11/4 元老院の計画
波音響く夜の浜辺。
唯人がそこを見渡した所で、灰色の静かな浜辺と寄せては返す黒々とした波が波打つ様が見えるだけの、何時もと変わらない夜の海の風景が広がっているだけ。
しかしその浜辺では今、結界の施された内部で、各々戦闘が行われていた。
少女二人の戦闘は既に決し、ジャージ姿の青年と着物姿の少年二人は泥人形に囲まれながら、最後の決戦の時を迎えようとしていた。
そして、黒髪青年と白髪少年の二人は血の赤が迸るその場所で、金髪女や獣面の頭である男の語り話を聞きながら、時が来るのを待っていた。
ザッと寄せては返す波から飛沫が上がる中、頭の男の語り話が続く。
「『揺りかご計画』。これはね、元老院の悲願、世界統一を成す為に、必要不可欠なものなのだよ」
「それにーー、「世界」にとっても。この計画が遂行される事は、とっても「良い事」なんだよ?」
頭の男のその後を引き継ぐように。金髪女が砂地に寝転がる汐の頰にちゅうと口付けを落としながら呟く。
「何が良い事だよ」
「それは、お前達にとってだろう」
それに声を返すフィルと賀川をフード越しに見つめながら、くすりと金髪女が囁く。
「そうでもないと思うけどなぁ。僕達はねーー世界の「掃除」をしてあげようっていうんじゃないか」
『世界の、掃除……?』
金髪女の言葉につい、呟きを溢す賀川とフィル。
世界統一と世界の掃除が、全くもって結びつかない。
そんな二人の心内を、まるで分かっているかのように。頭の男に変わり金髪女がくすりと続ける。
「今世界で、一日にいったいどれだけの犯罪、事件が起きているか知っているかい? 窃盗、強盗、傷害、殺人……。最近は盗撮やデータ漏えいなんてのもあるし、自殺なんて、自ら命を絶つものも少なくない」
突然始まったその話に、黒と蒼の目を瞬く二人。いったい何の話をしているのかと訝しむ二人に、まぁ聞きなよという視線を投げて続ける。
「最も多いのは窃盗らしいけどね。それにしたって毎日毎日、起こる事件は後をたたず。未だに逃亡を続けている者もいるだろうけど当然、事件を起こした犯人はいずれ捕まるよね? そうしたら、連れられていく場所は何処になるのかなぁ?」
「収容所だろ」
そろそろ、ただ話を聞いている事にうんざりしてきたフィルが、さっさと話を進めたくて女の問いにそれでも、面倒臭げに答える。それに紅い唇に笑みを描き。
「そう、収容所だ。大体皆、最終的にそこに収められるよね。だけど毎日毎日、何処かで犯罪が起こっているんじゃ、いくら収容所を増設した所ですぐ満杯になるのは目に見えている。というか、収容所は既に満杯なんだよ。何処も、ね。もぅいつ、溢れ出してもおかしくない程に」
人が罪を呼ぶのか、罪が人を惹き付けるのかーー。どちらにしろ、贅沢な話だよと呟いて。
「税金を無駄に浪費するだけの、人としての価値なんかないそんな奴等をわざわざ生かしておく必要なんて、無いと思わないかい?」
『…………』
金髪女の問いかけに、二人は答えない。
それを特に気にする事なく、金髪女は言葉を続ける。
「だからねーー。僕達がその者達を、有効活用してあげようっていうんじゃないか」
含みある声が、周囲に響く。くすくすと、可笑しくて堪らないというその声が、溢れる赤を震わせる。
暫くして、笑いを僅かに引っ込めた女が、汐に視線を流してから言葉を溢す。
「汐(この子)はね、全ての継承者の〈マザー〉となる為にいるんだよ」
愛でるように、汐のその髪を頰を撫でながら。
「継がれるのは〈末子〉なんだから、ね。そしてこの子が〈女性〉である事が、最も重要視されるんだよ」
わからないかい? 問うような視線を向けながら、女が語る。
「今でも、まだあるんじゃないかなぁ? 古き時代より家系を繋いできたような旧家には。女は、子を産む為の「道具」なんだって考えが、ね。これを元老院も推奨しているし、そうである事により、この計画は意味を成す」
ダブルセブンなんて、この子の名を冠しているのはその為だよ、と呟いて。
「創詠・継承者の〈力〉は〈末子〉にしか継がれないんだよ? 継承者が男性だった場合、どうあっても末子は「一人」にしか成り得ない。即ち、男性である者の血を重んじるという事だよね。それをふまえていうと、継承者が女性だった場合ーー、末子は、無限に増やす事が出来るんだよ」
くすくすと嗤い語る女に、目を見張る賀川とフィル。
嫌な予感しかしない。
紅い唇から溢れるザラついたその声が、言葉が、警鐘を頭中に響かせる。
「女性は子を育み産み落とす為の〈器〉だからね。それと交わる男は〈種〉を持つ。本来なら、女の腹からしか生まれ出でる事の出来ない男とは、女が主で男が従の関係なんだけれど。継承者が女性だった場合ーー、この関係は逆転する。器に、種を入れ込むのは男だしね。男に重きが置かれるというそれを、元老院は最大限に活用しようっていうんだよ」
