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やられた!


予約投稿出来るこの幸せ…


※うろな町外話






「ぬかるでないぞ」


 薄暗い部屋の中、嗄れた声が一つ響く。


 普段使われていない簡素で埃っぽい部屋の中央では、二人の人物がひっそりと立ち手短に言葉を交わしていた。


 片方は、元老院を統べる八つの長の内の一人。

 ダボっとしたローブに目深に被ったフード。そこから垂れる長い髭に曲がった腰。骨ばった細い手に玉の嵌まった杖を持ち、その身体を支えていた。

 もう片方は、元老院が裏事用に〈子飼い〉にしている者達の内の誰か。

 白い獣の面が、暗がりにぼんやりと浮かび上がっている。


「たかがか弱き少女一人。拐うのに手抜かりなどある訳がない。謝礼分は、きっちり働かせて頂きますよ」


 眼前の老人に、くっと喉を鳴らして答える獣面の男。それにふんと鼻を鳴らし、カンッと杖の先で床を叩いて、


「薄汚い金の亡者め。そのような偉そうな口は、我らの前にかの少女を連れてきてからいうんじゃな」


 吐き捨てるかのように告げもう用は無いとばかりに踵を返し、部屋から出て行こうとする老人。

 肩を竦めそれをただ見送っていた獣面の男だったが、ローブを引き摺る音がピタリと止んだのに怪訝そうな眼差しを向ける。


「そうそう。言い忘れておったわ」


 その視線を見返しながら、戸口に立った老人はくるぅりと後方を振り返り。


「『鳥』は飛び立った。もう一度言うぞ。『鳥』は飛び立った。この意味はお主でも分かるであろうが、よいな? なにがなんでもかの少女、〈七番〉を我らが眼前に連れて来い。――邪魔する者は、容赦するな」


 ニタリとし口元を覗かせてそう告げ、静かにその場を後にする老人。

 パタン、扉が閉められるまで恭しく腰を折っていた獣面の男は、ゆっくりと頭を上げながらくり貫かれた面越しのその瞳を、愉快そうにすぅと細めた。


 男の記憶が正しければ『鳥』とは即ち、神殿側の『守』である者達の総称だ。


 神殿独自の防衛機能。


 といっても昔ならばいざ知らず、今や険しい山を登ってわざわざ進軍してくる敵など皆無である為、紛争等が未だ絶えない箇所と比べて見れば、そう高くはないのだろうが。


 神殿との繋がりを持とうと、周辺諸国の重鎮の子息息女、即ち貴族位を持つ者達が神殿の護衛役にあてがわれているのだ。程度はあれど、温かな所でぬくぬくと育った、戦場に駆り出された事もないような平和ボケしたそんな衛兵がのん気に神殿の門を守っているのだ。

 これでは神殿の〈お飾り〉である神官と、然程変わりはないではないか。


 それならばこの地帯一帯に囁かれている、〈お伽噺話〉と同じく語り継がれている、救済者を守る者だとされている〈七守護り〉の守護者達の方が、まだ楽しみがいがあるというものだ。


 鳥を使役する、七人の精鋭――


 オリジナルとして、確証があるものがない故にその実態は明らかにされてはおらず、脚色過多ではあるのだろうが、一人ひとりが破格の強さを誇るのだと、言われているのだから。

 最も、これもおとぎ話、空想上の粋を出ないものであるが故、そんな者にお目にかかる事などまずないのだろうが。


「…………」


 そんな事を、ふと考えていたのを払うように首をふり。

 頭を切り替え思考を巡らす獣面の男。


 どうやら神殿の者達も、腑抜けばかりという訳ではないらしい。

 此方の動きに少しばかり、気付いている者もいるのだから。


 その事に、獣面の男は喉を鳴らす。

 どうやら少しくらいは楽しめそうだ、と思いながら。






「さて、と。そろそろ準備して行かないと、間に合わなくなっちゃうよな」


 神殿が建てられている山麓にある、神殿預りの孤児院のとある一室で。

 少年が一人、荷造りをしていた。

 といっても、使いそうな物を片っ端からトランクに突っ込んでいるだけだが。


「神殿(此方)はルー師匠、アプリ姐さんにリカとレオ。彼女の方にはフィル兄と、カルサムのおやっさんに俺、かぁ」


 呟きながら、数日分の衣類に洗面用具、神官様から頂いた旅費をトランクに詰め。


「フィル兄とカルサムのおやっさん(二人)がいるなら、俺の出る幕なんてないと思うんだけどなぁ」


 まぁ、話し合いで決まったんだから仕方ないけどさ、と金色の頭を掻きながら呟く少年。

 トランクに諸々を詰め込み、一応確認してからフタを閉じ。

 よし! と持ち手部分を掴んで立ち上がり、ドアがある方へと踵を返しかけたその時。


「それじゃあ、それじゃあ♪ アプリちゃんが代わりに行ってあげるよ〜☆」


 嬉々とした、少女のそんな声が間近で聞こえ。

 少年がえ? と思った時には、眼前でパチンとシャボン玉が弾け。

 弾けたそれが、眠り属性のものだと少年が理解したその時には、既に眠りの淵に誘われていた。


「ロジェロジェごめんね〜☆ それじゃ、それじゃ。後はよろしく〜♪」


 少年ロパジェが、がくりとベッドに崩折れながら意識を手放す間際に聞いたのは、少女アプリの、笑いを含んだそんな声だった。




 そんなロパジェが眠りから覚めたのは、それから三日後の朝。


「――やられたっ!」


 ベッドから飛び起き毒づいて、若干重い身体を引き摺りながら、ロパジェは慌てて部屋から飛び出すのだった――……



『鳥』とはなんぞや?

そして、してやられたロパジェ君(笑)

さて、どうなるか♪


※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です

ご注意ください



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