面白いだろう?
※うろな町外話
光も届かぬような、その暗闇に。
男女の呟きが静かに響く。
「首尾はどう? 上手くいったか?」
「いや。というか今回は、小手調べにいっただけだからね」
苦笑混じりに呟かれたその男の声に、先に声を発した女が不満げな声を上げる。
「いっただけ? ついでに、掠め取ってこればよかったものを」
「敵を良く知りもせず見えるのは、愚か者のする事だよ」
「……二度目は、そう簡単には行かぬかも知れんぞ?」
「それならばそれで、楽しみ甲斐があるというものだろう?」
くっと喉を鳴らして告げられたその言葉に、やれやれとした女のため息が溢れる。
「ま、君の好きにするがいいさ。最終的に手に入るのならば、此方としてはそれで構わないのだしね。――だけど二度もしくじったとなれば、元老院(彼ら)とて黙ってはいないと思うけどね?」
「手は打ってあるよ。既に、ね。小さな小さな、楔だが」
尚も含みある笑いでもって、紡がれる言葉。
それに「本当か?」と訝しげに続く女声。その声に一つの吐息と共に、男が告げる。
「彼女が、私と〈目を合わせて〉くれたからね」
くくくっ、と喉を鳴らして溢れる笑いが、闇に反響する。
「まぁ、いいけどね。あまりお遊びが過ぎると、飛ぶのは自分の首だって事、ちゃんと覚えておくんだね」
「心得ているよ。だがね――、あんな逸材を見付けてしまっては、遊ぶなと言う方が無理な話だよ」
男の言葉に、怪訝な空気が闇に漂い。
くすりと笑ってから、男が言葉を続ける。
「君は、七守護りの伽話を知っているかい?」
「……救済者の守護りの?」
「そうだ。その七人の精鋭は鳥を従えた、皆総じて子供の姿、であると言われている」
「……それ以外にはわかっていない、と言った方が正しいけどね。だけど、それが一体何だっていうのさ?」
女のその質問に応える事なく、男は喉を鳴らして笑い。
「〈救済・継承者〉然り〈ダブルセブン〉然り〈七守護り〉然り。――秘め事というのはね、隠そう隠そうと偽りを積み重ねていく度に、その綻びが、真実へと至れる鍵が、自ずと増えていくものなのだよ」
「……しかしそれは、法則と傾向を正確に読み解き、正しき道を辿れなければ、到底無理な話だろう?」
「最もだね。だからこれはまだ、仮定の話となるのだろうが」
そこで言葉を切ってから、男は更に言葉を紡ぐ。
「元老院が気付いているのかいないのかは知らないが――、酷似しているものが、こんな側近くにいるのだよ? これは実験、検証してみる価値があると私は思うんだがね」
「……酷似、というと?」
訝しげな女の声に、男は悠々と告げる。
「彼の少女、七の継承者を、守る者がいたのだよ。その肩に鳥を携えた、子供姿のその者が、ね。あぁそう言えば、元老院(此方の依頼人)の事も、知っている風だったねぇ」
「……それだけで、七守護りだと?」
怪訝そうに呟かれたそれに、まさか! とその女の言葉を鼻で笑って男は続ける。
「神殿の防衛機能が、『鳥』と呼ばれているのは君も知っての事だろうが、それは彼の七守護りからきているのは明白だ。そして――それに酷似するかのように、神殿には七人の、鳥を使役する者達がいる」
「郵便屋、だったか。あれはどうしてか皆、子供がなるのだったな。それも先代と、とても良く似た子供が――……っ!」
そこまで告げて、はっとしたように女が息を飲む。
それに男の、ニヤリとした気配が流れ。
「……元老院(彼ら)にこの事を?」
「言う訳ないだろう? 老いた爺婆の集まりだよ? それこそ不老だの不死だのと、横やりを入れてくるに決まっているからね。そんな事をされては、興ざめもいいところだ」
「……本当にそうならば、の話だけれどね」
「まぁねぇ。だが、そうと考えれば色々とつじつまは合うし、何より、面白いだろう?」
ニヤリとした笑みを含んだその声に、ため息して女が告げる。
「面白い?」
「そうとも」
その声に笑み声のまま返し、男は呟いた。
「七守護りは一人ひとりが、破格の強さを誇ると言われているだろう? 最も、これもおとぎ話、空想上の粋を出ないものではあるがね。しかし、もし彼の者がそうであるのならば――、私は見てみたいのだよ。その力の片鱗を」
闇の中。男の静かな笑い声が、浸透するかのように響き渡る。
それに、ため息混じりの女声が被さる。
「言っておくけど。あくまでも対象は、七の継承者なんだからね?」
「わかっているよ。だけど楽しみの一つくらい、あってもいいとは思わないかね?」
「……仕事さえ、きっちりこなしてくれるならね」
女のその言葉に、肩を竦めたような衣擦れの音が響き。
続いてふわり、風が流れ。
僅かに薄れた暗闇に、闇に映える金髪が揺れ、ぼぅと白の獣面が浮かび。
暫ししてからその暗闇に、ただ静寂だけが残された。
暗闇での密会…
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください
すみません、ホント止まります…




