11/4 苦手なモンは一緒だろ?
『今のは……』
呟き、首を捻る『賀川』。
見やるのはホテルなどが立ち並ぶ方向。
施設が並ぶそこよりは遠く、北の森とぶつかる崖がある場所からは近い所。
放たれた圧力の放射点を、探るように見据える。
昔、何度か会った事のある者の気配。
覚え(しっ)ているのは『賀川』だけだが。
彼奴がいるのか、そう思案する『賀川』の
耳に。
「お前こそ、戦闘中に余所見なんて余裕じゃねぇか」
『!』
笑みを帯びたフィルの声が届き。
紐を巻き付けたままだった腕を引かれてバランスを崩すが、頰にかすり傷を貰うだけで避け、持ったままの紐を振るい牽制してバックステップで距離を取る。
スタン。
一歩遅れて『賀川』の眼前に降り立ったのは、ニヤリと笑みを浮かべるフィル。
イルから放たれた圧力による一瞬の隙のおかげで、ピンと張っていた紐が僅かにたわみ。
緩んだ紐によってギリギリで軌道修正の間に合ったフィルは、凸凹の断面と仲良くするのはなんとか回避したが、片方の肩を強打したうえ、手足をこれでもかと岩肌に擦り上げられた。
着ている衣服はボロ切れ状態なのもいい所で、脱いだらさぞ無残な肌を晒す事になるだろう。
「…………」
血が滲みヒリヒリと痛む、赤いだろうそれを気にする事なく。
頰を拭い、ニヤリとした『賀川』の視線と、同じく笑みを浮かべたままのフィルの視線が絡んだ瞬間。
肉迫する。
ガッ!
拳と拳。脚と脚。拳と脚とに切り替え前後左右を移りながら。
肉弾戦を繰り広げる『賀川』とフィル。
互いに視線は合わせたまま。
風を切る音。舞い上がった土の匂い。
何より戦いの場に身を置いてきた、その戦闘感覚が。
互いの一手一投を、見るでなく肌で感じて次を投じる。
『っ』
「ふっ!」
『はぁっ!』
激しい攻防が、夜に響く。
攻撃を受ける。フェイクをフェイクで躱す。腕を絡めて互いを留め。振り解いて拳と拳をかち合わせる。
こんな状況じゃなければーー
良い試合が出来ただろう
勿体無いな、とどちらともなく思っているのは分かっていたが、何時までも打ち合っている訳にはいかない。
時間がない。
しかし、好機に転じる隙もない。
互いに譲るなどという気は全くなく、間を空けず刈り取ろうとする。
その生命たるものを。
フィルの場合、そこに少々の弱さがあるが。
『賀川』が殺してもいい相手だと(そう)思っていても、フィルは生憎そうはいかない。
『助ける』事が前提。
汐の望みであるそれを、違える訳にはいかない。
ただの知り合い、というだけではないのだ。
青空家の、それも所在の代から所有しだした創詠・継承者にとって特別な夜輝石。
それを汐自ら分け与えたというのだから、何がしかの繋がりが、縁があるのだ。
直接なのか、間接なのかは分からないが。
汐が泣く姿は、もう見たくない。
それに、既に仲間だと思っている賀川を見殺しになど、フィルには出来なかった。
なんとかして、助ける手立てをーー
意識の隅で、思案するフィルの耳に。
『ーーつまらんナ』
シヴァの、そんな言葉が滑り込み。
「はっ!?」
『生かすなどト、生温い事ヲ。我と軛を交えた時ハ、もっと冷酷だったろウ?』
「それとこれとは、状況が違うだろうがっ」
『詮無い事ダ。我を愉しませられぬのなラ、力を貸す義理はないゾ』
「! てめ、まーー」
今、力の流用を発動停止されたらマズい。
それをなんとか食い止める為、言葉を紡ぎかけたフィルだがーー
『余裕を与えたつもりはないが?』
「っぐ!?」
冷やかさを帯びた『賀川』のそんな声を聞きながら、
がっつ!
頰に重い一発貰い、〈力〉の加護が薄れていく中、後方に吹っ飛ばされていくフィル。
「くっ……」
なんとか足を付き靴底で地を削って勢いを殺すが、留めきれずに膝を折る。
「……!」
その時ちらりと目端に捉えたモノに。
蒼炎が弱まっていく中、暗闇でニヤリと笑みを描く口元を隠すように、衝撃で切れた唇の端を拭い体勢を立て直しかけるフィル。
だが、それを害するように迫っていた『賀川』が、その足を勢い良く蹴り上げる。
顎を正確に狙う爪先。
くらえば暫くは起き上がれないだろう。
「ーー……」
その、ギリギリの所で。
『なっ!?』
首を反らし後ろに身を退きながらスレスレで躱し、上体低くまるでカエルででもあるかのように。
気まぐれなシヴァの残りカスの力を一点集中させて、足のバネで蹴り上がった『賀川』の足と、地面との間を飛び跳ねるように潜り抜け。
手を付きクルリと身を捻って。足から着地しながらニヤリ。
「いくら雰囲気が変わっても。ーー苦手なモンは一緒だろ?」
『!』
背後からのフィルの言葉に、『賀川』がハッとして振り向きかけたその時には、既に遅く。
ニンヤリと悪戯な笑みを浮かべ。
フィルは。
鳥笛を、おもいっきり吹き鳴らした。
フィル故の、でした
しかし、フィルも大概だけど、シヴァの方が更に大概だった…(苦笑)
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
『賀川』さん
お借りしております
継続お借り中です
おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ
戦闘シーンが難しい…
あともうちょっとなので、頑張りますっ




