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11/4 遥か昔の語り話




「数多の星が巡り世代が継がれ歴史が移ろい、紡がれていく中である時ーー、〈神〉はこの世界に、七本の矢を打ち込んだ」


 金髪の女が、紅いその唇から物語を紡ぎ出す。


「その矢はどういうワケか、感情こころあるものにしか打ち込まれなかったらしくてね。そうーー〈人間ヒト〉という種族だけにね」


 さわりと海風が吹き黒々とした波が踊る中、女が朗々とした声で語る。


「矢を打ち込まれたヒト達は、老若男女、その年代、立場や状況は様々だったそうだけど。誰も彼も。その事に気付きはしなかった」


 まぁ、それも当然なんだけどね。と女は笑う。


「〈神〉が、そうなるよう仕向けたから。そもそも唯人でしかない人間に、神代のものなんてわかる筈もないんだし。だから、打ち込まれた矢を持つ者もこの世界の誰も、それに気付く事なんかなかった」


 ただ前を、見つめているだけの少女うしおの耳元に囁いて。くすり、と。紅い紅い唇の端をつり上げる。

 浜辺に敷かれている陣から溢れ出た血色が、その紅をより色濃く魅せる。


「ただ時を紡ぎ次代を残し。己が内に宿す〈力〉に気付く事もなく、繋がれていくだけのもの。ただ、それだけのものとして。この世界ここに、あるだけのものの筈だった。だけど、そこに「永遠トワ」が現れた。数多に流れる刻の中、〈力〉に気付いた人間として初めての、その存在が」


 あはははは! 告げた直後、堪えきれないとでもいうように、金髪の女が高い笑い声を上げる。

 それに面々が目を見張る中笑いを含んだまま、抱くうしおを引き寄せその頰を撫で。微動だにせず佇んでいる、賀川とフィルに視線を流し。告げる。


「それまででも、幸か不幸か様々な場所で、その〈力〉に気付いた者達だって少なからずいたんだけどね。明確にその〈力〉を、〈力〉だと理解してではないにしろ、ね。その時は精々、不可思議な現象、とでも捉えていただけだろうけど」


 何も、元老院だけがその力を調べていたワケじゃないのさ、と続け。


「と言っても、当事者自身がその力を研究していた訳ではないからね。噂、幻想の域を出なかっただろうし、成果はなかなか上がらなかった。だけど、そんな中で最も有力とされているのがーー『七日七夜の断罪』かなぁ?」


 クスッと嗤って呟く。


「神の裁きだとも言われているそれを、語り継いでいる者なんてもぅいないだろうから、君達は知らないだろうけど。水をかけても砂をかけても、何をしても消えないその炎は七日七夜狂ったように燃え続けーー、小さな港町一つを、地図から抹消したんだよ」


 まるで地獄の業火のようだったと、その様を目の当たりにした港町唯一の生き残りは言っていたよ、と締め括り。


「それはそれは酷い有り様だったけど、それと噂、幻想の域を出ない力の事を関連付けた者はその当初、いなかった。だけどそこに永遠が現れた事で、気付かれは、知られはしない筈のその〈力〉の事は明るみに出た。欲深で用心深い元老院の爺婆の所為で、僅かばかりの者達しか知り得ていない事だとはいえ、ね。だけれどね、より深く、知っている者達がいるのが、神殿とそれに属する元老院というだけの事。その中には断罪の事を調べ上げ独自に仮説を立てた者もいるだろうし、そこからまた、別の説を立て新たな説を見出した者達もいる。そんな中、力を有している事が知れている者達がいるという事が、どういう事かわかるかい? 人というのはね、いつの時代も変わらず、強欲な生き物なんだよ? そんな特異な存在、みすみす逃す筈ないだろう? いわばこの子達はね、拐われる(そういう)対象に、自らなったって事なんだよ?」


 くすくすと、金髪女が言葉を溢す。

 するりと、汐の頰に首に手に足に。その指先を添わせ、滑らせながら。


「なら、拐われる(こういう)状況を招いているのはこの子達自身だって事だよね。〈力〉を失って(なくして)しまう事だって出来る筈なのに、そうはしていないんだから」

「…………」


 女の一人語りを留めようとフィルがその口を開きかけるが、それより先に。金髪女がその唇から緩やかに言葉を紡がせる。


「だから、ね。君達が、この子を守る義理なんてないんだよ。自らがまいた種なんだから。誰でも良かった筈のそれを、一点に絞らせたのは彼女達自身なんだから、ね」


 くすりと笑う金髪女に、一つ息を吐いて。フィルが呟く。


「〈ただそれだけのもの〉、でしかない筈の〈力〉にそれ以外を見出して、勝手に狙いに来といてよくゆーぜ。守る理由? んなモン、いらねっつの。そいつが危険に晒されてんなら助ける。それだけだ」


 フィルのその返答に一瞬、虚を突かれたかのように言葉をなくす金髪の女。そんな女の傍でただ耳を傾けていた獣面の頭である男は、ほぅと感心したようなため息を吐いた。


「随分、端的な答えだね? まぁ僕は守る理由なんかに興味はないんだけれど」


 一瞬前の事などなかったかのように、フードの裾から溢れた金髪を払い、金髪女が唇の端をつり上げてニヤリと呟く。


「この状況下で、一体どうやって守るっていうのかなぁ。少数精鋭の君達じゃ、早々援軍は望めないんだろう? 幾ら、個々が強力な力を持っているのだとしても。君達に、どうにかする事なんて出来はしないよ」

『…………』


 くすくすと、可笑しそうに笑う女をただ、見据える賀川とフィル。


 確かに女の言うように、援軍は望めそうもない。

 天狗仮面とカルサムはまだ、四人の少年少女に加え周りを取り囲む泥人形ゴーレム達と交戦中だろうし、アプリは治療にかかりっきりで、とてもじゃないが手を借りれるような状態ではないだろう。

 連絡手段が限られている中、これ以上他に援軍を、など奇跡に近い確率。

 それに彼らがそう安々と、援軍を呼ばせてくれるとも思えない。


 そもそも、二人は援軍など望んではいない。

 天狗仮面とカルサムにあの場を任せ、またその先での事を任されて、ここに来たのだ。

 今此処にいるのが、たった一人だけだったとしても。

 「何とか出来ない」のならば、此処に賀川とフィル(じぶんたち)はいない筈で。


 ぐっと拳を握り締める。

 視線鋭く眼前を見据える二人のその瞳には、まだ強い光が宿っている。

 そんな二人の視線を、つぃと見返しながら。


「まぁ精々、ゆっくり話を聞いていくといいよ。まだ、時間はあるんだしね」


 二人が何も答えないのをいい事に、金髪女は含みある声でそう呟いた。




ちょっと時間が戻ってますね(前に書いとくの忘れました(汗)

お話回〜です

ここら辺の話を、今まで全然してこなかったもので


どうせなら?いや、つっこむトコがここしかなさそうだったので、これでもかとお話回、です

宜しければお付き合いくださいね〜


たぶん?いやかなり?長いですが

すみません

ツケがきました、全くやってこなかったツケが…(苦笑)


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん


三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面(お名前)


お借りしております

継続お借り中です

おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ


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