本当、残念だよね
※うろな町外話
残念な彼…(笑)
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください
静寂に、包まれる夜の神殿。
雲をも突き抜けた頂にあるためか、その空気はピンと冷えきっている。
……いや。何処からか、僅かに鉄錆を帯びた生ぬるい風が、漂ってきていた。
長い長い廊下の、真ん中で。
二人の少年が周りを多数に囲まれた状態で、その背を預け合っていた。
二人の少年を取り囲む黒ずくめの手元には、ぎらぎらと鈍く輝く刃物が握られている。
緊迫した雰囲気が、流れ漂う。
「リカ姉かアプリ姉となら、こんな事になってないよ」
そんな中、やれやれとしたため息混じりの声が漏れる。
その声を発したのは二丁の拳銃を構え、その肩に黒梟を携えた、銀髪金瞳の少年エリュレオ。
深々と吐かれたそのため息はそうと知ってやっている訳ではなくとも、見るものが見ればほぅ…と感嘆の息を溢しそうな程、秀麗だ。
「つまりなにか? レオは俺が悪いって言いたいんだな? そうなんだなっ!?」
銀髪の少年エリュレオ――レオのその言葉に声を返すのは、彼と背中を預け合っている金髪に榛色の瞳の少年、ロパジェ。此方の方が頭一つ分背が高く、レオよりは体格も良く身体も大きい。
双方共に、まだ十歳前後の子供、という見た目である事に変わりはないが。
両手をぎゅうと握り締め叫ぶようにして告げるロパジェに、うるさいなぁと言いたげな表情をして、レオはポツリと呟いた。
「それ以外に、ないよね? ロジェ兄の仕掛けた爆弾は不発で、自分で仕掛けた網に自分で引っ掛かった挙げ句、その他諸々の罠を、自分で総看破してきたんだから。……今、僕達を囲んでいる人達を捕える為の、その罠をね」
「……それ、自分が全く関係ないとでも、思ってんのか!? お前が「あ」とか「そこダメ」とか直前になって言わなけりゃ、俺だってこんな事になってねぇよっ! この罠仕掛けんのに、一体どんだけかかったと思ってんだよっ!?」
後ろを振り返って言ってやりたいのを懸命に堪えながら、ロパジェが眼前の黒ずくめ共を牽制しながら叫ぶ。
背後のレオが傷一つ負っていない綺麗な状態だというのに、対するロパジェは、まるで連戦を繰り広げた後であるかのように、その身なりはボロボロだった。
髪はボサボサもいい所で、顔は煤や埃で汚れ、着ている白シャツとサスペンダーで吊られている茶色のズボンは、所々破け血が滲み。全身隈無く、といった感じに薄汚れていた。
しかし、それに尚もため息をつく背後の少年、レオ。
(……仕掛けた罠の正確な「場所」を、忘れてたみたいだったから、わざわざ教えてあげたのにな……)
大体、止めたのに突っ込んでいったのはロジェ兄じゃないか、と思いながらもう一度ため息を吐いて。
「本当、ロジェ兄って残念だよね」
「はぁ!?」
意味わかんねぇ、といった感じで叫ぶロパジェを放って、レオはグリップを握る両の手に力を込め。
タ――――――――ンッ!
初動作すら見せず躊躇なく発砲。計十二発。即座に空薬莢を大理石の床にバラまき、瞬時にカートリッジを装填し、再発砲。
その間に、正確に急所を撃ち抜かれた十二人が、バタバタと倒れ伏し。
再び唸った拳銃に間を置くことなく、更に新たな十二人が、血を流しその場に崩折れる。
早業だった。
ものの数秒でレオは自身を取り囲む円を、瞬く間に半壊させた。
「後はロジェ兄の担当だからね」
反動でギリギリまで上がった腕を戻し戻し、腰に吊ったホルスターに白煙を上げる拳銃を、クルリと器用に回してからストンと滑り込ませ、さらりと告げるレオ。銃を撃つと同時にレオの頭に移動していた黒梟が、パタパタとその華奢な肩の上へと戻る。
そんな相棒の黒梟を指先でよしよしと撫でるレオを、視線だけ動かして窺い、いきなり壁代わりにされたロパジェは咳き込みながら呟いた。
「……ゲへッ、ゴホッ。……わかったけど、撃つ(ヤ)るんなら、せめて合図くらいしてからにしてくれよ……」
恨みがましい目線を投げながらそう呟くロパジェに、きょとんとして。
「そんな事したら、敵に勘づかれちゃうじゃん」
馬鹿なの? とでも言いた気な金の視線が、ロパジェを見上げる。
それにうぐ、と一瞬喉を詰まらせるロパジェだが、抗議の声を上げようと開いたその口から、抗議の言葉が出る事はなかった。
レオの早業に意識が追い付いていっていなかった円の残り半分、二十四名の黒ずくめ、ラタリアを狙ってやって来た暗殺者達が、自我を取り戻し一斉に襲いかかってきたからだ。
「じゃ、後はよろしくね」
それにヒラリ、手を振って。レオは黒梟とロパジェの相棒、鳶をその肩に乗せると、そっと一歩後ろに下がる。それを気配だけで察知し、ペロリ、唇を舐め前方を見やり呟くロパジェ。
「んじゃ、いっちょやりますかぁ!」
迫る多数を見つめ、腰の左右に付いているポーチに徐に両手を突っ込み。即座に取り出したその手には各々十二、計二十四の特殊強化加工された、ビー玉が握られていた。
調度、迫り来る二十四名とぴったり、同数のビー玉が。
すい、と手が伸ばされ。
コイントスよろしく、ビー玉が敵に向かって猛烈な勢いで弾き飛ばされる。
人体を流れる電気信号。そのベクトルを捉え、その速度でもって弾き出されるビー玉の威力は、レオが操る拳銃の、弾丸の比ではない。
その手一つから、光速で連射されるビー玉(弾丸)。
それらは違える事なく正確に、暗殺者達の急所へと吸い込まれ。
ロパジェが立つ、その一歩手前で。
団子のように折り重なり、バタバタと崩折れる二十四名の暗殺者達。
その手から滑り落ちた刃物が、床に落ちカンッと夜に硬質な音を響かせる。
途端にシン……、と静まり返る周囲。
鉄錆が色濃く漂う中、じっと眼前を見据えたまま、暫し息を詰め。
ぴくりとも、動かないのをしっかりと確認してから。
ロパジェはふぅと息を吐き出し、肩の力を抜いて。
「あ。一人くらい、生け捕りにすりゃ良かったかな〜」
かろうじて生きてる奴いるかなぁ? と続けながら、ロパジェがその足を踏み出しかけ。
「あ。そこ」
と、レオが何かに気付いたように声を上げるが、既に遅く。
ロパジェの足が一歩、その四角い大理石に触れた途端に、そこがそのまま数センチ窪み。
え? とロパジェが思う間もなく、スパンッという小気味良い音を響かせて、計算されたように開け放たれていた窓から、勢いよく外に叩き出されていくロパジェ。
「なっ……なんでなんだああぁぁぁ〜〜っ!!」
静寂に包まれていたその場所に、ロパジェの間抜けな叫び声が響き渡った。
「…………」
それをただ見送り、ロパジェを窓外に叩き出したモノ――踏み込まれた事により跳ね上がったハリセン(ロパジェが仕掛けた罠)――を見てはぁ、と一つため息を吐いて。
「ま、いっか。ロジェ兄いなくても、特に支障はないし。元々、此方は囮なんだしね」
一人の方が楽かもしれないし、と呟いて。レオは開いていた窓を、パタンと閉め直したのだった。




