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10/30 ごっめ〜ん☆しくじった〜




「シッ!」


 鋭い息を、吐く音が聞こえたと共に。

 巨体から放たれた銀の残光が眼前を斜めに走り。それをすんでの所で避けたかと思えば、無数の銀線が床に縫い留めようかとの勢いで、巨体の死角から的確に、此方の身体を捉えてくる。


「わ、わ。ひゃあっ!」


 それを後方に飛んでなんとか回避し、退きざまラッパを吹いてシャボン玉をふわふわと作ると、廊下の幅いっぱいに漂わせ、その動きを止めさせる。


 しかしそれも一瞬の事で、巨体を誇る太刀持ち男の後ろからシャボン玉を乗り越え飛び出して来た、背の低い少女と小柄な少年の二人と、ガキンと二振りの細剣を合わせて打ち合う。


 四対一の、戦況はなかなかにハードだった。


 巨体男の猛進猛攻。それをかわしつつ後方支援要員らしい、背の高い男から放たれる毒針を避け。

 シャボン玉で防衛を張ると、それを乗り越え細剣を振るう少女と、虎の(バグナク)が仕込まれたグローブを両手に嵌めた少年二人との打ち合いになる。


 迷宮(ラビリンス)の効果は、あまりないようで。

 廊下を被う、虹色に輝くアプリちゃん特製の膜。この膜は今多面鏡のようにもなっており、ミラーハウスよろしく、そこかしこに互いの姿が無数に映り込んでいる。

 長方形の閉鎖空間。加えて光源は虹色の膜によるものしかなく、ちょっと動いただけでも、周りの景色は有象無象に移り変わり。

 そんな中では平衡感覚や距離感が、とうに狂っていてもおかしくないのだが。


 ガキイィンッ!


 正確に合わされる、剣と剣。

 それを押し返し、飛んできた毒針を避けて巨体男を留める為、シャボン玉を漂わせる。


 どうやらこの四人、視覚情報だけで動いている訳ではなさそうだ。

 ヒットアンドアウェーの攻防。連携、統率の取れた俊敏な動作。使用している暗器の数々。そして何より迷いもなく確実に、仕留めようとするその動き。

 それらから、導き出されるその答えは。


 眼前の者達が、仲介者(ブローカー)に人身売買するだけの拐い屋等の類いではなく、〈ちゃんと〉邪魔者排除も含めた依頼を受けて動いている、闇組織の連中、だという事。


 そしてそれを依頼してきたのは、〈彼女〉の利用価値を知っている者である可能性が高い。

 でなければまず、彼女が〈狙われたり〉する理由がないのだから。


 それにただの拐い屋風情に、こんなに高い戦闘能力はない筈だ。

 人を拐う事だけが目的の拐い屋(彼ら)に、邪魔者を〈確実に仕留める〉技術など、いらないのだから。


(……てことは、てことは。やっぱり元老院(じじちゃん達)の所の、子飼いの子達ってことだよね〜)


