10/30 曇夜の始まり
曇天の静かな夜
浜辺で…
※ここから暫く戦闘回になります
(10/30、11/4)
残酷描写あり、流血過多かと思われますので、苦手な方はプラウザバックでお戻りください
闇も深まる時分。
空は雲に覆われ、夜の闇は更に色濃く。
殆どのものが眠りにつき、静寂だけが刻まれるその時間に。
寄せては返す波音が、ただ静かに曲を奏でる中、夜の闇に彩られたその「空間」に、流れる多数の声と共に突如、闇を切り裂くような白光の線が刻まれる。
しかしそれは、素人には見えも聞こえもしないもの。
失われた古代言語。
ルーンの光音。
「〈Th〉スリサズ」
門を
「〈O〉オセル」
開き
「〈E〉エオー」
移動
重なる多重音が響く度、ルーン文字が空間に浮かび迸る光の線が、そこに光の門を出現させ。
ゆっくりと、開かれた門から出てきたのは。
夜の闇と同化するかのような、漆黒の外套を纏った集団。
背丈も体格もバラバラなその集団だが、みな一様に幾何学模様が所々に施された白の、獣の面のようなものを被っていた。
顔面部分だけが闇夜にぼぅと浮かび上がり、異様な雰囲気が周囲に充ち、漂う。
全員が移動を終えた所で出現した光の門は拡散し、粒子となって闇夜に消え。
静かな声が、ひとつ響く。
「〈α(アルファ)〉、〈β(ベータ)〉各班、直ちに任務を遂行せよ」
他の者達より幾分か立派な面を付けた、頭らしきその者の声に、一同はこくりと頷き合い。
α班八人は、海辺から見えるホテル〈ブルー・スカイ〉へ目散と駆け。
β班八人は、その場に留まり、先程の門があった辺りを中心として円陣を描くように展開し、何やら細々とした作業を始める。
それらを眺め、β班が円陣を展開したその真ん中で、頭である人物は一人、ニヤリと口角を引き上げる。
今宵は静寂なる曇夜。
平和が当たり前の東のこの国で何かが起こった所で、誰も気付く者はいないだろう。
もし仮に気が付いたのだとしても、それこそ、全てが終わった後の事。
その時には、既に遅い。
危機意識の低い国から一人少女を拐う事など、造作もない事だ。
楽な仕事(依頼)だ、と頭の男は笑みを深める。
しかしそこに。
空から突如、一人の少年がヒラリと降り立つ。
暗がりにくっきりと浮かぶ白髪の髪。意思の強そうな蒼の瞳。その口元に浮かぶのは、ニヤリとした不敵な笑み。
集団の真正面に堂々と、ダウンコートのポケットに両手を突っ込んだ状態で、その少年は自然とそこに立っていた。
その肩に、一羽の鷲を携えて。
突然の事に、作業の手を止めにわかに周囲がざわめく。
しかし誰も動こうとする者はおらず、訝しげに探るような視線を少年に向けているだけだ。
暫ししてから、頭である男が静かにその口を開く。
「……何か用かね? 少年。見ての通り、我々は君に構っている暇はないのだが」
その言葉を聞いた途端、明らさまにため息を吐く少年、フィル。更にもう興味はないとばかりの目を向けて、仕方なくといった感じで言葉を紡ぐ。
「けっ。小者かよ、つまんね」
その瞬間、動いた者が一人。
夜の闇に紛れるかのような漆黒の外套。裏事に慣れた、俊敏なるその動作は一瞬。スピードに長けているが故、素人目にはそれを捉える事すら難しく。捉えたと思った時には、既に生が絶たれている。……筈なのだが。
キィン!
海辺に、硬質なもの同士がぶつかる、甲高い音が響く。
『!?』
それには、流石に他の者達も驚いた。
動いた一人が放った鉤爪による攻撃は、艶消しされた黒塗りの、長針にガッチリと絡め取られていたのだから。
「くっ!」
短く声を上げ、更なる攻撃を繰り出そうとするその者だが、その前に鉤爪を絡め取った方の手はそのままに、半身引いてその手を振りかぶり、自身の後方へと勢い良く投げつけるフィル。
かかる力の流れを、上手く利用した動き。
それ故、前方への力が二倍かかる事となり。その者はそのまま、勢い良く顔面から浜に突っ込む事になった。
「ぎゃふっ!」
そんな声が聞こえた時には手にしていた長針を元に戻して、立っていた時同様に、ポケットに手を突っ込み前方へと向き直っているフィル。
後方の者になど、もう興味はないとでもいうように。
「ほう。なかなかにやるようだ。ただの少年ではない訳か。……あぁ。では君がそうなのかね? 依頼主の言っていた、我々の妨害者というのは」
フィルのその見事な手際に、拍手をしながら頭の男が告げる。それに、ニヤリとした笑みを向けたままフィルは呟いた。
「クライアント、ねぇ〜。そいつが誰か、当ててやろーかぁ〜?」
フィルのその言葉に、彼らは瞬時に理解する。
先程の手際を見たとはいえ、この、どう見ても子供にしか見えない眼前の少年が、本当に自分達の妨害者――、敵である者なのだと。
それにより、体勢を整えた周りの者達が即座に身構え。周囲に、ピリッとした緊張が走る。
しかし、それでもなお態度を変えないフィル同様、集団の中心にいる男は楽な体勢のまま呟いた。
「君一人で、我々に勝てると思っているようなら、その考えは改めた方が利口だよ。邪魔する者は――容赦するな、とのお達しでね。まぁ元より、見られた以上、生きて返す気はないのだがね」
くくくっ、と男の喉が鳴る。面から覗くその目には、獲物を狩る獣特有の、獰猛な色彩が浮かんでいた。
しかしそれをただ、フィルは平然と見返して。
「ごたくはいい。始めんなら、とっととおっ始めようぜぇ? 俺様も暇じゃあねーからな」
ニヤリとした、笑みを深めて呟いた。
それに、頭である男がふっと口元を緩めたのが合図であったとでもいうように、自然と立っているフィルに、四つの黒の線が勢い良く襲いかかった。
シン、と静まり返った室内に、足を踏み入れる者達。
黒の外套に獣の面。α班と言われた者達の半分だ。
彼らが踏み入れた先は、ブルー・スカイのプライベートフロア。上の階、各家族ずつに分けられた、四つのスペースの内のひとつ。
捕獲対象である、〈七番〉がいるところ。
下調べは充分にしてきているのか、その足取りに淀みはない。
暗闇の中、一切の音も立てる事なくリビングを抜け、廊下へと続く扉を静かに開く。
この先にある、各々に割当てられた七つの部屋の最奥に、対象者のいる部屋がある。
こくり、互いに目配せして頷き合い、四人は静かに廊下へとその足を踏み入れ――……
『!?』
『な……なんだコレはっ!?』
面越しに、驚き目を見開いた。
確かに、一度確認した際はただの廊下だった筈だ。
しかし其処に足を踏み入れた途端虹色に輝く、膜のようなものに被われた景色へと切り替わり。
四人がいきなり変容した廊下の景色に驚き、一瞬身を強張らせていた間に、リビングへと続く唯一の扉は音もなく閉ざされ。
「ようこそ、ようこそ。アプリちゃんのシャボン迷宮へ」
くすくすとした含みある、少女の声がかけられる。
『!』
その声に、瞬時に臨戦態勢を取り、互いの背中を庇い合うようにフォーメーションを組む四人。目にも止まらぬ早さで配置が完了する。それは流石としか言いようがなく。
背の高い者と低い者が見据える前方から、パチパチパチと拍手が聞こえ。
虹色に輝く視界の中から、少女が一人姿を現す。
茶色のおだんご頭。みずみずしく茂る葉のような翠眼。にんっとした口元から覗く小さな八重歯。
ふわりとしたチュニックの裾から見えるデニムの短パンに、ニーハイソックスという格好の。
頭に白い鳥を乗せ、その手にラッパを持った少女が。
常ならたかが子供と捨て置いただろうが、周囲の異様さ、それに加え監視、警報機器の類いは尽く無効化し回避してきた為、見つかる要素など無きに等しく。
だというのにまるで阻むかのようにして現れた、眼前に立つこの少女が、ただびと等である訳がない。
「……何者だ、貴様」
背の高い者が、くぐもった男声を発する。それに少女、アプリはにぱっと笑って呟いた。
「大きな、大きな。声を出しても大丈夫だよ〜☆ このアプリちゃん特製シャボン迷宮は、ここ以外の声は通しても、こっちの声は通さないから〜♪」
此方の言葉を、聞いているのかいないのか。いや、名乗りはしたのだから聞いてはいるのだろうが、全く緊張の色のないその声に、訝しさが上乗せされる。
ぐっと、他の三人の構えに重さが増したのが伝わる。いつでも飛び掛かれるように、と。
それに視線を投げるだけで留め、背の高い男は更に声を発する。
「……邪魔立てするなら容赦はせんぞ」
面の合間から覗く眼光を、鋭くギラリと輝かせるが、それをきょとりと見返してから、アプリは翠の瞳をすぅと細め。
「それは、それは。アプリちゃんのセリフかも〜? しおしおを拐おうとするヤツらに、容赦なんかし〜ないっ♪」
にんまりと、その口元に笑みをのせて言い放ち。
視線が交錯し合う中。
静かに、戦いの火蓋がきって落とされたのだった。
ルーン文字表記出ないのがイタいな〜
しかし人数多いなー(汗)
αとβに、頭の男、と
でもまぁ、これには理由があったりで…
そして変わらず、俺様なフィル(笑)
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください




