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さぁ、いきましょうか?


※うろな町外話

上げるだけならよいしょっと






 白を基調とした神殿内にある、一つの教会。


 アーチのかかった両開きの扉を開くと、祭壇まで敷かれている赤の絨毯が、目に映える。その左右には参拝者達の為の木椅子が、これも祭壇の側近くまで、ズラリと並んでいた。


 昔は連日、溢れんばかりの参拝者達でごった返していたが、雲をも突き抜けた先の頂きにある神殿内の教会に辿り着くには、険しい山を登るか、山内をくり貫いて作られた無数の石段回廊を上がるしか方法がない為、かなりの揚力を要する。

 それに足腰の弱いお年寄りや子供には過酷で危険だ。それ故町民らからの要望もあって、下町に姉妹筋の小さな教会を建ててからは、めっきり人が訪れなくなった。


 今やただ、静かな静寂に包まれているだけの場所。


 そんな静寂しか無いその場所で、静かに祈りを捧げる者が一人。


 白紫の髪に、神官のみが着る事を許された法衣を身に纏い、手を組み、綺麗な姿勢で壁に掲げられた十字架に祈りを捧げるのは、この神殿の神官であるラタリアだ。


 静かに祈りを捧げるラタリアに、一つ声がかけられる。


「精が出るねぇ〜。やっぱり毎日やってるの〜?」


 間延びし悠々とした、軽い口調。

 もう随分と久方振りなその声に驚く事なく、ラタリアは閉じていた目をそっと開いて、声のした方、教会の出入口付近を振り返る。

 紫水晶の瞳が、天窓から射し込んだ光にキラキラと輝く。


 ラタリアの見つめる方向、教会の出入口から、にこやかな顔で歩み寄って来る者が見えた。


 見た目はまるきり子供。しかし、落ち着いたその物腰が、〈ただの子供〉ではない事を告げていた。

 薔薇色の髪を一つに纏めて肩に流し。にこり、笑みを絶やさぬその顔からは、本意がまるで読めない。


 そんな顔を見つめ返しながら、にこりと呟くラタリア。


「随分と〈お早いお帰り〉ですね? チェーイールー。五年前に出て行ったきり、もう帰って来ないものだと思っていましたよ、私は」


 皮肉たっぷりに。

 しかし、それに動じたふうもなく、へらっと笑ってその者、チェーイールーは呟いた。


「あっれ〜? そんなに経ってた〜? 僕はまだ、三年くらいだと思ってたんだけどな〜?」


 言いながら、てへっと笑ってゴメンネ☆ をするチェーイールー。

 謝罪に、一粒の欠片すらの誠意もない。

 それに、深々とため息を吐いて。


「貴方の場合、完全に否定は出来ませんが。……ただ戻ってきただけ、ではないのでしょう?」


 ラタリアのその言葉にピタリ、チェーイールーの歩みが止まる。

 調度、射し込んだ光の中に踏み込む寸前で。

 とさり、背負っていた〈手紙〉の入れられている袋を下ろす。


 光の中、立ち上がるラタリア。白紫の髪がサラリと揺れ、紫水晶の瞳が、光を反射しながらチェーイールーを見つめ。

 そんなラタリアを、眩しそうに影間からその糸目で見つめ返し、にこりとした笑みは絶やさずに、一つ呟くチェーイールー。


「フィル(彼)、行かせてよかったの〜? 彼はラタリア(君)の、〈(イージス)〉でしょ〜?」


 それに同じく、にこりと微笑んで。


「フィルが、一番の適任ですよ。戦力的にもね。それに、汐(彼女)が一番心を開いているのは、フィルですからね」


 告げて、その笑みをがらりと変えて続けるラタリア。


「それに――、神官(私)の〈剣(矛 ハルバド)〉である貴方(チェーイールー)がいるというのに、何故、守りにばかり徹していなければならないのですか?」


 にこり、笑う笑みは黒い。

 その顔を見返しながら、にやりとした表情(かお)をするチェーイールー。


「攻めは、最大の防御ともいいますでしょう?」


 ふふっ、と綺麗に微笑んでいるが、その頭の中では、一体どんな恐ろしい作戦が立てられている事やら。


 それに、くくくっと笑うチェーイールー。

 今からもう、楽しみで仕方がないとでもいうように。


「今までの分、きっちり働いてもらいますよ?」


 笑みを普段の穏やかなものへと戻してそう呟くラタリアに、恭しく腰を折って、チェーイールーは呟いた。


「仰せのままに。我が主」



黒い神官(笑)

そしてまたしても少年

キャラが増えていく…



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