パンドラの箱
昔の事を回想(思い出して)…
本当は、五歳までは、忘れてた。
三歳の時に、お父さんと一緒に一回、皆の前から消えちゃって、汐だけが戻ってきた時。
三日間、高熱にうなされて。
それから覚めた時、お父さんがいなくなったのはわかってたけど、〈どうして〉いなくなっちゃったのかが、わからなかった。
フィルは、汐のせいじゃないって、〈アレ〉は起こるべくして起こった必然だったんだって、言ってたけど。
一つだけ、違う事があるんだよ。
汐のせいだったのに。
お父さんが、いなくなっちゃったのは。
どうしていなくなっちゃったのか思い出したのは、五歳の時。
移動しながらお店をしているから、荷物は限りなく少ない方がよくて。
増えてきた荷物を皆で、整理する事になって。
〈あの時〉持ち帰った物達が入れられていた箱を、うっかり、汐が開けちゃったんだよね。
その時流れてきた〈物の記憶〉に、〈忘れさせられて〉いた事も含めて全部、全部思い出して。
あんまりにも情報量が多かったから、許容オーバーで倒れちゃったけど。
夢の中、継がれるようにして見せ続けられた〈すべて〉。
〈覚えている〉んじゃなくて、魂に直接〈刻みつけられている〉もの。
それが〈何か〉
どうして〈あるのか〉
どうしてお父さんが〈いなくなったのか〉
深い深い眠りの淵、深淵の底で、〈見せられた〉それらは。
嫌なものじゃ、なかったけど。
〈思い出し〉ちゃ、いけないものだった。
お父さんが、何も言わずに、教えずにいなくなっちゃったのは。
〈知らない事〉で色んなモノから、汐を守る為だったから。
だから汐は鍵をかける。
〈知ってしまった事〉を、〈知らない事〉にする為に。
魂に鍵をかけて、〈忘れる〉。
〈なかった事〉にする。
それが、今出来る汐の、最善のものだから。
〈何も知らずに〉笑っていれば、〈今まで通り〉でいられるんだから。
目を覚ました汐は、ただ泣き笑う。
滑って転んで頭打ったーって。
頭打ったのは本当で、たんこぶ出来てて、痛かったし。
監視役の人達には、〈力〉の事はわからないから。
今まで通りにしていれば、〈今まで〉のままでいられる筈。
お父さんが帰ってくるまで、汐がちゃんと、〈出来るように〉なるまで。
守ってくれているものを、壊させる訳にはいかないから。
〈いつか〉は、暴かれる日が来るのだとしても。




