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11/4 その時の浜辺


飛んだワケではないですよ?(苦笑)


※視点切り替え頻繁です。ご注意ください






 北の森に迸る赤の閃光を、遥か上空から見下ろす者が一人。

 漆黒の外套の裾を夜風にはためかせ、目深に被ったフードからはその顔を窺うことは出来なかったが、そこから輝く金髪を一房溢している。

 今宵は晴れであるとはいえ、新月、朔の日の次日。

 夜の闇は尚も濃く、闇に同化するかのような身なりに空にひそりと漂うその者に、気付く者は誰一人としていなかった。

 夜風に、それと同質の囁き声が流れる。


「まぁまぁ、楽しめたかな? しかしここで終わりだとすると、少々物足りない気がするな。折角、見物に来たというのに」


 ひゅうおぅ、唸った風がその囁きをさらい。


「まぁ、それならそれまでの事、か。彼が言っていたような、モノではなかったというだけにすぎない。此方としては、楽に手に入るのならば、それに越した事はないんだからね」


 くすくすとした、含み笑いが周囲に満ち。


「それにしても、本当に面白い町だな。もっと早くに来るんだった」


 呟いて、外套の袖口から出した、ほっそりとした白い手を口元に添える。

 フードの裾から覗いたそれは、真っ赤な血を思わせる程に紅く。


「さて、そろそろ行かないと。彼ももう彼方(あっち)に、到着する頃だろうしね」


 含み笑みのまま呟いて。

 その赤の唇が何がしかの言葉を一つ紡ぐと、その者の姿がそこから忽然と消え失せた。






「変わりはないかね?」


 ふわり。風を纏いていきなりそこに現れたその者――頭であるその男に、驚く事なく側にいた獣面の者が即座に答える。


「はい……あ、いえっ。準備は滞りなく進んでおりますっ。ですが……」


 言い淀むその者に頭の男は苦笑して。


「やれやれ。その分では「彼女」は、何処かに行ってしまったようだね。まったく、しょうのない人だ」


 頭の男が呟いた、その言葉に。


「それはお互い様だろう? 君自ら、前線に赴く必要はなかったと思うが?」


 頭の男と同じくその場に唐突に現れたその者は、さらりとそんな事を宣う。

 海風に、金髪が揺れ。それを見返しながら。


「丁重に、お迎えしたかったからね」


 頭の男は呟いて、外套で被い隠していた少女を晒す。


 その栗色が、風に遊ばれて空を踊り。

 白い寝間着の裾が、ヒラリと夜闇に翻る。


 たった、それだけで。


 神聖で荘厳な――

 空気が漂い。


 鈴のような、弦のような、ピンとした空気が周囲に満ち。

 浸透する。


 それに、帰還する為の円陣形成の準備に追われていた、全ての者達がその手を止め。


 救済者トワと同じくする、その姿形が。


 そうする事が自然であるかのように、そこにいる全ての者に膝をつかせる。


 粛々と膝を折り、恭しく頭を垂れる者達。


 砂をさらう、波音すら聞こえないような、静寂が落ち。

 全てが無であるかのような、静に包まれる。



「……っ」


 そんな神聖な空気を、引き裂いたのは。


「……くの……っ! 僕の「永遠(トワ)」あぁぁ〜〜♡♡♡」


 金髪の女の、黄色い声だった。


『!?』


 その声に、殆どの者達が驚きの表情で女を見やるが、当の本人は気にした素振りも見せずに、眼前の少女にがばりと抱きつき。


「トワ、トワっ! 会いたかったよおぉ〜〜っっ!」


 スリスリとその頬に頬擦りして、感情のままに少女のその頬を、紫の舌で舐めあげる。

 しかしその少女、(うしお)は〈なにも映していない〉瞳同様、なんの反応も返さない。

 身動ぎすらする事もなく、何事もなかったかのようにただ、前を見つめているだけで。

 それに気付いて動きを止め。金髪の女が傍らに立つ頭の男を、ゆっくりと見上げて呟く。


「もう(傀儡香で)堕としたのか?」

「まさか。ただほんの少し、〈暗示〉にかかってもらっているだけだよ」

「暗示だと?」


 間を置くことなく、そう返した男にフード越しにでも分かる程の、訝しげさ満載の表情と声音で呟く女。それにはっと我に返り、そそくさと作業に戻っていく他の獣面達を苦笑混じりに見つめながら、悠々と頭の男は続ける。


「そうとも。最も幻影――魔法投影(マジックビジョン)の状態で、出来るとは思っていなかったけれどね」

「ならば偶然、かかったというのか?」

「偶然――だったのだとしても、起こるべくして起こったのならば、最早それは必然だよ。それに彼女が私と〈目を合わせて〉くれた事。そして少なからず、あの時〈恐怖〉を抱いていた事。それが暗示にかかるキッカケになったのは、言うまでもないだろうがね」

「……ふぅむ。しかし無事に解けるのか、それ? いや、違うか。いきなり解けたりしないのか?」


 最もな事を言う女に、男はさらりと告げる。


「既に〈七の継承者〉は我らの手中。暗示が解けた所で、そう害になる事もないだろう。解けなかったのだとしても、それは依頼者側がなんとかするのだろうし――」


 面越しに含むような眼差しを向けて、眼前の女に声を投げる。


「君ならこんなもの、簡単に解除出来るのだろう?」


 頭の男のその言葉に、女は目深に被ったフードの裾から覗く、その紅い唇の端をつぃと上げて妖艶に笑い。


「まぁ――ね。だけど〈ヒト〉が始めた事に、手を出すのはあまり好きじゃないからね。そりゃ、古代魔道具(マジックツール)の場所をちょこっとだけ教えてあげたり、ある程度の助言をしたりは、するけれどね。でもそれを聞いてどうするかはヒトの勝手だし、どう転んだ所で僕には然程影響はないし。ヒト同士の事は――、ヒト同士でカタを着けるのが道理だろう?」

