11/4 北の森での戦い3
「……なにやら妙、であるな」
「そうでやんすねぇ、兄貴」
ヒラリ、棍使いの男の攻撃をかわし互いにその位置を入れ替えるかのようにして、すぐ横をすり抜けながら天狗仮面は傘次郎と言葉をかわす。
「あの輪っかの攻撃も、妙な術によるものも」
「ぴたりと止みやしたからねぇ」
ガキリ、棍と傘が打ち合わされ。
「……何かある、と思っておいた方が無難であろうな」
「でやんすねぇ」
ぐぐぐ……力比べをしつつ、言葉をかわす天狗仮面のその耳に。
「戦闘中におしゃべりた〜ぁ、ずっいぶんナメたマネしてくれるじゃねぇかよぉっ!」
棍使いの男の声が聞こえたと共に。
「っぐ!」
つばぜり合いをしたまま繰り出された蹴りにより、後方に勢い良く蹴り飛ばされていく天狗仮面。
背後には太い木。そこに打ち付けられた瞬間に更なる追撃を見舞う為にと、棍使いの男が後を追走する。
ヒャハハッという笑い声が尾を引き。
ガツン、背に衝撃を受け一瞬息を詰める天狗仮面だったが、迫る棍を傘次郎で受け。
続く二撃三撃を、首を捻って避け、傘次郎を鋭く切り上げる事で弾き。
僅かに崩れた体勢の、その腹部分目掛けて、天狗仮面はお返しとばかりに蹴りを放つ。
「お返しなのである!」
「ぐぉっ!?」
それに今度は獣面の、棍使いの男の方が後方に吹っ飛ばされていく。
だがそれを追いはせず、天狗仮面は体勢を立て直す為木の側からは即座に離れ、ある程度の所で留まりすぅと身構え思考する。
彼方から飛んできた円月輪三つを避けて暫くして、その円月輪の攻撃も妙な術による攻撃も、ぴたりと成りを潜めていた。
円月輪使いの少年と、交戦している筈の賀川殿が両者を仕留めたのであればそれで良いが、流石にそれは早計だろうと思い直し。
何かある、と思いながらふっ飛んでいく棍使いの男からは目を離さずに、周囲にも油断なく意識を向ける天狗仮面。
そんな中、後方に吹っ飛ばされていきながら棍使いの男は、自身の片耳に隠すかのようにして嵌められた、杭の点で結ばれた小さな立方体から届く報告を聞き、囁くように声を返していた。
『……アデ……リオ……』
「おぅ、C。どうした〜ぁ?」
『……B……が、やられ……ました……。相手、は……そちらに向かって……いるよう、です……』
「や〜っぱ、ベニのやつは甘めぇな〜ぁ。ま、まだガキだから仕方ねえかぁ」
『……A、は……大丈夫……ですか……?』
「おめぇに、心配される程の事はねえよ〜ぉ。まーだまだいけるぜぇ? 俺はよ。お前の方こそ、どーなんだ〜ぁ? いけるかぁ?」
自身の耳に聞こえるように呟けば、それが耳内に作られた杭使いの少女による結界を通して、同じものを有している者に声を届けてくれる、通信機の役割を果たしているそれに向けて、そう問うた棍使いの男の言葉の、僅かな間の後で。
『……大、丈夫……です……。Bの無茶ぶりが……なくなった、ので。――いけます』
苦しげに、声を途切れさせながらも少女がしっかりと呟いた、その言葉を信じて。
「んじゃ、た〜のんだぜ〜ぇ? C」
『……はい。それと……Bの、そろそろの筈……ですから……』
棍使いの男は含み笑みの声音で呟き。
返された少女のその言葉に、獣面で隠れたその口元をにんやりとつり上げ。
ゴッ! と棍の先を地に穿って威力を殺し、ザリザリと地面を削りながら止まるとそれを軸に棒高跳びのようにして、漆黒の外套をはためかせながら構える天狗仮面目掛けて突っ込んでいく棍使い。
「ヒャーハァーッ!」
「!」
ガンッ!
一声と共に振り下ろすようにして振るわれた棍を、天狗仮面は傘次郎で受け止める。
しかし威力を上手く地面に逃がしながらではあったとはいえ、飛翔速度やそれにより発生した引力も加わっている為に、その全てを逃がすのは困難であり。
砂煙を上げ得物を交えたまま地を滑るように、後退していく両者。
木々が密集している森の中。
道なき道を来ている為、木々同士の間隔はそう広くはなく。
棍使いの前方に、天狗仮面の後方に。
一つの木がその進路を阻むようにして立ち聳える。
このままでは先程と同じだ。
そう思った時にはその足にしっかりと力を入れ、後方に滑っていきながらも天狗仮面は、傘次郎を持つその手を力強く振り上げ。
合わされていた棍を弾き僅かに反った棍使いのその胴に、追撃をかけようと傘次郎を握るその手を返した、が。
「あ、兄貴ぃ〜」
「なっ!?」
傘次郎の情けない声と共にくんっと手を引かれ、天狗仮面がそちらへと視線を走らせると、調度枝と枝とに挟まれるような形で、傘次郎のその尖端部分が引っ掛かりつっかえており。
それは一瞬の事であったとはいえ、その一瞬の隙を、逃す棍使いではなかった。
トッと地に着いた軸足を捻るようにスライドさせて動きを生み、弾かれた事によって後方に跳ね上がっていた腕を、前に振りかぶる事で勢いを出し。
再び、天狗仮面の元へと突進する棍使い。
今度はその節を曲げ、棍を三節に分けて迫る。
その喉元を、捕えんとして。
「っ!」
その意図を読み、傘次郎の尖端が枝に挟まった時とは逆に、振り下ろすようにして腕を振る天狗仮面。
「ちょ、ちょいと兄貴ぃ!?」
「すまぬ、次郎」
傘次郎の慌てたような声を気にする事なくその柄から手を離すと、腕を振った反動で前に倒れた姿勢のままに地を蹴り、向かってくる棍使いに自ら突っ込んでいく天狗仮面。
それに、一瞬棍使いの男が驚いたような気配を帯びさせるが、それは直ぐ様含みあるものへと変わる。
かたや変幻自在の棍持ちであり、かたや自らその武器を手離した武器無しとでは、この勝負最早着いたも同然である。
勝者の笑みをその獣面の奥の顔に浮かべ、棍使いは含み笑いと共に告げる。
「ヒャハハハッ! 気がフレてるわりに怖じけず単身、向かってくるその勇気を評して〜ぇ、特別に苦しませずに一撃で、イかせてやるぜぇ!」
それに答える事なく、天狗仮面は低姿勢のままに地を駆け。
両者の距離が近付き。
三節に分かれた棍が振るわれ。
「!」
「なにっ!?」
その軌道下に、飛び込むようにして棍使いの攻撃を避ける天狗仮面。
頭部を掠めただけで棍の攻撃をやり過ごし、クロスするように地面についた手を捻りその遠心力を利用して、棍を振りきった棍使いの男の背に鋭い蹴りを放つ。
「がっ!?」
その蹴りをまともに受け、つんのめり勢いを増しながら、棍使いが前方にすっ飛んでいく。
それを目で追いながらくるりと身を反転し、土煙を上げつつ後退する天狗仮面は、ワザと手離した傘次郎がちゃんと側に落ちてきたのを目端に捉え、手を掲げてその柄をしっかりと掴み。
足のバネを利用して跳躍し、傘次郎を振りかぶると勢い良く、棍使いの男のその背に迫る。
「ちぃっ!」
それを察し応戦すべく身を捻って、棍を持つその手を振り抜く獣面の男。
傘と棍が激突し、闇夜に火花が飛び散り。
せり合ったまま、砂を削って後退していく棍使いの、その背後に。
「はあぁっ!」
駆けてきた勢いを乗せたままに踏み切り、茂みから飛び出して来た賀川が、渾身の蹴りを仕掛ける。
完全な不意打ち。
前は天狗仮面に押さえられ、がら空きのその背を、守るものは何もない。
とった! と天狗仮面と賀川の二人は確信し、一瞬だけ目配せし合うと、天狗仮面は棍使いのその棍を押し返し、傘次郎を持つ手を脇を締めて後方へ引き、ついで勢い良く突き出し。
棍使いのその背に迫りながら賀川は、空中で身を捩って回転をかけ、威力の増した回し蹴りを放つ。
「っの、くそがぁっ!」
悪態を吐きそれらをなんとか防ごうと動きかけた棍使いだったが、天狗仮面から受けた背中の痛みはまだ新しく、押し返された事によって反った身体に、容赦なくその痛みを伝え。
痛みに一瞬動きを止めた棍使いに、最早両者の攻撃を防ぐ事は難しく。
前後から迫る突きと蹴り。
それがまるで、スローモーションのように見え。
獣面の奥のその瞳を見開いた棍使いの男が、その目端に捉えたのは――
空に浮遊する一つの杭。
「成敗っ!」
「落ちろっ!」
間近で、天狗仮面と賀川のそんな声が響いたのと、時を同じくして。
棍使いの男が、その口角を引き上げた、瞬間。
カァァンッ!
甲高い音を響かせて、天狗仮面の突きが賀川の回し蹴りが、不可視の「壁」によって阻まれ、間にいる棍使いに届く事なく空中で静止し。
それに、驚いている暇すら与えずに。
「ぐっ!」
「がはっ」
確かに、阻むようにしてある筈の壁を、すり抜けて伸びてきた棍の先に。
容赦なく胸を穿たれ、天狗仮面と賀川の二人は、その場にずるりと膝を折った。
攻撃時が、実は一番隙が出来る…と
皆様お気をつけくださいね
ホントは、スマートに勝つ予定だったのですよ?
杭の少女の粘り勝ち?
膝を折った天狗仮面と賀川さんはどうなるのか
三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より
http://nk.syosetu.com/n9558bq/
天狗仮面、傘次郎君
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん
お借りしております
継続お借り中です〜
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください




