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11/4 浜辺での戦闘その1 二人の少女1




 バババババッ!


 夜の浜辺に、連なり響く爆発音。

 しかし、それに気付く「外部」の者は一人としていない。


 浜辺に人知れず張られた結界。その内部での事。

 それに加えユラリと揺らめく、目隠しの施されたその結界を壊さないようにと、調整されたものだったからだ。


 硝煙と火薬の臭いが漂う中、その爆発を引き起こした人物――、茶色のおだんご頭の上に白い雀を乗せた、どう見ても子供にしか思えないその少女アプリは、にんやりとした口元から小さな八重歯を覗かせて、その容姿と違わぬ可愛らしい声で呟いた。


「残念、残念〜。誰か一人くらいは、その隠れみのから引きずり出せると思ったのにな〜☆」


 言っている事は全く、可愛らしいものではなかったが。

 その翠眼をキラリとさせて、手に持つラッパをクルリと回して。

 白煙の残る周囲を見回すアプリ。


 攻撃を仕掛けてきた四人の者達には、寸前で危険を察知され突然の爆発からは間一髪の所で逃れられていた。

 しかしそれは、一瞬とはいえその手を留めたが故のものである為に、アプリは特に気にしてはいない。

 仕掛けて来た時より僅かに大きく間合いを取り。此方を油断なく見据えながら、弧を描くようにゆっくりゆっくりと周囲を回る者達。

 機を窺っているらしい。


 両者間にピンとした緊迫した空気が流れる中、その場所に突如、第三者の声が滑り込む。


「あああ、危ないっスねっ! 私じゃなかったら、黒焦げになってたトコっスよ!?」


 言いながら白煙の尾を引きアプリの斜め後方に現れたのは、四つん這いの格好で砂浜に手をつく黒髪の美しい少女。

 その少女こそ「多勢に無勢は卑怯なんっスよ――っ!」と叫んでこの場に飛び込んで来たリズだった。

 助けに入った瞬間、一瞬その手を留めたように見えた眼前の少女が、そのままラッパを吹き鳴らしたのに直感的に危険を察し。身を捻って難を逃れ、今に至る。


 それに驚いたような気配が周囲から流れる。

 事前の通達により、捕獲対象である〈七番〉に〈七守護り〉という、どう見ても子供にしか思えない護衛がついている、という事は聞いていたが、更なる乱入者がやって来るとは、思ってもいなかったのだ。


 浜辺には目隠し用の結界が張られており、他の誰かに気付かれる事などないと、思っていたのだから当然だ。

 だがそれ故に味方ではない、常人には感じれない筈の結界を看破してきた眼前の二人が、唯人などではない事が容易に知れる事となり。

 二人を取り囲む四人の気配が、より警戒色の強いものへと変わる。


 それはリズの方に視線を投げるアプリも同様だったが、一度ぱちくりとその翠眼を瞬くと、次の時にはにぱりとした笑顔を向けて呟く。


「ごめんね、ごめんね〜。フィルフィル達の他に、援軍が来るとは思ってなかったから〜。お姉さん、お姉さん。大丈夫だった〜?」


 戦闘中にも関わらず、なんとも似つかわしくない可愛らしいその声に、若干拍子抜け気味にリズ。


「も、問題ないっスよ。でも、確認はしときたいっスね。周りの奴らの方が悪者……、でいいんスよね?」


 自分が飛び込んで来たのが〈見えていた〉だろうに、そのまま攻撃を仕掛けてきた眼前のおだんご頭の少女に、確認するように訊ねるリズ。それににっこりとして。


「アプリちゃんには、アプリちゃんには。そうだけど〜。お姉さんにはどうなのかなぁ? アプリちゃんを、助けに来てくれたんならそうだろうけど。でも、でも。敵に回るっていうんなら、まとめて相手、してあげるよ〜☆」


 くるり、ラッパを回して告げるアプリ。

 見えない敵に四方を囲まれているというのに、まるでそんな者はいないかのようなアプリのその態度に、苦笑が漏れる。

 リズとて牽制の為に周囲に気を張っているとはいえ、周りの敵が未だ飛び掛かって来ないのは、彼女の醸し出す雰囲気が敵のその足を留めさせている、というのも少なからずあるのだろう。

