11/6 ゼネラリスト少女?
「それで、アプリっ子。トキとどういう関係さね?」
この際、呼び方の事は横に置いて。
聞かなければならない事を八雲が訊ねる。
「えぇっと、えぇっと。お医者さんと患者さん、かな〜? しおしおを……、汐を守ってもらった時に折れちゃったお兄さんの腕、診たのアプリちゃんだから」
問いかけにすまさなそうに答えるアプリに、苦笑しながらの八雲が呟く。
「トキが無茶するのはいつもの事だわさ。だからアプリっ子が気に病む事はないさね」
そんな八雲に、微苦笑を浮かべてアプリ。
「そんなトコまで、そんなトコまで。似てるんだ、あの二人。だからフィルフィルとトキトキ、仲良しさんなんだねぇ〜」
「アプリっ子のトコにも、無茶するのがいるんさね?」
「そうなんだよ、そうなんだよ。フィルフィルってば、いっつも無茶ばっかりするんだよ〜。ハラハラ、ハラハラ。させられる、こっちの身にもなってほしいよね〜」
「全くだわさ」
女二人が繰り広げるトークに、控えめに。寿々樹が声をかける。
「って事は、シャボン少女は医者……なんだな?」
「うーん、うーん。厳密に言ったら違うかなぁ?」
問うてきた寿々樹に、頰に指を添えたまま首を傾げてアプリが告げる。
「アプリちゃんは、アプリちゃんは。医療関係全般の、ゼネラリストさんなんだよ〜☆」
事も無げに告げられたそれに、一瞬目が点になる寿々樹。
ゼネラリストとは、広範囲の知識、技術、経験を持つ者の事だ。
それも医療関係全般となると、その技量は如何程のものになるのか。想像もつかない。
見た目十歳前後の子供にしか見えないこの少女の身の内に、一体どれ程のモノが蓄積され(つまっ)ているのか。
俄然目の前の少女に興味を示す寿々樹の、心内を知るよしもなく。
「アプリちゃんの、アプリちゃんの。トコは少数精鋭だから。各々が何かのスペシャリスト、ゼネラリストさんじゃなきゃ、対処対応出来なかったっていうのがあるからね〜」
サラリと告げたアプリに、八雲が続ける。
「アプリっ子。そう言えばなんで、トキを探してたんだわさ?」
それにあっ、と声をあげ。ここに来た目的を思い出して、アプリが慌てたように口を開く。
「そうだった、そうだった! トキトキ意識なかった筈なのに、あんまり手当とか、されるの好きじゃないみたいだったから〜。熱もあったみたいだし。アプリちゃんが、アプリちゃんが。帰っちゃった後、ちゃんと病院に行くか、心配、心配。だったんだよね〜」
「っ、あっはははは!」
「っ?!」
アプリのその言葉に、両者が全く別の反応を見せる。
八雲は腹を抱えて吹き出し笑っているし、寿々樹は頭を押さえて「あのアホが」と呆れた表情を隠しきれないまま、側に立つアプリを見下ろしている。
それにぱちくりと、アプリがその目を瞬くと。
「トキの病院嫌いは相当だわさ。意識無くしてまで嫌がるなんて、ほんとトキらしいさねっ」
「かか、帰るって、うろな(ここ)からいなくなるのかっ!?」
「ちゃんと、ちゃんと。トキトキ診て貰える所あるってわかったし。アプリちゃん、アプリちゃん。帰還命令出されちゃったから〜☆ 今日中に、今日中に。神殿に帰らないとなんだよね〜」
笑いながら八雲がそう呟き、今日中に帰らないといけないというアプリに、寿々樹は慌てながら、
「なっ!? コレ作ったの、シャボン少女の嬢ちゃんだろっ!」
手にしたものをアプリに見せた。
それは賀川の身体を診た時にアプリが貼り付けた、治療用のシートだった。
「こ、これの作り方を! 是非とも後学の為に、その技術と知識を俺に皆伝していってくれっ!」
見た目にそぐわぬ、向上心溢れる男らしい。寿々樹のその勢いに押されるように、アプリはふるふると首を振った。
「そんな、そんな。アプリちゃんのなんて、教えられるよーなものじゃないよ〜?」
「そこをなんとかっ!」
紙とペンを引っ掴んでアプリに詰め寄っていく寿々樹に、八雲はため息を吐き。
「寿々樹……お前のその凶悪顔で引っ付かれたら、怖いだろうよ……」
「ど、ど、どうすればいい、か、なぁ、そだ。顔を隠せばいいか?」
「そういう、そういう。事じゃなくてね? アプリちゃん、アプリちゃん。困っちゃうなぁ〜」
「困らなくていいから、な。頼むっ」
小さな少女に頼み込む、寿々樹に苦笑を向けながら。
「こりゃ、今日は臨時休業かねぇ」
呟いて、八雲は笑みを溢しながら、ドアにかかっているopenの札を裏返し。closeに掛け替えたのだった。
年数が年数という事で
バレたらまずいんでしょうが…
お薬話はまた、にしますかねぇ
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さんちらり、八雲さん、寿々樹くん?
お借りしました




