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11/4 北の森・地上で




 ルドの背に乗り、猛スピードで夜空を疾駆しながら、


(セキ)っ!」


 フィルは知らずと叫んでいた。

 そしてカルサムに呼び立てられたとはいえ、側を離れるべきじゃなかったと、今更ながらに後悔する。


 一度見(まみ)えたあの時頭の男には一切触れさせなかったとはいえ、幻影を使ってまでして来た奴が何も仕込んでいっていない、なんて保証はなかったのだから。

 現に(うしお)は、ホテルから姿を消しているのだ。

 事があったばかりだというのに、汐が自発的に出ていったとは考えにくい。

 ならば、どういう手段を使ったのかは知らないが、操られている、と考えるのが妥当だろう。


(……頼む……間に合ってくれっ……!)


 祈るように呟きながら、僅かでもと手がかりを探すように、眼下に視線を走らせるフィル。

 静かな夜の景色が広がる町に、隈無く視線を注ぎ。


「……ん?」


 不自然な場所に止まっている車を見つけ、其所へと降下し近付いていくフィル。

 側に寄りながら目を凝らすと、白の車体に見えてきたのは、賀川運送の文字。


「あれってまさか、賀川(あいつ)の……?」


 にしたってなんでんなトコに? と首を傾げるフィル。

 周りの建物は、全て光が落とされシンと静まり返っていて、誰かがいるような気配はない。

 それは車内も同様で、ルドの背の上から覗いた車内に、主である賀川の姿はなかった。


「放置かよ? 駐禁取られてもしんねーぞ」


 呟いてやれやれと肩を竦めたフィルが、ふと視線を巡らすと。


 街灯の下、ふわりと揺れる栗色を捉え。


「汐っ!?」


 それにフィルが声を上げると、その声に驚いたかのように、すぅとその姿が光の中に溶けて消える。


「なっ!?」


 一瞬、何が起きたのかわからないというような表情をして、蒼の瞳を瞬き慌ててその後を追おうとするフィルだったが、隼を駆り追い付いて来ていたカルサムの声が、その耳に滑り込む。


「既に、付近に汐自身はおらぬ。(アレ)の姿見を写した幻、残視であろう。微細な気の筋は、北の森に向かってのびておる。――行くぞ」

「お、おう」


 それになんとか声を返し、追い越していったカルサムの後を追うように、ルドを促しフィルはそこから、空へと再び飛び上がった。


 目指すは――、北の森。






 北の森の上空で、三人の獣面達と天狗仮面、傘次郎が戦闘を繰り広げている中、その下方の地上では。


 汐を追ってその後を駆けていた賀川が、先を行く汐の足音がカサリとした草を踏む音に変わった事に、閉じていた目をそっと開くと。

 眼前に森への入り口が広がっており。そこにふわふわと一人、入っていく汐の姿が見えた。


 それを確認してからさっと周囲に視線を走らせるが、あの不可思議な現象――光の下の無数の汐達――は、既に成りを潜めているようだった。

 いつもと変わらない静かな風景が、そこに広がる。

 その事に、まぁ森の中まで街灯の明かりは届ないし、と小さく安堵の息を吐き出しながら、後を追って森の中へと入っていく賀川。


 相変わらず、その距離は縮まっておらず。

 白の寝間着のため夜闇に際立つが、草木の影に入られて見失う事がないよう、その後を慎重についていく。


 その黒の瞳はひたと眼前の汐を捉えたままに、僅かな足音を拾う為にと継続して立てている耳が、何処かから別の音を拾ってくる。

 それは微かな動物達の息づかいでもなければ、森の木々がその枝葉を夜風に揺らす音でもない。


 何かが、激しく打ち合わされるその音――……

 確かな戦闘の音を。


 どうやらそれは、この辺りの上空から聞こえてきているようだったが、森内に入る前に見た夜空の景色に、不審な点などはなかった。

 大体、空中戦なんてどこのアニメ作品だよ、と一瞬過った思考を打ち消し、賀川は汐を追って尚も森の中を進む。


 森を進む汐と賀川が、森の中程辺りに差し掛かった、その時。


 〈それ〉は、いきなりそこに現れた。

 瞬く一瞬のその隙間に、紛れ込んできたかのように。

 漆黒の外套が風に靡き、白の獣面が闇に浮かぶ。


「あいつっ!」


 その姿に覚えがあって、賀川は走る速度を上げる。

 しかし縮まらないその距離に、先を歩いていた汐はそいつの元に、獣面の頭である男の所へと辿りついてしまっている。


「汐ちゃん! ダメだっ」


 叫ぶ賀川のその声に気付いて顔を向けるのは、獣面の男の方で。


「時計うさぎに導かれ、夜の森へと誘われたのは白のアリス――……ではないようだね」


 側近くへと来た汐の手を取り、此方へと向かい駆けてくる賀川を見つめて呟く男。


 ゆぅらり、振り子が揺れ。


「黒のアリス(君)を、呼び立てた覚えはないのだがねぇ」


 含みある声で、そう頭の男が呟いたと共に。

 賀川の、耳が拾っていた風切り音が大きくなり。


「っ!?」


 真っ直ぐ駆けていた賀川が、咄嗟に横へと飛び退り。

 一瞬前まで、賀川がいたその場所に。


 ゴガッ!


