大いなるものの為に
※うろな町外話
「……しくじった、とな?」
装飾過多な、豪奢に飾り立てられているその部屋に、一つ嗄れた声が響く。
神殿の奥。隣接するように建てられている、元老院達の居区。
そこより地下。秘密裏に造られた地下のその一室に、仄明かりの中数名の者達が集まり、半月状の卓を囲んでいた。
八つある席の内七つが埋まり、その七人は皆総じてダボッとしたローブに、目深に被ったフードによりその顔を窺い知る事は出来なかったが、ここにいる事こそがその証明であるとでもいうかのように、誰も何も言わなかった。
元老院を統べる長。その長八人しか知り得もしない場所なのだ。それはある意味、当然と言えた。
しかし、その七人が視線を向ける先、この部屋唯一の扉の前に恭しく跪いているのは、明らかに彼らとは別枠の者だった。
といっても、なにも彼はここに向かう長共を尾行してきた訳でもなければ、唐突にこの部屋に現れた訳でもない。
今回の報告をする為、呼び出されていたのだった。
白の獣面が仄暗がりにぼぅ、と浮かび上がる。
「あれだけの人数を動員しておきながら、しくじっただと? それのみならず、お前一人おめおめと舞い戻ってきた、と?」
「…………」
嗄れた声で呟かれるその言葉に、頭を垂れたままの獣面の男は答えない。
「えぇい、なんとか言わんかっ!」
それに焦れたのか、卓を叩いて立ち上がり、怒声を飛ばすその者。
しかしそれに、宥めるような悠々とした声がかけられる。
「よいではないか。誰も一度で連れて来られる等と、思うてはおらぬじゃろうて。それに沙汰がなかったと言う事は、ただの小手調べだったのじゃろうよ」
「じゃが……」
「まぁまぁ三老。何も収穫がない、という訳でもなさそうじゃでの」
「ぬぅ。……まぁよいわ」
二人に宥められ、獣面の男を一睨みしてからフンッと鼻を鳴らし着席するその者、三老。
そうして再び室内に訪れる、静寂。
ユラリ、灯されたランプの火が微かな風に揺れる中、ゆっくりと一つ声が紡がれる。
「何か、述べるべき事があるならば、発言せよ」
その言葉に深々と頭を垂れて。姿勢を正し獣面男はようやっとその口を開いた。
「――彼の少女、〈七の継承者〉のその〈力〉は、先の継承者である救済者〈五の継承者〉と同等、或いはそれ以上かと」
獣面男のその言葉に、周囲からおぉ、というざわめき声が漏れる。しかしそれをトン、と卓上に置いた指先の音だけで制すると、卓の中央、獣面男からは右側に座する者がやはり悠々と告げる。
「ふむ。何を以てそうじゃと?」
その者の言葉に、獣面男は自身の懐から香壺を取り出し、告げる。
「この〈傀儡香〉。この指一つで、香を嗅がせたその者を意のままに操れるという、大変素晴らしい効果を発揮してくださいましたが、その効果が発動される直前、彼の少女が、制止の声を上げたのですよ。まるで〈どうなるのか〉、わかっていたかのように」
「……ほぅ。〈五番〉の〈視る力〉は、健在じゃという事じゃな。しかし〈七番〉の力は、そんなものではない」
その声に、他の長六人が頷き。
「視る力など、ただの片鱗にすぎぬ」
「アレの価値は、その先によりて定められる」
「我らの玉座――〈揺りかご〉に据えてこそ」
「彼の少女の真価は、発揮される」
「我らが手に全てを」
「大いなるものの為」
『我らの〈ダブルセブン〉――揺りかご計画始動の為に』
七つの重なり声が、室内に轟き。
三度訪れる静寂。ユラリと靡いたランプの火に、同調するかのように影が揺らぎ蠢く。
暫ししてから、一つ静かな吐息が漏れ。
「――二度はない。わかっておるな?」
その言葉に、獣面男は優雅に腰を折り、呟いた。
「重々に」
その声が終らぬ内に、すうっと払われる腕。
それに深々と頭を下げ、獣面男はその場を去る為踵を返し。
扉の前でピタリと止まると、くるりと背後を僅かに振り返り、一つ訊ねた。
「時に」
その声に、訝しげな顔を向ける面々。だが特に言を発する者もいなかった為、獣面男はそのまま続ける。
「〈七守護り〉の精鋭は、その肩に鳥を従えた、みな総じて子供――、でしたかな?」
獣面男のその言葉に、眉根を寄せる七人の長達。何故今そのような事を? と言いたげな視線が男に注がれる。
それに、獣面で隠れた口角をニヤリと上げて、獣面男は呟いた。
「失礼、此方の事です。お気になさいませんよう。――では、再びこの場に馳せ参じる際は、皆様の御前に、必ずや彼の少女を連れて参りましょう」
そう言うと獣面男は優雅に一礼し、そっとその場を後にするのだった。
またなんか色々出てきましたね(苦笑)
あぁ、不穏ですね〜
ダブルセブン、揺りかご計画とは…
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください
そろそろ更新止まりそうです…
すみません〜っ




