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火薬と雷管

 ベルが今取り組んでいるのは銃の開発。とりあえず、設計した部品で組み立て手をしてモデルガンレベルのものはできている。

 ただ実際に使うとなると強度や耐久性の問題が出る。ベルのタレントである『武器の創造主』の力は、作り方は分かっても、素材は生み出せないのだ。だから一から作るとなると、設計はできるがものはこの世界の科学レベルに合わせて作ることになる。素材から新たな開発をするしかない。

 ベルの学校での過ごし方は、昼間は高等学院で基礎的なことを学ぶ。午後は現代造形学部の部室であるものを開発していた。取り組んでいるのは『銃弾』の製造である。

 初期の銃の弾丸は『鉛玉』である。文字通り、鉛を丸くしたもので、銃口内の火薬を爆発させて打ち出す。

 球状の鉛玉では空気抵抗を受けて失速するため、有効射程距離は100mほどである。鉛玉もやわらかいので貫通力は弱い。鎧を突き破り、体に命中しても突き破るほどではない。だから銃弾の開発は重要だ。

「鉛の弾頭を金属で覆う構造とは、すごいアイデアだす……」

 ベノンが興味深そうにベルに聞いてくる。弾丸の構造については紙に書いてある。それを見ているのだ。

「鉛玉は簡単に作れる。そしてこの円筒も金型さえできれば、こうやって金属を流しこめばできる」

 ベルは部室に持ち込んだ携帯用の炉を使い、金属を溶かしたものを慎重に金型に流し込む。この弾丸用の金型も苦労して作成した。

「この金属は何なの?」

 そう聞いてきたのは伯爵令嬢のクロエ。ベルが武器を作ると聞いて最初は興味がなかったようであるが、作っているものが今まで見たことがないものなので今はベルの作業を食い入るように見ている。

「これはギルディングメタルといいます。銅と亜鉛の合金です」

「銅と亜鉛の配分は?」

 これはクラブ長のロイス。彼もベルの作業に興味があるようだ。彼の制作している美術作品は、金属を加工した像なので材質に興味があるようだ。

「銅が80%で亜鉛が20%です」

 ベルには『武器の創造主』のタレントがある。転生前の知識で弾丸の構造は分かっている。

「この金属の器は中が空洞だす。ここに何か入れるだすか?」

「ここに火薬を詰めるんだよ」

 ベルはそうベノンの質問に答えたが、この火薬が問題である。なぜなら、この世界はまだ火薬が一般には流通していない。黒色火薬を作っていると話には聞くが、それは遠くの国の話。ベルが住むアウステリッツ王国では、作っているという話を聞かない。だから最初から作らないといけないのだ。

 ベノンに火薬のことを話すと、さすがは博識。外国で作られていることは知っていた。

「そしてもっと難しいのが雷管。これがもっとも難しい」

 雷管とは衝撃で爆発する部分。ここには衝撃で爆発する物質である『雷汞』を入れるのだ。雷汞の材料もタレント能力で分かっているが、問題は必要な薬品が手に入らないのだ。

(水銀は手に入る……。今、商会を通じて注文中。アルコールは簡単に手に入る。問題は濃硝酸。これが問題だ)

 硝酸は硝石とミョウバンを混ぜて熱すればできる。転生前の世界ではなんと8世紀のアラビアで発見されたくらい昔からある。

 硝石さえ手に入ればよいのだが、これがこの世界ではあまり知られていない物質なのである。他国で気候的に長年成分が蓄積され、自然に生成されている国もあるとは思うが、アウステルリッツ王国は気候的にも硝石が生成できる土壌でなく、人工的に生成されたものに期待するしかなかった。

 人工的に生成する方法。これもベルのタレント『武器の創造主』の能力なら分かる。硝石は人や家畜の糞尿が堆積し、発酵させるとできる。昔は便所や家畜小屋の床下の土を集めて硝石を得ていた。天然の硝石がないのなら、意図的に作るしかない。

 ベルは他国に存在しないか調べるとともに、人工的に硝石を作る準備もしていた。それは風通しのよい小屋に土と木の葉、石灰石と糞尿を混ぜて寝かせる「硝石丘」を作るやり方だ。

 しかし、この方法だと5年の歳月がかかるという。今のうちから仕込んでおくことはするが、いますぐ欲しいとなると古家の床下の土や家畜小屋の床下の土を採取してそこから抽出するするしかないだろう。

 それについても同時に行っている。ベルが使用するくらいの量なら集められるだろうが、大量の弾丸を生産するとなると無理である。

(まずは硝石の入手。火薬と雷管の制作はそれからだ……)

 ベルの試行錯誤は続く。


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