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11/4 外された枷



パピュナリアクーイン。今からそっちに一人送る。うん、そう。「殺しちゃって」いい』


 金髪女からそう指示を受けたのは、漆黒の外套に身を包みそのおもてに白の獣面をつけた者達の内二人。


「ちゃんとお仕事貰えたし、もう待機組でいなくて済みそーだよ。クーちゃん」

「……パピュ。その名で呼ぶなって、言った」

「え~? そだっけ? パピュきーてないよ~? それにクーちゃんはクーちゃんだし~」

「俺、男なんだけど……」


 そんな会話を繰り広げる親と子ほどに身長差のある二人がいるのは、宿泊施設のある観光地からビーチに添うようにして北上した、その先にある場所。

 うろな町の北を覆う森と東を占める砂浜同士が、調度ぶつかる所。

 荒ぶる波に削られ、先細りのその先端を海に投げ出しているかのような、切り立った崖のその上だった。

 海風がフードと外套の裾をはためかせるのに合わせ、背の高い方Pパピュナリアがてってと軽やかに歩みを進め。


「この辺り、かな?」


 呟いてピタっと足を止めた所で、その一歩手前に薄く発光する円陣が現れる。

 その光を白い獣面越しに目に捉え、Pに「クーちゃん」と呼ばれたクーインは、低く小さなその身体の身軽さを利用し僅かに助走をつけて駆け、跳躍するとPのその肩を借りて円陣を飛び越え、反対側へとヒラリと着地する。

 その間に、円陣内に徐々に人の姿が現れ出し、屈んだような姿勢のその者に、Pは獣面をズラしてその唇を、Qは小さなその手を寄せ。

 光が弾け、金髪女によって浜辺から崖の上にへと転送されてきた賀川がその黒目を瞬いたその時、額に唇が頭に小さな手が同時に触れ。


「っ!?」


 驚いて手を振り払うが、手応えはなく。

 空気の流れる感覚と二つの着地音を耳にして、未だ継続する苦しさに喘ぎながらの賀川が着地音がした辺りを見やると。

 そこにいたのは凸凹丈の獣面を付けた男女二人ーーではなく、賀川の恋人である「雪姫」と、賀川から見て雪姫と「ちゃんとつり合う男」だった。

 その二人は賀川じぶんには気付いていないのか、互いを抱きしめ合い微笑む、仲睦まじい姿を賀川に晒す。


「ユキさ……? な、んで……」


 雪姫が自分以外の男と仲良くしている、その光景を目の当たりにし、苦しさに喉を詰まらせながら力の上手く入らない身体をよろめかせる賀川。

 そんな賀川の周りを、ころころと不自然に転がる大小の岩たちがゆっくりゆっくりと囲い、積み詰めていく。

 あまりの事すぎて、その事に気付かない賀川が見つめ続けるその先で。

 「雪姫」はその「男」とキスをかわし、恥ずかしそうに白い頰を染めながらも、懸命にそのキスに答えようとしているかのような、そんな「雪姫」の姿が目に映る。


「っ! ユキ、さんっ!」


 よろめく身体で息苦しさに堪えながら声を絞り出し、引きずるように重いその足を賀川が前に出しかけた、その時。


「あっ……」


 背後から抱きすくめられる形になった「雪姫」のその豊満すぎる胸に、「男」の大きな手がさわと触れ。ふにふにと揉みしだく。


「ぁ……っ、ダメ……、で、す……。か……、賀川さん、が……見て、ます……っ!」


 それに賀川の姿をその紅玉の瞳に捉えて驚きに目を瞬いた「雪姫」だが、ふるりとその身を震わせながら、「男」が与える刺激に甘い声をあげる。


「君を嫌いになっ(フッ)た男だろう? そんなヤツ、放っておけばいい。ーーいいからほら、集中して?」

「ぁ、っん! そ、んな……だめぇ、です……ぅ、ふぁ」

「そんな事言っていつもより、感じやすくなってるんじゃないか? 「雪姫」。ーーココも、もぅ」

「っゃ……ぁ。ち、ちが……ぃ、ます……あぁ……っ」


 賀川に、雪姫をフッた覚えはない。

 夏祭りの日、互い何も知らずにキスを交わした。

 その後雪姫が巫女という存在だという事を知って一度は離れようと思い、嫌われてでも雪姫を守ろうとさえした。

 しかし、夏にあった出来事により色んな人達に支えら助けられ。

 雪姫を守りまた共にいようと、二人での道を歩き出したばかりなのだから。

 何言ってるんだ、コイツ。と思いながら賀川が視線を向ける先。

 「男」に身体を撫で触られて、喘ぐ「雪姫」の甘い声が周囲に響き、それが例外なく賀川の耳にも届く。

 瞳を揺らし眼前を見つめる賀川の目に、ダメと言いながらも逃げるような素振りはなく、逆に「男」に身を預けすり寄るようにしている「雪姫」の、まるで自ら求めているような姿が目に入る。

