11/4 成すべき事を
「天狗流剣技三(散)の型ーー、壊突乱舞」
「ーー至閃回突」
静かに囁かれた言葉が呼気と共に溢れ、その足がしっかりと踏み切られる。
周囲を囲む泥人形に迫る、両者のスピードは風より疾く。
そこにいる誰も、二人の動きを捉えている者はいなかった。
唯一、捉える事が出来たのは、攻撃対象となった泥人形二体だけ。
しかし、気付いた時には既に遅く。的確に、その急所を捉えられており。
『オォオ』
真逆の位置にいる二体の泥人形が吼え、いきなり目の前に現れた天狗仮面とカルサムの、傘と刀の攻撃をなんとか防ぐが。
防いだと思った時には、そこに傘や刀の感触はなく。
「はあぁっ!」
「せいっ!」
二つの重声が響いたと共に、切り返した手を双方泥人形を構成しているその核へ、煌々と赤の光を放つ魔道具へと、勢い良く突き出している。
天狗仮面は、一撃目を防いだその腕ごと、魔道具破壊にかかる。
傘次郎を介し起こした風を薄く鋭く生成し、腕を切り裂いて無効化し。その線上に露わになった魔道具の周囲目掛け乱撃を仕掛け、周りの砂を土塊をゴソリと円状にくり貫き取り払い。
空に浮くようにしてある魔道具に向け、勢いの乗った斬撃を見舞う。
カルサムは、なんとかといった感じで攻撃を防いだその腕を、そうと悟った時には横薙ぎに刀を振るって振り払い。
逆手に持っていた刀をクルリと返すと、魔道具に向けて鋭い突きの追撃を仕掛ける。
正確に捉えた獲物(魔道具)、今までの攻撃の中で最速のその斬撃は、見事各々の魔道具を打ち砕き。
『……オォォ……』
バキン、ザララ……と。
ガラスが砕け水流にさらわれていくような音を響かせながら、魔道具諸とも二体の泥が土に、砂へと還っていく。
「っ!」
「! メノ!?」
「な……」
「この……、やっちゃいなさいっ!」
その時になって、やっと事態を把握した後方の獣面達四人が、各々変化対応を見せる。
Mがその場にガクリと膝をつき、それに驚いたようにNとOがMへとその顔を向け。Lの鋭い声が飛ぶ。
その声に触発されたように、天狗仮面とカルサムの左右から。風を切る音を響かせて泥人形の超重量級の鉄腕が、ごおぅと勢い良く振り下ろされる。
一瞬の後、ズガンと地を穿った音と振動、巻き上がった砂塵がもうもうと舞い踊るそれを、見るとはなしに見やる面々だが、ざりっと砂を削る音にハッとして。
泥人形達が囲う、その中心に視線を向けると。
砂埃は盛大に被っているものの鉄腕の攻撃は受けた素振りの全くない、凸凹の剣士二人が緩やかに得物を構え、互いにその背を預け合った状態でそこに立っていた。
「……ちっ……」
それを忌々しそうに見つめながらLは舌打ちし。
「……小細工してるバアイじゃない、ってコトね」
「で、も……ルッテちゃん。もぅ……」
含んだその呟きに、言い淀むような声を返すOにくすりと笑って。
「だーいじょうぶよ、Oちゃん♪ 何も、広範囲で生成しようってんじゃないんだから」
サラリと告げると、Oの了承も待たずにひび割れ赤い光を迸らせている、足下の魔道具へとその手をかざす。
「Oは、力を貸してくれるだけでいいわ。後は、私がやる。ーー〈使えるもの〉もあるし、ね」
「ルッテちゃんっ!」
Lの、その言葉に何を感じたのか。Oが叫ぶような声を上げる。そんなOにLは獣面で隠れたその顔を向け。見えはしないと分かっていながら、その顔に笑みを浮かべる。
「……っ!」
しかしLのその微笑みを、見えはせずとも感じ取ってしまったOは、小さく息を詰める。
Lが何をするつもりなのか、それだけでわかってしまったからだ。
わからない、訳がない。
何をするのも、何処に行くのもいつも一緒で。
今よりもっと小さい頃からーーいや、家が隣同士で同じ病院、同じ日時に生まれた二人は、まるで生まれる前から共であったかのように。
自然と傍に、互いが互いの半身であるかのように、寄り添いながら生きてきたのだ。
互いの事が、手に取るように分かるくらいに、その繋がりは深く。
仲間を思い、自分(L)一人でなんとかしようとしているのが、わかってしまった。
「…………」
Lのその思いを受けて、Oは自らの拳をぎゅうと握り、僅かにその顔を伏せる。
Lが言っている、〈使えるもの〉など、一つしかないのはわかっている。
自身とて、〈同じ状態〉に陥っているのだから。
森から繋がり、浜を走る陣は広大。敷かれているそれから、〈繋がり〉を断たれている者達がいる中これ以上陣完成の時を、遅らせる訳にはいかない。
最重要事項は、〈七番〉を無事、元老院の長達の元へと送り届ける事。
もしそれが出来ずおめおめと逃げ帰ろうものなら、今この時生き長らえた所で、遠からずその首は飛ぶ。