「君の、そういう所を気に入っているよ、私はね」


 呟かれた男の言葉にくすりと笑って。


「ふふっ。それにしても――、本当に面白い町だな、この町は」


 前方に広がる町を見つめて呟く女。


「妖怪に宇宙人。神に悪魔。堕天使に精霊――。それに陰陽師に闇狩人(ハンター)。精霊使いに巫女。そして、継承者。これだけ様々な者達が揃っているというのに、崩れる事無くその均衡を保っている。ここに集う者達の力――か。本当に、面白いね。ちょっと行った先の森にも、面白い娘がいたしねぇ」


 くすくすと笑う女に、頭の男は肩を竦め。


「今回の対象はあくまでも、継承者だと君が言っていたと思うのだがね?」

「そうだったかな? まぁ、手を出す気はないよ? あんなモノ、手に入れた所でヒトの手には余るだろうしね。継承者が、手に入ればいいんだから、さ」


 それにさらりと告げて、(いだ)く汐の頬をつっと撫で。

 森で見た、白髪に赤瞳の少女を思い出しながら呟く。


「本当に面白い娘だったよ。系統として「生産」されたのは百、いや千単位かな。でもあの娘は……正統な二代目、のようだね。どーりで。月の気配が強いはずだ」


 月の見えない空を見上げ、薄く笑んで。

 傍らに立つ頭の男に視線を戻すと、ニヤリとして女は告げる。


「……仕留めたと思うか?」

「どうだろうね。彼らに与えた魔道具はどうやら、壊されてしまったようだしね。深傷でも負わせられれば上々、といった所かな?」


 同じくニヤリとした声を返す頭の男に、女が笑いを含んだままの声で続ける。


「随分な低評価だね? 〈そこから〉が――、本領だと思うけれど?」

「どちらにせよ、滞りなく準備は進んでいる。先導師が二人しか見繕えなかったのは痛手だが、時を稼ぐ(その)為の〈森〉だ。彼らが浜辺(ここ)に来る頃には、全て終わった後の事だよ」


 くっと喉を鳴らす男に、笑みを深めて。

 そう上手くいくかな? と女は胸中で呟き。

 宿泊施設のある方向を見やって。〈六の継承者〉が近くにいるようだし、此方に向かって来ている者がいるようだけれど、と波音に紛れさせるように囁いて。


「邪魔が入らなければ、だろうけどね」


 金髪の女は。

 愉しくて愉しくて、仕方がないとでも言いたげな声音で呟き、抱きしめたままだった汐に、愛おしげにその頬をすり寄せるのだった。






「そこにも、そこにも。いない!」


「あそこにも、あそこにも。いないっ!」


「ここにも、ここにも。いな――いっ!」


 海辺のホテル〈ブルー・スカイ〉の裏口。

 カルサムに言われた通りホテル内を隅の隅まで探し尽くした、茶色のおだんご頭の少女アプリはその頭に白い雀のアムを乗せ、ぴょこんと外に飛び出した。

 十一月上旬の夜風はむき出しの素肌には冷たい筈だが、プリーツスカートとニーソックスから覗くその白い太ももを惜し気もなく晒して、黄緑色のポンチョの裾を揺らし浜を駆ける。


 異様な気配が漂うその場所に――、つい先日、騒動があったのとほぼ同じ場所に向かって。


「なんだか、なんだか。海辺(こっち)が当たり、みたいかな〜? 誰も、誰も。いない筈なのに。人の気配がたくさんするし☆」


 暫し行った先で、ポツリと呟いてぴたり。走る為に動かしていた、その足を止め。

 ただただ夜闇が横たわるだけの、ガランとした浜辺をじっと見つめるアプリ。 その翠眼が、探るように浜を走り。


「!」


 風を切る音を拾って、咄嗟に前に転がるようにしてその攻撃を避ける。

 前転しながら向けた視線が、闇に走る白の残視を微かに捉え。


「不意打ちは、不意打ちは。卑怯なんだよっ!」


 身を捻ってそちら側にくるりと向き直りながら、アプリが非難の声をあげる。

 しかし、そんなものはまるでなかったかのように、更なる攻撃が繰り出される。

 ギラつく得物の先だけが、闇夜に銀の光を生み。


 前から後ろから。右から左から。

 前後左右から繰り出された四つの攻撃が、砂地に降り立ったばかりのアプリを狙い襲う。

 しかしそれに、にんやりとしたその口元から、小さな八重歯を覗かせて。


「隠れた、隠れた。そのままで、正々堂々来れないような。そんな、そんな。悪い子ちゃんには☆」


 腰元からそっと、愛器であるラッパを取り出し。


「アプリちゃんが、アプリちゃんが。――お仕置きしてあげちゃうんだからねっ!」


 四つの攻撃が迫る中。

 可愛らしい声で呟いて。

 盛大に。

 アプリはラッパを吹き鳴らした。



ここしか挟む所がなかったんですよ(白状 (苦笑)


浜辺もなにやら大変なもよう…

そして僕っ子が出てしまった(苦笑)

汐とアプリ、会えるかな〜?


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

ユキちゃん、巫女の設定?を


お借りしております

継続お借り中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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