7/21 世界が泣いて、いるようで
人間どもに不幸を!の寺町朱穂様の剣道大会後の話とちょびリンクしてます
日曜日の今日は、昨日の小雨が激しくなり、雨となっていた。
オープン二日目だというのに、雨のおかげて客足は遠い。
降りしきる雨に、今日はもう閉めようか、と思っていた所で。
「すんげぇ雨だなぁ、こりゃ」
文句をいいながら、大将が店へと入ってきた。
「あら大将。今日はお一人?」
そう言いながら、太陽が雨に濡れた大将にそっとタオルを差し出す。
それにおお、ありがてぇと礼を言って大将がタオルを受け取り、濡れた箇所をふきふき、手近な椅子へどっかりと腰掛ける。
「……こんな日はよぉ。家で大人しくしてた方が、いいってモンだからなぁ」
雨が降り続く外を見つめ、呟く。
「……〈海の愛娘〉が、朝っぱらからモールス使って言ってきやがったんだよ。今日は漁に出るな、ってな」
「あら、渚が?」
暫し外を眺めていた大将がそう言葉を紡ぐ。それに驚いた素振りも見せず、太陽は大将に聞き返した。
「あの子は、なんて?」
「不漁、もしくは事故、だとよ。組合のヤツらにゃ急ぎ連絡したが、何人が信じるか……。〈愛娘〉、知らねぇヤツらにゃあ、わからんだろうからな」
ばかな事してねぇのを祈るしかねぇぜ、と呟き大将は髭をいじる。
「……朝から髭が妙にムズムズしやがるからな。俺は〈愛娘〉を信じるが……」
「ありがとうね、大将。……ええ、きっと。皆さん無事に居られますわ」
呟き、窓の外を見つめる太陽につられて、大将も見上げるように外を見やる。
雨はまだ――やみそうになかった。
雨がひどい為に、店は太陽と陸の二人で大丈夫だから、といきなりの臨時休暇となってしまった海、空、渚、汐の四人。
これ幸いと海は雨だというのに町に繰り出し、それに引き連れられるかのように空も同行。
渚は新たな発明品創作に没頭し、汐はというと、姉達と一緒に町へ遊びに行きたかったが、昨日果穂先生から出された宿題をやっつける為、一人、家の二階にこもっていた。
「……はぅ。宿題、多いよ〜〜」
黙々と宿題をやっつけていた汐だが、一人な上に出された宿題のあまりの量の多さと、解いて書くだけの単純作業に集中力は早々に途切れ。
ぱったり、頭から机に突っ伏す。
そうすると、集中していた時は気にならなかった雨音が、妙に耳に響いてくる。
「……そういえば、今日……剣道大会、だったっけ……」
昨日、隆維お兄ちゃんがお手伝いを始める前にそんな事を言ってたな、と思い出した、――瞬間。
「っ!?」
違和感を感じてがばりと、起き上がる汐。
赤の、大きな強い――力。
〈これ〉は一度、前に感じた事がある。商店街で、チラシ配りしたあの日に。五つのキラキラの内の、ひとつ。
「……梨桜、お姉ちゃん……?」
ぽつんと、呟く。
しかしそのまま――、宿題をやっつける作業に、戻ればよかったのかもしれないが。
汐は立ち上がり、町に面している方の窓の外を、見やった。
降りしきる雨の中、〈白銀と緋の尾〉をその瞳に捉えた瞬間、それは本当に小さな、一部の場所で起こっていた事であったはずなのに、汐には町全体が、赤々と燃え盛っているように見えた。
「――――」
持っていかれ、そのまま汐は……
闇に落ちた。
あかい世界の、夢を見た。
咆哮、絶叫、恐怖、憤怒、悲鳴、憎悪、怨み――……
様々な〈モノ〉が溢れ返る中。
神に捧げる奉納の舞を、舞っている女がいた。
天上の業火を引き連れて、その上を可憐に躍り舞う、黒髪の乙女――……
まさしくそれは、天女だった。神の代の存在。
それが、この前出会った芦屋梨桜(お姉ちゃん)だと汐は直感したが――……
唐突にあかい世界は遠ざかり、闇の中悲痛な叫びが、泣き叫ぶ声が、響く。
あぁ。〈三本のキラキラ〉の、お兄ちゃんが叫んでいる。
そのお兄ちゃんと、近しい誰かが、泣いている――……
覚えておくんだよ、汐――
それと重なるようにして、お父さんの声が響く。
すると徐々に、遠ざかっていく叫びと泣き声。
世界は、良いモノ(キラキラ)ばかりじゃない
悪いモノ(キラキラ)だってあるんだよ
勿論、それだけじゃない
善と悪。そのどちらにも分けられないものも、あるんだよ
いや、きっとそれらの方が、分けられるモノより多いだろうね
だから、見極めなければいけないよ
片側だけを見ただけで、判断してはならない
どちらも等しく見つめた上で、決めなければいけないよ
関わるにしろ、関わらざるにしろ、ね
だけど、間違えちゃいけないよ
どちらも納める力がないのなら、その事に関わる資格はない
いや、たとえあったのだとしても、関わるべきではないのかもしれない
どちらのモノにも、各々の意思がある。各々が信じて疑わない、強い強い、思いがある
そして彼らには彼らだけの、領域がある
その領域に、踏み込む事がどういう事か――……
今の汐なら、きっともうわかっているだろう?
