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11/4 北の森での戦い2




「はぁっ!」

「くっ!」


 賀川の放ったストレートが、飛び退った獣面の少年の頬を掠め。そのままくるくると、回りながら後方に退く少年。それをすかさず追随する賀川。着地したその瞬間に、仕留めるつもりで。

 しかしそれは流石の少年もわかっていたらしく、後退しながら円月輪を投擲し、軌道を逸らす為応戦する。


 ザザッ、と砂を擦りながら地に足をつけた所で。

 振り下ろされた賀川の拳と、迎え撃つようにして繰り出された少年の拳が、真っ向から激突する。


 ガッ!


 拳同士を中心に、円状に迸る衝撃波。

 沸いた風が砂塵を巻き上げ、木々の枝葉をザワザワと揺らし。

 ビリビリと感じるその衝撃に、踏ん張れず左右に吹っ飛んでいく両者。


 少年は、その身体が軽いが故に。賀川は、ここまで走りっぱなしだった事による、僅かな疲労で。

 対面の木にぶつかって止まる二人。


 だが、次の瞬間には互いに地を蹴り、そこからは駆け出している。


 再びの激突。今度は足と拳。その足を掴みにかかる賀川だが、身を捻って勢いを乗せたままに回転し、そこに捩じ込むようにして二撃目を見舞う少年。


「!」


 それを半自動的に右手でガード。三、四、五。続く連撃を堪え。地に降り立った所目掛けて、鋭い蹴りを放つ、が。


「つっ!」


 戻って来ていた円月輪を避けながらであった為に、そして自ら後方に飛んで威力を軽減したのであろう少年に、あまりダメージは与えられていないようだった。


 両者共に、バックステップして距離を取り。

 僅かに血濡れた円月輪を指に引っ掛け、くるくると玩びながらニヤリとした含み声で少年。


「イイっすね、イイっすね〜。獲物はこーでなくっちゃ、面白くナイっすよねぇ〜」


 言いながらきゅきゅっと手を閉じ開き。手品の如く、円月輪が増える増える。

 じりじり、横滑りするようにして常に移動しながら、賀川はそれをひたと見つめ。


 ヒュヒュンッ


 大きく弧を描いて迫る三輪と、その二回り程内側を並走するようにして飛来する四輪の、軌道を正確に読んで走る。

 切り裂かれたのは左腕と右足だったが、浅い為特に気にする事もなく。


 此方に向かって飛んでくるものの内、外側の三輪はこの場所より彼方にいる、天狗仮面に向けてのもので。

 内側の四輪が、自分に向けて放たれたものであると分析し。

 先程よりは走る速度をあげて、迫る四輪に自ら突っ込んでいく賀川。


 少年の円月輪が一体幾つにまで増えるのかは知らないが、どれだけ増えた所で、避けてしまえばいいだけの事。


 光のない暗闇で、その軌道を読むのは並大抵の事ではないが、夜目の利くその目と微細な音すら拾う良い耳に加え戦闘経験すらある賀川には、出来ない芸当ではなかった。

 (うしお)を追ってきた移動距離、辿り着いた先の森での長引く戦闘による疲労はあるが、許容範囲内の事だ。


 あの不可思議な杭の包囲が成りを潜めている今こそが好機であり、相手(少年)の戦闘スタイルに慣れてきた賀川には、そろそろいい頃合いだった。


(……引き返して来た四つをかわして、それが手元に戻るその直前に、叩き込むっ!)


 手元に戻るその瞬間は、円月輪が到達するその最終地点に、どうしても手が固定される。

 それは一瞬の事とはいえ、賀川にはその一瞬で、充分だった。


 思考を巡らし、わざと自身の背後を四つの円月輪に追わせながら、賀川は眼前に立つ少年に向かっていく。

 しかし少年も何も、ただ待っているだけ、という訳ではなく。その手がヒラリと閃き、円月輪が増える。四つ。

 それと共に眼前の少年がニヤリと、笑ったような気配がした。


(挟み撃ちにするつもりか!)


