11/4 浜辺での戦闘その3 黒と白の青少年1
迫るは獣面達四人。
一人だけぽってりとした者がいる以外は、成人男女の、およそ標準的な体格である者達が三人。
それを見て取りその両手に、隣を並走するフィルが長針を携えたのを聞き取って、賀川も手に持つ棍を三節に分けるとフィルが投擲するのに合わせフリスビーのようにして、三節の棍を投擲する。
闇夜を裂くように走る針と、その足を掬うかのようにして砂地を滑る三節棍が、迫り来る獣面達を襲う。
しかし、獣面達の足は此方と同様に止まっておらず、構わずにそのまま突っ込んで来る。
走りながらその手に閃くのは、僅かな光を跳ね返して夜に煌めく銀光。
キィン、フィルが投げた長針が、各々に弾かれ甲高い音を響かせる。
だがそれは想定内の事であり、その時には更なる長針を投擲しているフィルと同時に、森で拾ってきたBの円月輪を投げつける賀川。
シュルルと風を切り、円月輪が弧を描いて空を飛ぶ。
それに一瞬の間があったような気がしたがそれだけで、機械的に回避行動を取る獣面達。
何もそれに驚く必要はない。
獣面達にしてみれば円月輪は味方である者の武器であり、あらゆる可能性を想定し敵の手に落ちた等の、対処法くらいは叩き込んできているだろう。それに、共に戦う相手やその武器をある程度でも把握しておかなければ、背を預け合う事など殆んどの者達には不可能だろう。
故に獣面達が回避行動を取れるのは至極当然の事であり。
そこに紛れ込ませるように攻撃を挟み込み、体勢を崩しにかかる賀川とフィル。
重そうなぽってりした者の足に踏みつけられ三節の棍が留められ。投げた長針が、甲高い音を響かせながら弾かれる中。
四人いる内二人に向けて、速度を保ったまま渾身の蹴りを放つ賀川とフィル。
「はぁっ!」
「おりゃあっ!」
『っ!?』
それに長針と円月輪を各々に捌いていた二人は、間髪入れずに繰り出された蹴りに一瞬、反応が遅れ。左右に別れ後方へと勢い良く、蹴り飛ばされていく。
それを見もせずに蹴りを放った勢いのままターンして、残る二人に続け様に攻撃を仕掛けようとした賀川とフィルだったが。
「よっ!」
「っと!」
シャラン、という金音を耳にし闇夜に走る線を捉えて、そこから瞬時に飛び退る。
それと共にカァン! と高音を響かせて、もう一投していた長針と円月輪が弾かれるその音が周囲に響き。その直後、一つ女の声が上がる。
「D、F! まさか一発で、ヤられたりしてないやろなっ!?」
砂煙の上がる先とドボンと水飛沫を跳ねさせる海面から、それに返答の声はない。
それにちっと舌打ちする女の、その声に続けるようにして。足を止めその者の傍らに立つぽってりとした者が、背中に背負っていたらしい大刀をスラリと抜き放ち、構えながらボソボソと呟く。
「……エフ。解ケ、防御。……オレ。殺ス、彼奴ラ」
長針と円月輪の防御、として立てられているもののその隙間から、面越しに。くり貫かれた目の部分から覗く、ギラギラとした視線を向けながら告げる者に。
手を返し、自分達を守るようにして立てていたソレを、鉄製のデカく長い「すだれ」を手元にガションと戻しながら、「エフ」と呼ばれた女は答えた。
「あんなぁG。ウチの名前は「エフ」やない。Eやって、何回ゆうたらわかる――」
しかし、それを言い終える前にGと呼ばれたぽってり男は、ドスドスと重い音を響かせて、思わず足を止め黒と蒼の瞳を瞬く賀川とフィルに突っ込んでいく。
「あっ、こらG! 人の話は最後まで聞きいなっ!」
そんなGを追って駆けるEだが、自身の身の丈以上もあるすだれをぶぅんと振って加速した時には、もう戦闘モードに戻っている。
『っ!』
それにハッとして、迫りながら振り下ろされた大刀と束ねたままのすだれの攻撃を、その隙間をすり抜けるようにして避ける賀川とフィル。
「行かせへんよ!」
