11/4 静かな森で
戦闘の終わった森で
巻き起こった風が全てを切り裂き、跡形もなく消し去ってから、暫し。
ばたんっ
いきなりその場に、背中から倒れ込むフィル。
「ちょ、レディフィルドっ!?」
それに慌てて賀川が側へと駆け寄っていく。
そんな賀川と地面に大の字に倒れたフィルを見やって、やれやれと息を吐く天狗仮面。
「なんと無茶な……。上手く作用したからよかったものの、あれではカルサム殿も、気が気ではないであろうな……」
「まったくでさぁ。自らを糧に、無理矢理力を流し込んで破壊するたぁ、並大抵のモンに出来る芸当じゃありやせんぜ。……兄貴は、真似しねぇでくだせえよ?」
賀川が側から離れたからか、今までおとなしくその口を噤んでいた傘次郎がこっそりと囁く(賀川は天狗仮面を妖怪ではなく仮面を被っている人間だと思っており、天狗仮面が妖怪だという事を隠している為、傘次郎にしては珍しく気を配ったのだった)。
それに声を返すのはカルサム。
「フィル(あやつ)のアレは常ゆえ、余るもの以外は目を瞑る事にしておる。アレでもフィルとて守人の一人。分を弁えれぬ訳ではないのでな」
「左様であるか。して、カルサム殿。そこな女子の容態は如何であるか?」
「そろそろ、頃合いの筈だが……」
後方でそんな会話が交される中胸上にその位置を変え、ちょこんと鎮座するルドと倒れたフィルを見ながら賀川が声をかける。
「大丈夫か?」
「だーいじょうぶだっつーの。子供の容姿のせーで、反動がちとキツかっただけだ。……なんなら、賀川(お前)の気を分けてくれてもいーんだけどな? 口移しで」
「は? なに言ってるんだよ。ほら、ヘバってる場合じゃないだろう?」
フィルの軽口をサラッと流して手を差し出す賀川。それを掴み、よっとフィルが立ち上がった所で。
「……う……」
カルサムに治癒を施されていた獣面の少女が身動ぎし、そぅと面越しにその瞳を開く。
「気が付いたようであるな」
「気分はどうだ? そう負担にはなっていない筈だが……」
それに安堵したような雰囲気と共に訊ねてくる天狗仮面とカルサムの二人に、自分の頭上近くを行ったり来たりしている隼を、ぼんやりと見つめながら少女はポツリと呟いた。
「……何故……助けたの、ですか……」
それは当然の疑問だった。
彼らが敵である自分を、助ける義理などないのだから。
暗殺者である自分には常にその死は側に。
あの現象を引き起こしたのは他ならぬ自分なのだから、魔道具が壊れたと共に、死んでいてもおかしくはない。
事実、魔道具に時間(命)を削られ限りなく死の淵に近い、その場所に立っていたのだから。
だが、自分はまだここに生きている。
「悪りぃな。『死ぬ』なんてそんな簡単で(一番ダメージのある)残酷な方法で、お前を見殺しにしてやる訳にゃいかねーんだよ。もとより殺る気はねーし。『生け捕りにして送り還せ』ってのがラタリア(あいつ)からの命なんでな」
少女のその疑問に答えたのは、此方に歩み寄って来ながらのフィル。
さっき倒れた事などまるでなかったかのように、その肩に鷲ルドを携え飄々とした顔で歩を進め。
横たわったままの少女の側近くに片膝をつくと、面越しのその目にしっかりと自分の蒼眼を合わせて。
「悠長にくちゃべってる暇はねぇ。だからもう一回だけ聞くぜ。汐の居場所を教えてくれ。……頼む」
言って、すっとその白の頭を垂れる。
それに驚いたように目を瞬き、呟く少女。
「……敵である私に、何故……『乞う』のですか。貴方程の方なら……もっと他に方法が……」
そんな事を呟く少女に、顔を上げて。
「汐の居場所に関して、最も有力な情報を持っているのはお前で、ならこれが最良だと判断した。それにお前が、そこに転がってる二人を大事に思っているように、俺だって汐が、大事なんだよ。だから最短でいきたい。その為なら頭くらい下げるし、敵にすら乞うさ」
「……おかしな人ですね、貴方は……」
告げるフィルに、微かに微笑を含んだ声音で呟いて。
自分の内に生まれた何か、温かなモノに突き動かされるかのように、するりと口を開く少女。
「……継承者は、浜辺に。彼女は……、〈海〉に縁ある者、ですから……」
「浜辺、か。……ありがとな」
