10/23 二度目の来訪
「よっこらせ、っと」
人気のない砂浜。白い大鷲の背から、ヒラリと砂地に降り立つ少年。
その少年の髪色は白銀。勝ち気な瞳は澄んだ蒼色。
どう見ても、子供にしか見えない彼がその背に担いでいた袋を地に下ろすと、それを待っていたかのように一度羽ばたいた大鷲が、その身体のサイズを変化させ少年の肩にバサリととまる。
浜辺に立つ彼の名前はレディフィルド。死した者へ、生者からの言葉(思い)を届ける郵便屋。
マメ鳥を使って生者からの思いの綴られた手紙を収集し、死者に届けるのが仕事である。
しかし今回のうろな町来訪は、手紙を集めに来たという訳ではなかった。
夏に収集した手紙を届け終え、届けた手紙の返信――つまり、死者から生者への返事の便りを届ける為に、再びこのうろな町にやって来たのだった。
しかしレディフィルド――フィルは、いきなり途方に暮れていた。
夏と違い、人気の極めて少ない浜辺を見て、
「しくった。俺様とした事が、太陽ひかりさん達が何処に転居したんか、聞くのをすっかり忘れてたぜ」
どーすっかなぁ、と呟き頭を掻く。
(……監視役に、聞くんは容易いが……。動いてねぇって事は、うろな町ここにいるんは間違いねぇしなぁ〜)
「……太陽さん達の分だけってワケじゃねぇし、他のやりながら考えっか〜」
思案しながら呟いて、首から下げた鳥笛を手に取り、笛を吹く。
今回は〈返事のあるもの〉だけを選んで吹いている為、集まるのにそう時間はかからない筈だと踏んで、そこで暫しフィルが待っていると。
バサリバサリ、羽音を響かせて、マメ鳥達が集まって来る。
集まって来たそのマメ鳥を一羽一羽確認して、左足についた筒に各々に宛ての手紙を、きっちりと入れていくフィル。
まだ見習いといえど、マメ鳥達の『顔』は一羽一羽違える事なく覚えている。
覚えていない等あり得ない。
このマメ鳥達を育てたのは、他ならぬフィル(自分)なのだから当然である。
そしてどのマメ鳥が、誰宛ての手紙を持ってきたのかも、勿論覚えているフィルは正確に筒に手紙を入れ、着々と作業を終わらせていく。
「よっし! いっちょあ〜がり〜っと♪」
呟いてパチン、フィルがその指を鳴らした瞬間。
それに答えるかのように、一斉にマメ鳥達が飛び立っていく。
晴れた青空に、その白はそれはそれは壮快に映った。
「た〜のんだぜぇ〜〜!」
散々に飛んでいくマメ鳥達を見送りながらそう告げて、当初よりは軽くなった袋の中身を確認するフィル。
その間も肩にとまっている鷲のルドは、文句も言わずにそこに鎮座しているのだった。
「えぇっとぉ〜? 後は、太陽さん達分の返事と――」
と確認しつつ袋の中を漁るフィルの手が、ある小箱の前でピタリと止まる。
細長い箱と、小さな箱の前で。
「こいつは確か」
アイツのだったよなぁ〜と呟くフィルの耳に、再び鳥が羽ばたく羽音が届く。
その音にフィルがそちらを振り向くと、森の方からマメ鳥が一羽、此方に向かって飛んできている所だった。
そのマメ鳥は夏の終わりに、バス停で会った黒髪に黒目の男――、汐セキが運送会社の者だと言っていた、カガワと言う名の男と共にいたマメ鳥だった。
そして先程の二つの箱は、そのカガワに宛てての返事もの。
バサリバサリ、マメ鳥がフィルの周りを旋回する。
そしてフィルの眼前で一旦留まると、ヒラリと身を翻し町の方へと飛んでいく。
それに、フィルは肩にとまっているルドと顔を見合わせ。
「ついて来いってか? しゃーねぇなぁ。行ってやっかぁ〜」
ニヤリと、その口角を引き上げ呟いた。
フィル君再び(笑)
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より、ちらりと賀川さん
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