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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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前科69:祝福されない子供たち






 科学技術の発展により、魔術を応用した多くの兵器が生まれて来た。その一つの完成系が魔導アーマーと呼ばれる兵器である。だが、それも十年以上前の話。現代では小型の魔導アーマーの開発が主流となってきている。人型を超えて、更に小さく。美晴が使った鳥型の魔導具も、最先端の技術である。その開発の歴史の中に、着用型魔導アーマーという兵器があった。人間が着用して兵器となる"それ"はあまりにコストが掛からず、そして、多くの犠牲者を出して歴史の闇へと消えていった──。














「その女を渡せ──ッ!」



 アイラが拳を構えた。闘る気だ──と美鈴に緊張が走る。だが、一方で子供の頃とはもう違う。自分は血継魔術師として鍛錬を重ねて来たという自負がある。アイラも当時は優秀な魔術師であったが、完全に血継魔術師として目覚めた自分自身と渡り合えるレベルであるかは疑問である。鉄甲付きの拳を顔の前に構えた。そして、短くジャブ。


「────ッ!?」


 避けれたのは偶然だった。美鈴の顔の横を衝撃波が駆け抜けていく。拳の先から魔術が飛んできた、と認識した時にはアイラが既に迫って来ていた。鋭い速さだ。己と同格だと美鈴が拳をフック気味に振った。──が、読まれていた。下に潜ったアイラのアッパーが美鈴の顎先を掠める。ぐらりと視界が揺れた先、美鈴は思いだした。


(確かアイラは──)


 咄嗟に上げた左手のガードはアイラのハイキックを阻んだ。彼女の決め技であるハイキックをかつて何度もくらった事を思い出したのだ。受け止められたアイラに動揺が走った。近接戦は美鈴の距離でもある。魔力の爪を展開して牽制も込めて振るうと、アイラは距離を取り始めた。


(美鈴────っ! これが、本物の血継魔術か)


 アイラも内心冷や汗をかいている。クリーンヒットは避けたい一撃だった。子供の頃はそこまで魔術を使いこなせていなかったが、ここまでの使い手になっているとは予想以上である。アイラとてこの街で血継魔術師と何度も戦って来た。その魔術師達と比べても美鈴は明らかに強い。彼女の引き取られた家柄や、在原家の御曹司と一緒にいる点から見ても、彼女が東京魔術大学に入学していた事は想像に容易かった。


「アイラ、時間がねぇ!」


「さっさとやらないと──!」


 しびれを切らして周りを囲んでいた少年少女達が一斉に魔術を発動させた。狙いは清春ではなく、美晴とまぁたそだ。だが、無数に降り注いだ魔術は氷の壁によって阻まれてしまう。


「ちょっと、皆! 待っ──」


 アイラの声は半分ぐらいにしか届かなかった。迂闊に清春に接近した少年の腹が氷柱によって貫かれた。いくらドラッグがあるとはいえ、レベル差があり過ぎる。美鈴も知っていた顔だ。


「れんと、そうや……!」


 だが、知っている顔はそれでも少ない。殆どが年下のようにも見える。アイラが連れている子達は、あの団地の子なのだろう。だが、こんな反社会勢力に堕ちているなんて大人達が許さない筈だ。どうして──と疑問ばかりが浮かぶ中、

 

「オレは、男には一切容赦しねェからな──!」


 清春が怒りの声と共に魔術を展開した。

 美晴とまぁたその安全を最優先にしているからか攻撃が丁寧だ。子供達もようやく清春が格上だと認識したらしく、前には出てこない。だが、清春の氷はどんどんと拡がっていく。完全に展開したら彼らに勝機はない。それを理解した美鈴は──


「アイラ、辞めさせて。私達に勝てるわけないでしょ」


「……あの女を渡せと言っている! なんで、アンタみたいな人間があんなロクデナシと──!」


「私の大学にドラッグを流通させた犯人が銀髪の女だって聞いたから探しに来たの! どうしてなのアイラ! 先生たちがこんな事許すわけ無いでしょ!」


 先生、と言った瞬間アイラの怒気が爆発した。

 怒りと共に前に出た。面食らった美鈴の反応が遅れ、アイラの拳が美鈴の腹に炸裂した。感触は硬い。美鈴の狂化の前では魔導アーマーで増幅された拳でも一撃で悶絶させる事ができない。だから、とアイラは連続攻撃に入った。ガードを固めた美鈴に怒りと共に魔術を載せた拳を叩きこんでいく。


「お前が先生の事を語るな! 先生は、()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「──っ!?」


「西園寺の血を引くお前が居たからあそこは守られていたんだ! お前が居なくなってからヤクザが沢山来た! 皆暴力でやられた! 舞子もリサもあいつらに連れ去られた! 先生なんか、私達を守ろうとして顔がわからないぐらい殴られてゴミ捨て場に捨てられてたんだぞ!」


