11/4 遊ぼう
『現在桜月りま様宅でアリスさん奪還戦(12月1日付)にウチのフィル君参加中です!
こちら現在11月4日
ウチの『汐奪還戦』は桜月様宅の『アリスさん奪還戦』より一か月ほど『前』の話になります
メンバー構成的にも混乱するかもしれませんが、各々『別日』の話になりますので、それそれでお楽しみ頂ければと思います』
「なに? なに?」
「ちょ、やだっ」
「きゃあ!?」
「ぅわっ?」
高速で向かい来る二羽の白いその物体に、少年少女達の悲鳴が上がる。
そのどさくさに紛れて。
「敵に、情けをかけられる覚えは、ナインっすけどねぇ〜」
「……何を、しているのですか、貴方がたは……。その内、足を掬われますよ?」
賀川がその胸に抱く獣面の少年Bと、カルサムに抱えられている少女Cからそんな声が聞こえたと共に、各々光糸を掴んでいるその手とは逆の手をヒラリと閃かせる。
BとCにも同じく重力負荷がかかっている筈だが、覆い被さるようにして二人を庇っている賀川とカルサムによって出来た、空間の隙間にいる為にかかっている負荷は他の者達の、三分の一程度で済んでいたのだ。それ故、手くらいなら難なく動かせる。
「僕の武器、返してモラウっすからね」
ボソリとBが呟いたその時には、賀川の服のポケットからスルリと一つ、自身の愛器である円月輪を取り出し。
Bの意図に気付いて、ポケットから拾って来ていた円月輪をもう一つ出すよう賀川が目で訴えかけている中、
「お主のその身体は、まだ予断を許さぬ状態なのだぞ。無理をするでない」
「少し、休みましたし、大丈夫、です……。それに、こう騒々しいと……、ゆっくり眠っても、いられませんから……」
移動中、そして今もゆっくりゆっくりとCのその身体に、自身の気を送り込みながらも心配そうに声をかけるカルサムに、なんとかという感じで苦笑混じりの声を返し。Cは媒介である四つの杭を重力負荷フィールドの一回り外側に転送し。
Cの発動させた結界が張られ、重力負荷から解放されたその瞬間を逃さず、各々に行動を起こす者達。
二重付与状態である故に、後からかけられたCの結界術が、先にかけられていたLとOの重力操作術より優先され、重力負荷の効果が無くなったからだ。
「はぁっ」
「たぁ!」
賀川とBは、左方にある二つの楔に向けて同時に円月輪を投擲し、「サム、ルド!」とカルサムは二羽の巨鳥を側近くへと呼び寄せ。
「なんだ〜ぁ?」
傘の中から這い出て、やっと起き出してきたらしい棍使いAを、
「すまぬが、もう少し寝ていてくれぬか」
「同感でさぁ」
「ぷげらっ!?」
素早く起き上がった天狗仮面が傘次郎の元へと駆けてきた勢いそのままに、掴んだ柄の部分を拳と共にAの鳩尾へとめり込ませ、再びAを昏倒させ。
「おりゃあ!」
「――せいっ!」
右方に撃ち込まれている楔に向けて、その手を光糸に繋がれたままのフィルが今まさに、踵落としを食らわせようとしているそのタイミングで、同じく糸に繋がれている天狗仮面も楔に向けて傘次郎を振り下ろす。
踵と傘の石突き部分、そして二つの円月輪が、四方の楔を割り裂き、砕いたのは同時だった。
「ヂュン!」
「っるぅ!」
それにやっとの事でその白い物体、アプリの相棒である雀アムとマメ鳥のドリーシャを振り払った、少年少女達が。
「きゃうっ」
「ったぁい!」
「っつ!」
「ぐ、ぅっ」
割り裂き、砕かれたその楔に〈感応〉したかのように、各々呻いてその体勢を崩し踞る。
「アムっ」
「ドリーシャ!」
その間に、勢い良く振り払われなすがままに夜の空を舞うアムとドリーシャを、それに気付いたフィルと賀川が即座にその場に駆け戻って受けとめ。
砂煙を上げながら鳥を抱く二人が後方へと下がっていく中、Bは森での戦闘で負傷した肩を押さえ、天狗仮面は砂地に転がるAの側へと戻り、やはり無理をしたのだろう、結界を解くと共に崩折れたCを抱きかかえるカルサムは、眼前で踞る四人を油断無く見据え。
「……ベ、ニふぁー、くりゅリエぇ……っ」
「こ、のっ……、裏切り者がっ……」
ユラリ、と身体を揺らしながら立ち上がった獣面の少女二人、LとOの口から、低くくぐもった声が吐き出される。
ゴボリとした、水気を含んだその声(音)は、波音に消されて聞き取りにくいが、確かにその二人から発せられていて。
「うら、ぎったらどーなるか」
「わかってる、んでしょおねえぇっ!?」
ポタ、ポタ、と。
締め忘れた蛇口から、水滴が落ちるようなその音が嫌に耳に響く中、ゴボリと。聞き取りにくい水音をさせるその声が尚も発せられ。それに。
「裏切った、つもりなんかナイっすよ〜」
サラリとBは告げる。
外套と靴はフィルに強奪されたものの、獣面は外されていなかった為、その顔がどういう表情を浮かべているのかはわからなかったが、声に含みを帯びている為笑っているのだろう事は、容易に想像出来た。
