チラシ配り!2
七月十七日(水)晴れ
すっごく暑い、午後
今日は、商店街で一人でチラシ配り。
いつもは一人なんて事絶対ないんだけど、二十日のオープンに向けて、お母さんもお姉ちゃん逹も、とっても忙しいみたい。
商店街の前で私を降ろしたら、注意点も早々に車で行っちゃった。
帰りは電車で帰ればいいのかな?
一応端末は持ってるから、夕方くらいに電話がかかってくるのかな?
まぁいっか。チラシ配り、スタートだ!
そうして気合い十分に顔を上げた私の目に、真っ先に飛び込んで来たのは……
赤い顔と長いお鼻の、天狗さんだった。
そう思った時には、もう駆け出していた。
「わぁっ! 天狗さんだ」
「いかにも。天狗仮面とは私の事だ!」
「天狗……仮面さん?」
濃紺色のジャージに、スニーカー。唐草模様のマントがひらひら、風に揺らしている天狗さんに、小首を傾げて訊ねると。
「左様。して、ここで何をしておるのだ?」
大きく頷き訊ね返して来たので、私はにっこりと答えた。
「海の家が二十日にオープンするの。だからそのチラシを配りに来たんだよ!」
「そうであったか。しかし一人では大変であろう? 私も手伝おう」
「わぁ、ありがとう天狗さん! 私、青空汐です。どうぞよろしくお願いしますっ」
「うむ。では、早速始めるとしよう」
そうして、天狗さんとのチラシ配りが始まった。
天狗さんと配り始めて、ひとつ、とても素敵な事に気が付いた。
商店街に軒を連ねる人々も、商店街に買い物やって来る人達も、皆にこにこと天狗さんに挨拶をしていく。天狗さんもその一つ一つに声を返し、さりげなくチラシを渡してくれる。
町の人逹を、その繋がりを、とっても大切に思っているのが伝わってきて、自然と笑みが溢れてしまう。
「む? どうしたのだ?」
「ふふっ。なんでもないの〜」
小首を傾げて訊いてくる天狗さんに、くすくすと笑いながら返事を返す。
それに暫く首を傾げていた天狗さんだったけど、また作業に戻っていった。
「水分補給は小まめにするのだ!」
と言う天狗さんと一緒に、一端チラシ配りを中止して建物の木陰で小休止をする。
首から下げていたスポーツドリンクを飲みながら、海お姉ちゃんが持たせてくれた〈海ちゃん特製フルーツグミ〉をつまむ。
そうしている内に学校が終わったのか、商店街にはちらほらと学生さん逹の姿が増え始めた。
その内の一組の男女に、天狗さんが声をかける。
「タカトではないか」
「げ。……平太郎……」
「あ。平太郎さん、こんにちは」
各々声を返す二人に、この姿の時は天狗仮面と呼ぶのだ! と言いながら、天狗さんがチラシ配り要員に二人を勧誘する。
「タカトもチラシ配りに協力するのだ」
「……なんで俺が……」
「困っている人がいるんだよ? 助けてあげなくちゃ!」
二人からそう言われ、不幸だ……と呟きつつもチラシ配りを手伝ってくれる白髪のお兄ちゃん。
慌ててお礼を言いに行く。
「どうもありがとうございます、私青空汐です。よろしくお願いします」
ぺこりん、お辞儀してそう言う私に、
「稲荷山孝人。まぁ、よろしくな」
苦笑混じりにそう言う孝人お兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんをじっと見つめ、
「孝人お兄ちゃんのキラキラは、〈三本のキラキラ〉なんだね」
「っ!?」
ついつい、口走っちゃった。三本なんて、珍しいなと思って。慌てて口元を押さえて驚いた顔の孝人お兄ちゃんににっこりして、お姉ちゃんの方にもお礼を言いにいく。
「ありがとうございます、よろしくお願いします。あ、私青空汐ですっ」
「芦屋梨桜だよ。汐ちゃんだね、よろしく」
絶対無敵可憐な声で、長い黒髪をさらりと揺らして梨桜お姉ちゃんがそう言うから、私ちょっとドキドキしちゃった。
五つの不思議なキラキラと綺麗な容姿に、うっかり魅入られそうになる。
いけないいけない。お姉ちゃん逹にバレたら、また怒られちゃうよ。
ぷるぷると頭を振って、頬を染めつつにっこりと梨桜お姉ちゃんに微笑み返し、チラシ配りを再開する私なのだった。
そうして、チラシ配りは順調に進み――……
