10/12 明日の為の準備、は…
早起きのミラクル!
海の家ARIKAの室内。
夏場のみお店として使用しているそこは、秋冬のこの時期に誰かがいたりする事などは、そうないのだが。
今日は、少し様子が違うらしい。
朝から二人の人物が、各々準備に追われていた。
一人は料理担当、青空家の次女の海。
調理場で、せっせと明日の料理の仕込みに励む。
調理台の上には既に、仕込み終わった数々の品が所狭しと並べられていたが、まだ足りないとでも言うように、休む事無くその腕をふるっている。
もう一人は、四女の渚。
営業時はテーブル等が置かれているその場所にブルーシートを敷き、濡れないよう山のように被せられたシートの裾から覗く、無数のコードが繋げられた先のPC画面を凝視して、キーを操作し細かな微調整を繰り返していた。
そう。
海と渚の二人は、明日浜辺で行われる特訓の、準備をしていたのだった。
ストトトトッ
リズム良く切られる食材の音とキーを叩く音だけが、室内に響く。
「どーよ? そっちはそろそろ終わりそうかぁ〜?」
ブゥイィィィン……ガリガリガリと、食材を削るミキサーの音に負けないくらいの大声で、海が渚に声をかける。
「…………話、かけないで。気が散る」
それに、いつも通りに声を返す渚だが、勿論、海に聞こえている訳はなく。
「はあ〜〜っ? なんだってぇ〜〜!?」
更に、大きな声で聞き返される。
「!」
それにより、ミスタッチが引き起こされる。
本日、既に三回目。
渚はひとつ、ため息を吐いて。
じいぃ〜っと、海を見つめる。
非難がましいその瞳で。
それに気付きミキサーのスイッチを切って、肩を竦めながら海が呟く。
「なぁんだよ〜? 効率が良いから、一緒にやるって決めたんだろ」
大体、そのロボ運ぶんは発明品使ったとしても、渚一人じゃ出来なかったろ、とつけ足す海。
海のその言葉に一瞬詰まる渚だが、じぃっと海を見つめてボソリと呟く。
「…………そう、だけど。終わるまで、声かけないで……って、言った」
「いいじゃ〜ん、もう昼なんだし。どうせ、声かけようと思ってたんだよ。渚だって昼飯食うだろ?」
「…………」
それにちらり、PCの画面を見やる渚。
画面の表示時刻は、調度十二時を指している。
そして自分のお腹も確かに、すいている。
「…………」
ただ、話を逸らされただけのような気がする。
そう思いながら思案する渚だったが。
海姉のご飯は、美味。
人の三大欲求には、そうそう抗えるものでもなく。
暫ししてから、渚は諦めたようにため息を吐いた。
しかし実はそれが――、選択間違いだったと、気付く事もなく。
海と渚。二人の昼食は賑やかに進む。
専らしゃべっているのは海で、渚はそれに頷くか、一言二言言葉を返すのみで、黙々と食事を口に運んでいたが。
今日の昼食は、温野菜サラダにささみと万能ねぎのスープ、ふわふわ卵のオムライス、デザートは桃とバナナのヨーグルトソース添え、だ。
昼食前に起動させたチェックソフトが、終了するのは四十分前後。
ゆっくり食べても充分間に合う。
海の話を聞きながら、順調に箸を進め。
明日、起動させたらすぐ特訓に入れるようにしておこう、と思いながらごちそうさまでした、と渚がその手を合わせた所に。
「――んで。これがその試作品なんだけど」
と言って海が、つぃと差し出してきたのは、コップに入れられたドリンク。
「ジュース類は鮮度が命だから、また明日新しく作るんだけどさ。試飲(確認)は、しといた方がいいだろ?」
どうやら、『ムキムキスペシャルドリンク』の試作品らしい。
海のその最もな意見に、コクリと頷く渚。
自分は鍛えている訳ではないが、それがどんなものなのか、という事に若干の興味があった。
データ収集している渉先生の身体数値は、初期と比べぐんと上がっている。
体力、肺活量、持久力。筋肉、骨盤強化度、血流量の増加。電気信号の伝導率、反応速度、瞬発力。
そして、エネルギー変換率の向上。
渉先生が常に貼っている〈測量くん・ミニ〉から、自動受信で更新される一日のデータの総数値は、目を見張る程の上昇を見せていた。
そんなものを、毎日見ているのだ。
ちょっとくらい興味を惹かれても、別におかしな事ではない。
「あたしも飲むし〜」
と言って、同じコップを手にする海。それに頷いて。同時にコップに口をつける。
色もキレイだし、味もまあまあ。これならいいんじゃないか、と思った渚だったが。
「…………!?」
次の瞬間、ボンッ! と効果音が付きそうな程一気に、その身体に朱が上る。
その事に、いきなり身体が熱くなって、何が起きたか分からないまま、渚が熱り顔を海に向けるが、海はいたって普通の状態で。
海姉にはもしかしたらこれくらい、なんてことないのかも……とも思いながら、それに不思議そうに首を傾げ心持ち、ボンヤリしたような気分の中、取り合えず水を……と手を伸ばす渚だが。
「ほい」
と言って、海から手渡されたコップを手に取り、それをちゃんと確認しないまま、ちびっと飲んで。
今度は、その顔を青くさせ。
「あ、悪りぃ。こっちだった♪」
と言って海から三度渡された、そのコップの中身をこくりと口に含み。
最後は、その顔を紫に変化させた後蒼白になって、渚はへろっとカウンターに突っ伏して、暫ししてから昏倒した。
そんな渚の耳に、最後に聞こえたのは。
「味としては大丈夫だったけど、やっぱ一種類ずつじゃあ、効果強すぎっぽいなぁ〜。折角色々取り寄せたのに。でも無駄にすんのは勿体ないし〜。ん〜、こーなりゃ仕方ない。全部入れて薄めっか♪」
嬉々とした海の、そんな楽し気な声だった。
そう言えば――、ARIKA(店)の入り口に、「超! 高濃度プロテイン」やら「◯◯特産、マル秘食材」やら「幻の超珍味!」やら「万歳生薬」やら……色々な段ボールの小箱が沢山積まれてた、と今更ながらに思う渚だったが、既に遅く。
突如襲ってきた疲労感と急激な眠気に、その意識を手離した――……
たぶんこれで、
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌 10月13日その2 修行編その6 雨の砂浜、君はそこにいた。
に続くんではないかな〜と
さて。完成した『ムキムキスペシャルドリンク』とはいかなるものか!(笑)
たぶん、データによる検分と確かな効能と、海の子供心で出来ているに違いない
色々混ぜられているので、調度良いものになっている筈ですよ〜
しかし、5日の仕返しですか?海さん(いや、たぶんそんな事本人は思っていない(苦笑)そして何者だ、この子…
きっと夜に、渚は頑張って作業を終わらせたんだ…
海が絡むと、どーしても一筋縄、といいますか穏便にはいってくれないなぁ〜
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌より、渉先生のお名前と、スペシャルドリンクを
お借りしております
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