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10/30 浜辺での戦闘2


※現在桜月様の所の話で賀川さんと我らが天狗仮面様がユキちゃん奪還戦!を繰り広げておりますが、此方はそれより後日話となります。ご注意ください






「いー加減、無意味なこたぁヤ〜メとけよっ」


 ひょいっと、飛んできた鋭い蹴りを避けながら告げるフィル。

 右後方から迫るジャンビーヤを、数歩身を引く事でかわし。

 左右同時に飛んできた矢とピックを、両の手で受け止めて無効化し。

 すかさず足を掬うべく迫る鎖を。

 とん、と飛んでくりん、空で前転するように避ける、と。


「ぎょえっ!?」


 獣面の脳天に入る、フィルの踵落とし。

 ジャンビーヤを振りかぶり、迫ってきていたのだった。


 砂地に沈んだジャンビーヤ使いの頭を踏みつけて、やれやれと息を吐くフィル。

 肩にのっていた鷲は回った時に一度羽ばたいたが、既に定位置に戻っている。

 フィルの耳に嵌められた夜輝石のカフスが、僅かな光をキラリと弾き。


 周りを取り囲む三人が、窺うようにじりじりとその足を運ぶ。

 それを眺めつつ、尚も余裕の笑みを浮かべているフィル。


(コイツら以外かかって来ねぇし、あーきらかに時間稼ぎ、だっよなぁ〜。どーすっかなぁ……〈待って〉りゃいーのは、俺様もおんなじなんだがなぁ)


 そう。ただ、待っていればいい。

 明らかにリーダー格である男がここにいるのだから、アプリの前から〈連れ去られたあいつ〉は、必ずここに、連れられてくるのだから。

 胸中で呟きつつ、思考を巡らせていると。


「お頭あぁ〜〜!」


 背後から、そんな間抜けな声が聞こえ。


(来た!)


 声が聞こえた時には、既に反応しているフィル。

 踵を返し、すかさずそいつの元へ駆ける。

 当然、周りの三人が行かせまいと追撃を繰り出すが、それを避け、弾き、いなし。三人からの攻撃には目もくれず、そいつの元へただ走る。

 〈(セキ)が入れられている袋〉を掲げた、間抜け(そいつ)の元へ。


「連れてきやし」


 たぜぇ、の声は最後までは紡がれず。


「おごぉっ?!」


 前後からのいきなりの攻撃に、潰れたような声を出す。


 フィルの膝蹴りと賀川の飛び蹴りが、そいつの頭に同時に炸裂していた。

 浜を迂回するように回り込んでいた間抜けとは逆に、直角に進んでいた賀川は相手との距離を詰め、追い付いたと見るや渾身の蹴りを放ったのだった。


「お?」

「え?」


 瞬間、蒼と黒の瞳を瞬く両者。だが、地に下り立った時には各々行動を開始している。

 振り向き様、更に攻撃を繰り出してきている三人に向けて、フィルは長針を見舞い。


「わわっ!?」


 ぐらり、傾いだ間抜けの手からいきなり空に放り出された袋から、驚いたような声がもれる。(うしお)の声だ。

 それを耳に捉え、フィルがビンゴとその口角を引き上げた時には、スライディングで浜を滑っていた賀川が、その袋を見事キャッチした後。

 袋を抱えたまま、横滑りで浜を滑る賀川のその到達地点目掛けて、無数の矢とピックが雨のように放たれる。


「さーせるかってぇの!」


 しかしそこに、すかさず割り込み迎撃するフィル。

 両手が閃き、長針が飛ぶ。その一本一本が、正確に向かい来るものの軌道を捉えて相殺していく。カキン、キィン! 金属音が響く。しかし、それらで全てを相殺する事はかなわない。

