11/4 誰でもよかったんだよ
泥人形と幻影の包囲網を天狗仮面とカルサムの助けによって抜け出し、先へと駆けた賀川とフィルは向かい来る新たな獣面四人との戦闘を切り抜け。
調度良い所に飛んで来たフィルの相棒、鷲のルドに倒した獣面達の見張りを任せ。
更に先へと駆けた二人は七本の支柱が直下立つ、ゴボリと血色を溢す赤い陣の中、探していた汐と獣面達の頭である男、フードを目深に被った金髪の女の姿を認め。
汐の名を叫ぶフィルに、
「再び見えるつもりはなかったのだがね。ここはお世辞にも、また会えて嬉しいよ、とーー言っておくべきなのかねぇ?」
そう言葉を返した頭の男に、走りながらのフィルが声を返す。
「なぁ〜にが、「再び見えるつもりはなかったのだがね」だっ!」
陣からはまだ距離のある、砂煙が尾を引くその場所で。
フィルとしてはそのまま突っ込んで行きたい所だったが、あまりの異様さと突っ込んで行く(それ)を察してか、数歩後ろを走る賀川から投げられた円月輪が、陣の外周の線上に達したその時。
眼前をビシャンと赤い稲妻が駆け走り、不可視の壁でもあるかのように、そこで弾かれた円月輪があらぬ方向へとすっ飛んでいくのをその目に捉えて。
浜の砂を削りながら勢いを殺し、陣の手前で立ち止まったフィルが声を上げる。
「だったらもっと、こそこそやってりゃよかったんだよ。大体、こっちはてめぇらなんかに会いたかなかったっつーの! 何が「また会えて嬉しいよ」だ! 思ってもねぇくせに、よっくゆーぜ」
キラリと、月星のない闇夜に光を弾くその蒼瞳を向けながら告げるフィルに、並び立つようにして立ち止まった賀川を認めながら、陣の内ラクな姿勢で立つ頭の男は一つ息を吐き。
「思ってもないだなんて心外だね。少なくとも私は、興味があるのだがねぇ。〈七の継承者〉そして、〈七守護り〉ーー。そう、君の事だよ、郵便屋の少年」
面にくり貫かれた目の部分から覗く、その目を細めて頭の男が告げる。
男のその言葉に、フィルの傍らに立つ賀川が訝しげな表情をする中、鼻で笑って告げるフィル。
「こっちの事は調査済み、ってか。そう有力な情報もねーのに、御苦労なこった」
「そうだね。七の継承者もそうだが、七守護りの事についてはほぼゼロ、と言っていいくらいにーー、まるで意図的に隠蔽されたかのように、情報は少なかったねぇ。あの地帯一帯で語られている、お伽話くらいなモノだったね」
「そりゃそーだろうよ。意図的に、潰してんだからな。継承者の事についても、七守護り(おれさまたち)の事についても、な。おおかた、元老院のジジ共にでもきーたんだろ? ーーま、そんなこたぁどーでもいい」
頭の男に声を返し、後で吐かせりゃいーんだからな、と続けて。
ぐるん、負傷していない方の肩を回し。ニヤリとした表情のまま、フィルは眼前の二人を見つめ返し。
「とっとと返してもらおーか。汐は、お前らなんかが触れていい存在じゃない」
闇など知らず、光の中だけに汐はいればいいという想いから出た言葉で、そうすっぱりと言い切ったフィルに。
「あっははははっ!!」
フードを目深に被った者、その裾から金の髪を溢す女が、高い笑い声を返す。
その声が何かの琴線に触れ、密かに眉根を寄せるフィル同様、頭の男と賀川の二人、それに後ろの先導師二人も合わせ、五人の者から訝しげな視線を向けられながらも女は笑い。
ひとしきり笑い目尻を拭うような仕草をしてから、膝の上に乗せている汐の頬をゆっくりと撫でつつ、女は笑みの残る声で呟いた。
「たかが一個人でしかないだけの少女に、触れてはならない、なんて存在価値はまだない筈だけど、それでもそれを言うなら。君達の方こそ、この子に触れていい資格なんかないよ」
だってそうだろう? と、女はフードの裾から覗く紅い唇をニヤリとさせて。
「君達の方こそ、この子の価値をまるっきりわかっていない。それに七の継承者は、元々此方側の〈モノ〉だ。これはどうあっても覆りはしないよ?」
「汐はモノなんかじゃねーし、ましてやお前らのモンでもねーよっ! よっくもまぁそこまで、自分の理屈を並べ立てられるモンだ。感心
するぜ」
「私の理屈? そんなものじゃないさ。これはただの〈事実〉だ。この子はこの世界に、〈生れ出でる筈ではなかった〉のだから、ね」
「!」
「は……?」
告げる女にすかさず返すが、続けられた言葉に息を詰め。ただただ女を見返すフィル。その傍らで賀川は驚いたような顔をして、その黒目を瞬き呟きを溢す。
それに笑みを深めて女は言う。
「七守護りの君なら、わかっているんじゃないのかな。この子は〈私達〉の側にいてこそ意味があるのだとね」
くすり。
笑みを溢す女が、何も映していない瞳を晒している少女の、顎をすくい。
冬の冷たい外気にさらされひやりとするその唇を、親指のハラでなぞりながら続ける。
「最初の予定では、この子より前の少女が、継承者になる筈だった。でも、ねーー。それじゃあ、ダメだったんだよねぇ〜」
ねぇ? と、されるがままの少女の耳元に唇を寄せて女が囁くが、少女が答える事はなく。
ただただ、虚空を見つめているだけだ。それを特に気にする事なく誰かが何か言うより先に、言葉を滑り込ませる。
「本来なら、至れる〈鍵〉である創詠・継承者であれば誰でも、良かった筈だったんだけど」
「誰でも……?」
金髪女のその言い方につい、といった感じで聞き返してしまう賀川。それにクスリと笑んで女。
「そうだよ? 創詠に、継承者。どちらもこの世界の者達に、〈知られる事はなかった〉筈なんだから」
「!」
女の言葉に、フィルはその蒼瞳を驚いたように瞬いた。
それは一瞬の事だったが、その僅かな変化を余さず捉えていた女は笑みを深め。
「昔話をしてあげよう。彼の者達しか知らない筈の、遥か昔の語り話を」
歌うように流れるように、語りだしたーー
やっと来ました、賀川さんとフィル君side
戦い、じゃなくお話が始まりましたけどね
頑張って、色々進めていこうと思います
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん
三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面(お名前)
お借りしております
継続お借り中です
おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ




