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11/4 誘われるは…


※暫し視点切り替えが頻繁です。ご注意ください


新月の次の日の夜、始まるのは…?


何処かで止まるのは避けられませんが(苦笑)

よいしょあげー






 ゆらり ゆらり

 振り子が踊る


 ゆら〜り ゆらり

 夜闇に




 新月の次の日の夜も、その夜闇は尚も色濃く。

 晴れであるというのに星月の僅かな光すらも届かず、ただ闇に支配されてしまったかのような、夜が静かに横たわる。


 眠りに落ちた数多の者達が、温かな夢の中へと誘われる中。


 それは、響く。

 ただただ静かに。


 ゆらり、ゆらり


 寄せては返す、波と同じに。

 揺りかごのように、ゆぅるりと。

 近く近く、遠く遠く。


 ゆら〜り、ゆらり


 手招くように、彼の者を誘う。



 おいで


 おいで、おいで


 私の元へと


 さぁ――……



 その囁きは、くぐもった笑みを含んだ男声。

 ぼんやりと闇夜に白の獣面が浮かび上がり、漆黒の外套の袖裾より覗いたその手が、指先がすぅ、と差し伸べられる。

 その手の指には、一つ指輪が嵌められており。

 そこから垂れ下がった二つの振り子が、ゆらりゆらりと揺れている。


 遠くから近く。すれ違い。また遠くへと離れ。

 ゆらりゆらりと揺れ動き。

 夜に踊る。


 差し示された遥か先にあるのは、海辺のホテル〈ブルー・スカイ〉。

 そのホテルの一室に向けて、囁きが風に流れ運ばれていく。

 促すように、誘うように。

 さざ波が、ひたりひたりとその手を伸ばし――……



 獣面の奥。男がニヤリと、その口角を引き上げた。


 ゆらり ゆらり

 振り子が揺れる、夜闇に






 連休最終日の、晴れのその日。

 例によって例の如く。激務をやっとの事で終えた、水玉模様がトレードマークの賀川運送の一番賀川は、白の車を運転し帰路の途へとついていた。

 車を走らせ、緩かに道を進む。


 もう夜も遅く歩道を歩く人もいなければ、対向車とすれ違う事もそうはなく。賀川が運転する車のエンジン音と、夜の為極低音でかけている車内のBGMの音だけが、静かな夜に音を生み。