 出奔したとはいえ、西園寺の血を引く子供がそこにいれば悪用されては敵わないと西園寺が裏社会に圧力をかけていたのだ。美鈴の母が死に、彼女が西園寺に正式に引き取られてからはそれも無くなった。その後がどうなったかは想像に容易いだろう。まともな大人は殺され、残された子供たちは彼らの支配下におかれた。


「そんな……ッ!」


「あいつらの仲間になる奴だっていた! 私達は、仲間同士で殺し合ったんだ!」


 生活の質は上がった。飢える事も少なくなった。

 ただし、女は身を売り男は鉄砲玉。金もある程度ある。しかし自由なんかなかった。子供達のコミュニティでも小競り合いが起き始め、アイラ達はヤクザに屈したくなかったから戦った。仲間を殺し、一つにまとめ上げた。正しさなんか誰もわからなかった。それを教えてくれる大人達は皆殺されてしまったから。

 

「──お前に、私達の気持ちがわかるもんかッ!」

 

 防御態勢を取り続ける美鈴に対し、アイラは大きく拳を構えなおした。腕の装甲が稼動し、肉体へと食い込んでいく。刺さった電極がアイラの体内から魔力を直接搾り取っていく。各部のジェネレーターが稼動。増幅された魔力が右腕に集中し魔術印を体に刻む。捻りを加えた螺旋の力がアイラの研鑽と魔術によって増幅され、破壊力のある一撃となり美鈴のガードを突き破った。

 

「痛ッ!」


 胸部に衝撃が走る。肋骨がイった感覚があった。

 だが、颯太や課長の攻撃に比べればまだ耐えられる。思い切り吹き飛ばして距離を取ろうとしたが、


「まだッ!」


 美鈴の動作に合わせてカウンターが来た。鋭い一撃だ。ガードが崩れた隙をついて更にまた一撃。攻撃がどんどんシャープに鋭くなっていく。美鈴の動きに合わせて小刻みに攻撃が叩きこまれていく。截拳道の動きだ。耐えられる威力も連撃となれば変わってくる。完全にアイラの距離だった。間合いの判断が難しい。接近しようとした所でそれを読んでいたアイラも美鈴に接近した。

 


「吹っ飛べ!」


 ほぼゼロ距離からの全身の動きを乗せた一撃。腹が爆発したかのような衝撃に包まれ、美鈴の体が吹き飛ぶ。アイラは無理に追撃をせずに、そのまま清春に接近した。アイラの仲間達の相手をしていた清春の反応が若干遅れた。


「クソがッ!」


 格上の魔術師に勝つ方法はシンプルだ。──隙をつく。清春の氷の攻撃を避け、至近距離で必殺の打撃を放つ。幾人もの魔術師を屠って来たシンプルな戦法だ。だが、一瞬で清春の姿が消えた。最短のストレートリードが空を捉える。


「あっぶね」


 思い切り背後から氷柱でぶん殴られてアイラの体が吹き飛んでいく。確実に叩き込めた筈だった。あの距離から避けられた経験のないアイラに動揺が走る。清春が時間を停めて避けただけなのだが、アイラにそれを知る術はない。一方で、清春も切り札を見せたくなかったらしく舌打ちをしている。それだけではない。氷を広げて索敵範囲を広げていたが、誰かに破壊された感触が帰って来たのだ。

 

「あー……。めんどくせぇ。おい、美鈴。とっとと起きろよ」


「…………はい」


 美鈴が意気消沈してしまっているのも良くない。清春も美晴とまぁたそを守るので精一杯だった。大した事のない魔術師連中だったが、若さゆえの勢いと落ち着いた時の連携が上手いと感じていた。やりにくい厄介な相手である。そこに美鈴の不調も重なるとあまり状況は段々と悪くなっている。


「アイラ! 何か来てるよ!」


 向こうの索敵も遅れて察したようだ。

 直後、悲鳴が聞こえた。近くに居た彼らの仲間か。更に緊張が走る。アイラも美鈴は捨て置いて指示を出す。コツコツと音が響いて階段を誰かが上がって来た。何処にでもいる普通の女だ。これといって美人でもブサイクでもない普通の顔。印象に残りにくい顔だ。体にフィットするスーツを着ている。身長が女性にしては少し高めぐらいだろうか。緊張感が少し解けたが、清春だけはこの世の終わりみたいな顔になった。


「あら。勘の二択が外れましたか。こっちは竜種がいないようで」


 竜種という言葉に子供達が反応した。

 この女は敵だと一瞬で認識したのだ。一人が襲い掛かるが、鈍い音がして止まった。虚空から抜かれた巨大な魔剣が一振りで胴から切断したのだ。──アイツはヤバい。と全員が攻撃態勢に入った。

 

