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11/4 どうか彼を…


敵側side

ザジィ君視点





 迸り闇夜に溢れる赤が目に痛い。

 元老院の爺様婆様達のおかげで、病魔の進行が止まったかと思うくらいに鈍い、頭以外はほぼ、砂と化したこの身体で。


 また大地に立てたことを。

 手を振り足を投げ出して、走れることを。

 僅かとはいえ食事することが出来、食べ物を美味しいと感じられることを。

 草木の香りを風の匂いを感じれることを。

 Yきみが笑顔を向けてくれることを。


 嬉しいと思った。愛しいと思った。

 大好きだと思った。大切だと思った。


 もう決してーー、喪い(なくし)たくないと思った。


 だけどーー

 このままではYきみの命が、消えてしまうというのならば。

 僕は……




「……ザザ、ディノス……」


 囁くようにYが呼ぶ。

 僕の名を。

 大切なーーYワラキュヌルスが。

 揺れている、その瞳を向けながら。


 そんなYに、僕は微笑んでみせる。

 ザラリとした砂を含む皮膚は固く、首を動かす事も既に出来ず、微かに震える唇から溢れる声は、消え入りそうな囁き程で。

 波音や海風がうるさいこんな場所じゃ、Yには聞こえないから。


 きっと、僕の想いは伝わると。

 必ず、きみに届くと信じ。

 精一杯の笑顔を向ける。


 それと同時に「声」を。

 風に乗せて届けさせる。


 僕達の均衡が崩れた所為で、動きのおかしい泥人形ゴーレム達を相手に苦戦しているらしい、鼻の長い赤面を被った青年と、頭上で結わえたみつあみを風に靡かせる少年に。


 どうかどうか。

 その耳を傾けて。

 僕の声を聞いて、と。


 ほぼ無音でしかないような、小さな小さな声だけれど。

 その心に届くようにと。

 僕の心を届けるから。


 どうかーー……



 視線を向ける先。

 赤面の青年とみつあみの少年が、傘を刀を振るい身を捻り、泥人形達の攻撃を受け弾き、または流し。或いは軌道を読んでなんとか躱したりを繰り返す中。

 ふとしたその時。

 泥人形達との攻防を繰り広げている二人の内、赤面の青年が持つ赤い傘と確かに、目が合った。


「どうしたのだ、次郎」

「いえね兄貴。さっきからどうも、囁きが聞こえてくるんでやんすよ。たぶん相手は……」


 二人の、そんな会話が漏れ聞こえ、今度はしっかりと。

 かれの方から目を合わせてきた事に、嬉しくなって微笑む。

 あの傘、ただの傘じゃないみたいだ。

 この国には、八百万の神や妖怪がいるというから、その類なのかな?

 思っていた者とは違ったけれど、確かに僕の心の声が届いた事に安堵して。

 もう一度、こえを届ける。


 傘君きみ、僕の声が聞こえるんだね?

「やっぱり、お前さんですかぃ。さっきからあっしに、声を届けてきてたのはっ。こっちは、悠長にしゃべってる暇は、ないんでやんす、よぅ!?」


 泥人形の攻撃を受け弾きながら、傘君が暇はないと言いながらも、ちゃんと答えてくれているのに苦笑する。

 均衡が崩れた事で伝達が上手くいかず、不自然な動きをするようになった泥人形達の攻撃は統率の取れていた時とは違って、カウンターやフェイントのようなものを各々から繰り出される攻撃の随所に、挟み込み無理矢理入れ込んでいるような状態だから、かなり読みにくいものになっている筈で。

 蓄積している疲労の事を考えると、苦戦を強いられているのは明らかなのに。

 ……根は良いのかもしれない。Yと同じに。



 僕の病気を治す為にと、頑張っていてくれた大切なきみ。

 こんな事を言ったら、きみは怒るのかもしれないけど。

 僕は病気なんて、別に治らなくても良かったんだ。


 きみが傍にいてくれれば。

 その笑顔を見せていてくれれば。

 それだけで、良かったんだ。


 僕が土に還った(死んだ)後、きみを一人にしてしまうけど。

 きっと、悲しませてしまうけど。


 きみといた日々は輝いていて。

 温かで柔らかだったから。


 僕はもうそれだけで、十分だったから。



 元老院の爺様婆様達には、感謝してる。

 魔道具マジックツール精神こころを委ねる事で、僕はまた自分の身体、手足を手にする事が出来たから。

 元々身体が砂化するなんて奇病を患っていたからか、土の気を纏った魔道具とは、相性が良かったみたいだし。

 拒絶反応なんかなく、すんなり身体に馴染んだ。

 でも何より。

 Yと、固い絆で繋がっていたから、というのが一番大きいと思う。

 Yと深く繋がっていたからこそ、僕は僕を見失わずにすんでいたから。



 YはLルッテに言われるまで、信じていなかったみたいだけど、僕は……

 僕は知っていた。

 魔道具を、行使し続けた者の末路。

 安心して過ごせるようにとの「検査」という名目のもと、連れられていった施設でよく、「調整」をされていたから。

 アレはただ経過を見る為だけの、検査なんかじゃなかった。

 更なる魔道具の力を無理矢理流し込まれ、どれだけ堪える事が出来るか計られ。

 いきなり手足を切断されて何処まで力を操れるか、試されたりなんかもした。

 僕みたいなケースは稀だったようだから、実験してデータを取りたいっていうのはわかるけど。


 僕以外にも魔道具に取り込まれ、或いは自らその身を委ねていながら、意思を保てていたヒト達もある程度はいたけれど、実験の段階が上がるにつれて、自我を保てなくなって魔鉱石化するか、完全に魔道具の糧として取り込まれてしまうか、どちらかだったから。


 流し込まれる力が多ければ多いほど、意思を保っている事が、困難になってくる。

 自分の意思こころとは違う意思が、直に囁きかけてくるから。


 苦しいだろう? 辛いだろう?

