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11/4 浜辺での戦闘その2 天狗仮面と少年翁1


戻りました?戦闘回




 賀川とフィルが先へと走り去ったのを見送り、その後を誰も追随出来ないようにと、傘次郎を介して起こした風と気を張り巡らせて作った結界による防壁を張り。

 互いに背を預け合う、天狗仮面とカルサムの二人は。

 幼女の声に反応し、一斉に振り上げられた泥人形(ゴーレム)達の腕の動きを一つたりとも逃さずに見つめ。

 全方向から迫る攻撃が到達する、瞬間。


「――閃」

「――斬!」


 すぅ、と囁かれた言葉と共に。

 銀光と赤の残視が、夜闇に二つのX線を浮かび走らせ。


 そのまま泥人形達の攻撃が振り下ろされたかのような、地響きと共に上がる白煙がもうもうと周囲に立ちこめる中。

 獲物を囲む泥人形達が僅かに、傾いだような状態で停止する。


「やったの!?」

「わからない、けど。あれだけの攻撃をマトモに食らって、無事な訳ないよ」


 それに獣面の少女L(ルッテ)と仲間の(オーネ)が声を上げるその傍らで、同じく白の獣面を被る幼女、(メノ)がくすすっと嗤い声をもらす。


「まだだよ、まだだよ」


 笑みを含んだMの声がLとOの予想をスッパリと否定し、その声に続けるように(ニニクリ)が呟く。


「切られたのはこっち。まぁ、砂なんだから痛みはないけどね」


 そう告げた瞬間に立ちこめていた煙が払われ、振り下ろした筈の腕が見事に切断された、「十体」の泥人形達の姿がそこに露になった。

 それに驚いたように息を飲むLとOの傍らで、ため息しながらNが告げる。


「さっきの線……二人には見えなかったの?」

「そっちは専門じゃないもーん。見える訳ないでしょっ!」

「残像、くらいしか……。まさか、本当に切ってたなんて、思わなくて」


 口々に告げる二人に、もう一つため息を吐いて。


「気、抜いてるとヤられるよ? 「枷」がある上に「フル」では、使えないんだからね」

「じゅ〜ぶんっわかってるわよ、そんな事っ。もー、「お兄ちゃん」は過保護でヤだわぁ〜」

「ルッ、Lちゃんってば。ご、ごめんねN君。大丈夫、ちゃんとやるから」


 窘めるようなNに、はいはいと肩を竦めるLを見て、取り成すように続けるO。

 そんな三人は、にこりとその瞳を細めているMの雰囲気が、微量に変化した事に気付いていない。


「「お遊び」はこれからだよねっ、お兄ちゃん達!」


 きゃははっと、笑み声を含んだままの声音でMが呟くと。

 泥人形達の、浜辺と触れ合っているその足の部分がボコボコと盛り上り、徐々に移動して切られた腕の部分に到達したと思った瞬間、ボゴンと。

 切られた筈の腕が、一瞬にして元へと戻る。

 それに気を取られている間もなく、今度は両手での攻撃が各々から繰り出される。


「自己修復機能、か」

「痛みは皆無な上に、自己修復とは。厄介な敵であるな……」

「土塊でやんすからねぇ。土がある所にいりゃあ、いくらでも修復しそうでさぁ。ここはやはり術者を仕留めるんが、定石でやんすかねぇ」


 次々に繰り出される攻撃と、砂地に穿たれた為に発生した衝撃波を避け躱しながら、言葉をかわす三者。

 その時傘次郎の告げた言葉に微かな引っ掛かりを感じ、繰り出された腕を捌きながら天狗仮面が声をかける。


「……次郎。今、何と申した?」

「へい?」

「先程、なんと申したのか、と聞いているのである」

「え、えぇと……「ここはやはり術者を仕留めるんが、定石でやんすかねぇ」ですかぃ?」

「その前である」

「前、でやんすか? 「土がある所にいりゃあ、いくらでも修復しそう……」」

「それである!」


 考えながら呟く傘次郎に、若干強めの声で天狗仮面は声を返し。

 それに「な、なんでやんすか兄貴??」と驚いた声を出す傘次郎の傍らで、泥人形達の攻撃を避けたカルサムが、刀の柄に手を添えながら頷いて呟く。


「ならば――、先のように「空」に、放ってみるがよかろう」

「うむ。あの修復の仕方から察するに、「何処か」が砂地についてなければ、修復出来ぬやもしれぬ」


 先程、空中にフィルを放った時の事を思い出しながら告げるカルサムに、同じく賀川を放った時の事を思い出しながら、天狗仮面は呟き頷いて。揺らめく気配が刻々と、濃密になっていくのを感じながら告げる。


「少しでも可能性があるのであれば、賭けてみるより他はないのである。あまり時間をかけては、いられぬようであるからな」

「左様。無限の回復に付き合っている暇はない。早々にカタを着けねば、ヤられるのは此方であると心得よ。しかし先ずは一体――、試してみる必要があろう」


 それに首肯して続けるカルサムにおずおず、といった感じで傘次郎が訊ねる。


「それはわかりやしたが……。一体、どうやって「空に放る」つもりなんでやんすか?」


 見上げる程に巨大化した泥人形(ゴーレム)。その構成物質は石や土。それだけでも十分に重量があるだろうが、その一歩がまるで地震のような振動を此方に伝えてくるのだから、総重量は相当なものであると考えられる。

 フィルではないが、攻撃を食らえばペシャンコ。プレスされてしまうのは言うまでもない。

 そんなモノを、空に放るなど至難の業だ。


 それがわかっているからこその傘次郎のその言葉に、唐草模様のマントをヒラリと揺らして敵の攻撃を躱し、斜め後方から振り下ろされた攻撃を捌いて距離を取った天狗仮面と、摺り足で位置をずらしつつ振り下ろされた攻撃をやり過ごし、衝撃波から逃れる為後ろに飛んだカルサムが、ちらりと互いに目配せし合い。

 口々に呟く。


「次郎以外に、おらぬであろう」

「頼りにしておるぞ、赤き天狗の懐刀よ。お主の風で、道が開けるかもしれぬのだからな」


「…………」


 それに暫し、呆気に取られたように黙していた傘次郎だったが。


「――そこまで言われちゃあ仕方ねぇ。兄貴の一番弟子にして懐刀の傘次郎たぁ、このあっしの事でさぁ。風を操る事に関しちゃ、誰にも負けねぇ自信がありやす。目にもの見せてやるでやんすよ!」


 芝居がかった声音で告げると、ばっさばさと傘部分を開いてみせる傘次郎。それに笑みを返し、二言三言かわしてから一斉に、未だ三者を取り囲んでいる泥人形達が、腕を振り上げたのを見計らって。

 各々に行動を起こす。


「せいっ!」


 十体の泥人形が振り上げたその腕を、切断するのは先程と同じ。

 一体を先ずは試す訳だが、他の泥人形(もの)達に邪魔をされては敵わないからだ。

 腕を切断された事により、僅かに泥人形達がフリーズ状態になった、そのタイミングで。


「次郎っ!」

「合点承知でさぁ!」


 眼前の、腹部分に魔道具(マジックツール)が嵌め込まれている、泥人形へと狙いを定め。

 カルサムが形成した小さな結界がその片足を捕らえ、ぐらりと傾いだ所に傘次郎を介して巻き起こった風が、渦を描き上昇気流のように下から上へと風を昇らせ。


 泥人形の巨体を、渦を巻く風のクッションと激しい上昇気流の流れに乗せて、夜空へと浮かび上がらせる。


 それと共に地を蹴って跳躍していた天狗仮面とカルサムは、風の助けもあり各々が打破すべき所へと、一直線に空を駆ける。

 天狗仮面は、腹部分に嵌め込まれている魔道具を破壊する為に。

 カルサムは、額に貼られているemethの「e」の文字を断ち切る為に。


『はぁっ!』


 呼気を発し、振るわれた傘が、刀が。

 目にも止まらぬ速さで閃き。


 夜闇に、eが真っ二つに断ち切られた紙切れが漂う中、


「なにっ!?」


 天狗仮面の驚いたような声が響き。


「重……すぎるでやんす! 兄貴っ、これ以上は……!」


 傘次郎の、堪え忍びながらの声が上がった、途端に。


「キャハハハハッ!」


 幼女の甲高い笑い声が響き渡り。

 泥人形が落下しだしたのに合わせそこから散じた天狗仮面とカルサムは、切られた腕の修復が完了した九体の泥人形達を牽制しながら、ズズンと浜を揺らして墜落した泥人形へと油断無くその視線を向ける。

