10/30 突然の再会
夕方遅く。
「もう、もう! だからぁっ、さっきから何度もいってるのにぃ〜〜!」
ホテル、ブルー・スカイのロビーに、一つ少女の声が響く。
「だけどねお嬢ちゃん。何度も言うように、身元の確認が取れないんじゃ」
「その為に、その為にっ! 源海か太陽さん達の中で誰でもいいから、呼んできてって言ってるの〜〜っ!」
スーツにメガネ。ひょろい体を屈ませてひ弱そうなその顔に、困ったような笑みを浮かべて告げるその男の声に被せるようにして、茶色のおだんご頭に翠の瞳の少女がそう言い募る。
しかし、それに更に困ったような表情をして、スーツの男はひとつ呟く。
「だからね。何度も言うように、それは出来ないんだよ、お嬢ちゃん。夕飯の時間帯で、今誰も、手が離せないんだから」
「なんで、なんで〜〜!? ちょーっと、出てきてもらえれば済む事なのにっ! 大体こんな風に、問答してる方のが時間の無駄だよっ」
ぷぅいっ。腕を組んでそっぽを向く少女を、それは僕の台詞だよ……と言いたげな表情で見つめ、スーツの男はため息を吐き。よいしょと立ち上がりながら告げる。
「身元の確認が出来ないんじゃ仕方ない。警察の方に連絡させてもらうよ」
「えぇ〜、えぇ〜っ!? そ、それはぁ〜。アプリちゃんちょ〜っとやめてほしいな〜……なぁんて」
すると男のその言葉に、明らかにマズいという顔をして笑う少女、アプリ。
それにやっぱり家出少女とかなんじゃ、と訝しげさ満載の表情でじっとりとアプリを見下ろす男。
「連絡するからね?」
「ダメ、ダメぇ〜〜!」
そう言ってスマホを懐から取り出す男に、あわあわと慌ててそのスマホを取り上げようとするアプリだが、身長差がありすぎて届かない。
周囲からすれば、ぴこぴこと飛び跳ねるその少女を、やんわりあしらう男の二人のその姿はとても微笑ましく移るのだろうが、当のアプリにとってはそれどころではない。
そんな所(警察)に連絡などされてしまったら、その時点でバレてしまうではないか。
許可なくうろな町に来た事が。
それだけは――、なんとしても、阻止せねばならなかった。
「うー、うー。届かない〜〜っ! むぅ〜っ。こーなったら、かくなる上は〜〜っ!」
そう意気込んでアプリが、その足にぐっと力を入れ。
「あれ? どうしたんですか、滸さん。この時間帯にロビー(ここ)にいるなんて珍しいですね?」
そんな声をかけながら、空がロビーに入ってきて。その声にスーツの男、滸が気を取られた、その時。
「てりやぁ〜〜っ!」
可愛らしい、そんな声が響いたと共に。
ゴッ! と。
顎と頭が勢い良くぶつかった、なんとも痛そうなそんな音が、夜のロビーに響いたのだった。
「えぇ〜っ? 本当に知り合いだったの〜〜!?」
「だから、だから♪ 最初からそーだって、アプリちゃんは言ってたのにな〜☆」
アプリの頭突きを受けて気絶し、長椅子に寝かされていた滸が程無くして目覚め、頭をぶつけられた顎を氷のくるまれたタオルで冷やしながら驚くのに、アプリはふふんと胸を反らしながら得意気に呟いた。
「ほんとにアプリちゃんだぁ!」
それにパタパタと小走りに駆けて来ながら、汐が嬉しそうな声を上げ。汐に気付いたアプリも、その翠の瞳を輝かせて駆け寄り。
「久々、久々〜☆ 元気してた? しおしお♪」
「うん♪」
再会を喜ぶように互いをぎゅぎゅ〜っと抱きしめ合う二人。
「海外で一時期お世話になった事がある、神殿の所の子なんです」
「へぇ〜〜」
そんな二人を見つめながら、空が滸に説明をする。
「でも、急にどうしたの? アプリちゃんが此方に来るのなんて珍しいよね?」
抱擁から身体を離し、不思議そうに汐が訊ねるが、アプリはにっこりとして、聞かれた事とは別の事を呟いた。
「それより、それより。……フィルフィルって、いる?」
「フィルに会いに来たの? 今はいないよ? 四時くらいに、何処かに出かけたんだって」
アプリのその言葉に、首を傾げながら汐が呟き。
それならい〜んだ〜☆ と呟いて、アプリは小さな八重歯をその口元から覗かせて、
「暫く、暫く。ご厄介になるからね〜♪」
にぱっと笑って呟いた。
アプリファム・トゥリディース・スクロム
フィルと同じ郵便屋であるその少女との、突然の再会が果たされた。
その再会が、意味するものは…?
しかし、てりやぁって(笑)
滸君は源海の次男、彼方とその妻柚月の子供。長男君ですが、板前は継がずに源海の秘書として走り回っています(笑)
でもこの子もたぶん、今回のみの名前だけ、かな…?(苦笑)
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意ください
さて、いきますかー