 全てを捨てて、もう楽になりたいだろうーー?

 全てを委ねれば、お前は今すぐにでも楽になれるーー……


 そう、囁きかけてくるんだ。

 魔道具の力は想いであり心。心はすなわち魂であり、命であるそれを使って、不可思議な力を現世に具現させるモノ。

 自らに与えられた魔道具が、使われていればいるほど。魔道具が元々持っている想いが、意思が。

 大きく強固なものになっている。

 何人分、何十人分、何千人分、何万……或いはそれ以上。

 それらに明確な意思なんかない。

 思念の塊のようなもの。

 だけど、寄り集まった思いの力は強く、しっかりと自分の意思を持てていなければ、簡単に飲まれ喰われてしまう。


 そんな、恐ろしいモノなんだ、魔道具というものは。

 いとも簡単に、与えられはしたけれど。

 行使すればするほど、魔道具に身体が、心が、馴染んで(引っ張れて)いく。

 いつの日かーー、使用していた魔道具自身に、或いはその「糧」となる為に。


 ……僕は、もう、いいんだ。

 知っていて決めたのは僕だしこんな身体でも、ちゃんと。

 「生きて」いられる事が出来ているんだから。

 だから、もし。

 この先僕がどうにかなってしまったとしても、それは僕の責任だ。


 だけど。

 僕がどうにかなる事で、Yワラキュヌルスにまで被害が出るような事は、それだけはダメだ、絶対に。


 こんな風に堕ちるのは、僕だけでいい。

 まだ、踏み外してはいない、Yかれが堕ちる必要なんてない。



 だから。


 Yワラキュヌルスを助けて! 僕の大事な友達を……家族を!

 Yを助けてくれるなら、僕がーー……


「!」


 僕の声が届いたからかどうか、わからないけれど。

 赤面をつけた青年の動きが一瞬、止まる。

 そこに迫る泥人形の鉄腕。

 轟音と共に瞬く間もなく、盛大に巻き上がる砂煙。

 それと同時に尾を引いて、後方にすっ飛んでいく砂塵の筋。

 青年が身に付けている紋様の描かれたマントが、あまりの勢いにバタバタと翻る。


 直撃したんだと、思った。

 実際、僕の目にはそう見えた。

 だけどみつあみ少年に抱き止められた青年が、その身に笑みの気配を纏っているのを感じて。

 少年に近付く為に、振り下された鉄腕から生じた衝撃波を利用して、飛んだんだと理解する。

 それには目を見張るけど、言葉をかわす素振りを見せた二人と一傘が、僕にちらりと目配せし、頷いたのを目に捉えて。

 嬉しくて、もう泣けはしないのに涙が出そうだと思いながら、ありがとうの言葉を返して。


 僕を見上げたまま座り込んでいる、Yに手を伸ばして。

 大丈夫だからと抱きしめて、そっと立たせてその手を取る。


 意識を向けなくてもわかる後方の、魔力密度がかなり高い。

 変化の始まっているLにOオーネ、それとMメノNニニクリも、何か仕掛けるならもう、ここしかチャンスはない。


 彼らに、そして僕らにかけられている「枷」。

 陣完成の為に陣本体と魔力が、またはその魂を繋いでいるもの。

 順位的に陣の完成が最優先事項だから、それを阻害する程の力の行使は、出来ない。

 ここまで四人とも、それに僕達もかなり、魔力を行使している。

 あと一回使えるかどうか、といったくらいしか、もう余力は残ってないと思う。

 それでも。

 それ以上に力を行使しようとするのならばーー


 削る事になる。自らの命を。

 或いはその身体、流れる血、肉や骨……

 LやOのように。


 あんな状態になって、何も失ってない筈がないんだ。

 彼女達が〈魔法使い〉なのだとしても。


 自らの想いが、彼女達にもあるのだとしても。

 そんな風にーー失くしたり、なんてしちゃいけないんだ。

 Yも。


 だからどうか。

 祈るように囁いて。


 ゆっくりゆっくりと、身構える青年と少年に八体の泥人形達が歩み寄る中、周囲に張り巡らされていた結界が解かれ、更に結界を被うようにしてあった風が止み。


 ピンとしたーー、静かな気配が漂う。



 そんな中、僕は強く。

 Yワラキュヌルスのその手を握った。




 様々な思いが交錯する中、彼彼女達の最後の戦いが幕を開けるーー……


そろそろ…いや、やっと?

終盤に差し掛かって来たかな〜?ここの戦闘…


三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君


お借りしております

継続お借り中です

おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ


最後はガツンといってもらいましょうか〜っ!


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