11/4 Mの為に4
N視点。
その日から、僕はメノの為だけに。
メノを守る為なら、なんだってやった。
メノに回される「依頼」が、少しでも減るようにと、メノと同じモノへと至った。
メノのように、生まれながらの(人工の)魔法使いなんかじゃなかった僕には、相当な負担と苦痛を伴うのものだったけれど。
だけどメノの為に、襲い来るその全てに堪えた。
メノがまだ母親を求めるなら、それを成す為にと。
あの女(母親)を、創り出す為に。
死んでしまった者を、生き返らせる事は出来ないから。
だからあの女を、メノの為に創り出す事にしたんだ。
まだ完全じゃないとはいえ、人工的に魔法使いを造り出すなんて事が出来ているんだ。
ならその力を以って神しか成し得ぬ御業、人体創造が出来るんじゃないかって。
勿論僕だけの力じゃ到底無理だろうから、メノの力を借りる事になるだろうけど。
その時までに少しでも、メノの負担を軽減させてあげられるように、なっていないといけない。
……まだ、その約束は果たされていない。
だからこんな所でヤられる訳にも、Mをそっち側に、持っていかせる訳にもいかない。
「…………」
深く沈み込んでいた意識を、浮上させて切り替える。
気配で、LとOが何かしようとしているのを悟る。
視線を向けた先。Mは苦しげに踞っていたけれど、必死に、痛みに堪えているようだった。
皆、戦っているんだ。
なら僕も、戦わなくちゃいけない。
僕に出来る最善で。
なによりMを守る為に。その延長線ででも皆を守る事が出来れば、約束に近付ける筈なんだ。
僕は、Mには遠く及ばない。
だからMの異変を、直接どうにかしてあげる事は出来ない。
力量外のモノに迂闊に手を出したら、取り込まれるのは確実に僕の方だから。
Mは魔道具に、ここにいる誰よりも〈近い〉。
母親の体内にいた時から、つまり身体を構成するその時から、母親を通じて魔道具を砕いた、或いは溶かしたそれを投与され続けていたんだから。
その身体に、骨に、血に、魂に。
魔力の情報が、組み込まれていたとしても不思議じゃない。
Mがその小さな身体の内部に誰よりも多くの、膨大な魔力を有し。
四人の内誰よりも早くしかも完璧に、教えられた術をマスターする。
Mが、サラブレッドと呼ばれる所以。
誰よりも、何よりも。
魔道具と馴染みやすいからだ。
だけどそれは言い換えれば、容易に魔道具の方に引っ張られてしまうという、危険性を孕んでいる。
今回のこれは、きっとその辺りが関係しているに違いない。
泥人形を構成する核となっている魔道具の、〈動力〉。それはMが一度その体内へと取り込んだ、元ヒトのその魂を使っている。
僕達以外にも魔法使いになりたいと思う者達は、意外にも沢山いて。
なかには莫大な金と引き換えに、売られてきたような子達や言い含められて来たような子達もいたけれど、自ら望んでその身体を捧げるような者達の方が、多かったように思う。
各々様々な思いの下、実験に協力する訳だけれど。
皆が皆、魔法使いになれる訳じゃない。
同期でいうと僕達以外は、ほぼ失敗作だったと言っても過言じゃないくらいで。
その、魔法使いになれなかった他の人達は全て、〈再利用〉される。
魔道具を砕いた魔力石の欠片を投与されていた者達は、襲い来る負荷に堪えられずその命を落とすなり、逆に魔力に呑まれたりなんかすると、そう間を置かずに〈魔力石化〉が始まる。
その身体が、魔力を内包した宝珠に……、自分達が摂取していたそれへと変わるんだ。
魔力を有した宝珠、魔道具そのものに。
だけど、元々魔力を帯びていた魔力石にも打ち勝てなかったそれらの魔道具となったモノ達は、その内部に有する魔力は人のその魂を以ってしても、そう増えている訳でもなく。
そのままで使う、凝縮された魂の部分を削り出して使うにしても、一回や二回が限度の、どちらかといえば脆いもので。
精々、魔法使いと成り得る新たな卵達の、糧となるしか道はない。
僕達みたいな、段階が進んだ者達にはそう足しになるようなものじゃないけど、初めて投与される者達には反動や負担が少ないからと、かなり重宝されていた。
当たり前だ。
元は自分達と同じモノ(人間)だったものなのだから。
そんな造られ方をしているだなんて、知るのはもっとずっと後の事だしね。
同じく、吞まれれば自身も同じ末路を辿る事になる事も。
その時には既に手遅れで、抗う術なんかありはしないけど。
何かを求めるなら、それ相応の代償がいる。
それは当然の事で。
稀に意識を持ったまま魔力石化が始まった者達は、泣き喚いたりする事もあるけど、それすら魔力の質を上げるのに利用される。
死にたくない、生きたい等のその強い想いは、強い力と成り得るからだ。
思いは心であり、心は「力」なのだから。
稀とはいえそんな風に、強い想いを宿した魔力石は、ほぼMへと渡される。
一番魔力量が高いのはMだから。
その想いを有したまま、内部に取り込み留めさせる事が出来るのは、Mだけだし。
僕やL、Oには、誰かの想いを引き受ける事までは出来ない。自分達のモノだけで、手一杯だから。
だけど、Mは違う。
Mのその身体の内部には、想いを宿したままの様々な魔力達が混在共存している。
……一度だけ、良質な魔道具を介して垣間見た事がある。
時折様々に彩り変わる、Mのその瞳を。
それはMが体内に取り込んだ者達の、想いの……、魂の煌めきなんだって、金髪の女が言っていた。
それらを自らの糧とし、また自在に取り出す事が出来るからこそ、泥人形なんかを造る事が出来る訳なんだけど。
今回泥人形達の枷を外した事も、もしかしたら何か影響しているのかもしれない。
今まで、泥人形達の枷を外すなんて事態になった事なんかないし、アレらの核である魔道具が、壊されるような事もなかった。
今までと違いがあるとすれば、それ以外に考えられない。
繋がりは絶たれているとはいえMの内部に残る、彼らを構成しているモノと同じくするその情報が、Mに異常を来しているとしか思えない。
その僅かながらの情報を介し、同調しているとしか。
「……っ……」
導き出したその答えに、拳を握り。
一刻も早く。この戦いを終わらせると決意する。
僕に直接、Mを助ける事は出来ないから。
これ以上、泥人形達を壊させずに。
敵であるあの二人を、葬り去る。
それが一番最短で、Mを助ける事になる筈だから。
LとOが何かしようとしているそれに紛れ込ませる事が出来れば、気付かれない内にカタをつける事が出来るかもしれないし。
幸い、僕には一つ手札が残されている。
「今度は僕が……助けるから」
苦しげに、呼気を溢すMを見つめて呟いて。
向き直り砂地に突き刺さったままの、赤みを帯びてきた魔道具に。
僕はそっと、両手をかざした。