 それにニッと笑って。


「確認するまでもなかったっスね。これでも私、鼻は利く方なんっス。明らかに彼方(あっち)の方が、ヤバイ臭いがプンプンっスよ」


 呟くと姿勢を正して、すっとアプリの隣に並び立つリズ。それと共にふわり、その黒髪が風に靡き。

 ボッ! 突如沸き起こった灼熱の炎にリズの身体が包まれたかと思えば、次の瞬間にはライダースーツに身を包み、人の腕であった筈のその両腕はなんと、長い鉤爪を備え黒い体毛に覆われたものへと変貌していた。

 まるで獣の、前足であるかのようなその腕。

 その感触を確かめるかのように拳をぐっと握り込み、夜闇を赤の残光がチラチラと彩る中、ニヤリとした笑みを浮かべるリズがそこに立っていた。


「おぉ〜〜♪」


 それに傍らにいるアプリから歓声が上がり、キラキラとした羨望の眼差しが向けられる。

 そんな眼差しを受けながら、胸の前でガツンと獣化した拳を打ち合わせ。


「それじゃあ、いくっスよ!」


 リズのその声が合図だったとでもいうかのように、周囲を取り囲む四人の者達が一斉に、二人に向かい襲い掛かった。




 ガッ! キィン!


 波音が静かに響く浜辺に、硬質な金属音が響き渡る。


 不可視の敵を相手に臆する事無く、逆に嬉々とした表情で我先にと突っ込んでいったリズのその獣拳が、敵が操る銀の光――、刃物の軌道を正確に捉え、難なく受け止めて弾く。

 その背後に迫るものを。


「アプリちゃんだって、アプリちゃんだって。いるんだから☆」


 ガキンと、ラッパを持ち替えた二振りの細剣で受け止め、払う。

 すると互いの背中を守り合うようにして立つ、二人のその頭上から。


 シュッ!


 風を切り、振り下ろされる二者の攻撃。

 その時には、一度退けた先の二人もその体勢を立て直し、再びリズとアプリに迫って来ている。


 迫る四つの攻撃が、二人を捉え襲い掛かる。


 しかし、それに動じた風もなく。落ち着いた様子でリズとアプリは互いに目配せをし合うと、攻撃が自分達に届くその寸前で。


『!?』


 スッと砂地を滑るようにして互いの位置を入れ替えると、僅かとはいえタイミングを逸らされ軌道のズレた、上方と前方から来る四つのその攻撃を。


『たぁっ!』


 横移動した動きはそのままに微かにその拳に赤の光を纏わせて、リズは上方からの攻撃を勢い良く、片手を斜め上に切り上げる事で攻撃ごとその敵を後方へと弾き飛ばし。前方から来た攻撃は一端もう片方の手で受け止めると、敵を自分に引き寄せるかのようにしてその手を引っ張り。見えないながらに腹部辺りと定めたその場所に、至近から渾身の蹴りを放ち蹴り飛ばす。

 姿は見えないとはいえ、実体はちゃんとあるようで。

 確かなその手応えに、ニヤリと笑うリズが視線を送る先に、砂煙を上げて走っていく太い一本の線が見えた。


 対するアプリの方はというと、横移動したその速度に更に自ら回る事で回転をかけて威力を上げ、前方から来る敵を遠心力の力でもって弾き返し。上方から迫る次の攻撃を、夜の闇の中でもキラリと光るその刃物の切っ先の軌道を正確に読み、脇をすり抜ける事で回避して。着地した瞬間を狙って首元と思われるその箇所に、細剣の切っ先をひたと突き付ける。


