと目を瞬いて、傍に座しているフィルを見やる汐。そんな汐を見返し苦笑して。
「……今はまだ、無理だけどな。このまま言い逃れする気はねーよ。汐は〈内側〉の人間だ。太陽さん達みたく〈外側〉に位置する訳じゃねぇ。だから〈その時〉は、必ず来る」
そこで一旦言葉を切って、続ける。
「ただ……本来なら先代から、継がれる形式で語られる事の筈なんだよ、この類の話は。永遠様から所在さんへ。所在さんから汐へってな。けど所在さんがいねぇし、汐がまだ子供だかんな。色々手続きとか、面倒くせぇ事があんだよ」
「……じゃあ……それが終わったら、話してくれるの……?」
じぃ、と。栗色の瞳がフィルを見つめる。それをそのまま見返して。
「……源海さんと太陽さんにも、許可取らねぇといけねぇだろうが、な。話せる時期が来たら、話すさ。だけど……」
「だけど……?」
言い淀むフィルに、首を傾げて汐。それに苦笑を浮かべ。
「……問題は、ラタリアだと思うんだがなぁ、俺様的には」
「ラタリアお兄ちゃん?」
なんで? という表情をする汐に笑ったまま。
「汐に、一番聞かせたくねぇと思ってんのは、ラタの奴だからだよ。それに〈力〉の事は一応、神殿の管轄なんだぜぇ? 其処の最高権力者がGOサイン出さねぇんじゃ、話す話さねぇ以前に無理じゃねぇかよ」
「あ」
その事には至らなかったのか、間の抜けた声を出しぱちくりと汐は栗色の瞳を瞬く。
暫ししてから「うーん」と悩み出した汐の頭に手を置いて。
「何時か必ず、話すから。けど今は汐が、考えてても仕方ねぇ事だからさ、取り敢えず脇に置いとけよ。折角、気晴らしに来てんだからさ〜。楽しまねぇと損だろうがよ?」
くしゃくしゃと頭を撫でながら告げるフィル。
それにいくばかりか悩んだものの一応納得して、こくりと頷き。
「そうだよね。それに遊ぶ時は全力で! って、海お姉ちゃんも言ってたし」
「ははっ。ちげぇねーけど、海らし〜言い分だなぁ。ーーいよっし。んじゃ行くぜぇ〜?」
「うん!」
笑みを浮かべた二人の声に合わせるかのように、聞き役に徹していたルドがその翼を空に大きく羽ばたかせた。
やっぱりもいっこありました
間に合ったので滑り込み
この辺の話もだんだんとしてかないとなぁ




