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11/4 遥か深底の過去の話10

新年おめでとうございます

今年もよろしくお願い致します


今年の一投目っ!




 鮮血が、剣を濡らす。

 数多の命で血塗られた、赤黒い剣を鮮明に。

 観客席しゅういから、割れんばかりの歓声が響く。


『「は、はは……っ、あははははっ!!」』


 少女いもうとの胸を貫いたまま。

 「救世主」の兄王は、高らかに笑い声をあげる。

 蝋燭の炎が、ゆらりと揺らめく。

 炎の光に照らされ、影が伸びる。


『「ついに、ついにやったぞ! これで私は、縛りもなく制限もなく! 現世に顕現し続けられるっ!」』


 あはははは、あーはははははっ!!

 少女をぶら下げた剣を掲げ、笑う兄王おうの影が揺らぐ。


 頭部から生えた角

 ぱっくりと裂けた口

 その背に一対の漆黒の翼を背負う


 その姿はまるでーーそう

 この小国くにに囁き語り継がれている、悪魔のよう


 しかし誰もーー、その事に気付かない。

 救世主誕生に沸く観客達の中に、それを見ている者はいない。


『「これで、こんな茶番ともオサラバだ!」』


 掲げていた生贄付きの剣を投げ捨てて高らかに告げ、兄王の内部なかにいる悪魔は、そこから出ようとして。


『……? ーーおかしい。この身体から、出られない?』


 ただ、意識を外に向ければいいハズの事が、出来なくなっている事に気付き。

 もう一度、今度は外に出たいという、その意思を込めて再び外へと、その意識を向けてみるが。

 やはり、兄王の身体から抜け出る事は出来なかった。


『何故だっ!? 私は、「縛り」から解放されたはず……っ! まさかっ!?』


 何かに気付き、兄王の器のまま悪魔は「力」を行使しようと、自ら(そ)の手に炎を呼び起こそうとする。

 制約もなく縛りもない悪魔に、そんな事は造作もない事だった。

 ーーしかし。


『……ばかな……っ』


 力が収縮され膨れ上がる事も。

 その手の内に炎が出現する事も。

 なかった。


『…………ッ!』


 ギリと、噛み締められた歯が音を立てる。

 悪魔には、力の波動それすらも、感じる事が出来なかったのだ。


 何故だ?

 何故だ、何故!

 何故! なぜ!! ナゼッ!!


 長い永い年月をかけ。

 築き上げてきたものが。

 ここにきて一気に、狂わされた。

 どうしてそうなったのか、分からない悪魔は自らの顔を覆おうとして。


 掲げていた剣から伝い落ちた、その鮮血を見て。

 何を思ったのか、悪魔は既に物言わぬ少女へとつかつかと歩み寄り。

 (自分の)死に顔を見ぬようにと被せられているベールを、勢い良くむしり剥いだ、瞬間。


『ッ! …………ぁ、んのっ…………小娘えええぇぇっっ!!!』


 ざわりと大気が震え、


「……ひっ!?」


 大勢の観客の中にただ一人いた、無垢な幼女が悪魔の、その影を目に捉えたと同時に。

 耳をつんざく絶叫と共に、膨れ上がった感情が。


 小国せかいを襲った。






 ドンッ!


「おわっ!?」


 いきなり何処からともなく、勢い良く突き上げられ。

 荷馬車が壊れる音と馬の嘶きと駆け去っていく蹄の音を聞きながら。

 農夫と少女は、地面の上をごろごろと転がる。


「なんだ、なんだぁ!?」


 未だ揺れる視界の中、掘り上げられたかのような木の根を偶然ひっ掴み、転げ落ちていくのを避けた農夫が声をあげるが、それに答える者はない。

 揺れはまだ続いている。必死になって根っこに掴まり、農夫は目を開いて周囲を見渡す。


 農夫が今まで生きてきた中で、こんな事は初めてだった。

 地面が……いや、目に映る全てが揺れている。

 何がなんだか、わからない。

 後に地震と呼ばれるそれを、その時の彼らはまだ、知らなかった。


 だが、一つだけ。

 地震を知らない農夫でも、分かっている事がある。

 この事態を、引き起こした要因。それは。


「……「儀式」は、失敗したんだ、な。……そりゃ、そーだよなぁ。ーー「贄の姫」は今……ここにいるんだから、な……」


 は、はは……。渇いた笑いを零しながら、眼前を見つめ、農夫が呟く。


「この小国くにはもう、終わりだ……。溜めに溜め込んだ罪が、まさか、俺が生きてる間に裁かれる事になるなんて、な……」


 農夫が見つめるその先にあるのは、つい先刻までいた小国の外壁。

 その外壁に添うように、赤と黒、そこに微かに見え隠れする緑の、光の柱が上がっているのが見えていた。


 「儀式」の成功が、小国に繁栄をもたらすのだから。

 「儀式」の失敗は、即ちーー


 小国せかいの衰退、或いは崩壊を意味する。


「…………」


 壊れた荷馬車同様導きの灯りも壊れた暗闇の中で、農夫がその顔を青ざめさせる。


 農夫には勿論、そんなつもりはなかった。

 小国を崩壊させる、その片棒を担ぐつもりなど。

 そもそも、ついさっきまで世話役の少女だと思っていたのだ。

 確認など、する必要はない。荷馬車に乗せられているのは「世話役」。煮るも焼くも、生かすも殺すも、農夫じぶんの手に委ねられているモノなのだから。


 しかし、この状況を見て。

 農夫じぶんはむしろ被害者だと、誰が信じてくれるだろう?