その時のモノを感じているのは、見つめているのは、汐だ
それにより、様々な思いを抱くのも
だけどその心は、その思いは、限りなく自由だ
全てを見極めた上で、それでも、何を途してでも関わりを持ちたいというのなら、汐の好きにしたらいいさ
だけど、それならば
覚悟しなければいけないよ
見続けることを
傷を負うことを
傷を、負わせることを
傷を、負わされることを
受け止め続けることを
他の域に踏み込むという事は、そういうことなのだから
覚えておくんだよ、汐
見えているモノだけが、全てじゃない
見えるもの、触れるもの、感じるもの、聞こえる(とどく)もの、思うもの――……
それら全てで構成されるモノが、世界なんだ
だからね、汐――……
――――……だよ
お父さんの声は、最後までは聞こえなかった。
「…………しおっ」
呼び掛けの声に、夢の中から引き上げられたからだ。
「――――汐っ!!」
「っ!」
声に驚き、覚醒する。
暫しボンヤリと空を見つめ目をしばたき、傍らを見やると、安堵したようにほっと息を付く陸お姉ちゃんの顔があった。
「……陸、お姉ちゃん……?」
「……よかった、気がついたのね。……怖い夢でも見てたの?」
「え……?」
ボンヤリ告げる汐に心配そうに陸がそう告げ、その言葉に汐はきょとんとする。そんな汐に苦笑して、陸は汐の目元を拭う。
「泣いてるわよ?」
「あ……」
そうされて初めて、汐は自分の頬が濡れているのに、気付いた。
「ん……そうかも。でももう、大丈夫だから」
「……そう」
はにかむ汐にそう言って陸はその頭を優しく撫で、立ち上がる。
「もうすぐ夕御飯だから、顔を洗ってから下りて来なさいね」
「はぁ―い」
それだけ言うと、陸は部屋を出て一階へと下りていった。
「…………」
一人になって、ひとつ息を吐く。目元を拭い、見上げた窓の外は、さっきよりも強さを増した雨がまだ、降り続いていた。
様々な〈思い〉を持て余したまま、汐は外を見続ける。
それは、徐々に広がり染み込んで、少しずつ少しずつ、世界に傷を付けていく。
良くも、悪くも。
外の雨は、まだ止まない。
それはまるで、世界が泣いているようで。
「……っ……」
それと同じくするように、汐はその栗色の瞳から、また涙を流すのだった。
大将レギュラー化か?
海の男のカンより鋭い渚の〈海の愛娘〉としての感覚…(苦笑)
でも渚に汐みたいな力はないです〜
長年培った海の者のカン的な。それが鋭いだけです、よ?
色々と、感じちゃった汐ちゃんでした
といいますか…
アリカ父さん、もしやこれ、死亡フラグ高まった…っ!?
寺町朱穂様の人間どもに不幸を!より
梨桜ちゃん、孝人君、サツキちゃんを
とにあ様のURONA・あ・らかるとより
隆維君を
各々お名前だけですがお借りしております
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




