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11/4 始まり?


※暫し視点切り替えが頻繁です。ご注意ください






「な……、なんなんだこれっ!?」


 眼前の光景に驚き目を瞬いて、声を上げる賀川。


 建物を曲がった先に広がるのは、十字路の道の内一つ。

 しかしそこは、何時もの静かな街道とは似ても似つかない、異様な光景が広がっていた。


 無数に連なる街灯の光の下。

 それと数を同じくするように、無数の少女が灯りの中、そこにいる。


 まるで鏡の迷宮(ラビリンス)に、迷い込んでしまったかのように。


 栗色の少女が、光の中をふわふわと跳ねる。

 惑うように、誘うように。

 十字に延びる路。前後左右の街灯の下、栗色の妖精が舞い踊る。


 ふわり ふわり

 ゆらり ゆらり


 何処かで振り子が、ゆぅらりと揺れる。


「…………」


 こんな事はあり得ない――。

 不可思議なこの現状に、思考が止まる。

 暫し眼前を見やって、呆然と立ち尽くす賀川。


 今日は暗夜。もう夜も遅い為建物の明かりはその殆んどが光を落とし、夜の闇に同化するかのように、静かに沈黙を保っている。

 月も星の光も届かない、そんな夜。


 よく手品で、光を屈折させて鏡の前にいる人物を別の鏡の前に写し込んで、いる場所の錯覚を起こさせる、というのがあるがそれは、光と鏡がなければ不可能な事であり。

 立ち並ぶ街灯に鏡が添えられている等の、細工がしてあるようには見えない。


「…………」


 巡る思考に、徐々に意識を呼び戻し。

 賀川はそこに立ったまま、すっ……と目を閉じる。


 眼前のものが、手品のイリュージョンなのか、何か不可思議な力が働いているのかは知らないが、どちらにしろ自分の視覚に、影響を及ぼしているのは明白だ。

 ならば、視覚を閉ざせばいい。

 そうすれば、〈見えるモノ〉に惑わされずに、対象(本物)を探し出す事が出来る。


 賀川は目を閉じ、じっとして微動だにする事なく、耳をすます。

 常人には聞き取れない程小さな音でも、拾い上げる事の出来る、その良い耳を。


 シン……、と。

 一瞬周囲から、音が消え。


 賀川は耳に意識を集中させ、懸命に探す。

 その、たった一つ。正解に至れる足音を。


 ぺたり。

 アスファルトを、素足が確かに踏む音を、賀川のその耳が捉える。


 やはり北の森へと続く前方の道――。

 曲がった先の方向から、その足音が聞こえてくる。


 ぺたり、ぺたり。

 確かに聞こえるその足音に、確信を持って。


「こっちだ」


 呟いて一瞬だけその瞳を開き、無数の(うしお)達が灯りの下を舞い踊る中、方向をしっかりと確認した賀川は。


 目を閉じ耳をピンとすまして、聞こえてくる足音を追うように、そこから再び駆け出した。






「では次郎、頼むのである」

「合点でさぁ!」


 道すがら夜のうろな町を、見回る天狗仮面と傘次郎。

 そっと裏路地に入ると、人気、人目などがないのをしっかりと確認してから、手に持つ傘を一振りする天狗仮面。


 すると、その身体を一陣の風が被い。

 ふわり、夜空へと舞い上がる。


 彼が普段持ち歩いている赤い番傘は、ただの傘などではない。唐傘化けという名の『物の怪』だ。

 天狗仮面は、妖力を失った天狗である。

 『人間の、天狗に対する尊敬と感謝を集めること』が、失った力を取り戻す事になるのだと千里から教わり、日々、その為に精進している。

 傘次郎もまた、妖力を失った物の怪だった。

 しかしある事柄により、僅かに力を取り戻した天狗仮面よりその妖力を分け与えられ、傘次郎は、天狗の力の片鱗を宿した唐傘化けへと転じた。


 それ故に傘次郎を有しているその時のみ、天狗仮面は天狗的力を扱う事が出来る。

 その片鱗である『天狗風』をその身に纏い、空を飛ぶ事などお手の物だ。


 晴れの夜空に、唐草模様のマントがばさりと翻り。


「……む?」


 上空から見下ろした町の各所が、異様な気配を帯びている事を感知する天狗仮面と傘次郎。


「何やら妙な気配がしやすねぇ、兄貴」

「うむ。……数にして三つ、であるか」


 意識を各々に向けながら思案する天狗仮面。


 妙な気を帯びているのは、三ヶ所。

 その中で北の森辺りと、うろなの東方、砂浜辺りの気配が強い。勝っているのは北の森の方のようだが。

 後の一つは微弱である上に、どうやら北の森へと向かって移動しているようであり。

 千里が言っていたのはこれの事であるか、と思い呟く。


「砂浜の方も気にはなるが……一先ず、北の森の方へ行ってみるのである」

「合点承知でさぁ」


 先日、人の子が一人攫われかける、という一件があったばかりであり。警戒しつつ、天狗仮面はそちらへと飛んだ。

 風を切り、夜の闇空を天狗仮面が疾駆する。


 暫しして北の森へと到着した天狗仮面は、森の中程辺りに、その気配の中心を見つける。

 ゆらりゆらりと揺れ動き、定めのないその気配は、明らかに異様であり異質。


 警戒の色を強め、慎重に其処へと近付いていく天狗仮面だったが。


「ヒャーハーッ!」

「!」

「兄貴っ!」


 ガツッ!


 笑いを含んだ声と共に自身の斜め後方より振り下ろされた棍を、間一髪傘次郎で受け止める天狗仮面。

 暗闇の中、間近で見たその顔は、闇に浮かぶ白の獣面。

 受け止めた棍を払い距離を取って、天狗仮面が誰何の声を上げる。


「何者であるか!」


 その声にくるりと一回転して威力を殺し、漆黒の外套の裾をはためかせ空中に漂った状態で、眼前の獣面の者が含み笑いと共に応える。


「そおっちこそ〜ぉ、なぁ〜にモンだぁ? 赤面なんて被っちゃってさ〜ぁ。まねっこかぁ?」


 ヒャハハッと笑う眼前の者に、天狗仮面は名乗りを上げる。


「私の名は天狗仮面。このうろなの町を守る、天狗である!」


 その言葉にヒュウ♪ 口笛を吹いて。


「せ〜いぎの味っ方〜ぁ、ってかぁ? 頭ぁ、どうしやす〜ぅ?」


 卑下た笑いを含んだまま、その者は眼下の森へと声を投げ。


「やれやれ。どうしてこうも、血の気の多い者達ばかりなのかね?」


 その者の右下方。伸びた一本の木の枝の上、その幹に背を預け、悠々とした男声が返る。

 天狗仮面の眼前にいる者よりは幾分か立派な獣面をつけた、漆黒の外套を纏った者。明らかに仲間だ。

 それにその声は妙な気配がする、その中心から聞こえてきた。


 気配の出所であるか、と胸中で呟き。

 天狗仮面が、傘次郎を持つその手に力を込める。


「仕掛けてしまったのだから仕方ない。――始末しろ」


 悠々とした、しかし冷淡なその声に。

 夜闇にふわりと新たな敵が、天狗仮面を取り囲むようにして現れる。

 前方に一人、後方に二人。

 ちらり、それらに油断無く視線を送る天狗仮面。

 ゆ〜らゆら、外套の裾をはためかせ天狗仮面の周囲を漂う獣面共は、数での優勢からかニヤニヤとした含み笑みを溢し。


「ちょ〜っとくらい、遊んでもイイっすよね〜?」

「ただ待機しているのにも、いい加減飽きてきました」

「ヒャーハーッ! ()〜ぁり合おうぜ〜ぇ!」


 口々に呟く獣面共に、天狗仮面は一喝と共に言い放った。


「多勢に無勢とは卑怯なり! いいだろう、かかって来るがいい! この天狗仮面が成敗してくれる!」


 夜闇に、凛とした声が響き渡った。






 海辺のホテルブルー・スカイ。そのプライベートフロア。源海げんかいが客室用にと貸し与えている、その一室で。


 畳の上に、カルサムとフィルが向かい合い、静かに座していた。

 明かりはなく、暗いその部屋。シン、とした静寂が耳に痛い程で。

 呼び立てたのはカルサムだが、その口は固く閉ざされたままに刻は過ぎ。

 そんな中、ようやっとカルサムが言の葉を紡ぐ。


「……傷はどうだ」


 それに、なんて事ない感じでフィル。


「どーってことねーよ。大体、掠り傷だっての」

「ならば良い。大事の際、(アレ)を護れぬのであれば、うろな(ここ)に()る意味はないのでな」

「わーってるっつの。――護ると決めた。なら護り通す。絶対にだ」


 暗闇に、フィルの蒼の瞳がキラリと輝く。それをカルサムはただ見返し、一つ息を吐いて。


「ならば、お主は一体何を思い悩む?」

「!」


 カルサムのその言葉に、驚いた表情をするフィル。その瞳をぱちぱちと瞬いて、眼前に座すカルサムを見やり。

 暫ししてからいつもの飄々とした表情で、ニヤリと笑んで呟く。


「んなモンねーよ。おっさんの勘違いじゃね〜? 大体この俺様が、悩むってツラかぁ?」

「…………」


 それに一つため息を吐いて。腰を上げ、歩き出すカルサム。頭上で結わえたみつあみが、歩みに合わせてゆらゆらと揺れる。

 引き戸の前で足を止め、踵を返して後方を、フィルを振り返ると、カルサムは静かに言葉を紡いだ。


「お主がそれで良いのならば、今は聞かぬ。だが――、己の力の使い処を、見誤るでないぞ」


 それだけ言うと、カルサムは引き戸を開いてその部屋を出て行こうとした、が。


「大変、大変。大変だよおぉぉ〜〜っ!!」


 なだれ込むようにして部屋へと入ってきた、アプリによって留められる。


「……何事だ?」

「んだよ? どーでもいい事だったらはっ倒すぞ」


 訝しげな視線を向ける二人に、畳にへたり込み肩口で息をしながら、なんとか言葉を紡ぐアプリだが。


「……が、……だよ……っ!」


 全力疾走してきたのか、言葉にすらなっていない。


「あぁ?」

「まずは息を整えよ」


 それを訝しげな顔のままに訊き返すフィルと、やれやれとした感じのカルサムに、バン! と畳を叩いて。


「そんな、そんな。バアイじゃないよっ! しおしおが、しおしおがっ!」


 なんとか声を出し、アプリは叫んだ。


「いなくなっちゃったよぉぉっ!!」



汐を追う賀川さん

交戦開始な天狗仮面

そして、やっと気付いた護り人達…

さてさて、どうなる?


天狗仮面と傘次郎君の説明文を、此方でも入れさせて頂きました


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君、ちらりと千里さん


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん


お借りしております

継続お借り続行中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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