声をあげ、そのまま脇をすり抜けて先に走っていきそうになる二人を、渦を巻くようにして伸ばされた鉄のすだれのその先が、浜に穿たれその場に二人を留めさせ。
「レディフィルドっ!」
その時鉄同士が擦れる音を耳にして、賀川が鋭い声を出し。
「へいへいっと」
サラリと答え、弾かれたままに弧を描いて戻ってきていた円月輪を、手に持つ針に引っかけてくるくるとさせるフィル。もう一つの円月輪はというと、踏まれて留められ見事にひしゃげた三節棍を拾った賀川が、即座にその手を切り上げて弾き返していた。
そんな中音を響かせて、Gと呼ばれた大刀持ちが此方に向かってくるその重音を聞きながら、どうするかと思案する二人の耳に、砂地に穿たれている方とは逆の、空に伸びるすだれのその線上を走る、もう一つの音が届き。
「デカい方、頼むぜ賀川〜♪」
賀川が何か言う前に。
短く告げて、その軽い身体を活かし放射線状に伸びるすだれをトトッと蹴って、その上へひょいっと上がるフィル。
ぐるりと、渦を巻くようにして立つすだれを見やり、此方に向けて走って来ている獣面の者を捉えてニヤリとその口角を上げると、外套の裾を翻し、迷わずそいつの元へと駆け出すフィル。
それに声を返す間すら与えぬかのように、砂煙を上げて走り込んで来ていたGが勢いそのままに、賀川に向けて意外に素早い動作で幅広の大刀を振り下ろす。
「ちっ」
図体のわりに素早いその動きに打ちして、賀川は持っていた棍を横薙ぎに払い。
カァンと、刀と棍が打ち合わされる音が響く。
響き渡るその音を流し聞きながらすだれの線上を走り来るフィル同様、走り出したGの肩を借りて跳躍し、渦巻くすだれの外周の線上を駆けながら、ぱちくりと目を瞬いてEが呟く。
「なんやの? 随分ちっさい子が相手なんやなぁ。ベニ君より下なんちゃうん? そやかてウチは、容赦なんかせぇへんよっ!」
走りながら懐に突っ込んでいた手を引き抜き、ピンポン玉程のカラフルな毬を眼下にいる、Gと対峙している賀川の方へと二、三個放り投げ。はためく外套をヒラリとさせて、左腕に装着していた小型のボウガンを構え間をあける事なく、走るフィルへと連続射撃を仕掛けるE。
「よっ、ほっ、せぃっ、と♪」
それを身を屈めたり飛んで避けたりしながら、針に引っかけたままだった円月輪をEに投げつけ、Gと交戦している賀川に向けて放られた毬に、何気ない動作でひょいっと長針を投げ放つフィル。
渦巻く線上を走るフィルの、その斜め下方で。
ひしゃげているとはいえ大刀の軌道を逸らすくらいの役には立つ棍を扱い、滑らかな足捌きでGの攻撃を躱す賀川のその目端に、青色の毬が長針に貫かれその内部で微かに光る、一筋を捉えて。
「!」
咄嗟に曲線を描くすだれの、影の部分にその身を滑り込ませる賀川。その直後、青の閃光が夜空を一閃に駆け抜け。誘発されるようにして空で弾けた残り二つが、爆発音を轟かせ白煙をそこに撒き散らす。
「頭さんがゆーてた、カン良い奴がおるゆー話は、ホンマやったんかいな。厄介なっ!」
目眩ましにでも、と思っていた目論見が外れ走りながらぼやくEだが、針を投擲して一緒に突っ込んで来たフィルのその突撃を避ける為、そこから勢い良く飛び退る。
それにより立ち位置が逆転し、内と外とが入れ替わった状態になる二人。
着地地点目掛けて両者共に針と矢を放っており、それらを避けたり弾いたりしながら、さっきとは逆方向に向けて走り出す。
そんな中遥か彼方で、キィンという甲高い音が響いたのを耳にしながら、ボウガンから放たれた矢を弾き避けながら、Eに突っ込んで行くフィルなのだった。
「…………」
頭上で繰り広げられる投擲武器、その応酬の音を聞きながら。
息を整えつつ、ズンッと地響きをさせながら此方へゆっくりと近付いて来るGを、すだれの隙間から盗み見る賀川。