 両者が繰り出したそれらはまるで、観衆が見守る中舞台上で披露された、演舞であるかのようで。

 息の合った華麗なそれに一瞬、全ての動きが静止する。


「お姉さん、お姉さん。もの凄〜く格好良いね〜☆」

「アプリちゃんも、意外とやるっスねぇ♪」


 そんな中交わされる、二人の少女のなんとも楽しそうな笑み声。

 それにビクリとして。

 「あ」とアプリが呟いた時には細剣で留めていた不可視の者が、盛大に砂煙を巻き上げ脱兎の如く後方へと退いていく、慌てふためくその姿が砂煙が上がる進路上に垣間見えた。


「…………」

「…………」


 それを半ば、呆気に取られたように見送るリズとアプリ。黒と翠の瞳を瞬いて眼前を見つめる事暫し。

 姿はまだ見えないながら、まるで一人が三人に足蹴にされている光景が容易に想像出来るその砂煙の上がり方に、足蹴にされている者に同情めいた視線を送りながら息を吐いて。


「さぁて。いい加減にその姿を、拝ませてもらうとするっスよ!」


 視線を向けたまま、ニヤリと告げてリズがその指先をパチンと鳴らす。

 すると。


「ぎゃっ!?」

「な、なんだい!?」

「おぉっ?」

「……んー?」


 各々声が響く中。

 攻撃ついでに忍ばせた小さな火種が、リズのその合図により燃え上がり。

 闇夜に四つの線が走る。

 それは何かを呑み込み焼き尽くすと、火の粉を散らしながらふっと消え。


 その後に眼前に現れたのは、漆黒の外套に身を包みその顔部分に白の獣面をつけた、背丈の違う四人の者達だった。


 炎はリズの眷属である為、それを操る事などリズには息をするより簡単であり。

 妙な気配を察してこの場へとやって来たリズは、相対した瞬間に不可視を可能にしているそれが、彼らが身に付けている何らかの道具によって引き起こされている事を見抜いていた。

 しかし身に付けている箇所が様々であった事、各々単体での効果に加え四つが共に連結連動してその効果を高めている事から、四つ同時撃破でなければ意味をなさず、各個を攻撃しながらの破壊は無意味と判断し。

 攻撃に乗せて忍ばせた炎の種が本体に到達したのを見計らって、同時に焼き尽くさせて不可視のその効果を、見事無効化させたのだった。


「この前、この前っ! 来たのとおんなじ獣面さんだあっ!」


 眼前に現れた四人を見て、指を差し叫ぶアプリ。

 その姿は十月の終わりに(うしお)を拐いにやって来た、奴らと全く同じだった。

 アプリのその声で、姿が露見したのが分かったのだろう。ゆっくりとリズとアプリに向き直りながら、口々に口を開く四人。


「せーっかく頂戴した魔道具(マジックツール)、装飾品ごと焼き尽くしてくれちゃって。(ジュケ)の考えた計画が台無しじゃないか!」

「残念だったねぇ、(ヒヒリナ)の姉御。一仕事終えて帰ったら、売りさばいて儲けるつもりだったのにねぇ〜」

「大体、姿が露見するハメになったのは(カルカロ)のせいだろっ! だったら(こいつ)に責任を取らせるべきだ!」

「ひ、ヒドイよ(イーン)君。僕ばっかり。み、皆がよってたかって、僕を足蹴になんかしてるから……」

「ん〜? それを言っちゃうのK君。無様に、這いずり逃げて来たのは誰だったかなぁ〜?」

「Kだろ」

「K以外いないじゃないか。あぁもう、うっとおしーから何時までもメソメソ、泣いてるんじゃないよ!」

「だ、だって〜。皆が僕を、イジメるからいけないんじゃないか……」

『何か言ったか?(×三)』

「……な、なんでもないです……」


『…………』


 眼前で繰り広げられる、その一部始終を見尽くしてから。


「え〜っと。そろそろ、ぶちのめさせてもらってもいいっスか? あんたらが悪者なのは、もう確定したっスから」

「なんだか、なんだか。(カルカロ)君はちょーっと、可哀想な気もするけど〜。でも、でも。敵さんなのには変わりないもん!」


 呟くとリズは拳を上段に構え。アプリも細剣を持つその手に力を込め。眼前の四人をすぅと見据える。

 そんな二人に獣面の四人もひたと視線を合わせると、各々武器を構えて。


「ぶちのめすの(それ)はこっちの台詞だよっ!」


 四人の獣面達の中で唯一、女性である(ヒヒリナ)のその声に。


 再びの、戦闘開始の幕が上がったのだった。



意外と息の合ってるっぽいリズちゃんとアプリ

姿が見えればこっちのもの!(たぶん(苦笑)

二対四

一つ挟むかもしれませんが、さぁ次で決着は着くのかなぁ〜?


朝陽真夜様の悪魔で、天使ですから。inうろな町より

http://nk.syosetu.com/n6199bt/

リズちゃん


お借りしております

継続お借り中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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