 贄の姫と共に小国崩壊を企てた首謀者と、思われるのがオチだ。

 弁明も虚しくしょっ引かれて斬首刑、なんて、農夫はまっぴらごめんだった。


 ここは早々に、ここから立ち去るべきだ。


「…………」


 いや、待てよ。

 そこまで考えてから農夫は、ちらっと周囲を見渡した。

 幸い目は良く、夜目も効く。

 すぐ側にいたんだ、ちょっと探せばーー……


 そうして、農夫はその口元をニヤリと嗤わせる。


 盛り上がった大地と木の根の間。

 運良く、いや運悪く、贄の姫であったモノは、その隙間に挟まれていた。

 世界が揺れているのか、自分だけが揺れているのか、わからないような中でも、ただ、何も映してはいないその瞳を、何処にとはなく向けたまま。

 物言わぬ少女はそこにいた。


 懐にある、硬質な感覚を確かめる。

 ニヤリとした、農夫の笑みが深まる。

 少女はその事に気付かない。


 そっと、掴んでいた根から手を離す。

 始めの頃に比べれば、揺れは収まってきているように思えた。

 もしくは自分の感覚が、揺れ(それ)に慣れてきただけなのかも知れないが。


 そろそろと、少女の側へと農夫は近付いていく。

 いつまた、大きな揺れが起こるか分からない。ここは真っ先に逃げるのが、本来の感覚なのかも知れない。

 しかし生憎、農夫にその感覚はなかった。


 そもそも逃げる、という選択肢は初めから無い。


「はは、は……」


 薄ら笑いを溢しながら、農夫は少女の元に歩み寄り。

 隙間から引きずり出し、未だ揺れている地面に組み敷く。


「なぁ、お前、わかるか? 小国せかいが終わる。終わるんだよっ! ーー罪に、よごれまくった世界がさぁ!」


 ひゃあはははっ! 狂喜じみた笑い声を上げるのうふを、少女はぼんやりと見上げる。


「くく、はははっ! ざまぁねぇよなぁ。「外」のヤツらなんかにゃ、全く相手にされてねぇってゆーのに、さ」


 ビリリ、既にボロ切れ同然の、少女の衣服を男が引きちぎる。


「「儀式」が繁栄をもたらすーーなんざ、おとぎ話としか見られてねぇってのに」


 スルリと、男の手が少女の肌の上を這う。


「皮肉なモンだな。こんな事でしか、それを証明出来ないなんて、なぁ?」


 耳を食みそこに囁くが、少女は反応を返さない。

 ふん、と。鼻を鳴らしただけで済ますと、力も入っていない少女の足を開かせ。


「けどま、安心しろ。俺が世界を「救って」やるよ。穢れまくったこんな世界でも、必要なヤツには必要だから、な」


 白いその足を肩に担ぎながら。


「世界を救った「救世主」に、国外追放の温情くらい、くれるだろ? ーーけど、さ。その前に」


 喉を鳴らし、男が嗤う。


「少しの愉しみくらい、あってもイイよな?」


 どうせ世話役とは、夫婦になる筈だったんだ。そう呟いて、男が少女を貫いた。

 その反動で、少女の身体がびくりと跳ねる。


 仰向けに、仰け反った少女の目に映るのは、小国の外壁に沿うように、空に「堕ちる」光の柱。

 赤と黒。それと僅かに緑のーー

 小さな小さな、翠の光柱。

 翠に赤が混じり、真っ赤なそれに染まった瞬間。

 フラッシュバックが引き起こされる。

 翠と赤。二つの瞳に射抜かれるーー!


「……あ、ーーあ? ……ーーああああぁっ!!!」


 闇に堕ちた時と同じ、既視感に苛まれながら。


「ーーヤりながら息の根を止めると、最高にイイって、知ってるか?」


 男に自らを貫かれながら、意識を取り戻した少女は。


「ーーあばよ」


 一つ最後の言葉を耳に。




 そこで命を、無情に絶たれた。



 贄の姫を葬って差し出せばーー、揺れは収まり一生国に飼い慣らされる人生とおさらば出来ると、「自由」をこの手に出来ると思っている、農夫の身勝手なその想いによって。


 事態は最早、贄姫の首などでは収まらない状況に、陥っている事を知りもせず。



全くもっておめでたくない話から始まりましたが(汗)

そこはフィーリング?で流しといてくださいっ


さて、次こそ終わらせるぞ、この過去話!

瞬きの間の話なのに、長すぎなんですよ…


いやでもコレ、とある彼だったら…更に長かったカモ、なんだよね〜

怖っ


短くまとめられるようになりたいなぁ…(切実)

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