もう、君達でも分かるんじゃないかなぁ? 呟いて、笑みと共に女が告げる。
「まぁ、この方法だと男にしか使用出来ないのが難点なんだけどねーー。あぁでも。あの爺婆共が一年も、赤子が産まれてくるのをただ待っている訳ないか。とすると力で取り出して他の女に托卵させなくちゃならないから、女も使えるといえば使えるかな? 不要になったら殺すか魔道具の糧にでもしちゃえばいいんだしね。ーー良かったね。これで平等に掃除出来るよ。それに収容所の中でただ無為に日々を過ごしているより、よっぽど有意義なんじゃないかなぁ? ーー腹上死出来るなんて、男にとっては本望だろう?」
『な……っ』
目を見開き、息を詰める賀川とフィルを満足そうに見つめ。女が語る。
「その力は、末子にしか継がれないんだから、ね。要するに、種を変えればいいんだから。それにその相手には、予め光が見えたら教えろとでも言っておけばいいんだからさ。まぁ此方でも、他に分かる者を立ち会わせはするだろうけど。子が宿ったその瞬間にーー、男の首をハネればいい!」
簡単だろう? と、女は意味深長な笑みをのせ。
「そうすれば、世界のゴミを始末出来るうえ、僕達は継承者を手に入れられる。一石二鳥じゃあないか!」
あははははっ! 赤い紅い唇の端をつり上げて、金髪女が愉快に嗤う。
「それを幾度となく繰り返せばーー、ほぅら。無限に末子を「製造」出来るって寸法だよ。増え続ける世界のゴミは減り、僕達は世界統一の為の駒を手に入れられる。これ以上にないってくらい、いい『計画』だろう?」
笑う女の唇が、不気味に湾曲する。
その様にゾッと末恐ろしさを感じ取り、賀川とフィル二人の背筋を、冷たい汗が滑り落ちていく。
息を詰める二人を見やりながら、金髪女はさも当然のようにその、恐ろしい言葉を吐いた。
「いうなれば、君達でもいいって訳だよね〜。僕達の邪魔者なんだから、さ。この子にその命、捧げさせてあげるよ」
サラリ、と告げられたそれに、一瞬理解が及ばない。
佇む二人が黒と蒼の瞳を瞬いているその隙に、金髪女はさっさと話を進めていく。
「やっぱり、初めては同年代の男の子? それとも、ちょっと年上のお兄さんの方がいいかなぁ? ーー心配しなくても、前座は僕がしてあげよう」
くすくすと告げ、立たせていた汐の足に顔を寄せ。
その紅い唇から、チロリと紫の舌を覗かせて。
足首から膝下に。
汐の白い足を、紫の舌が這い上がる。
『っ!』
その様を直に目の当たりにし、自らの背筋を粟立たせ。
拳を握り込む音が、奥歯を噛み締めるその響きが聞こえてきそうな程に、金髪女を賀川とフィルの二人が睨み付ける。
あまりの怒りに、その視線で女を射殺せる程に睨み付ける二人だが、それを意に介さず。
「まだ子供だから、無理だと思っているなら、それは改めた方がいいよ? 女の子はね、早い子ならこれくらいの年代から、身体はその準備を始める。「女」になる為の、その準備をね」
ちろと、眼前の賀川とフィルの二人に視線を向けながら。くすすと笑って女が呟く。
「だからね、いい機会なんだよねぇ。僕達は邪魔者を排除出来るし、準備がまだだったとしても今の内に誘発して教え込めば、年頃にはそれはそれは、素晴らしい〈器〉へと成熟しているだろうしねぇっ!」
あっはははは! 女の高笑いが、周囲に響く。
継承者達の〈マザー〉とはつまり、そういう事で。
汐にまるで、何処かの娼婦のように男を取らせるという事だ。
汐の意思とは勿論、関係なしに。
ギリッと奥歯を鳴らす賀川とフィルに目線をくれたまま、女は寒さで赤くなっている汐の膝に口付けて。
次の瞬間。
その膝に両の手をついたかと思うと、ぐいっと汐の足を開く。
その反動に、ただ空を見上げているだけだった汐の顔が、バタリと海側を、賀川とフィルの方へと向けられ。
何も映してはいない、栗色のその瞳から。
ボロリと、光の雫が溢れ落ちた。
うちのフィル君は(賀川さんも、かな?)ぶちキレる寸前かも…
爺婆怖いですねー
サラリと実行しそうな金髪さんは、更に怖いですが
そしていつの間にやら金髪女に語りが強奪されている頭さん…
金髪さんの方が進めやすいんでしょうね
ごめんよ、頭の男
君はやっぱり聞き役さんみたい…(苦笑)
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん
三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より
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天狗仮面ちらり
朝陽真夜様の悪魔で、天使ですから。inうろな町より
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リズちゃんちらり
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