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11/4 北の森での戦い7




「っ!」


 魔道具の脈動に、息を詰める。

 足を踏ん張り膝を折る事こそしなかったが、自分の内部(なか)から力が搾取されていく不快なその感覚に、片膝に手をつくフィルの頬を、一つ雫が滑り落ちる。


「……はっ、余程腹が減ってるとみえる。あのガキのを喰ってたわりに、吸い上げ量半端ねーんだけど」


 空に浮かぶ赤い魔道具を見据えながら溢したそれに、声を返すのは賀川。


「く、喰った……って」

「言葉通りの意味であろう。魔道具(アレ)は力を、或いはそれに変わる何かを注いで行使出来うるモノのようである。血を代償にというのだから、その血を喰らって力を得ていたのであろう。だがあの少女よりレディフィルド――フィル殿の方が良質とみて、鞍替えしたのであろうな。……しかしそうなると少々、厄介であるな……」


 怪訝な顔の賀川に、自身も妖怪である為に他の妖怪の妖力を喰らったりする事のある天狗仮面は解説を交えて返答し、不用意に動けないながらもその構えは解かず傘次郎を持つ手に力を込め。魔道具を見上げる。

 そんな天狗仮面を見やって、「厄介ってどういう事だ?」と訴えてくる賀川に、答えたのは地に横たえた獣面少女を治癒しながらのカルサム。


少女(こやつ)からの魔道具による打撃を受け、接点を作ったのはフィル(あやつ)自身。魔道具(アレ)に触れた折、その印を付けさせられたのであろう。搾取される側とはいえ、今フィルは眼前の魔道具と〈繋がって〉おる。そんな状態で魔道具を砕けば――、どうなるかは容易であろう」

「な……」


 カルサムの言葉を聞き終えた賀川のその黒の瞳が、魔道具を見据えるフィルに注がれる。

 眼前のフィルは、憎らしいまでに飄々としたその表情で、そこに一人立っている。


 タプリ、珠の内部が揺らめく。

 それにぐっと拳を握り。賀川が声をあげる。


「だからって何もせずにただ、見てろっていうのか!? だけどどのみちこのままじゃ……!」


 俄には信じられないが、二人の言っている事が、わからないという訳でもない。賀川とて内なるその気を練り、操る事が出来るのだから。

 空に浮いている魔道具に、レディフィルドの、気が流れていっているのは感じ取る事が出来ていた。

 それは一方的にだとはいえ、確かに繋がっているといえるのだろう。

 ならば、一心同体だといっても過言ではない。


 繋がっている状態で魔道具を壊せばおそらく、ニヤリとしたまま佇んでいる、眼前のこの少年も――


 ぎりっと、知らずと奥歯を噛み締めた賀川に、蒼の瞳をちらりと向けて。


「おっさん。そのガキにはまだ、〈ちゃんと意思はあるんだよな〉?」


 賀川の後方にいるカルサムに、フィルは一つ声をかける。その時には、既に眼前の魔道具に視線が戻っていてその表情を窺い知る事は出来なかったが、カルサムは気に止める事もなく少女に治癒を施しながら、その内部にある微かな意思の光を捉え。静かに声を返す。


「微かに、だが。全て〈持っていかれた〉訳ではない」

「全部喰われちまってんならアウトだが、そんならギリギリセーフ、だな」


 カルサムの言葉に、キラリと蒼の瞳を煌めかせ、フィルはその口角をつぃと上げる。

 そんなフィルの纏う空気が若干変わったのに、はっとしたように賀川が視線を向け。

 それにニヤリとして。


「俺様が結界を踏み割った時点で既に、そのガキはかなり魔道具に引っ張られてたんだよ。僅かだが反応を返してたかんな。自身のその感覚を、魔道具を行使して紡いだ結界に入れ込まされてたんだろーよ」

「入れ込む? 感覚を? ……でも待てよ、確かあの時……」


 フィルの話を聞きながら、賀川は自身が結界に捕らわれていた時の事を思い出す。


 レディフィルドが飛び込んで来た瞬間。

 上空で鳥が嘶き、何かガラスが砕けたかのような音と共に少女が呻くその声を、確かにこの耳で聞いたのを。


 覚えがあるような賀川のその顔に、ニヤリとしたままフィルが続ける。


「魔道具なんてモンは、何か誰かの〈強い思い〉や〈願い〉によって創られてるのが殆んどなんだよ。思いってのは力だからな。それに思いは突き詰めればその心、魂と同意。壊れてたってのも要因の一つだろうが、変質が早かった事に加え感覚の同調(シンクロ)が既に起こってたってのから考えても、あの魔道具が〈破壊〉を願って創られたモンだってのは明白だ」


 フィルが語る間も赤い飛沫こそ飛ばさなくなったが、魔道具のその内部は着々と満たされていっている。

 ゆらりゆらりと揺れる内部が、夜闇にその赤を妖しく乱反射させる。

 だが、まだ動く事はせずそれに視線を投げたまま、フィルは更に言葉を紡ぐ。


「なら、魔道具とそのガキの〈思いは同じ〉だったって事だよな? 同じなら同調や浸透は早く、混じり合うのは容易い。だがそれ故に、その心が魔道具よりも〈弱い〉なら、簡単に〈とって喰われる〉」

「……そ、んな……まさか……」


 目を見張り呟く賀川に、苦笑混じりの顔を向けて。


「その血より、思いより。同じくする〈魂〉を喰らった方が遥かに、多く力を取り込める。その者の源喰らおうってんだから、そりゃそーだよな。それにそれが一番、手っ取り早いってんだから尚更だ」

