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11/4 北の森での戦い1




 ガキンッ!


 棍と傘が打ち合わされ、夜の森に硬質な音が響き渡る。

 つき合わされているのは、白の面と赤の面。


 しかし、それは一瞬。

 あっと思った時には、弾かれたように互いに距離を取っている。


 ヒラリ、夜風に唐草模様のマントが舞い。

 「兄貴!」呟かれた傘次郎の言葉と共に教えてくれる。

 飛来物の接近を。


「なんの!」


 迫り来るそれ――獣面少年の投げた円月輪――を、側にある木の後ろに回り込んで回避する天狗仮面。


「っ!?」


 だが、そこ目掛けて放たれている、棍使いの男の攻撃。すんでの所を傘次郎で受け止め、払い。

 また、距離を取る両者。

 しかし――、天狗仮面の方は、止まっている事は出来ない。

 なぜなら――


「くぅっ!」


 直感的に危険を察知し、〈それ〉から免れる天狗仮面。

 横飛びに避け、着地地点目掛けて穿つように突き下ろされた棍の連撃を、そのまま草地をゴロゴロと転がる事でかわし。

 素早く立ち上がり、木々の合間を縫って走る。


 動きを止めれば、終わりなのだ。



 先手必勝、とばかりに駆け出した天狗仮面と賀川だったが、それと時を同じくして獣面の杭使いの少女も、密かに動きを見せていた。

 結界術の応用によって広範囲に転送、飛散した小さな杭達が繋がり、瞬時に発動。

 瞬く間に、巨大な結界が出来上がり。


 今や北の森は、獣面の少女が作り出した結界によって、その殆んどがスッボリと覆い尽されており。

 敵の領域(テリトリー)と化していた。


 そして結界を張ったと共に、その少女は暗闇に溶けるかのようにして消え去っており。

 魔道具が壊れた事によって先程まで感じていた妙な気配も、微細なものとなってしまっている為に探すのは容易な事ではなく。

 そもそも残った二人がそう簡単に、追わせてくれる筈もなく。

 自分達の領域ならばと、容赦なく攻撃を仕掛けてくる。



 状況的には、二対二。

 先程の空戦で一発貰った礼がある為に、変わらず棍使いの男と相対する天狗仮面。

 賀川の方は、もう一人の獣面の者、円月輪を操る少年と交戦している。


 だが、時折思い出したかのように円月輪の攻撃が、此方へと向かって飛んでくる。

 空中戦の時のように遮蔽物のない状態ならば避ける事は容易いが、木々や枝葉の影から来られたのでは、それはなかなかに難しい。

 しかしそれを助けてくれているのが傘次郎であり、天狗的能力である風の力だった。


「右から来やすぜ、兄貴」

「うむ」


 傘次郎のナビを受けて、追随するように放たれる棍を避けながら、飛んできた円月輪をかわす天狗仮面。


 これではまるで二対一のようであるが、天狗仮面にしてみれば二戦目である上に、切りつけられた各所の傷は既に塞がっている為、これらの攻撃はまだ、受けるなり避けるなり、いくらでも対処のしようがあるのだが。