 流れていく街灯の明かりや夜の景色を何とは無しに目で追いながら、車を裾野の自宅へと走らせる賀川。

 軽快に、白の車は夜道を滑り。


「……?」


 ふと目端に捉えたものに、訝しげに眉根を寄せる賀川。しかし再びそこに目をやった時には、なんてことはない夜の静かな町の風景が、ただ広がっているだけであり。


「……見間違い、か?」


 車は緩かに走らせながら呟き、首を傾げる。


 確かに街灯の光の下、見知った子を見た気がしたのだが。

 しかしこんな夜遅くに、こんな場所に、それも一人でいる訳がないか。と賀川は思い直して、そのまま車を走らせるが。


「!?」


 次の瞬間、勢い良くブレーキを踏んで車を停止させ、その場所を見やったままの黒の瞳を瞬く。


 街灯の光の下、揺れる栗色。


(うしお)ちゃんっ!?」


 やはり見間違いではなかったと先の驚きのままに呟いて、賀川が車を路肩に寄せて停車させ。慌ててそこから、飛び出すようにして降りる。

 しかし一瞬目を離したその隙に、またしても栗色の少女、汐の姿が闇に溶けるかのようにして消え去る。


「なっ……、何処に!?」


 叫んで、キョロキョロと辺りを見回す賀川。

 昔、明かりもない中夜の山を行軍させられた事がある為、普通の人よりは夜目は利く方だ。

 そうじゃなくても街灯が等間隔で並ぶ道路に、確かに目に捉えた汐ちゃんは夜に映える、白の寝間着を身に付けていた。そんな闇に際立つ色、見失う筈がないのに。


 微かな焦りを落ち着けながら、賀川がもう一度その黒目を、街灯の方に向けると。


「――いたっ!」


 三つ先の街灯の下。その栗色と白が、確かに光の下に晒される。


「汐ちゃん!」


 名を呼び、駆け出す賀川。

 しかし音らしい音も他にないというのに、賀川のその声が聞こえてはいないのか、汐の歩みは止まらない。


「待ってくれ!」


 更に声をかけ、走る賀川。若干、そのスピードを上げる。

 街灯三本分。追い付けない距離じゃない。

 汐ちゃんは歩きで、自分は走っているのだから、すぐに追い付ける筈だ。

 そう思い、賀川は走る。


 灯りに浮かぶ、栗色と白を追って。


 走る、走る、走る。

 ――しかし。


 追い付けない。

 近付かない。

 距離が縮まらない。


 まるで同じだけ前に、進んでいるかのように。

 一定の距離を保ったまま、景色だけが後ろに流れていく。


 明らかにおかしい――。


 足は止めず、その目に前を歩く汐を捉えたまま、賀川は思考を巡らせる。


 どう見ても、眼前の汐ちゃんは歩きで……、というか、その歩みは何処かふわふわとしていて、いつかの森で、ひらひらふわふわと、まるで蝶のように舞うように、森を進んでいったユキさんみたいで。

 いや。それよりももっと頼りなくて、何処か危うい感じがする。

 地に足が、ついていないかのような。


 それなのに。

 その歩幅は、歩きのものなのに。

 大人と子供の、リーチの差だってあるというのに。

 歩くのと走るのとでは、その速度を考えたら走っている自分の方が、絶対に早いに決まっている。

 それなのに――、距離は縮まらず、一向に追い付けない。


 何でなんだ? 思考を巡らす賀川のその目が、建物の角を、曲がろうとしている汐を捉え。


「まずい!」


 視界から外れられたら、また見失うかもしれない。

 走る速度を上げる。

 視線の先、その栗色の髪と白の寝間着の裾が、建物の角にすぅと消え。一瞬の後、回り込むようにして角を曲がる賀川。


「なっ!?」


 しかし、曲がった先に広がっていた光景に、驚いてその足を止める。


 何処にでもあるような、町の十字路。

 夜も遅い時間の為人通りもない、街灯の下。


 悪戯か、夢であるとしか思えない。


 ゆらり、何処かで振り子が揺れる。



 北の森へと続く道。

 夜に浮かび上がる三角の光の下。

 そこに。



 無数の汐の姿があった。






 古びた木造二階建てのアパート。

 その一つに、うろな町の平和を守る天狗仮面の住まいがある。


 今日も今日とて町の見回りへと繰り出す天狗仮面、琴科平太郎ことしな・へいたろうは、ラインの入ったジャージの上に唐草模様のマントを羽織り。

 玄関に並べて置かれている、同居人の猫塚千里ねこづか・せんり作である六つの天狗面(その内一つは新たに作った鼻の低い天狗面があり)、その中の一つ、鼻の長い方の面を被り、傘立てに立てかけられていた自身の相棒である赤い番傘、唐傘化けの傘次郎をその手に持ち。

 後方を振り返ると続き間の奥の部屋にいる、千里へと声をかける。


「では千里。行ってくるのである」


 いつものように声をかけ、踵を返した天狗仮面のその背中に、続き間の扉を開けて出てきた千里が、制止の声を返す。


「お待ちなさいな、平太郎」

「こら千里。この面をつけている時は、天狗仮面と呼ぶのだ」


 その声に再び背後を振り返る天狗仮面。それを気にする事もなく此方を振り返った天狗仮面を、戸口の壁にゆったりと背を預け、ニヤリとした笑みを湛えた顔で見つめる千里。


 ……何か、面白い事がある時の表情であるな。

 そう思った天狗仮面だったが、口には出さず。

 戸口に立つ千里を、窺うように天狗仮面が見つめていると。


「今日は森に……、北の森に行ってみなさいな」


 呟いて、くすくすくすと笑う千里。

 それに一つ、頷いて。


「あい解った。では行くぞ次郎」

「合点承知でさぁ」


 短く告げて天狗仮面は、傘次郎と共にその場を後にする。


 パタリ、閉まったドアの先、千里の笑みが深まった事になど、気付く事もなく。



夜闇の中

ゆらゆらり、振り子が踊る…


さて、また何やら始まりましたっ!

騒動2回目っ!

バトルですよ…うんきっと。…あはは(苦笑)

が、頑張ります〜


三衣 千月様のうろな天狗の仮面の秘密より

http://nk.syosetu.com/n9558bq/

天狗仮面、傘次郎君、千里さん


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん、ちらりとユキちゃん


初っぱなからお借りしております

暫く継続お借り致します

宜しくお願い致しますね

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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