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10/30 後始末?




 波音が静かに響く浜辺。

 そこに、虹色に輝く巨大なシャボン玉が三つ、置かれていた。

 その中にはアプリが捕えた、総勢十六の獣面達の姿がある。

 それらは、細密な幾何学模様の描かれた、円陣の中程に置かれており。その周りに、色水をまきながら線を描いていくアプリの姿があった。


「見た所、見た所。片道分だけで、帰り分を構築してた途中って所かな〜?」


 色水をまき終え、元々あった空間転移用の円陣を描き直し描き足しながら、周囲に微細に残るルーンの光粒子を見つめながら呟くアプリ。


「三人は、三人は。先導師で、後は現象を引き起こす為に頭数を揃えた、って所かなぁ」


 現代(この時代)に、〈真の〉ルーンマスターなんてそーはいないもんね〜☆ と続け、準備完了! と一度全体を見回すアプリ。


 幾何学模様の描かれた正円陣。

 その真ん中には、転送する者達を配置し。

 後はただ、ルーン言語を唱えればいいだけだ。


 神や精霊、そして自然の力を当たり前のように借り受けて生活していた人々が、時代の流れと共に何時しかその力を無くし、神世の時代より程遠く離れた現代において、自然の力、ルーンを操るのは至難の業だ。

 いや。それには多少の語弊がある。この現代においても確かに、極僅かとはいえルーンを操るルーン使いは存在する。


 しかし一般に知られているそれは、先導師と呼ばれるルーン文字を読み解き唱える事が出来うる者というだけであって、その力を行使するのはその者だけでは到底無理な話であった。

 常人でしかないのだ。神とも精霊とも自然とも、何処とも繋がっていないのだから当然である。

 真のルーンマスターならば、ただ一言ルーンを唱えただけでその現象を引き起こす事が出来るが、ルーン使いでしかない者達がそれをする為には〈現象を引き起こす為のもの〉が必要だった。


 先人が遺した古代魔道具(マジックツール)等があるのならばまだ楽だろうが、それこそ貴重稀少であり昔ならばいざ知らず、今となっては眉唾物でしかない代物。ちゃんと扱えるかどうかすら怪しい所だ。

 ならばと幾つか考えられたものの内の一つが、媒介を用いて呪術や儀式で使われていたように唱え詞をルーンに変換し、それを使って現象を引き起こす、というものだった。

 (うた)は空気を震動させて周囲に伝わる。それは多ければ多い程大きければ大きい程、広範囲に響き浸透する。

 その浸透率と周囲に与える影響力を粒子に変換し、現象を引き起こしているのだ。

 加えて目的やイメージが強いものというのも、力を発揮するのに多大な影響を及ぼすのだという。


 今回はうろな(ここ)に来る為に、媒介の円陣に先導師三人。転移に必要な現象(エネルギー)分の人数、というのが後の十三人と逃げた頭の男だったという訳だ。

 カルサムからの情報に、どっちにしろギリギリだったんだねぇ〜、と苦笑するアプリ。


「終わったか?」

「まだ、まだ。今からだよぅ〜」


 そんなアプリに、背後から一つ声がかけられ。それに声を返すアプリ。

 そのまま(うしお)の傍にいるのだろうと思っていた、フィルが戻って来ていたのだった。


「いいの、いいの? しおしお一人にして」

「ルド置いてきたし、賀川(あいつ)送ったら、おっさん戻ってくんだろ?」


 心配そうに訊ねてくるアプリに、フィルはさらりと告げ。それより早くしろよ、と言いたげな瞳を向けてくる。

 それにはぁ、とアプリがため息を吐く中アプリの心情を察してか、頭上に乗っていた鳥がホテルの方へと飛び立っていき。

 それを見送り、フィルフィルがやった方が早いのにぃ〜と思いながら、アプリはポケットから端末を取り出して電話をかけ、数コールもしない内に取られたそれに、声を返す。


「リカリカおっつー☆ 傍にリアリアいる? じゃ調度良い〜ね〜。開くから、繋げて受け取ってぇ〜」

『仕方ありませんわね。お爺ちゃん、にお願い致しますわ』


 漏れ聞こえた声の主に怪訝な顔をするフィルを余所に、アプリは繋いだままの端末をポケットにしまい、言葉を紡ぐ。失われた古代言語。ルーンの光音を。


「〈Th〉スリサズ、〈O〉オセル」

 門を 開く


 アプリが言の葉を静かに紡ぐと、媒介の端末と円陣が光輝き陣の中央、調度三つのシャボン玉が置かれているすぐ側に、光の門が形成され。


『〈Th〉スリサズ、〈O〉オセル』


 端末からも同様の言葉が呟かれ、輝く光がいっそう強く瞬くと、出現した門がキィ、とひとりでに開かれる。


「んなっ!?」


 その繋がれ開かれた門の先にいた人物を見やって、フィルが驚きの声を上げ。


「やぁ☆ 暫く振りだね〜。何年経っても相変わらずちみっこいねぇ、フィル君は〜☆」


 それにへらり、片手を上げ笑って答える薔薇色の髪の少年。

 その半歩程後ろに銀髪金瞳の少女と、白紫の髪に紫水晶の瞳を持つ者が立っていた。

 此方が浜辺で屋外なのに対し、繋がった先はどうやら石造りの室内のようで。三人が立つ隙間から、鉄の格子が見え隠れしている。調度、地下牢の前にいたらしく、そのタイミングの良さに感心すらしそうだったが、そんな事は構わずにフィルは薔薇色の髪の少年にずかずかと歩み寄り。


「ちみっこいのは、テメーも一緒だろうがぁチェーイールー! なぁ〜にが暫く振り、だっ! 今まで何処ほっつき歩いてやがったっ!?」


 そのスーツの襟首に掴みかからんばかりの勢いでフィルが怒鳴り手を伸ばす。しかしそれをヒラリとかわして、ニコリとしたまま薔薇色髪の少年、チェーイールーは呟いた。


「フィル君てば短気さん〜☆ ほらほら、乱れちゃったら効力が切れちゃうから〜。どうせ無理矢理開いてるんでしょ〜? 円陣と端末の回線(媒介)使ってるとはいえ、完璧じゃないからね〜、此方への流動率半端ないよ? 僕お爺ちゃんなんだからさ〜。もーちょっと労ってほしいよね〜☆」

「アプリ、とっとと回線切れっ! コイツがやってんなら、一人で充分だっつーの!」


 叫ぶフィルに苦笑するアプリ。


「なんで、なんで。イルイルとフィルフィルは仲悪いのかなぁ〜? 名前だって似てるのにぃ〜」

「似てねぇよっ!」


 それに嫌そうに声を返すフィル。そんなフィルに、肩にナイチンゲールを携えたまま、よよよ……とチェーイールーが崩折れ。


「ひどいよ〜。僕はフィルの事、大っ好き☆ なのに〜」

「お〜ま〜え〜な〜っ!」


 ハラハラと嘘泣きするチェーイールーに、反発するようにフィルが声を上げかけた所に。


「遊んでいる場合ではないでしょう?」


 白紫に紫水晶の瞳の者、ラタリアがやんわりと割って入り。


「まったくですわ。今の状況を理解してもいないだなんて、ほんっと使えませんわね〜」


 肩に小型の白梟をのせ、小馬鹿にしたような感じで銀髪金瞳の少女、エトゥリカ――リカが呟く。


「…………。あーはいはい。そーだったな」


 それにため息つつ呟いて、ラタリアとリカに視線を向け、「ちょ、やめなさいよ! この乱暴者っ!」と抗議の声を上げるリカの銀髪頭を、ぐりぐりとしながらフィルは言った。


「悪りぃ。頭の男にゃ逃げられちまった。初めから『影』だったみてぇで、さ」

「『幻影』ですか。そんなモノまで持ち出してくるとは、かなり本気のようですね、元老院の方々は」


 頬を掻き掻き呟くフィルに、ラタリアは首を振ってから顎に手を添えて呟く。


「古代魔道具でも使ったかな〜? 元老院(彼等)の中に、個体(ひとり)で力を行使出来る者なんて、いなかった筈だし〜?」

「だから、こその、魔道具、でしょうっ! あぁもぅ! 頭からその手を、いい加減にお離しなさいっ!」


 それに崩折れていたのからはもう立ち上がり、悠々とチェーイールーが告げ、未だフィルに頭をぐりぐりされながら、当然でしょうとリカが答える。


「あれらなら、持っていてもなんら不思議はありませんからね。考えるまでもないでしょう。しかし……そうなると、少々厄介な事になりそうですね」


 顎に手を添えたまま、考え込むラタリア。そんなラタリアに、悠々とチェーイールーが呟く。


「大丈夫でしょ〜? なんたって、フィル(彼)自ら汐(彼女)を護るんだよ〜? みすみす敵の手に、なんて事すると思う〜?」


 チェーイールーのその言葉を受け、ラタリアが顔を上げてフィルを見る。

 それに気付いたフィルがようやくリカの頭からその手を離し、蒼の瞳を煌めかせてその口角をニヤリと引き上げ、飄々とした表情で言い放った。


「護る。必ず。その為に――、俺様はいるんだからな」


 それにこくりと頷いて。


「護り通してください。どうにも、胸騒ぎがしてなりません。私と汐を、すげ替えるだけではないような……そんな気がします」


 憂いを帯びた顔で呟くラタリアに、神妙に頷くフィル。

 それに、傍らにいるチェーイールーとリカが各々頷き合う中。


「もしかして、もしかして。忘れられてる? アプリちゃん、も〜限界だよおぉ〜っ!?」


 情けない、そんなアプリの声が響き。

 あ。と思った時には、繋がっていた門がぐにゃりと大きく揺れ動き。歪み霞む。


「おぉっと。ゴメンね〜、忘れてたや☆」


 それに悠々と、チェーイールーが門を立て直す為、その手一つで力を注ぐ。

 それにより、今まで一人で光の門を維持していたアプリが反動でべしゃりと砂地に沈み込むが、門は輪郭を崩す事なく、それどころか元々そこに聳えていたかのように、強固にそこに在り続けている。

 それに、疲労困憊の顔をのそりと上げ、アプリは恨めしそうに呟いた。


「本当に、本当に。イルイルだけでよかったの〜っ!? アプリちゃん、アプリちゃん。一人で頑張ってたのにぃっ、ひーどーいーよーっっ!」

「だって〜、疲れるでしょ〜?」


 アプリの言葉に、テヘッ☆ と笑ってチェーイールーがそう返し、それに各々から微苦笑が漏れる中、フィルがニヤリとしたまま呟いた。


「だから言ったろ〜が。とっとと回線切れってさ」



忘れられたアプリ、でした(笑)

ラタリアの憂いとは…


チェーイールーだけ縮まない〜(苦笑)


しかし、やっと終わりました、10月30日っ!

14話分って、な、長〜っっ!?

つ、次はもうちょっと短く出来ればいいなぁ…ふふふ…


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://nk.syosetu.com/n2532br/

より、賀川さん


ちらりとお名前お借りしております

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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