10/23 神官からの手紙
再び、うろな町にやって来たフィルとの再会を喜ぶ子供達を、太陽は複雑な心境で見つめていた。
夏に永遠さんに届けてもらった手紙の、返事がどうやら来たらしい。
稀に来るそれは、大体汐に宛ててのものが大半なのだが、今年のはなんと手紙を書いた者全員分で、そして返事の便りは手紙ではなく、一輪の花だった。
「…………」
フィルが届けてくれた返事の花を、太陽はじっと見つめる。
スノードロップ。
花言葉は、確か希望。
そんな意味合いの言葉を持つ白の花を、ただただ見つめる太陽。
送られて来た花の意味を、図りかねている。
お義父さん達には変わらない愛情、という意味の千日草。
陸は睡蓮。海はサイネリア。
空はアマリリスで、渚は蓮華草。
そして汐は――、ヤドリギ。
花言葉は、困難に打ち勝つ。
「…………」
ため息が、溢れる。
どう、解釈したらいいか、正直迷う。
これならお義父さん達と同じ千日草の方が、まだよかったかもしれないと思う。
良い意味で、捉えればどちらも良い事なのだから、素直に喜べばいいのだろうが。
夏の終わりに、フィルからあんな話を聞かされた後に――、こんなモノが来るだなんて。
これではもう、確定されてしまったも同然だ。
汐(あの子)が狙われている、という事実が。
「信じていてあげてね」
永遠(お義母)さんのその言葉が、脳裏を過る。
でもそれに、本当に信じて待っているだけでいいのか、わからなくなる。
「……はぁ……」
息が溢れる。無意識に。
それに、声がかけられる。
「太陽さん?」
「!」
はっとして声のした方を見やると、そこに首を傾げるフィルが立っていた。
「あ、えぇと……」
何処と無く気まずくて、周囲に視線を巡らす。すると、さっきまでいた筈の子供達の姿がない事に気付く。
「あの子達は?」
「聞いてなかったのかよ。風呂行った海と汐以外は、二階いったぜ?」
苦笑混じりに告げるフィルに、そう、と小さく呟いて。
沈黙が、訪れる。
今日はいつもみたいに、ふざけて口説いてこないフィル。
こんな状態でこられても、上手くかわせる自信はないから、助かってはいるんだけれど。
でもいつも通りじゃない事が逆に、何かを告げてきているようで。
まともに、その顔が見れない。
視線が合ってもついつい、此方から視線を逸らしてしまう。
そんな状態が暫し続いた後。ガリガリ頭を掻いてから、フィルが一つ呟いた。
「何か言いたい――いや、聞きたくても聞けない、って表情だな?」
「っ!」
その言葉に、顔を上げて。
視線鋭くフィルを見る。
わかってるくせに、という思いを込めて。
それに、肩を竦めてため息を吐くフィル。
「……そこまで、気ぃ張ってなくていーって。今すぐどうこう、ってワケじゃねぇって言ったろ〜。太陽さんは、〈いつも通りに〉いてくれりゃあいーんだよ。対策はしてっし、面倒事は――、俺様達の仕事だかんな」
「え……?」
フィルの、言っている言葉の意味が分からなくて、ポカンとした顔でその場に佇む太陽。
見やったフィルの表情は、飄々とした不敵な笑みが浮かんでいて。
ニッとその口元を引き上げたかと思った瞬間、いきなり片膝付いて跪かれて、驚いて目を瞬いてしまう。
「えっと、あの……フィル……?」
突然の事に困惑気味に呟かれたその声が、聞こえていない筈がないだろうに立てた方の股に手を添え、もう片方の手は握り拳を作った状態で、床面に据えられ。
サラリ、その白の髪を揺らして頭を垂れ、フィルは恭しく呟いた。
「――青空太陽様。我が主神殿最高位神官、ラタリアイーデ・カラギュスタッドより、封書を一通賜っております。必ず、お納め頂くようにとの仰せです」
いきなりのその変容ぶりに、ついていけない太陽。
フィルの真面目な所など一度も見た事がないのだ、それも無理はないだろう。
それに現日本において、誰かに跪かれる事など、そうあるものではないのだから。
しかし――、フィルがふざけてやっている訳ではない事は、その雰囲気からなんとなく分かる。
それにごくり、唾を飲み込み姿勢を正す太陽。
身動ぎしたのが伝わったのか、それが合図であったかとでも言うように懐から一つの封筒を出して、そっと太陽に差し出しながらフィルが呟く。
「……お受取り頂けますね?」
フィルの声が、静かに響く。
その声がまるで、全然知らない人であるのようで。
妙な、緊張感に包まれる。
シン、とした静寂が耳に痛い。
そんな中、おずおずと手を伸ばして。
「……お預かり、致します……」
太陽は、そっとその封書を受け取った。
神殿の紋を冠したシーリングが施された――、最高位神官からの重要書である、その封書を。
ちゃんと、礼儀正しくしゃべれるフィル(笑)
もうしないでしょうが
そして、開けられない手紙を貰ってしまった太陽
悩みは尽きない…
※後日、日付を揃える為差込で移動させる予定です
ご注意くださいませ