 厄介なのは、〈もう一つ〉の攻撃だ。


「っ!」


 直感で、それを避ける。

 が、背中で揺れるマントの裾が僅かに、それに捕まり。

 くんと後方に引かれ、天狗仮面の動きが止まる。

 そこに突き出される、棍の切っ先。


「ヒャーハァー!」

「くっ!」


 ガツン、なんとかそれを傘次郎で受け、僅かに起こした風にマントの裾を切り裂かせ、棍使いを退かせて身を翻し天狗仮面は森を走る。


「ヒャーハッハァッ! 逃げろ〜ぉ、逃げろっ! どぉ〜こまでも追っていってやるぜぇ? ヒャハハハハッ!」


 その後ろ姿を卑下た笑いが追いかけ、天狗仮面が後方を肩越しに振り返ると。

 やはり、ある。

 八つの杭(点)によって構成された立方体の中。


 空に。

 まるで縫い留められたかのようにして浮いている、唐草模様の切れ端が。



 少女の、結界による攻撃(もの)だ。


 杭を操り、周囲との繋がりを遮断する為の結界を形成する事だけが、能ではない。

 結界術とは、いわば空間支配、操作の術。

 その空間に、自身の任意のその場所に、思い描く通りの、(もの)を形成する事が出来るのだから。

 大小、伸縮だって自在だろう。

 勿論、その使い方も。


 彼女にしてみれば結界内部など、自分の手のひらの上のようなものなのだから。

 自身が形成した外郭の内部(なか)をどうしようと、それこそ思うがままだろう。

 なんの前触れもなく壁を形成して内部を二分する事も、中身をギチギチに詰めてみることも。

 動き回る者達を、新たに形成した小結界に、閉じ込める事も。

 造作もない事だ。


 しかし、それらは容易に出来るものではない。

 魔道具は壊され、媒介である杭も使い捨てではないにしろ、無限ではなく有限なのだ。

 それに加え自身は、唯人(ただびと)でしかない人の子なのだから、少なからず、いや確実にリスクが発生する。


 無から有を、生み出す事は出来ない。

 浮遊を可能にしていた魔道具も、それを身に付けているだけで、効力を発揮するものではない。

 一度魔力を込めれば永久、半永久的にその力を行使出来うるものでもない。


 ならば当然、それを〈動かすもの〉が、動力が必要であり。

 唱え(うた)は、唱えない。そんな事をすれば即刻、居場所がバレてしまうのだから。


「…………」


 その手に握り締めた、壊された魔道具を無理矢理に稼働させ、攻撃の手は緩めずに、杭使いの少女は好機を待つ。

 その顎から、一つ雫を滴らせながら。


 二人同時に、一網打尽に出来るその好機(とき)を。






「逃げてばっかじゃ、つっまんナイっすよ〜!」

「!」


 風を切る音を拾って、円月輪を避ける賀川。

 その後ろを、少年が鬼ごっこの鬼のように追いかけてくる。


 三人の獣面共と相対した刹那。

 天狗仮面と目配せし合い、駆け出しながら自分の敵である少年に向けて、不意打ちのように投擲した、そのペンは。


 なんと空中でいきなり静止し、程無くしてコロリと草地に落ちた。


 その時その黒の瞳がかろうじて捉えたのは、ペンを囲むようにして配置された八つの小さな杭と、闇夜にすぅと消え失せる少女の姿。


「くっ!」


 それと同時に飛んできた円月輪を身を捻る事でかわして、獲物が無くなったのであろう少年の懐に飛び込もうとした賀川だが。


「賀川殿!」

「っ!?」


 天狗仮面の声にハッとしたその時には。

 ガチン! 引き返してきていた円月輪を、賀川の背後に立った天狗仮面が、傘次郎で弾いた後で。


「すまない。フリスビーと一緒だったのか、アレ」

「うむ。先に交戦した際は、三つにまで増えたのである」

「まったく、油断してんじゃねえってんだい、賀三郎よう」


 言葉をかわし合う中、突如滑り込んできたその声に、目をぱちくりとして。


「……天狗仮面、何か言ったか?」

「いや、何も言っていないのである。それより、来るぞ!」


 問われたその声に顔を逸らして、ぼそりと天狗仮面が呟いたと共に。


 迫る棍の先と少年の飛び蹴り。

 それを受け止めて各々、横なぎに払い。

 互いに散じて、走り出す。


 まったくもって不可解極まりないが、投げたペンが弾かれるでもなく叩き落とされるでもなく、空中でピタリと静止する、なんてモノを見せられたら、〈止まって〉いる事など出来る訳がない。

 そんな事をしたらそれこそ、〈捕えてくれ〉と自ら言っているようなものである。


 厄介な相手に舌打ちしつつ、初手であれを見ることが出来たのは収穫だったと思いながら、賀川は走りっぱなしの足に鞭打って、木々の合間を縫い森の中を走る。

 障害物(周りの木々)等ないかのように迫り来る、円月輪を避けながら。

 背後から迫る獣面の少年は、猿であるかのようにしなやかに枝から枝を飛び移り、追ってくる。


「!」


 勘で、杭の包囲を後方に飛んで逃れる。そこに迫る円月輪。手をついて横に飛び退く。一瞬左腕に違和感を感じたが、構うことなく立ち上がり走る。


 円月輪の攻撃は、耳が風を切るその音を拾って伝えてくるから、避けられる。

 しかし、杭による包囲は――、何の前触れもなくいきなり、そこに現れるのだ。殆んど、勘で避けているような状態だった。

 杭が移動するその音を、拾おうとするとまるで狙っているかのように、後を追ってくる少年がその枝葉を揺らして、盛大に音を立てるのだ。

 これではいくら常より探しやすくなっているとはいえ、容易に探せそうになかった。


 賀川はその「耳」が良い故に、なにがしかの方法によってこの森一帯が、隔離されている事に気が付いていた。

 外部の音は不明瞭に内部の音はより鮮明に、その耳に届くのだから間違いない。

 森の家のアトリエで、ユキさんが振るう筆のその一筆すら、聞き取れそうな程に。

 かなり離れている筈なのに、森中で天狗仮面が交戦しているその音が、ちゃんと聞き取れているのだから。


「そろそろ追いかけっこ、アキタっすよ〜!」

「!」


 言いながら後方から飛んで来た鋭い蹴りを、その身を数歩右に引く事でかわす賀川。そのすぐ側に着地した軸足だけでターンして、続けざまに放たれた少年の回し蹴りも、後方に飛ぶ事で避け。

 その場所目掛けて飛んできた円月輪を。


 ひょい、っと。


 賀川は、自分の指先に引っ掛けて奪取してみせた。


「なっ!?」


 それに、円月輪を避けると読んで迫ってきていた少年が、驚いたような声をあげ。


「それ、僕のブキっすよ! 返せぇっ!」


 叫んでそのまま突っ込んでくる少年に向けて、絶えず移動をしながら賀川は。


(……取り合えずこの少年を倒して、天狗仮面と合流しよう)


 胸中で呟き、


「返すよ、ほら」


 無造作に、それを少年へと投げ返し。

 投げると共に一気にその距離を詰め、賀川は少年の懐に飛び込んでいった。



折角引き合わせたのに、離しちゃいました(笑)

ついつい…

あぁ、こうして話数が長くなっていくのね〜

十四…じゃ終わらないかな、コレ…(苦笑)


さぁ、再び巡り会う事が出来るのか!

天狗仮面と賀川さんっ

そして杭使いの少女は…


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん、ちらりとユキちゃん


お借りしております

継続お借り続行中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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