ならばたとえ諸とも、であろうとも。敵をこれ以上先に行かせない為、少しでもその戦力を殺ぐ為に、葬る方に走るだろう。
すぐ終わるだろうと思っていた戦闘は思いの外長引き、長期戦となっている。
先程の手際を二度も使わせてやる気はないが、まだ頭数は多いとはいえこれ以上戦闘が長引けば、先に体勢が崩れるのは確実に此方の方だ。
陣の柱として常に力が搾取されている状態である上に、制限(枷)までかけられていのだ。
このまま何もしなければーー、負ける。
いつも以上に、泥人形達を行使している時間が長いからか、明らかにMの様子がおかしい。
人形の核を壊されたくらいでダメージを受ける事など無い筈のMが、核が壊されたそれに同調するかのようにその膝をついた。
主で泥人形達を操っているのは確かにMだが、核を有している故に泥人形達は各々個別の単体であり、いくらMが一度その身に取り込んだモノだとはいえ、核との〈繋がり〉はほぼ、無い筈であるにも関わらず。
それにMと泥人形達は主従関係であり、M(主人)が泥人形(従者)に自らが受けた傷を肩代わりさせる、というのならばあるだろうが、その逆などあり得る訳がない。
主人がいなければ、彼らは生まれ出でる事すら出来なかったのだから。
そもそも作成されたその時に、主人に逆らわない・危害を加えない等の、契約を交わしている筈だ。
それなのに、Mに異変が起きた。何か、異常をきたしているとしか思えないようなものが。
それは、非常にマズい事だ。
敷かれている陣は、巨大な一つの陣としてだけではなく、三つの中型程の陣を重ねた三連陣の集合体で出来ている。
その二陣目を預かるこの隊の、主として要であるのは最年少であるMだ。
今此処で、要であるMを失う訳にはいかない。陣の完成を、これ以上遅らせる訳にはいかないのだから。
「…………」
ぎゅうと握りしめていた拳をほどき、Oはぱっと伏せていた顔を上げると、獣面越しに、くり貫かれた目の部分から覗くその瞳を、ひたりとLに向け。呟く。
「…………だよ…………」
「え?」
しかしその呟きは、対角にいるLには届いておらず。小首を傾げて聞き返されてしまう。それに、もう一度Oは声を返す。
「私だって、(思いは)一緒なんだよっ!? ーーこんな時だけ、仲間外れにしないで。ルッテちゃんの気持ちは嬉しいけど、それなら……っ、それならルッテちゃんと一緒がいいよっ……!」
「……オーネ……」
Oのその、叫ぶような声音に面の奥の瞳を瞬いて。暫し眼前のOを見つめるL。そんなLをOはじぃと怯む事なく見返し。Lは一つ息を吐くと、
「……私の後を、ついて来るだけだと思ってたんだけどなぁ……」
ボソリと呟いて、いつの間にか対等の位置に立ってたって事か、と続けて囁き。
「わかった、一緒にやろうO。いつも……一緒だったもんね、私達」
「!ルッテちゃんっ」
笑みを含んだその声に、面から覗くその目尻に涙を浮かべてOはこくこくと頷き。涙を払うと、もう一度しっかりとLを見る。それにLもOに視線を返し。こくりと互いに頷き合うと、眼前をひたりと凝視する二人。
覚悟は出来ている。
仲間を守る為なら、いくらでもこの身を捧げる覚悟が。
簡単に、ヤられてやる気もないしMが、持ち直すまでの間でいいのだ。
それに要を失うよりは、補佐としている自分達の方が、何かあったとしても陣への影響は少ない筈だ。
自分達の身体に、何が起こるかなど想像もつかないが、後の事はNが上手くやってくれるだろう。
それに最悪ーー、〈使える力を使って失うのは、身体だけ〉だ。
その魂さえ無事ならば、きっとMが新しい〈イレモノ〉を造ってくれるだろう。
だから恐る事など、何もないのだ。
使った事がなくとも、その力とて自らの一部なのだから。
LとOは、背を預け合い得物を構える、天狗仮面とカルサムを見つめ。砂地に突き刺したままの魔道具に手をかざすと、二人同時に声を発した。
「ーー自分達の、成すべき事を」
それと共に地に刺さる魔道具、そしてLとO自身から。
闇夜を切り裂く、赤の光が迸った。
取り敢えず、二体撃破〜!まあ、このテはもう使えないでしょうが
しかし、獣面さん達が何か仕掛けてくる模様…
なんか、女の子ばっかりイタたい事になってるよーな…
そんなつもりはないんですが…
三衣 千月様のうろな天狗仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面、傘次郎君
お借りしております
継続お借り中です
おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ
次はちょっと、敵側sideいきますよー




