11/4 作戦会議、はじめよ〜♪
アプリを中心に。
放射線状に伸びる二十六の鈎状しっぽは、アプリの身体から溢れ周囲に撒き散らされる黒赤の粒子を凝固させては、じわりじわりとその範囲を広げていく。
「ちょっとは、ちょっとは。これで時間稼ぎ出来るかも〜?」
放射状の鈎しっぽで作られた円陣が、一回り大きくなった所で。
両手両足に鈎状印紋を残した状態で、にこりとアプリが呟いた。
向けられたその瞳は時折赤の色彩がちらりと見え隠れはするものの、黒赤の血色眼ではなく、いつもの翠眼に戻っており。
「かもってナンっすか、かもって!? はっきりしてホシーんっすけど!?」
「お、落ち着けって、B。たぶん、大丈夫なんじゃないか? 目の色、戻ってるみたいだし……」
喚きながら傍へとやってきたBを、Yがやんわりと宥め。
「乗算するにせよ、もう少しやりようがあるであろう。無茶をするからそういう事になるのである」
「まったくでさぁ。それに、やるならやるで一言、言っておいてほしいでやんす」
フィル殿といい困ったものである、と呆れたような声をかけながら歩みを進めるのは、傘次郎を手にする天狗仮面。
カルサムはいつの間にかサムニドのその背へと移動しており、アプリが行使した気に当てられたらしいCを、そこに横たえている所だった。
ぱたぱた、小さな羽を動かして、アプリの頭の上に相棒のアムがちょんと降り立ったのを見計らったかのように。
『乗算?(ってナンっすか)』
首を傾げてBとYが、天狗仮面へと聞き返す。
それに苦笑しながら答えたのは、アプリだった。
「無茶は、無茶は。してないよ〜? それは、それは。フィルフィルの専売特許だから〜☆ アプリちゃんは、アプリちゃんは。出て来てたのを、変換しただけだもん☆ つまり、つまり〜。アプリを六百六十六に掛けて〜。それを、それを。二十六で割ったんだよ〜♪」
そう言って笑うアプリに、ハテナマークを浮かべながら二人。
「はぁ? え? ーーだから、結局、どーゆー事ナンっすか!?」
「えぇっと……。掛けて割った、んだから……確かに乗算、なんだろうけど……?」
「あいすまぬ。難しい言い方をしたつもりはないのである。ーー要するに、増幅して凝縮した、という事であるな」
ますますハテナを一杯にするBとYに、苦笑しながら続けたのは、BとYにとっては謎言葉を発したらしい天狗仮面自身だ。
笑みを滲ませた声音のまま、アプリが行使した手段をかいつまんで説明する。
「一人では時間の問題であるが故、一を六百六十六に増幅した上で更に、間を保たせる為に各々、分割し凝縮したのであろう。個より全、薄より濃の方が、搾取する側にとっては扱いにくいものである」
「すっごい、すっごい! お兄さんっ。その通り、その通り〜☆ アプリちゃんが考えてたのと一緒だよ〜☆」
天狗仮面の説明に、キラキラした眼を向けながらアプリが呟く。
そんなアプリに気圧されながら、訝しげに続けたのは、天狗仮面の手を離れ砂地に着地しながらの傘次郎だ。
「でやすが兄貴。増やした数と割った数の、計算が合わないでやんすよ?」
「その事であるが」
傘次郎の当然の疑問に答えようとした天狗仮面を、遮るように。
「あはは〜、あはは〜。そ、そこはほらっ。触れないで、触れないで。ほしいかなぁ〜?」
冷や汗を流しながら慌ててアプリがまくし立て、
「あれだけのモノを隠すには難しいが、此奴にも、それ相応の過去はある。折角稼いだ間。だが、アプリの過去を解くには足らぬ」
助け舟を出すかのように続けたカルサムに。
「無用であったな。失礼をした」
目を伏せ告げる天狗仮面。それに習い、傘次郎もそれ以上の追求は無意味と口を噤む。
確かに、傘次郎の疑問は最もだった。
疑問を持たれるような言い方をしたアプリもアプリだが。
しかし、アプリはともかくカルサムのその雰囲気から天狗仮面は、おのずと分かると察したのだ。
無理矢理増幅し分割凝縮した為に、アプリ自身そこから動けない状態になっているのだとしても。
大きな力の波動を感じているとはいえ六百六十六+a分の魂を内包している悪魔殺しの剣を、アプリがその身の内に秘めているなどと天狗仮面は思っていないのだから当然だ。
それに、天狗仮面の推察はあながち間違ってはいない。
剣の力で繋がりを断つ事はおろか、陣を手中に収め無効化する事も出来ず。
そこに縫い止められたまま。ただ、本当に。剣が持つ力を引っ張り出して数に物を言わせ、力の搾取を遅らせて時間稼ぎをする事しか、今のアプリには出来ないのだから。
「まぁ、難しい事はワカンナイっすから、その辺は後で、やりたい奴らだけでやってくれたらイイんっすよ」
「とりあえず、これで時間が出来た、んだよな? どうすればいい、か。考えないと……」
周囲の微妙な空気をヒラヒラと手を振って払うようにしながら、円陣の縁からは少し離れた場所に腰を下ろしながらBが告げ。
Bの隣にちょこんと、正座座りしながら呟くY。
Yの隣に天狗仮面と傘次郎が腰を下ろし、振動を与えないよう最小の動きでやって来たサムニドが、更にその隣にでんっと陣取り。
サムニドの背に横たわるCの状態がよく見える場所に、カルサムがそっと腰を下ろす。
その様をくるりと見回して。
にっこりとアプリは呟いた。
「それじゃあ、それじゃあ☆ 作戦会議、はじめよ〜♪」
胸に宿った温かなモノをふんわりと周囲に帯させる、柔らかなその笑みをのせて。
始まらないこの仕様…(苦笑)
次から始まります、次からっ
三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面、傘次郎君
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