 などと思考を巡らせつつ、虎爪の攻撃をかわすアプリ。ちらり、自身の後方に視線を走らせる。

 残る扉はあと四つ。じりじりと、詰められてきていた。


 本来なら、余所事などを考えている暇はない。

 迷宮の効果は薄く、このまま距離を詰めれては、いつか彼女がいる扉の前まで、追いやられてしまうのだから。


 しかし、アプリのその顔に焦りの色はない。戦いが始まった時同様、にこりとした笑みを浮かべているままだ。


 それもその筈で。何故ならアプリの主武器は、二振りの細剣などではないのだから。


 ふわりふわり、漂うシャボン玉が虹色を反射しながら、空中を舞う。

 徐々に、その密度を増しながら。

 それを見つめアプリは僅かに、その口角を引き上げた。




 一方その頃。戦いが繰り広げられている廊下の最奥にある、その部屋で。


「!?」


 (うしお)は、勢い良く跳ね起きた。

 夢を見たのだ。


 フィルが海辺で、闇夜に浮かぶ無数の獣のお面と、一人戦っている夢を。


 キラリ、首から下げた夜輝石が、暗がりに仄かな光を放つ。


 嫌な予感が、胸の鼓動を早めさせ。

 さっき見た〈夢〉が、ただの夢などではない事を、直感的に理解する。


 その時には既にベッドから飛び出し、突進するかのように部屋の扉へと駆け寄り。汐は素早くノブに手をかける、が。


「なんで!?」


 回して押しても開かない。

 暫し扉を叩きノブをガチャガチャとしてみるが、扉は固く閉ざされたまま。


「どうしよう……早くしないとフィルがっ」


 気持ちははやるばかりだが、閉ざされた扉はびくともせず。どうしよう、とノブから手を離し左右を見回した汐が、ふとその目に捉えたのは。


 海が見渡せる大きな――窓。


「…………」


 そこを見てからちらり、周囲に視線を走らせる。

 幸い、源海(じーじ)の趣味によってフリフリに飾りたてられているこの部屋には、〈ロープ(かわり)〉になるものが沢山あった。


(……二重八字結びちゃんと出来るし、もやい結びしながら繋げば、そこに足かけながら下りられるよね……)


 そんな事を考え、ごくりと唾を飲み込んで。

 汐はロープかわりになるソレを、勢い良くひっ掴んだ。




(……あれ、あれ? もしかして、しおしお気付いちゃった? でもごめんね〜そこから出してあげられないんだ)


 もう何度目か。斬撃をかわし毒針を避けながら、扉を叩く音を耳ざとく拾って、そんな事を思うアプリ。

 そろそろ飽きてきたようで、かなり気がそれてきていた。

 元々、ここにはロパジェの代わり(強制的に)で来ている訳で。折角大っぴらに戦えるかと思って来たというのに、まさか分断組の足止め要員だったのは誤算だった。


(うー、うー。フィルフィルは絶っ対、目一杯暴れてるのにいぃ〜〜っ!)


 自分だけこのまま、地味に相手を疲弊させて生け捕るだけだなんて、と物足りなさを感じずにはいられないアプリ。

 時はもう、十二分に満ちているというのに。


(もう、もう。いいよね? ドッカ〜〜ンってやっちゃってもっ!)


 そう思った矢先、左右から細剣少女と虎爪少年が絶妙なタイミングで飛びかかって来る。

 それにアプリがニヤリと、その口元を緩めた途端。


 アプリにしか割れない筈の、膜で被われている八つの扉の内の一つが、勢い良く押し開かれ。


 ゴッ!


 というかなり良い音がした後、ドサリと何かが倒れる音が響き。

 細剣少女の攻撃を弾き返し、少女を後方に退かせながら、アプリは驚いた表情のまま呟いた。


「なんで〜、なんで〜!? あみあみってば予想外すぎだよぅ〜〜」


 なんと、そこにいたのは(あみ)だった。

 ……目を閉じたままの。どうやら寝ぼけているらしい。

 そんな状態だというのに壊せない筈の膜を扉ごと蹴破って、尚且つ敵を一人葬ったのは流石は海といった所か。


『!?』

「なんだ!?」


 突然の事に、驚き動きを止める者達。

 しかし、その間に開いていた扉は何事もなかったかのようにパタンと閉められ、壊された膜が、自動でつるりと張り直される。


 後には、獣の面が粉々に粉砕され顔が晒されたままのびている少年と。

 若干呆気に取られた感じの仲間の三人に。

 ニヤリとした、笑みを浮かべるアプリが残され。


 即座に細剣をラッパに持ちかえ、


「君たちの、君たちの。敗因は。警戒し過ぎてシャボン(それ)に、触れようともしなかった事だね〜☆」


 と呟きすぅと息を吸い込んで、アプリがラッパを鳴らした、瞬間。


 耳をつんざく轟音と爆音が、盛大に廊下内に響き渡った。


 アプリの十八番。

 シャボン・ボム。


 アプリの主武器。意のままに操れる変幻自在の、多種多様な効果を発揮する、漂う凶器だ。


 リビングの扉付近の廊下に漂う、シャボン玉は過密状態。

 故に、敵である三人がいる場所には、隠れる所はおろか逃げ場すらなく。


 なす術もなく、爆発に巻き込まれる事となった。


 廊下を被っている膜は音熱衝撃遮断仕様の為、それらが外部に洩れる事などある筈もなく。火力調整もばっちり。だから死にはしないだろう、とアプリはその口元を緩めかけたが。