 という、何かに穿たれたかのような凄まじい衝撃音が響いたと共に地面がぐらぐらと揺れ、視界を覆い尽くさんばかりの土煙が舞い上がり。


 ドサッ、バササッ


「なっ、なんだ!?」


 更に側に。

 遅れて届いた三つの音と衝撃に、動きを止めた賀川が驚いているその隙に。


「やれやれ。全く、一体何を遊んでいるんだか」


 肩を竦め呟いた頭の男が、汐をその手に抱きかかえて振り子を揺らし。


「私は先に行く。始末は君達に任せるよ。では、再び(まみ)える事のないよう――、祈っているよ」


 含みある声で呟いて。

 現れた時同様に、頭の男は突然にそこから消え失せる。

 胸に抱いた汐と共に。


「待てっ!」


 それに制止の声を上げ、土煙が上がる中再び駆け出す賀川だが、既に頭の男(と汐)はそこから消え去った後であり。


「う〜、いっタイっすよ〜」

「まさか、風が襲ってくるとは思いませんでした」

「ヒャーハッハァッ! 見ぃ〜事にや〜られちまったな〜ぁ?」

「!?」


 代わりにとばかりに、土煙を上げるその中から木々の間を縫って、三人の者達が現れる。空中で、天狗仮面と交戦していた三人だ。


 風の魔力(マナ)を宿した古代魔道具(マジックツール)を傘次郎が放った風によって壊された為、落ちてきていたのだった。

 上手くその衝撃は逃がしたらしく、落下によるダメージは然程受けてはいないようだが。

 三者はひょろい長身の者、小柄な者、子供の身丈の者と身長や体格は様々だったが、皆漆黒の外套に、その顔には白の獣面を被っていた。


 十月の終わりに浜辺で一度戦った事のある、獣面達と全く同じその面を。


「…………」


 それをしっかりと確認して眼前を見据えたまま、賀川はすぅと身構える。


 何処にいったかわからない頭の男と(ちゃん)を、この暗闇の中やみくもに探すより、目の前のコイツらを倒して聞き出した方が早いと考えたが故だ。


「また、邪魔者が一人増えてます」


 鋭い視線を向けてくる賀川に気付いて、小柄な少女がそちらに視線を投げながら呟く。


「えー。もぅ、なんなの? 正義の見方の宝庫ナンっすか〜? うろな(ここ)って〜」


 それに呆れたような声を出す少年。


「ヒャーハー! いいっじゃねぇかよ〜ぉ。一人や二人増えた所で、始末すんのには変わりねぇんだからよぉ。大体、マジックツール(コレ)壊さ(ヤら)れた落とし前は、つけさせて貰わね〜とだしな〜ぁ?」


 そんな少年に笑いながら告げるのは、ひょろい長身の男。ひょいっと手に持つ棍を肩に担ぎ、眼前の賀川をねめつけながら呟く。


「おんや〜ぁ? さっきの赤面野郎、何〜処いったぁ?」


 ひょろい男のその言葉に、赤面野郎? と訝しげに眉根を寄せる賀川。

 そんな賀川に答えるかのように。


「私ならば此所にいる!」


 土煙を切り裂いて、颯爽とその場に現れたのは。


「てっ、天狗仮面!?」


 そう、天狗仮面だった。


 ひょろい男の棍で胸を穿たれ勢い良く森に落下した天狗仮面だったが、すんでの所で体勢を立て直し、傘次郎を開いて自身への衝撃は最小限に留めたものの、至近距離であったが故に傘の先が地を穿って、衝撃を生み。殺しきれなかった勢いによって、土煙が巻き上がったのだった。


 それ故に、天狗仮面と傘次郎はその所々が土埃で汚れていた。それに加え天狗仮面の方はというと、先の戦いで切り裂かれた箇所から流れ出たその血で、僅かにジャージを赤く染めていた。

 最もこの暗がりでは、そう目立ちはしないだろうが。


 いきなり現れた天狗仮面に驚いた声を出す賀川に気付き、声を返す天狗仮面。


「賀川殿ではないか! 何故このような所に」

「俺は、汐ちゃんを追って来たんだ。天狗仮面こそどうしてここに」

「見回りの最中、妙な気配を察して来てみた所、妙な輩と遭遇したという訳なのだ」


 などと言葉をかわしながらも、互いの背を守るようにして立つ賀川と天狗仮面。

 一度共に戦った事があるからか、その動きは流れるようで。

 互いの立ち位置が、自然とそこに出来ている。


「……油断出来ません。(アディリオ)(ベニファー)。いいですか?」


 そんな眼前の二人を見据え、油断無く杭を構えて少女。


「もー、(クリュリエ)は心配性なんだから〜。だーいジョブっすよ〜」


 杭を構えて告げる少女クリュリエに、ベニファーと呼ばれた少年が円月輪をくるくると回しながら呟き。


「ま、そーだよな〜ぁ。要は、ホンキ出しゃあいいんだろ〜がよぉ?」


 周りの木々をものともせずに棍を回して、含み笑みで答えるのは、アディリオと呼ばれた棍使いの男。


「…………」

「…………」


 口々に呟く眼前の獣面共を見据えながら、目配せし合う賀川と天狗仮面の二人は。

 その身を引き締め直すと先手必勝とばかりにそこから、勢い良く駆け出した。



頭さんと汐は、何処かにいってしまいましたが…

やっと交わりましたね、賀川さんと天狗仮面!

ウチの子達、間に合うかなぁ〜?


賀川さんと天狗仮面が一度共闘した話は、桜月りま様の所の10月27日話、ユキちゃん奪還戦を是非ともご覧くださいませ〜♪

格好良いです、賀川さんと天狗仮面が!


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君


お借りしております

継続お借り続行中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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