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10/30 つかの間の




 砂地に沈んだ殺人人形キリングドールを、じっと見やる賀川とフィル。

 沈んだままぴくりとも動かないのだ、もう警戒を解いてもいいようにも思えたが、三度も起き上がって来たのだ。動かないからといって、まだ油断は出来ない。


 バサリ、羽音が響く中、息を殺して二人が殺人人形を見つめていると。


「捕ったり、捕ったり〜♪ フィルフィルおっつー☆」


 戦場にはおおよそ似つかわしくない、可愛らしい少女のそんな声が響き。

 ふわわんと、砂地に沈んでいる殺人人形をシャボン玉が覆い。その内部に捕えられる殺人人形。その際、殺人人形の身体が微妙にバウンドしたような気がするが、シャボン玉が割れるような気配は全くない。


「わっ!?」


 それに驚いたのと先程の間の抜けたような少女の声により、その場にガクンと座り込む賀川。

 肉体的疲労と精神的疲労が、今更一気に押し寄せて来たのだ。

 無理もない。連戦につぐ連戦に、身体の負傷。そんな状態で最後に連続攻撃(ラッシュ)を放ったのだ。

 体力の消耗に血の欠乏。常人なら昏倒していてもおかしくない状態だ。今までは、気を張っていたからなんとか立てていただけにすぎない。

 そのままバタン、浜辺に大の字に寝転がる賀川。


「……も……もう、一歩も動けな、い……」


 胸を上下させ、荒い息をぜぇはぁと吐きながら絶え絶えに呟く賀川。どうやらそれは、フィルも同様のようで。

 肩に座する鷲のルドが毛繕いを始める中、賀川の傍にどかりと腰を下ろすと、後ろ手に体を支え、曇空を仰いで叫ぶ。


「っあ――! まっじ疲れた〜〜っ! も―、暫く戦闘はい―わ」


 言い切って、ふぅ―と吐かれるため息。

 熱った身体を、冷たい夜風が柔らかに撫でていく。

 暫し、夜風の流れと波の音だけが周囲に満ち。


「……や〜るじゃねぇかよ、賀川(お前)」


 徐に、呟いてフィルがその拳を賀川に突き出す。

 急遽だったとはいえ、共に背中を預け戦った仲だ。

 仲間意識のようなものが、その心に芽生えていた。


「……レディフィルド(お前)も、な」


 それに笑みを浮かべ突き出されたフィルの拳に、寝転がったままの賀川が己のその拳をそっと合わせる。


 こつん、打ち合わされる拳と拳。

 そして、互いの顔に浮かぶのは笑み。


 その、突如。


 ばっさ! 賀川の頭に降る白。しかし、それに驚く事もなく、僅かにその黒の頭を振って賀川。


「ドリーシャ、またお前は……、俺は木じゃないっていってるだろう?」


 上体を僅かに起こしながらそういう賀川に、振られた頭からはヒラリと舞い降り、ちょこんとその肩にとまるのは、フィルが手紙収集や集配に使用しているマメ鳥だ。

 器用に傷口を避けてととっと側に寄ると、賀川の頬に自分の頭をスリスリと寄せる。鳥なりに心配しているらしい。


「くすぐったいよ、ドリーシャ。でも、ありがとう」


 苦笑を浮かべて呟く賀川に、ニヤニヤしたままフィルが言う。


「な―まえまで付けてんのかよぉ〜?」

「すまない。何でだか懐かれてて、つい……」

「別に構やしねぇけどなぁ〜俺様は」


 ニヤリと賀川とそのマメ鳥、ドリーシャを見つめて呟くフィル。

 それに、獣面達を捕えた巨大なシャボン玉を引き連れながら、賀川とフィルの傍らに歩み寄ってきていた茶色のおだんご頭の上に白い鳥、コウミスズメを乗せた翠眼の少女アプリが、


「あれぇ、あれぇ? あれって四番のベリリウム、ベリベリだよね〜?」


 と、首を傾げて呟き。

 危険はないようだと認め、着陸体勢に入っている(サムニド)の背の上で、結わえた黒のみつあみを靡かせながら、カルサムも首を捻りながら呟く。


「む? 別鳥であろう。アレは六十八番、エルビウムである」

「どっちも違うっつーの! あいつは百四番、ラザホージウム、ラザーだっつの」


 首を傾げるアプリとカルサムに、やれやれとフィルが訂正を入れる。

 しかし、それが不満らしい賀川の肩の上にいるマメ鳥ドリーシャが、くるぅっ! と抗議の一鳴きを上げ。


「っと。ドリーシャだったな、悪りぃ悪りぃ。良〜い名前貰えて、よかったじゃねぇかよ〜お前?」


 ニヤリとしてフィルが告げ、それを肯定するようにくるる、と鳴くドリーシャ。

 そんな中、きっちり着地するまで待てないとでもいうように、隼の背からするりと浜に降り立った(うしお)が、賀川達の側に駆け寄り。

 ズタボロの二人の姿を、間近で改めて見やって息を飲み。みるみるその栗色の瞳に涙を溜めて、ペタンと砂地に座り込んで呟く。


「……さい……、ごめん、なさいっ、ごめんなさいごめんなさいっ! ……汐の、せいで……」


 瞳から涙を溢し謝罪の言葉を口にする汐に、苦笑を浮かべて呟く賀川。


「汐ちゃんのせいじゃないよ。大丈夫。大丈夫だから……泣かないでくれ」

「こんなんかすり傷だっつの。大体、ここは笑うトコだろが。皆無事だったんだ。なら、それでいーじゃねーかよ」


 賀川の言葉に続けるように呟いて、フィルが安心させるようにふるふると振られる、汐のその栗色の頭を撫でてやろうかと手を伸ばす、が。


 ぱしんっ。


 渇いた音をたて、フィルのその手が振り払われる。

 汐の手によって。


『えっ?』


 汐のその行動に、その場にいた全員が驚きにその瞳を瞬いた。

 それに一番驚いているのは、手を払われたフィル本人で。

 呆けたような顔をして、その蒼の瞳をしばたきながら汐を見つめ、呟く。


「……え、……と? ……セ……汐……?」

「…………」


 しかしそれに声を返す事なく、暫し汐は俯いて押し黙り。

 そろり、とした視線がアプリ、カルサム両者間で交される中、汐に手を振り払われるだなんて事は、今の今まで一度もなかったフィルはそれに若干戸惑いつつも、再度その手を汐に伸ばす。


 しかしそれから逃れるかのようにして、すくりと立ち上がり数歩後ろに身を引く汐。


 フィルの伸ばしたその手が、虚しく空を切る。


「…………」


 どうしたらいいのか、わからない。

 何故、そんな態度を取られるのか、フィルには全くわからなかった。


 手を差しのべたまま呆然と見上げた汐の顔は、栗色の前髪に隠され夜の闇に紛れて、よく見えない。


 ザザン……、響く波音が、やけに大きく耳に残る。


 曇天の闇空。落ちる静寂。


 しかし、それも長くは続かなかった。

 次第に腹が立ってきたらしいフィルが、その白髪の頭をガリガリと掻き。鋭い声を上げる。


「あー、くそっ! なんっなんだよ! おいコラ汐っ! 言いてぇ事があんならはっきり言えっ! 何が気に食わねぇんだよっ!?」

「っ!」


 シビレを切らして上げられたその怒声に、汐の小さな肩がビクリと跳ねる。


「おい、レディフィルドっ」


 それに賀川が窘めるように声をかけるが、フィルは眼前の汐を見つめたまま、微動だにしない。

 黙ってろ。フィルの言わんとしている事がわかるのか、アプリはあちゃ〜という顔をしながら視線を逸らし、隼の背から降り立ったカルサムは、ただ黙しその目を閉じて、そこに静かに佇んでいる。

 いきなりの事に状況を上手く掴めていない賀川が、どっちにも動けず心配そうな顔で、傍らのフィルと眼前の汐を交互に見やり。

 その肩で、ドリーシャもはてなと首を傾げている。

 そんな中ぽつり、呟かれる汐の言葉。


「……だって……! ……フィル、本当は……」


 呟く汐の頬を、キラリと一筋光がつたう。

 そこまで告げて一度言葉が切れ、再び引き結ばれるその唇。

 しかし直ぐ様涙に濡れる、僅かな怒りの色を宿したその栗色を晒して、フィルの蒼の瞳をつぃ見返し、汐は一声の元に言い放った。


「知ってたんでしょ!? フィル、本当は……『こうなる事』、最初から……っ、わかってたんだよねっ!?」



戦闘終わって一息…、とはいかないようで…?


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://nk.syosetu.com/n2532br/

より、賀川さん


お借りしております

継続お借り続行中〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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