夕刻に差しかかり、そろそろ切り上げようかという所で、天狗さんに四つの声がかけられた。
「天狗仮面じゃん」
「何してるの?」
「また見回りかぁ?」
「たぶん、そうなんじゃないかな」
「ユウキ君にタツキ君、ダイサク君にシンヤ君ではないか!」
その声に、天狗さんが声を上げる。
天狗さんの声にそちらを振り返ると、そこに四人の男の子逹が袋を手に立っていた。
「俺達オクダ屋に行ってたんだぜ」
「で、何してるの?」
「ダメだよそんな事軽々しく聞いちゃ。大人の事情かもしれないじゃない」
「そ、そうなのかっ!?」
一気に周囲が騒がしくなる。
「そうであったか。うむ。私はチラシ配りのお手伝いをしていたのだ。断じて大人の事情などではないぞ、ユウキ君」
「え〜? だったら言ってくれりゃあよかったのに〜」
「チラシ配り対決! とか面白そうだよね」
「ねえダイサク、勝つのは僕達だよね!」
「ったりめーだろー! ユウキとタツキにゃ負けねーぜ!」
わあわあ言い合う四人を、温かく見守る天狗さん。
今日の分のチラシは後、残り七枚。その内の四枚を持って四人の所に歩いていく。
「こんにちは……もうこんばんわ、かな。今日のチラシ配りはもう終わっちゃったんだけど、よかったら皆で、来てくれたら嬉しいな」
にっこり笑顔でそう言って、ひとり一人にチラシを差し出す。
「二十日からってもうすぐじゃん!」
「どうもありがとう」
「海の家かぁ〜。どうせなら皆で行きたいね」
「よぉし、皆で行こーぜ!」
各々言い合いながらチラシを受け取ってくれた四人に手を振って別れを告げ、天狗さんと孝人お兄ちゃん梨桜お姉ちゃんにぺこりと頭を下げ、お礼を述べる。
「今日は本当にありがとうございましたっ! おかげで助かりましたっ」
頭を上げた私に、三人は笑顔を向けていてくれた。
そんな三人にもチラシを手渡し、
「お礼になるかどうかわからないけど……。手、出して?」
呟いてから、包めるものがティッシュしかなかったので、差し出された三人の手の上にティッシュを敷いて、〈海ちゃん特製フルーツグミ〉を均等に分けていく。
海お姉ちゃんって凄いと思う。きっとこの事を見越して、多めに持たせてくれてたんだなぁ。
「良かったら、食べてくれると嬉しいな。ウチの料理長特製だから」
にっこりして私がそう言うと、
「うむ。では有り難く頂くとしよう」
「わぁ、ありがとう!」
「……サンキューな」
三人ともお礼と共に受け取ってくれた。
それだけでなんだか、胸がほんわりとなるから不思議。
孝人お兄ちゃんと梨桜お姉ちゃんに別れを告げて、送っていこうと言ってくれた天狗さんと二人、帰り道を歩く。
「そうなんだ。天狗さん、力を使う事が出来ないんだね」
「うむ。今はその力を取り戻し中なのだ」
天狗風とか出せるの? と聞いた私に、天狗さんは丁寧に説明してくれた。
「あれ? でも、天狗さんのキラキラは……」
と、私が言いかけた所で、端末から着信音。
断りを入れてから電話に出る。
「もしもし?」
『あ、汐? 今ドコにいるの?』
「空お姉ちゃん? えっと、電車で帰ろうと思って、駅に移動中だよ?」
『そうなんだ。渚がそっちに向かってるから、合流してね』
と、空お姉ちゃんが言うより早く。
「…………汐」
改造したキックポードをキキィと停止させた、渚お姉ちゃんの声が届く。
「迎えが来たようだな」
そう呟くと、さらばだ、子供逹よ! と唐草模様のマントを翻し、天狗さんは走り去って行ってしまった。
「天狗さ――ん! 今日はホントに、どうもありがと――!」
その後ろ姿に、私は精一杯声を張り上げた。
チラシ配り、二回目っ!(遅っ
一人でできるかな?的な(笑)
三衣千月様のうろな天狗の仮面の秘密より
天狗仮面さんを
うろなの小さな夏休みよりユウキ君タツキ君、ダイサク君シンヤ君を
寺町朱穂様の人間どもに不幸を!より
稲荷山君と芦屋さんをお借りしました
お手伝いしてもらっちゃいました(笑)
ありがとうございます!
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