 そう賀川が思った時には、既に投げられている四輪。

 前後四つ、計八つ。

 耳がまるで、羽虫が羽音を響かせているかのような、連なり音を届けてくる。

 眼前の四輪を見つめたまま、耳を立て思考をフルに回転させる賀川。


 上下左右に四つ。その調度合間に、滑り込ませるかのようにして差し込まれている四つ。

 その全てを避けるのは至難の技だ。

 八方塞がり、なんて言葉があるが、これはまさにそんな感じだった。


 幅が狭く、円月輪同士のその間に身体を滑り込ませられるような隙間など、ありはせず。

 移動しながらである筈なのに、正確に。

 捉えられ次の瞬間にも、その八つの輪がこの身を引き裂かんばかりに迫ってきている、そんな状況。


 だというのに賀川のその口元に、浮かんでいるのは一つの笑み。

 恐れなど微塵も、感じていないかのように。


 賀川は走りながら思考を巡らし、ニヤリとその口角を引き上げる。


 走る速度は変わっていない。

 迫り来る円月輪が、耳に風切り音を伝える。

 後ほんの数秒で、交わるその瞬間ときが来る。


 〈それがわかっている〉のだから。

 やる事は明確であり。

 なにも賀川が、迫るそれらを恐怖する必要など、何処にもないのだ。

 流れる曲の、拍子を数えるかのように。


(……三……二……いちっ!)


 拍を数え終えた、その瞬間。賀川の右手が閃き。


 一番最初に自身の間合いに、到達する円月輪を一つ。ひょいっとその指先に引っ掛け。

 続く二輪と三輪を、阻むようにその右手を振り上げ、捕まえた円月輪を二つの輪の軌道上に投げつけ。


 ぐっと足に力を入れ、一気に加速する賀川。


「なにっ!?」


 それに驚いた声をあげる少年。

 ぐんっと距離が狭まるその後方で、キン、カキンッ、と甲高い音が響き渡り、軌道を逸らされた二輪があらぬ方向へと飛び。

 それに巻き込まれるような形で、残りの五つの円月輪も次々と互いにぶつかり合って音を奏で。


 交わったそこを中心に。勢い良く四方八方に飛散する、八つの円月輪。


 それを賀川は、空を切る音だけで見切って、上体を前に倒すようにして避け。


「うぇっ!?」


 賀川の後方からいきなり現れた円月輪を避けるべく、回避行動を取ろうとする少年だが。

 右から迫る円月輪と、左から迫る賀川が側に到達するのは、ほぼ同時。

 制御の離れた愛器など、敵以外の何物でもなく。

 しかし、それでも自身の武器であるそれに、少なからずの愛着はあり。一瞬、躊躇いが生まれ。

 一瞬生まれた少年のその躊躇が、無情にも明暗を分ける事となる。


「っ!」


 はっとして、少年が意識を切り替えたその時には、既に賀川は懐に深く。勢いの乗ったその右手が、下方より迫り。

 右から迫る円月輪も、もう避けようがない。

 ならば、と。少年は地を蹴り相打ち覚悟で、賀川に渾身の一撃を放つべく腕を振るう。


 迫る拳と拳。

 空を切る輪の音が、大きく大きく、耳に届き。


 ゴガガガガガガッ!


 飛散した他の七輪が、側の木々や草地を削り抉り取りながら静止し。


 ずりゅっ


 獣面の少年に迫っていた残り一つの円月輪が、少年のその肩口を深く抉り。



 一瞬。全ての音が無に帰し。



「…………」


 どさりと。

 そこに生まれた出でた初めての音であるかのように。

 みぞおちに重い一撃を食らった獣面の少年は、意識を手放しその場にがくりと崩折れた。


「……っ……」


 それを油断なく見据えながら、肩で息をしつつ賀川は、じりじりとそこから移動する。

 少年の渾身の一撃は肩口に受けた傷の所為で軌道を逸れ、賀川の身体に届く事はなかったがなにも賀川も無傷で、とはいかなかった。


 獣面の少年が倒れ伏した側。賀川の足下近くに。

 地に穿つようにして突き刺さっている、新たな三つの円月輪が、血に濡れるその刃を闇夜に鈍く輝かせていた。


 天狗仮面を翻弄するべく投げられていたものが、戻って来ていたのだ。

 もう動作に入っていた為に、回避する事は不可能であり。

 その一つに頬を切り裂かれ、先に負った左腕と右足のその箇所に、追い撃ちをかけるかのようにして、後の二輪によって更に傷をつけられていた。


「……っ、……兎に角、移動しないと……。あの包囲が、いつまた始まるともしれないし……。天狗仮面の方は……まだ……」


 呟いて、意識のない少年を側の木の幹に、巻き付いていた蔓を使ってがっちりと括りつけると、落ちていた円月輪を拾って、交戦しているその音を頼りに。

 頬を流れる血を拭い、賀川はそこから駆け出した。


 暗闇の、森の中を。

 迷うことなく真っ直ぐに。



賀川さんのターンでした!

少年撃破っ

次は天狗仮面ですね〜

頑張ります〜


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面(お名前を)


お借りしております

継続お借り続行中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください


そろそろ止まる、かな…(汗)



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