 その赤目を潤ませ頰を染めて喘ぐ「雪姫」は艶かしく映り、軽く触れられているだけなのに既に色の強い唇から溢れる吐息が、賀川の耳朶を身体をぞくりと撫でていく。


 その「雪姫」と「ちゃんとつり合う男」は触れた唇と手から賀川の記憶を読み取り、賀川が最も重きを置く者(弱点)や負い目を感じる事などの情報を元に、魔導具マジックツールにより作成した幻影を被ったPとQのまやかしの姿なのだが、毒に侵され正常な状態ではない賀川にそれが本物か偽物か、見分けられる術はなかった。


「……ユ、キさ……」


 溢れた声は届かず、伸ばした手は虚しく空を切る。


 朦朧とする意識。

 身体がぐらりと傾ぐ。

 目の前が、真っ暗になる。


 それは錯覚ではなく積み上がった岩石にじわじわと視界を遮られ、ただでさえ荒く不順な呼気のおかげで酸素の十分に回らない中、更に空気の流れを遮断するような状態に陥りかけている事に、身体が危険を訴えていた。

 しかし身体からのその警告は、賀川を更に締め付ける結果にしかならない。


「雪に桜とは、美しいじゃないか。ねぇ「雪姫」。目の前の彼にも、よぅく見てもらったら?」

「! ダメですっ、そんな……あぁっ!」


 狭まる視界の中「男」に服を引き裂かれ、「雪姫」の豊満すぎるその胸が一房、夜の闇間にぽろりと溢れる。

 僅かに淡く色付く桜のそれに一筋、雪を思わせる白の長髪が曲線に添って流れ。

 触れられる度に色付く肌に薄桃の色味を帯びたその髪から、まるで花の如く芳しく甘美な色香が漂う。


 そこにあるのは陳腐なグラビアなどではなく。


 ただただ美しい、神世の名画そのものだった。

 いっそ神々しいほどに。

 決して犯してはならない、聖域であるかのように。


 時が止まったかのように、洗礼された美の再現がそこに降る。


「…………」


 岩面に叩きつける波音すら遠い、そこに溢れるのは吐息。

 光る雫は火照り震える蕾へと転がり、色を際立たせる露となり。

 黒い黒曜くろいその世界に、白く白磁しろく。


 儚く美しく「雪姫」を魅せる。



 その神聖な領域にーー、入り込む凶器こえ


「素晴らしい……これ程とはね。さぁ「雪姫」。君の「花」が摘まれるのを、彼に見てもらおうか?」

「あっ!?」


 含んだ笑みを溢す「男」の指が、「雪姫」の下半身へと伸ばされる。

 それに抵抗を試みる「雪姫」だが既に出来上がっているその身体では、最早抵抗は意味をなさず。


「っ、ゃ……やめて、ください。……嫌……っ。……いや、です……こんなっ」


 その赤目に涙を溜め、やめてと懇願するしかない「雪姫」に煽られた「男」は、大丈夫と囁きながら、スカートの内部なかへと手を差し入れる。


「……や……めろ……っ」


 喘ぐように声を上げ、身体を引きずり。自らを捕らえる檻のような岩に張り付き賀川が制止の声を上げるが、「雪姫」には届かず。

 代わりにそれを聞き取った「男」がくすりとその目を細めて嗤い。

 片側だけたくし上げられたスカートの裾から覗く白くほそりとした足の、太ももの内側をその長い指がぞろりと撫で。


「!? ぃやぁ……っ! ……、……さん……! か、がわさ……っ、賀川さんっ!」

「ふぅん? 自分をフッた男の名を呼ぶんだ? ーー本当は好きだったの? なら何故その手を放したの? みっともなく縋って泣き叫び、乞い願えば良かったのに。今更もう、遅いけど」

「やっ!?」


 びくんと、「雪姫」のその身体が跳ねる。

 赤いその瞳から、溢れた涙が空に弾ける。

 目を潤ませ頰を上気させ、与えられる感覚に震える身体をわし掴むように抱える「男」の手から、逃れようとするように。

 賀川に伸ばされる、「雪姫」のその手。


「賀川さん、賀川さんっ!」

「ユキさんっ!!」


 自分の名を呼ぶ「雪姫」のその声に応えたくて、賀川が岩と岩の隙間から手を伸ばすが、届く筈もなく。

 囚われ動く事すらままならない状態の賀川に、「雪姫」を助ける術など無いに等しい。



 賀川の恋人である雪姫は、〈巫女〉という特異な存在だ。

 信仰厚い所なら神に仕える身である巫女というだけでも十二分に価値があるが、白髪に赤目というその見た目もあやかり雪姫の場合はそれだけではない。

 巫女が愛する者を殺せば巫女は「人柱」へと昇華され、その巫女をも葬れば世界すら崩壊させる力を得る事が出来るのだ。

 そんな雪姫の力を欲してやって来る者達は、その恋人である賀川をも無き者にしようと襲いかかってくる。

 自らを守る事が、雪姫をも守る事へと繋がる。

 それ故に賀川は、一度手折った「剣」を再び研ぎ出していた。


 うろな工務店二代目社長、賀川の下宿先の大家で雪姫の養父でもある前田鷹槍まえだたかやり、その仲間の弁護士で剣士でもある魚沼鉄太うおぬまてった、元衆議院議員である抜田一ぬきたはじめらと共に下宿先の地下にある道場で、日々鍛錬をしている。

 ここ最近は、十月下旬にうろな中学の体育館で行われた親子ゲンカとも取れる試合で、見事剣道界の鬼神と呼ばれる男、梅原勝也うめはらかつやを打ち負かしたうろな中学教師清水渉しみずわたるを相手に互いを高め合いながら稽古に励み、賀川の十八番、気を練り上げ拳に乗せて放つ技『連続攻撃ラッシュ』の精度を高めていた。


 前回戦闘の終盤で、今回獣面の包囲を抜ける為に行使した力。

 大切な雪姫ひとを守る為に鍛えだした力を、雪姫の友であるうしおを助ける為ならばと躊躇いなく使った賀川だが、鍛え途中のその力はまだ未完成である上に気を練り上げ連続して放つ技故に消耗も激しく、一日に一度放てるかどうかといった代物で。

 今夜既に、獣面の包囲を抜ける為にその力を使っている賀川に、獣面が化けていた泥人形ゴーレムより固そうな、岩の檻を破る技はない。


 だがそれでは、雪姫を助ける事は出来ない。

 しかし喉を絞める苦しさと憤りに震えながら、雪姫が目の前で辱められるのをただ、見ているだけだなんて賀川には出来ない。


 鍛えているその力を、今使わずにいつ使うというのだろう。

 本来、雪姫を守る為のその力なのだから。


「っ!? ーーぃやあああぁぁっ!!」

「っ!」


 「雪姫」のその叫びが引き金となり。

 伸ばしていた手を下ろし格子状の岩から手を放し。拳を握り締めた賀川はふらりとそこに佇み。


 『禁じ手』とされている、『二撃目ラッシュ』を使う為、意識を集中させようと目を閉じ。



 俺から雪姫を奪おうとするモノは

 ……全て



 ーー壊レロ



 〈力〉に全てを委ねたその時、賀川の意識は闇に堕ち。


 『本能』を繋ぎ止めていた枷が、音を立てて崩れ去った。

PQの魔の手にかかり…

賀川さんが大変な事に

雪姫ちゃんが思いの外綺麗に書けて良かったです♪


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん、雪姫ちゃん(お名前+幻影として)、タカさん(お名前)、魚沼先生(お名前)、抜田先生(お名前)

巫女の設定、鍛錬の事


※二撃目ラッシュは禁手です。許可を経て使わせて頂いてます。常時発動技ではないのでご注意ください


YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌

http://nk.syosetu.com/n6479bq/

より、清水先生(お名前)、鬼神勝也氏(お名前)

試合が行われた事、鍛錬があった事


お借りしております

継続お借り中です~

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


桜月様宅でも、何か上がっているようです、よ?

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