11/4 力を貸してね
「あれ? あれ?」
「……戻ったか」
一つ、カルサムがため息まじりに呟いたのを耳にしながら。
ぱちり、翠の眼を瞬いたアプリは、コテリとその首を傾げた。
自分に声をかけてきたのは確かに、白い獣面の少年Bである筈なのに。
そのBの姿が、自分から限りなく遠かった。
しかも何故か、明らかに怖がっているような素振りでこっちを窺い見ている。
浜辺に綺麗に陳列した、他の獣面達が捕らえられている巨大なシャボン玉に隠れるようにしているBに、きょとんとしたままアプリは呟く。
「なんで〜、なんで〜? ベニベニそんなに遠くから?」
全くもって状況を理解していない風のアプリに、ベニベニと呼ばれたBは、慌てながら叫んだ。
「おおおお前っ! なに、きょとんとした顔シテルんっすか!? 自分の状態、分かってネェんっすねっ!?」
「アプリちゃんの、アプリちゃんの。状態?」
Bの言っている事の意味がわからず更にコテリ、首を傾げて呟いてから。
きょろりと周りを見回して。
B同様逃げ腰のようなYと、シャボンを解いたその場に留まる天狗仮面と傘次郎の、固い雰囲気。
いつの間にか肩からいなくなっていた相棒のアムと豆鳥ドリーシャは、巨大な姿のままのサムニドの背に移動していた。
カルサムはこちらに背を向けて、Cを庇っているようにも見える。
その時目端を掠めたモノに、なるほどと一人納得して。
「ごめ〜ん、ごめ〜ん☆ アプリちゃん、ちょーっと寝ぼけてたみたい〜♪」
「こっ、これの何処が、ちょーっと寝ぼけてたみたい、ナンっすかぁっ!?」
苦笑まじりに告げるアプリに、すかさずBがつっこみを入れる。
それに笑みだけ返しながら、それにしても……とアプリは思い。他のシャボンと違い特別仕様のシャボンに捕らえた獣面四人の内のその二人、幼女Mとその兄Nにちらと視線を送る。
狩り溢したらしい、過去の産物が産んだ兄妹。
「あの世界」の、本当に、本当に最後の末裔。
あの世界では王家だけのものでも、世界には緑の目のものだっているのは最早当たり前で。
それでも、光彩変化を起こすのは王家直系のみの筈。
聞いただけではあるが、間違いではないと思う。
あの時、記憶にあった者達は全て、イルと一緒に葬った筈だから。
そこまで考え、アプリは哀しげに微笑する。
秘密裏に、誰の目にも触れず、隠されていた者がいたとしても、なんら不思議はない世界。
自分とて、誰にも知られずに、葬られる筈だったのだから。
「……知らない血筋があったとしても、それこそ不思議はない、か。ーーそれともこれが、罰なのかしらね……?」
囁くように呟いて。
ザクリと眼前近くに突き立てられたモノを見やりながら、アプライリーズは、アプリは思想から意識を切り替える。
アプリの眼前に突き立てられたモノ。
それは黒と赤の、鈎状の楔。
アプリの、そして悪魔殺しの剣に注がれた、六百六十六+aの生命を貪って。
この現実に、顕現しようとしているのだ。
かつての悪魔が、そう望んでいたように。
うぞり。
ほどけた髪が、力の流動によってたなびくかのように、鈎状の数十のしっぽが、赤く黒く発光しながら周りを蠢く。
「な、なんとかしてホシーんっすけどぉ!?」
「うぅ……。ーーさ、流石にこれは、その……ぅ」
口元を押さえて踞るYを守るように、寄ってくるしっぽを円月輪で払いながら、Bが叫ぶ。
その声が僅かに涙声で、いい方の笑みを溢してしまいそうになりながら。
「りょーかい、りょーかい〜☆ コレを発動したのは、他の生命を削る為じゃないし、ね♪」
キラリと、血色のその眼を光らせて。
地についたままだった両手に、ぐっと強く力を込め。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ。力を貸してね。ーー「みんな」の力を」
告げて、両手と繋がれた胸元から、放出するようにアプリは意識を外へと描く。
すると、アプリ以外の面々へと向いていたしっぽがするるっと、まるでテープを巻き戻すかのようにアプリの身体へと集束され。
「っ!」
一つ、息を吐いたと共に。
両手の先から、繋がれた胸元から。
張り巡らされた陣へと向けて、そのしっぽが入り込んだ。
鈎しっぽ〜♪(なんて言ってるバアイではない?!)
三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面、傘次郎君
お借りしております
継続お借り中です
おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ
アプリちゃんの過去話は、書く気があったら番外編にでも…
気になる方おられましたらメッセ等頂けましたらペロります、ペロっと(笑)