含み笑みを帯びさせたまま、引き返してきた二つの円月輪をその指に引っかけてくるくると回しながら、Bは更に言葉を紡ぐ。
「そっちこそ、よっくもそんな事がイエルっすねぇ。敵諸とも僕達まで押し潰そうとしてたの、わからないとでも思ってルンっすかぁ?」
Bは、眼前の獣面達四人の仲間だ。仲間であるが故に、誰が何処に、そして何に属しているかぐらいは、ある程度は把握している。
繋がりが薄く、全く会った事のないような者達もいるにはいるが、四人とは年が近いという事もありよく一緒に組まされていた。
それに眼前の四人が魔法使いとして調整されている、というのは仲間内では知らぬ者はいない程で。
だからこそ、自分達が敵と共にいた事は、その力のおかげでわかっていた筈であり。
だというのに、自分達(仲間)に防護の類いがかけられていた、という訳ではなく。
「仲間を、殺る気だったンっすよねぇ? ――玩道具人形」
若干の皮肉を込めて呼んだ、その言葉に。
「あはっ、あはっ」
それまでただ、踞っていただけのMが笑い声を上げながらゆぅらと立ち上がり。面から覗くその瞳が、煌々と光を放っていた魔道具と同等の、妖しげな光を宿しているのを見て取って。
「サム、ルドっ! アプリの元へ連れ行けっ」
カルサムの静かだが鋭い声が上がり、サムはその背にCを、ルドは再び気を失ったAと、「ちょ、なにす……ハナスっすよぉ〜っ?!」と叫び声を上げるBを、その脚でガシリと鷲掴み。空へと舞い上がる。
「お前も行けっ」
「ドリーシャ、お前もだ」
それにフィルと賀川が、負傷したアムとドリーシャにその後に続くよう促す。
アムは元々「アプリの手が空いた事」を伝える為に飛んできていた為、役目を終えてすんなりとサムとルドのその後を追う。
しかし、ドリーシャは賀川の腕の中から動こうとしない。
ドリーシャの最近のお気に入りの場所は、裾野にある賀川の自宅。その賀川の部屋がある二階の窓辺か、北の森にあるチョコレート色の建物の側。そして賀川運送の、白い車の上か助手席(一番は勿論、賀川のその肩の上だが)。
賀川が仕事から帰ってくるのを、或いはその場所を訪れるのを待って、賀川が現れたらその黒髪の上に鎮座するのは、最早日課だ。
今日は裾野の自宅二階の、窓辺で賀川の帰りを待っていたドリーシャだったが、一向に帰ってこないのに心配になってそこから飛び立ち。
賀川がいそうな所を回り、脇に寄せられた白い車を見付けて舞い降りたはいいが、持ち主である筈の賀川は居らず。「くるぽ……」と一鳴きして首を傾げたドリーシャのその頭上を、巨大な鳥が影を引き連れて高速で過ぎ去っていき。
後続の巨鳥のその背に賀川が乗っているのを見て、追いかけてきていたのだった。
しかしそんな事は知らない賀川は、尚もドリーシャを促す。
「行ってくれ。これ以上、怪我させたくない」
呟かれた賀川のその言葉に、身を案じているのを感じ取ったのだろう。
先日の戦闘での負傷。今回更に頬、腕、足と怪我をしている賀川の方が心配だったが、傷を負っていない方の頬にスリスリとその小さな頭をすり寄せると、ドリーシャは三羽の後を追うように、そこからパタリと飛び立つのだった。
それを面々が見送った、直後。
ズ……ッ
浜辺自体に衝撃を与えたかのような、揺れ響くような振動が伝わり。
異変に気付き、油断無く構えるフィル、賀川、カルサム、天狗仮面を見やって笑みを含んだ声音で、四人の少年少女達は呟いた。
「ちょっ、とお〜。Bのヤツ、言い逃げなんですけっどぉ〜?」
「うん、そう、だね。でも……、(糸が)繋がってるから、後で、も。どうとでも出来る、よ」
水気を含んだ、聞き取りにくい声でLとOはそう呟き。
「敵の手に堕ちる――、なんて失態を冒すような奴らは、生きている意味なんてないからね。二人の好きに、したらいいよ。だけどその前に、今は――」
そっと立ち上がり、なんて事ないようにNは告げ。
「目の前の敵を、排除する方が先だよね」
すぅい、と獣面から覗くその目を、眼前のフィル達へと向ける。
「そうだねっ、そうだねっ」
それに、向きによって彩り変わる、光を纏う妖しげなその目でひたと四人を見つめながら、Mが歓喜の声を上げ。
「お兄さま、お兄さまっ! 『遊んで』も、いいんだよねっ!?」
「――いいよ。アレはMの『おもちゃ』だからね」
N(兄)のその言葉に、にこり。Mは纏うその笑みを、更に妖しく色濃く漂わせ。
「やったぁ! それじゃあ――、お兄ちゃん達っ。思いっきり遊ぼうねぇ!」
くすくすとした、笑いと共に囁いた。
さぁ、楽しい「お遊び」の始まり始まり?
三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面、傘次郎君
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん
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