呟いて、お礼の言葉を口にするフィルにくすりと笑って。
「……本当に、変な人達ですね……。敵の私にお礼を言ったり、心配したり……。少し……、疲れました。眠らせてください……」
それだけ言うと、少女はそっと瞳を閉じ。その身体からふっと力が抜ける。
「お、おいっ!?」
それに慌ててフィルが声を上げるが、少女に油断なく視線を送っていたカルサムが安心させるように言葉を紡ぐ。
「命に別状はない。魔道具の行使は、唯人でしかない者にはかなりの負担。それも欠損しておるそれを、というのだから尚更であろう。身体を休める為に、眠りに落ちただけだ。安心せい」
カルサムの言葉に規則正しく上下している少女の胸元を、ちらりと確認してから一つ息を吐いて。フィルはすっくと立ち上がると、
「ルド!」
短く告げて肩にとまっていたルドがそれに応じて飛び立ち、再び大鷲の姿に変幻したのを見計らって。ヒラリとその背に飛び乗り宣言する。
「んじゃ行くぜぇ?」
「問われるまでもないのである」
「言われなくても。乗り掛かった舟だし、最後まで付き合う。それに、手は多い方がいいだろう?」
「無論」
それに天狗仮面、賀川、カルサムの三人は各々呟き、しっかりと頷き合うのだった。
「なーんか、変な感じがするっスね〜」
月も星の光も届かない、夜闇に。
埋もれる事無く艶やかに光沢を弾く、その黒髪を揺らしながら。
緋辺・アンジェ・エリザベス――リズは、民家の屋根の上を飛び跳ねながら呟いた。
夏の頃よりこの「うろな町」に滞在しているリズは、一見何処にでもいるような普通の少女に見えるが、実はただの少女ではない。
堕天使という、人ならざる存在なのだ。
それ故堕天使である彼女には、常人には感じれないものでも感じ取れる超感覚があり。
妙な気配を帯びているその場所を、正確に察知する事が出来ていた。
ひたと、外す事無く向けられているその黒の瞳が捉えているのは、うろなの東方にある浜辺。
新月である昨日、小さな少女ミラと「遊んだ」ばかりであったリズは、またミラが浜で遊んでいるのだろうかと思い、その足を浜辺方向へと向けたのだが。
どうやら、昨夜とは様子が違うらしい。
人の気配がするというのに、眼前の浜辺に人の姿など一人として見当たらず。
それに加えてゆらりゆらりと、揺れ動く異様な気配が浜には満ち満ちており。
普段の浜辺とは違う、異質な空気が漂っていた。
「ん……?」
そんな妙な気配が漂う浜辺を、目指して屋根の上を跳ねるリズのその目に。
ホテルがある方向から、妙な気配が揺らめいているその場所を目指して、浜を駆ける少女の姿が映り込む。
茶色のおだんご頭の上に白い雀を乗せ、黄緑色のポンチョとプリーツスカートの裾を揺らして浜を一人駆ける、十歳程の少女の姿が。
その少女は暫し行った先で多数の、姿の見えない者達に襲われ。
「多勢に無勢は卑怯なんっスよ――っ!」
リズは叫び屋根を力一杯踏み切ると、夜闇の中勢い良く、その身を空に躍らせた。
居場所を聞き出し、浜へと向かうフィル君達一行
ちょっと視点の戻った浜辺では、アプリ交戦にリズちゃん参戦!?
さぁ第2ステージ海側、頑張りますよっ!
今回から、朝陽様の所のリズちゃん参戦です!
朝陽様、宜しくお願い致しますね
三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面、傘次郎君
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん
朝陽真夜様の悪魔で、天使ですから。inうろな町より
http://nk.syosetu.com/n6199bt/
リズちゃん
継続お借り致します&継続お借り中です〜
とにあ様のうろな偽書保管庫より
http://nk.syosetu.com/n0648br/
ミラちゃん、前日夜に「遊んだ」話題、お名前をお借り致しました
ミラちゃんとリズちゃんが遊んだ前日話を詳しく知りたい方は
うろな偽書保管庫 11/3 朔の夜1〜3・後始末
をお読みくださいませ♪
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