 落下した衝撃で砂埃が舞い上がり、周囲を白く濁す中、少女達の含み笑みの声が届く。


「ひっかかった、ひっかかった」

「ま、全然関係ない、ってワケでもないけど〜。今時お札で、なぁんて、古典的すぎるでしょ〜?」

「フェイクは、そうとわかるくらいが調度いい、ってN君が言ってた通りだね」


 三人の少女達の声を聞きながら、やはり、と。出でた疑問を確信へと変える天狗仮面、傘次郎、カルサムの三者。

 額の札はフェイク。

 ならば、その本体は――


 思考を巡らせつつ、眼前を見据える者達の視線を浴びながら、のそり、と。土煙をあげながら、砂部分に触れた故に切断された腕が再生し、感触を確かめるような動きを見せながら、その巨体が起き上がる。

 eがなくなりmeth(死んだ)の紙が貼られたままの泥人形は、ゆっくりと立ち上がると平然と、此方へと一歩また一歩と近付いてくる。


 その最中。もこ、と。


 天狗仮面の攻撃から逃れるようにして内部へと退避させた、光るemethの文字がくっきりと浮かび上がる、魔道具を再びその腹部分へと出現させる。それに。


「やはり、本体は魔道具であったか」

「それが分かっただけでも上等。動くのは厄介だが、逃げ場など無い状態に、持っていけばいいだけの事」


 九体の泥人形達から繰り出される攻撃を避けながら、のそりのそりと此方に向かい来る十体目の泥人形を見据えながら呟く天狗仮面とカルサムの耳に、微かな声が届く。


『………………』


 声、というにはあまりにも不明瞭な。岩と岩の合間を、吹き抜ける際に生じる岩鳴り、風鳴りの音であるかのような。

 しかしそれは確かに、眼前の。

 methになった紙をまだ額に貼り付けている、泥人形から聞こえてきた。


「な……なんでやんすか……?」


 その声に、訝しげに傘次郎が呟いた、その時。


『……オォォ……』


 今度はより、鮮明に。

 物言わぬ土塊でしかなかった泥人形から、しっかりとその声が聞こえてきた。

 それに目を見張る天狗仮面とカルサムに、(メノ)はその彩る瞳をにこりと細めて、堪えられないとでも言いたげに、くすくすくすと囁いた。


「お兄ちゃんが、「目覚め」させるからいけないんだよ? もぅメノでも、制御出来ないかも。でも……そっちの方が面白いかなぁ?」


「目覚め、させる?」

「一体、なにを……」


 Mの言葉に怪訝な雰囲気を醸し出す天狗仮面と眉根を寄せるカルサムに、にこりとしたままMはすぅいと腕を指し伸ばし。「仲間外れは可哀想だもんね」と呟いて、ヒュッとその指先が横一線に引かれると。


 他九体のemethのe部分が切断され。methになった、その間を置かずに。

 各々に埋め込まれている魔道具のその表面に、くっきりと光を発するemethの文字が浮かび上がり。


『『『ォオオォオォオ』』』


 浜を揺らす、泥人形達の雄叫びが響く中。笑みを湛えたまま、言いたくて言いたくて堪らなかった悪戯を、暴露するかのように。

 含み笑みを帯びさせながら、Mはさらりと宣った。



「教えてあげるよ。そのオモチャ(子)達はね――」



「元は人間、だったんだよ」



 キャハハハハッ!

 幼女(悪魔)の笑い声が響く、砂浜で。

 一瞬生まれた、その隙を逃さず。


 天狗仮面とカルサムを、二十の巨大な腕が襲ったのだった。



天狗様回!(やっと書けた……)

いや、傘次郎君回ですかね?

額の札はフェイクでしたっ


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん(ちらりお名前)


お借りしております

継続お借り中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください


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