「迷いや躊躇など余計な事を考える事無く、その思いだけのモノになるから、であるか」


 魔道具を警戒しながら静かに話を聞いていた天狗仮面が、フィルの言葉を継ぐように声を返す。それにニッと笑って。


「そーゆーこった。魔道具ってのはその思いを〈糧〉に、繰り手の〈命〉を喰らって力を現世に具現化させる。繰り手が〈魔法使い〉だってんならまた別だろうが、唯人(ただびと)でしかない奴らにとっては、過ぎたシロモンなんだよ、魔道具なんてモンはな。その思いが、意思が。余程しっかりとしてなきゃ、扱い(御し)きれるモンじゃねーの」


 そこまで告げると、あと二、三滴程で満杯になりそうな、その内部にはち切れんばかりの(モノ)を溜め込んだ、魔道具を見上げ。


「さぁて。そろそろなんとかしねーとヤベェかなっと」


 腕を回しながらさらりとフィルはそんな事を呟き。目線はそのままに天狗仮面と賀川に告げる。


「いい加減、決着(ケリ)を着けるとすっかな〜。けど、俺様でも何が起こるかまではわっかんねーから、お前ら自分の身は自分で守れよ? そのガキ治癒しながらじゃ、流石のおっさんでもお前らの分まで、結界(守り)は張れねぇだろうからな」

「心配無用。もとよりそのつもりである」

「自分の身くらい自分で守れる。だけど、レディフィルド(お前)はどうするんだよ?」


 フィルの言葉に声を返す中、賀川が気遣わしげに訊ねる。それにやはり飄々と。


「だ〜れに向かって言ってんだ。俺様だぞ? 大丈夫だっつの。全く、策がねぇってワケじゃねーしな」


 言いながら僅かに天狗仮面に歩み寄ると、フィルはこそりと囁く。


「……もしもの時は援護頼む。『風』は天狗の眷属(けんぞく)なんだろ?」


 それに天狗仮面が視線だけで頷いたのを確認すると、ルドを肩に携えたままフィルは自ら魔道具へと歩み寄っていく。後方の四人と十分距離が開いた所で。


「そーんな離れたトコからじゃ、かなりまどろっこしーんじゃねぇの? もっと早く大量に、搾取出来る方法があんだろーがよ?」


 眼前の魔道具に言葉が理解出来ている、とまでは思っていないが、フィルはその手を掲げて続ける。


「――来いよ。魔道具(お前)に喰らわせてやる、俺様を。俺様とお前の思いは同じ。なら、さぞ心地は良いだろうよ」


 フィルのその言葉が、理解出来ているかのように。空に浮いていた魔道具が一瞬にして、フィルのその手の中に収まる。

 あと一滴。力が注がれれば満杯になる、その魔道具を見やって。

 それを掴んでニヤリと嗤い。


「そんじゃ、根比べといくとするか。お前が許容量(キャパ)以上の力を取り込み俺様が倒れるのが先か、耐えきれずに破壊される(砕け散る)のが先か」


 呟いて、逃げられないよう両の手でがっしりと魔道具を掴み。


「俺様自らくれてやるんだ。その身でたっぷり味わいやがれっ!」


 叫んで、搾取されている所に更に、自ら力を注ぎ込むフィル。


 途端に、魔道具から迸る赤の閃光。


 一時は止んでいた飛沫がフィルを、天狗仮面を賀川をカルサムを、再び襲う。

 カルサムと少女は結界の中。その側に立つ天狗仮面と賀川の二人は、先程と同じくその傘と棍を回して攻撃を弾き。

 近くに転がっている棍使いと木の根本に身体を預ける獣面の少年は、少女が張った結界がまだ作用している事から、その攻撃が及ぶ事はないだろう。

 しかしその手は魔道具に、攻撃の手を防ぐ術のないフィルは、魔道具のその抵抗をそのまま受ける。

 飛沫と共に吹っ飛ばされた際に所々焦げ破れた服が容赦なく裂かれ、その身体に無数に傷をつけていく。

 それはフィルの肩にとまったままのルドとて同じだが、ある程度のものは払うとはいえ、相変わらずその肩に鎮座したまま微動だにせず。

 そんな中でもフィルがその手を、魔道具から離す事などなく。


 放出(攻撃)には意識を割かなければならないが、搾取(取り込み)はいわば魔道具の本能。

 無意識にやっているそれを、止める事など出来る筈もなく。

 搾取が放出よりもその量を上回れば、元々破損しているが故に脆く、崩れ去るのは必死。

 ギリギリのその境の時を、フィルは待っていたのだった。


 ビシリ、魔道具に新たな亀裂が走り。

 ギチギチと軋むような音を響かせ、ブルブルと震えだす魔道具。

 それにニヤリ、笑うフィル。


「どーやら〈壊れる〉のは俺様じゃなく、魔道具(お前)の方だったみてぇだな?」


 その呟きと共に今まで以上の力が、フィルから魔道具へと送り込まれ。


 一瞬の後。

 迸る閃光と同じくするように、その珠部分に無数の亀裂を走らせて。

 内部から食い破られるかのようにして、バキンと砕け散る魔道具。

 内部に取り込まれていた、渦巻く気配もろとも。

 飛来する飛沫を弾き飛ばしながら、天狗仮面が密かに巻き起こしたその風に。


 魔道具は跡形もなく、木端微塵に粉砕され。

 サラサラと、その残骸を夜風に散らさせるのだった。



魔道具、怖いですね(笑)

しかし森での戦闘、なんとか終わりましたっ!(長っ)

最後他人任せなフィル君でしたが(苦笑)

諸々処理?してから、向こう側に行こうと思います〜


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん


お借りしております

継続お借り中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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