「きゃあっ!?」

「!」


 微かに聞こえたその声に、猛スピードで廊下を駆ける。

 目指すは勿論、汐の部屋。

 膜を割って、勢い良く扉を開き。

 驚きに目を見開き、叫ぶ。


 部屋の中はガランとしていて。


「なんで、なんで。いないの〜〜!?」


 冷たい風が入り込み。


「なんで、なんで。窓開いてるの〜〜!?」


 ベッドの足から覗くフリルの紐束が、窓に向かってのびている。


「なんで、なんで。ロープが下がってるの〜〜!!」


 叫びながら窓に走り寄り、勢い良く外に顔を出したアプリがその目に捉えたものは。


(まだ、まだ。半分いたのおぉ〜〜!?)


 袋に押し込まれ、先程戦っていたヤツらと同じ面、黒の外套を纏った四人組の内の一人に、担がれ連れ去られていく汐の姿。

 それを目にした瞬間。


 白い鳥がその後を追う中、アプリはラッパを吹き鳴らした。

 仲間にのみ、届く音で。


 プップクプップップー

 ごっめ〜ん☆ しくじった〜


 ……などという内容のものを。


 それを吹き鳴らし、自身もその後を追おうとするが、


(……たぶん、たぶん。しおしおを拐われた上に敵まで逃がしちゃったりなんかしたら、流石に、流石に。マズイよねぇ〜?)


 はたとその事に気付いて、連絡したし二人いるなら大丈夫だよね、と考え直して。

 フリルロープを引き上げパタンと窓を閉め。

 汐の部屋から出て、白煙があがり火薬の匂いが漂う中、くるりと前方を振り返り。


「あらら、あらら。ちょ〜っとやり過ぎちゃったかなぁ〜?」


 ぴくぴくと痙攣しながら床に転がっている、面々の惨状を見て悪戯っぽく含み笑み。アプリはちろりと、小さな舌を出して呟いた。




「やっと終わった……」


 ふぅと息を吐き、曇り空の夜の中、白の車を走らせる者が一人。

 水玉模様がトレードマークの、賀川運送の賀川さんだ。

 激務を終え、緩やかに海沿いを走っていた、その時。


「わああぁぁっ!?」


 突然聞こえてきた〈音〉に、驚き慌てて急ブレーキをかけて停止する。


「……なっ、なんだ今の……ら……、ラッパ?」


 呟き耳を押さえながら辺りを見回す賀川だが、ラッパも、それを吹いたらしき人物の姿も見当たらない。

 しかしそのかわりに、異様なモノをその目に捉え、黒の瞳を瞬く。


「……なんだ、あれ?」


 浜辺を、四つの白い面が漂っていた。

 そんなバカなと思い目を擦って、よくよく目を凝らして見てみる賀川。するとそれは、どうやらお面を被った人らしかった。

 黒の服を着ているせいで身体部分が夜闇と同化し、白の面だけが際立って、浮かんでいるように見えたのだ。

 その面を被った四人は、浜を一直線に走っていく。


 それを何とはなしに目で追っていた賀川だったが、最後尾の人物が、袋を抱えているのが目に止まり。

 訝しげに、眉を寄せる。

 なんとその袋、ごそごそと動いているではないか。

 そうまるで――、中に人でも入っていて、もがいているかのような。

 袋の開口部分から栗色の、髪のようなものが風に揺れているのまで見え。

 ついで四人の後方を、まるで追尾するかのように飛んでいる、白い鳥の姿を捉えて。


「……おいおい、まさか」


 胸に嫌なものを覚えながら車を降り。

 賀川は、そこから駆け出しながら叫んだ。


「おいお前ら! 一体何やってるんだ!?」



魔法少女?アプリちゃん、でした(笑)

しかし、ヘマる

まぁ、子供?なので許してやってください(苦笑)


海は寝ぼけ?てても流石海ですね(笑)


自分から拐われる…?汐(苦笑)


そして賀川さん登場です☆

桜月様、暫く宜しくお願い致しますです!


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より、賀川さん


お借りしております

暫し継続お借り予定です

おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


※現在桜月様の所の10月27日話で賀川さんと我らが天狗仮面様がユキちゃん奪還戦!を繰り広げておりますが、此方はそれより後日話となります。ご注意ください


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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