 なら、とフィルは腰に巻いていたターバンを引き外し、眼前にぶわっと広げ。


 視界が遮られ、好機と踏んで突っ込んで来る三人の足音を聞きながら、セラミック加工された糸が縫い込まれたターバンで絡め取った矢とピックを、


「返すぜぇ〜♪」


 にやりと告げて投げ返す。


「なに!?」

「くっ!」

「!」


 それに、瞬時に距離を取る獣面の三人。ヒュヒュン、矢とピックが飛ぶ音が響く。


「ぷはっ」

「汐ちゃん、大丈夫かい?」

「うん。ありがと〜賀川のお兄ちゃん」


 その間に、袋の紐を解いて汐を解放する賀川。

 すると追尾していたアプリの白い鳥が、汐の栗色の頭にちょこんととまり。

 それに苦笑をもらす賀川ときょとんとする汐に、フィルからひとつの声。


「和んでるバアイじゃねーんだけどな?」

『!』


 その声にはっとする二人。

 汐を庇いながら、互いの背を守るように立ち並ぶフィルと賀川。


「へぇ? ちったぁ場慣れしてるクチかぁ、カガワ(お前)?」

「まぁ、な。そんな事よりレディフィルド、コイツらは一体」


 何なんだ、とある程度の情報交換を行いかけた二人の耳に。

 パンパン、と手を打ち鳴らす音が聞こえ。

 それが合図だったとでもいうように、前方にいた三人が即座に後方へと下がり。


「なんだぁ?」

「…………」


 怪訝に思うフィルと賀川が、それに眉を潜めたその時、頭である男から声がかかる。


「まさか〈七番〉に、直に目通り叶うとはね。驚きだよ」


 含みあるその声は、ぱちくりと目を瞬く汐に向けられたもの。


「お面さん誰なの? どうして……フィルと戦ってるの?」

「バカ、んなヤツとしゃべる必要ねぇよ!」


 それに首を傾げる汐にフィルが声を投げるが、汐の目は眼前の男を見つめたまま。

 そんな汐を見つめ、どうやらそのまま連れてきたのが功を奏するようだね、と面で隠れた顔をニヤリとさせる頭の男。


「勿論、そこの彼と敵対しているからなのだよ、七の継承者。――君の為に、ね」

「!」


 その言葉に、汐の小さな肩がビクリと跳ねる。

 それにちっ、と舌打ちしながらフィルが叫ぶ。


「ぐだぐだヌかしてんじゃねーよっ! この野郎っ」

「待って、フィル」


 それに声をかけ、コートの裾を引いて叫ぶフィルを止めようとする汐。しかしそれより先に、言葉を滑り込ませるフィル。


「ダメだ、聞けねぇ。汐(お前)の事だ。聞いたら、奴らと行くって言い出すに決まって……」

「レディフィルドっ!」


 賀川に止められはっとするフィルだが、そこまで言ってしまっていてはもう遅い。

 しくじったと後悔しつつそろりと目線を下げると。

 栗色の目をくるりとさせて、汐がじぃ、と見上げてきていた。


(……ちっ。三人を引かせたのはこの為、かぁ。あのヤロー、知略イケる方だったってワケか)


 胸中で呟きつつ、ガリガリと頭を掻いて目線を逸らすフィル。それを更にじいぃと見上げてから、眼前の獣面男に視線を向けて汐は呟く。


「お面さん、汐の事拐いに来たの?」


 それに、くっと喉を鳴らして笑う男。


「物分かりが良くて助かるね。それに肝も据わっているようだ。そうとも。さるお方に依頼されてね。御方様は大層、君の力が欲しいそうだよ。七の継承者である、君の力がね」

「……それ以上ほざくと息の根止めんぞ」


 ざわり、フィルの周囲が熱を帯びる。

 海風とは違う風が、フィルのコートを、汐の賀川の髪を巻き上げる。


「レディフィルド……!?」

「フィルっ!」


 それに驚く賀川と声を上げる汐。


 その、注視が逸れた一瞬の隙を、頭の男は逃しはしなかった。

 パチリ、指が鳴り。

 黒の線が、人知れず動く。


「きゃあ!?」


 汐のその小さな悲鳴が聞こえたと思った時には、フィルと賀川、二人の間を黒線が駆け抜けていった後だった。

 バサバサ、汐の頭にのっていた白の鳥が、驚いて何処かへと飛び立っていく。


『なっ!?』


 驚いた顔をして二人がそちらを振り返ると、獣面の者に汐が片腕でがっちりと捕まえられ、その細い喉元に、ギラリと光る鉤爪の切っ先が、ぴたりと突き付けられていた。

 そいつは間違いなく、フィルが初めに沈めたと思っていた、鉤爪使いだった。

 首の薄皮に、その切っ先が触れ。


「っ!」


 ごくり、生唾を飲み込む音が聞こえる。


「形勢逆転、だね」

「やる事が汚ねぇぞこの三下ぁっ!」


 くくくっと笑う頭の男にフィルが叫ぶが、男は「これでも私は良心的だよ?」と呟き、円の中心から汐へと優雅に手を差しのべ、含みある声で告げる。



「さぁ――。選びたまえ、七の継承者よ。我々と来るか、否か。最も、否と答えた場合に彼らがどうなるかは――、君にもわかる事だろうがね?」



セラミック加工のターバン(笑)

きっと織糸は伸縮自在系の弾力?あるヤツだ…


捕らえられ、選択を迫られる汐…


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より、賀川さん


お借りしております

継続お借り続行中〜

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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