閃光弾をやり過ごす為影に隠れ、その後赤い毬が割れて爆発が起こり黄みがかった毬が割れて降り注いだ白煙が、霧でも発生したかのように周囲を白く覆い。視界が悪く迂闊には動けない状態となっていた。
背後は渦の中心部。中心にいく程幅が狭くなっている為、人ひとりがやっとであり。これ以上下がる事は出来ない。
幅が狭い為大刀を持つGの攻撃が阻害されるという利点はあるが、Gを倒す以外退路はない状態であの巨体に前を塞がれた上、手狭な中長さと重さ、幅のある大刀を回避するその判断を違えれば、深傷を負う事になりかねない。
出来れば、不意をついたその一瞬の内に懐へと滑り込み、一撃で仕止めたい。
狙うは頭……、いや顎か。
あの身体とすだれとの隙間に、身体をねじ込めそうなスペースはない。
レディフィルドのように壁を走れるのならば問題はなさそうだが、一対一のこの状況で獲物を逃がしはしないだろう、と頭を振り。
隙を突くより他はないか、と賀川が思い直した所で。
風を切る、その音が聞こえ。
「!」
所構わず大刀を振り下ろしている音が聞こえる為、霧のようなものの所為で相手にその姿は見えてもいないだろうに、側近くに振り下ろされてきた銀線を、自らやって来たその斬撃に。賀川はニヤリとした笑みを浮かべると、霧状の粒子が跳ね返す僅かな光をしっかりと見据え。
大刀の軌道を読み、最小の動きで砂地を滑るようにして。相手に背を向けたまま、その懐へと滑り込んでいく賀川。
「!?」
それに咄嗟に、振り下ろしていた大刀の軌道を変更しようとしたGだったが、密集し乱立するすだれに阻められ澄んだ連なり音を響かせて、その動きが留められる。
それと同時に。足先で思いきり蹴り上げた棍が柄元から、掬い上げるようにしてGの手から大刀を弾き飛ばし。
程なくして自重で落下する大刀とは逆に、くるくると回転しながら棍が彼方へとすっ飛んでいく中。
出張ったGの腹に身体を預けるようにして後ろに下がる威力を殺すと、地にしっかりと足をつけバンザイをする形となった男の、その顎に。
「寝てろっ!」
賀川はスピードの乗った左ストレートをお見舞いしたのだった。
砂地に巨体が倒れ伏す、その音を聞きながら。
入れ替わり立ち替わり、すだれの線上でEとの攻防を繰り広げていたフィルは。
賀川が棍を切り上げた事によって弾かれた円月輪が自分の投げた円月輪と接触し、左右に別れ線上を駆けるE目掛けてその軌道を変更したのを確認し、そこに上手いことハマるよう誘導しながら、Gの大刀を弾いたまま狙ったようにくるくると此方へと飛んで来た、ひしゃげた棍をその手に掴み。
Eがハッとした時には、左右から迫る円月輪は側近く、棍を構えるフィルの前方からの特攻を受け。
「うそやん?」
突っ込んで来たフィル諸とも急所に打撃を受けたEは、意識を手放しそこから砂地に落下した。
巨体が倒れた事により上がる土煙。
高さのある所から落下した為に舞い上がる砂埃。
拳を振り上げたままの賀川の、その背後に。
気を失い砂地に力なく横たわるEに、馬乗り状態のフィルのその眼前に。
ひっそりと敵が忍び寄り。
賀川のその喉元に、ヒヤリとした手指が添えられ。
フィルの額に、冷たく光を弾く銃口が突き付けられ。
ふわりと風が靡くなか間を置かず、囁きの声が溢された。
「お兄さん、G倒しちゃうなんて強いのね。でも、女の子を足蹴にって、ちょっと酷いんじゃないかしら?」
「効いたぜ、お前の蹴り。骨がありそうで嬉しいね。しかし、女性は優しく扱わないといけないんだぜ、ボーイ?」
賀川さんとフィル君回!
取り合えず半分撃破っ
続けていっちゃいますよー
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん
お借りしております
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください




