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10/30 出来る事と出来ない事


※桜月様の所の10月27日話で賀川さんと我らが天狗仮面様がユキちゃん奪還戦!を繰り広げておりましたが、10月27日 終結中です(うろなの平和を守る者)回で戦闘終了、ユキちゃんが無事奪還されました!


此方の10月30日話で賀川さんお借り中により、混乱?を避ける為注意喚起的に注意文を付けさせて頂いておりました

桜月様の所での戦闘終了に伴い、この回で注意文掲載終了になります


ありがとうございました

桜月様、注意文掲載どうもありがとうございました!


此方ではまだ戦闘が続きますが、最後までお楽しみ頂けましたらば幸いです






 その一瞬の隙を、二人は逃しはしなかった。

 汐(人質)は解放され自分達を縛る枷は、もう無いのだから当然である。


 これで――、思う存分戦える。


 そう思った時には、既に身体が動いていた。


「っらぁ!」

「はあぁっ!」


 一声のもと、放たれたのは。

 付けている獣面を割り砕き顔面にその膝をめり込ませている、フィルの膝蹴りと。

 正確に急所を定め、ねじ込むようにして振り下ろされた、重さとスピードの乗った賀川の拳だった。


「……が、はっ……!」


 その餌食とされたのは、たまたま二人の側近くにいた短剣(ダガー)使い。


 本来、対象を瞬殺して速やかにその場から撤退するのが、彼らのスタイル。

 反撃を受ける事などまずあり得ない。

 それ故に、軽量型のスピード重視になるのは至極当然の事であり。

 外套の下。必要最低限の胸部を被う面の少ない胸当てと、薄い皮の防具しか身に付けていなかった短剣使いは、重い二撃をまともに食らって微かな呻き声を漏らし、なす術もなく昏倒してぐらりと傾ぎ砂地に沈んだ。


「っ!?」

「野郎っ!」


 それに、はっとして体勢を立て直すピック使いと鎖使い。

 しかし、その時には既に距離を詰められている。


 キィンッ、ガツッ!


 硬質なもの同士と、拳と拳がぶつかり合う音が響き。

 なんとか防御したピック使いと鎖使いが、間髪入れず同時にその拳を振るい。

 しかし、難なくそれをかわして互いの背を守り合うかのようにピッタリと、前と後に並び立つ賀川とフィル。

 寸分違わぬそれは、まるで示し合わせたかのようで。急遽構成されたものだとは、とても思えないものだった。


 暫し、両者動かず睨み合い。



「あの御仁、やりおるな。フィル(あやつ)の動きに、初見で合わせられるとは」


 戦いが行われているその上空を(サムニド)で旋回しつつ、眼下を鋭く見据えてみつあみ少年がそう呟く。

 その声に、腕にすっぽりと抱かれた(うしお)がそろりと視線を上げると、目線を合わせ汐のその小さな背を撫でながら、みつあみ少年が優しく囁く。


「よう堪えた。後は、あやつ等に任せておくがよい。動かぬあの者が気にはなるが、暫しの間はもつであろう。汐(お主)を、(ホーム)に送る合間くらいはな。家は、それだけで結界の役割がある。ここに居るより幾分かはマシであろう。行くぞ」


 後で(ちん)の術で強化するゆえ、と付け足し隼を操って、そこから離脱しようとするみつあみ少年に、ゆるりと汐は首を振って。


「ダメ、だよ……カルサムおじちゃん。汐のせい、なのに……。酷い、ケガしてる二人を、置いてなんて、いけないよ……」


 精神(こころ)に受けた衝撃からか、何処かぼんやりと呟く汐に、カルサムと呼ばれた少年は苦笑混じりの微笑を返し。


「あやつ等の心配より、己の心配をせよ、創……、いや汐よ。(おとこ)であれば、あれくらいかすり傷にも入らぬわ」


 カカカッと笑って告げるカルサムを、驚いたように瞳を瞬いて汐が見上げ。ついではっとしたような顔をして、跳ね起き眼下に視線を走らせつつ叫ぶ。


「笑ってる場合じゃないよおじちゃんっ! さっきはよくわからなかったけど、なんか……なんか、変な感じなの! お面さんの周りと……ううん。きっとこの辺全部と……〈あの人〉が」

「ほう……? どのように、だ?」


 いきなりの汐のその態度に然して驚いた風もなく、ホテルの方に向けていた体勢を翻し、くるくるとそのまま周囲を旋回しつつ、眼下を見つめながら叫ぶ汐のその背に、神妙に訊ね返すカルサム。

 それを振り返る事なく、ゆったり浜の上に立つ頭の男と崩折れている鉤爪使いを隼の背の上からじぃと見つめて、その栗色の瞳をくるりとさせて、首から下げた夜輝石が微かに光を纏う中、呟くように告げる汐。


「〈ぐにゃぐにゃ〉してる感じなの。一番良く視えるのは(頭の)お面さんの周りと、お面さんの後ろにいる三人の人達。それにちょっとだけだけど何か、(うた)ってたのも聞こえたよ。……たぶんだけど……この辺り、完全じゃないけど気付かれないように〈隠されてる〉よね……?」


 汐のその言葉に、黒の瞳をすぅと細めるカルサム。


 汐の〈力〉の事については、汐が生まれる前、そして所在(アリカ)が生まれる、その遥か前より知っている。

 神殿に属する古参、それらの一部の者達のみだけに知らされている〈真実〉。

 救済者、青空永遠(トワ)――、旧姓、久遠(ひさとお)永遠。

 彼女が旧姓で呼ばれていたその時から、その傍を付かず離れずにいたのだから、当然である。

 その不可思議な力の片鱗であるひと欠片を、この目で垣間見た事があるのだから。


 それ故に汐の言葉を疑う事なく〈気の乱れ〉〈空間の歪み〉を見たのだろうと、納得したようにカルサムは頷き。


「――して、あの人という者の方は?」


 静かに呟かれたそれに、一瞬息を詰める汐。細く息を吐き出しそろりと後ろを振り返って、揺れるその栗色をカルサムに向ける。


 混乱、恐怖、哀しみ――……


 色々な感情をない交ぜにしたような表情をしている汐を見やって、訝しげに眉根を寄せるカルサム。しかし言葉を返す事はせず、汐が話し出すのを静かに待つ。

 バサリ、隼のサムニドがその大きな翼を羽ばたかせ、風を切る、速度が変わる。


 夜のひやりとしたその風を頬に感じながら、自身を落ち着かせる為、汐はもう一度息を吐いて。

 眼下の砂浜に伏しているあの人、鉤爪使いに視線を戻し。

 カルサムの胸に抱かれている為大半の外気は遮断され、そう寒い事もないだろうに汐はその小さな身体を、〈何か〉を確かめるかのようにかき抱き。

 曇天の空の下、鉤爪使いを揺れ動く瞳で凝視したまま、震える、その囁き声を夜闇に溢した。


「……〈途切れ、た〉……。あの、人っ……、存、在が……。……っ、潰され、て、ぬりかえ――」

「――もうよい」


 汐が、最後まで言葉を紡いでしまうその前に。カルサムが小刻みに震えるその身体を、後ろからそっと抱きすくめ止める。


 ぽろぽろと、栗色の瞳から涙が溢れ頬をつたう。


 汐のその言葉に、元老院の長共お得意の〈薬香〉――傀儡香なりを使って、彼の者を〈改変〉でもしたか、と当りをつけるカルサム。

 その事が全てではないにしろ、僅かだが汐にも解るのだろう。驚愕に見開かれているその瞳が何を映し出しているのかはわからなかったが、そこから溢れる涙が、身体の震えが止まっていない。


「……ど、う……して……っ」


 呟かれる嗚咽は、その者には最早届かぬであろう、とカルサムは胸中で呟くと、汐を抱き締める腕に力を込める。


 やはり、このまま戦場(ここ)に置いておくのは、得策ではないと考える。

 短時間に、あまりにも多くのものに〈触れ〉すぎた。

 いくら気丈に振る舞っているとはいえ、(一部除外者がいるが)自分達のように外見が〈子供丈〉であるだけの〈大人〉なのではなく、汐は本当に、〈見た目通りの子供〉なのだ。

 このままではその精神(こころ)が、本当に崩壊して(砕けて)しまいかねない。

 それだけは――、避けねばならぬ。


 ぐっと、カルサムの身体に力が入る。隼の、軌道を変える為のそれは。


「ダメっ」


 鋭い汐の声と、回したままだった腕を、強く掴むその感覚に止められる。


「容認出来ぬ。お主がこの場に留まるは、利ある事とは到底思えぬ」

「それでもっ!」


 カルサムの言っている事が、正しいのはわかっている。しかし、僅かでも望みがあるのなら――と、汐はカルサムを振り仰ぎ。

 その瞳をくるりとさせて、じぃとカルサムを見上げて告げる。


「あそこから離れたから、余計わかるのっ! ……この辺り、隠されてるけど完全じゃない、って汐いったよね? それは、あの人だって一緒なのっ。まだ……まだっ、完全に〈喪っ(なくし)た〉ワケじゃないよっ! だから……だからっ」


 懇願するような、すがるような、汐の瞳が突き刺さる。

 それに、知らずと肯定して(頷いて)しまいそうになる。

 永遠と同じその顔とその声には、どうにも弱くていけない。

 しかし、それが既に〈無意味〉な事だと理解しているカルサムは、諭すように汐に告げる。


「既に結した。あの種の〈薬〉は、一度でもかかれば解毒は不能。留まる事なく徐々にその全てを侵し、際限なく隅々までをも蝕み、近い内に何れ崩壊す(こわれ)る。今、楽にしてやるより他に、道などない」

「そ……んな……」


 息を飲み、絞り出すかのような汐の声が風に流れる。

 その瞳から、涙が溢れる。いくつもいくつも。

 震えるその手が、カルサムの着物の袖をぎゅうと掴み。

 ふるり、左右に振られる首。

 しかしカルサムは頷かず。静かな声が一つ返る。


「朕らにも、出来る事と出来ぬ事がある。それはお主も、よう解っておるだろう。結したアレに、朕らがしてやれる事は、ただ一つ」

「……っ……」


 俯いた汐から、嗚咽を飲み込み、唇を噛む気配が伝わる。

 それに一体どれだけのモノを、飲み込ませて来たのだろうかと思うと、胸が締め付けられて痛い。


「……どうしても、ダメなの……?」

「ああ」

「……もう、無理なの……?」

「……ああ」


 ぽつりと呟かれる度、汐の瞳から温かな涙の粒が溢れ、そっと頬に添えられたカルサムの指を、濡らしては流れ落ちていく。


 暫ししてから微かに、小さく汐がコクリと頷き。

 それにその小さな身体を、今一度強くカルサムは抱き締め。

 戦場の上空(うえ)を旋回し続ける隼を、今度こそホテルの方へ向かわせようと、カルサムがその口を開きかけるが、それが紡がれるより先に汐が言葉を滑り込ませる。


「……なら、せめて……〈見届けさせて〉最後まで。それが汐の――〈責務〉でしょう?」


 凛とした強制力のある汐の声が、耳朶を打つ。

 それに、息を詰めるカルサム。

 見届けるまでは、テコでも動かないというその強い意志が、意識せずとも目に見えるかのようで。

 詰めていた息をやれやれと吐き出しながら、苦笑いをするカルサム。


 常におっとりとしているというのに、一度こうと決めたら貫き通す――……

 どんなもの(結末)であったとしても。

 その強き意志が、何者をも寄せ付けはしない。

 神々しいまでに鮮麗された、その魂に。


 そんな所まで本当に永遠と瓜二つ(そっくり)だと思いながら、諦めたようにカルサムは呟く。


「安全が、保証されている間のみだ。朕が危険と判断すれば即刻離脱する。――異論は認めんぞ」

「ありがとうっ!」


 カルサムのその言葉に、汐はカルサムに抱き付き全身で喜びと感謝を伝える。

 そんな汐に微苦笑しながら、その頭をそっと撫でるカルサム。

 バサリ、風を受けてサムニドが翼を広げ。


 それにつられるようにして、サムニドの背の上でカルサムに抱き付いた状態のまま、汐が眼下に視線を向けると。

 悠々とした態度は依然変わらず、獣面の奥からニヤリとした視線を投げる獣面達の、頭の男のその視線と、ふいに目が合って。


「っ!?」


 それにゾクリと、汐がその背を粟立たせたのと、同時に。



 睨み合っていた二組四人が、今まさに。

 再び戦いを繰り広げんと、その足を踏み出し駆け出した――……



すみません、引っ張りました(汗)


それにしても、睨み合い中の話が長いですね、本当に…


なにやら色々変な模様…


さて。頑張って反撃、戦闘終盤に〜っ!


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より、賀川さん


お借りしております

継続お借り中です〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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