「やめろ!」


 攻撃態勢に入った美鈴を清春が鋭い声で引き留めた。清春はその正体を知っている。──相馬道征。この国最悪の殺し屋だ。在原家が特別契約を結んでいる。父が海外に行っている時はほぼ同行していたので、この国に絶対に居ないと思い込んでいた。


「……知ってる方ですか?」


「在原家が雇っている一番強ェ殺し屋だ。とっとと逃げるぞ。戦うだけ無駄だ」


 清春が今まで見て来た中で一番強い魔術師だ。そして人格破綻者でもある。そそくさと逃げようとしていると、巨大な槍が清春の足元目掛けて投げつけられた。当てる気はなかったらしい。


「あの人、戦いながら……」


 アイラ達の攻撃を全く意に介していない。

 しかも、魔術印が全く出ていない。だが、虚空から抜いたありとあらゆる武器を投げつけているだけだ。それだけでアイラ達は防戦一方になってしまっている。威力が並みの魔術とは比にならないのだ。


「坊ちゃん。どこへ行かれるおつもりですか?」


「いや、道征さん! アンタの邪魔する気はねェよ! オレもう気がすんだから帰るし!」


「帰ってはダメです。私、良い事思いついたんですよ。竜種狩りなんてめんどくさい仕事よりも、ここで坊ちゃん誘拐して在原からお金を毟った方が楽なんじゃないかって。渋ったら腕斬り落とすって脅せば100億ぐらい出してくれそうじゃないですか」


(知らねェよ……)


 交渉の余地なんかない。この女がそうするといえばそうなる。それ程の力を持っているし、彼女がここに居るとなれば彼女を止められる人間は父と一緒に海外に居るのだろうと予想している。それを踏まえて、美鈴にだけ聞こえるような声でこっそりと清春が呟いた。


「八代は一緒か?」


「はい。ですが、伊庭先輩も、その竜種と交戦中でして……」


 話が繋がって来た。龍頭狩りとして道征は雇われたのだろう。八代が美鈴を見捨てるわけがない。きっとここに来ると予測を立てて最善の道を探す。

 

「あの女はメチャクチャ強ェけど魔剣使いだ。八代が来れば勝機はある。時間を稼ぐぞ」


「指示を。私はあの方について知らないので」


「向こうさんも俺達が作った隙をついて道征さんを襲う筈だ。近寄り過ぎず、中距離からやれ」


 支配の魔剣なら道征の魔剣に対抗できる筈だ。

 清春が氷の氷柱を道征目掛けて放つが、魔剣の一振りで全て砕け散った。その隙をついて、美鈴が氷の隙間から魔力の爪を投げた。今度は虚空からナイフを抜き、美鈴の爪をいとも容易く斬り伏せた。何なのだあの魔剣は、と疑問が湧く。魔剣以外の武装が多すぎる。聞いた事がない。

 

「おや、懐かしい血継魔術ですね。()()()()()()()()()()


 道征の関心が美鈴に向く。清春には前に出るな、と言われたが前に出る動作に入った。発言から大方自分の魔術に対して知識があると予想したからだ。道征も警戒し、近接戦の構えをとった。本気で前に出る気はない。一瞬だけ。それに達人たる道征は反応してしまった──


(アイラなら、行くよね──)


 こっそりと背後に回り込んでいたアイラが急加速。アイラの拳打の速さを知っている美鈴は信じたのだ。アイラが連撃を叩きこんだら一気に清春と共に突っ込む。清春に目配せをしたが渋っている。

 拳が当たる瞬間。接近に気づき魔剣を手放した道征がアイラの拳を左手で捌いた。アイラと同じく截拳道の動きである。己より速く鋭い。縦拳がアイラの体に突き刺さり、体が吹き飛ぶ。


「何なんですかあの魔剣は……!」


 美鈴の漏らした声に清春は吐き捨てるように呟いた。


「あれが戦争の魔剣だ。あの魔剣に斬り殺された人間は、血継魔術も知識も経験も、全部道征さんに奪われちまうんだよ」


 殺した人間の()()()己のモノとする支配の魔剣と並ぶ災厄の魔剣。それが四大魔剣の一つ、戦争の魔剣の能力だ。この国で一番危険とされる殺し屋が持つ一騎当千の魔剣が新宿の夜でぎらりと赤く光り輝いた。

 

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― 新着の感想 ―
八代が居ないとシリアス度が跳ね上がりますね(笑) 支配の魔剣は戦争の魔剣を支配すると、戦争の魔剣に切られた魔術師の能力も受け継ぐのか? 東魔大どうでもいい話読みたくて、Xで結索かけるのですが何故か見…
他の魔剣の性能がが盛られるほど支配の魔剣の株が上がっていく。どう考えても戦闘力・機密保持でヤバ気な今回のや、前に八代を殺ったやつのオリジナルを差し置いて目の敵にされるの、もう絶対単純な魔剣の強奪・複数…
支配の魔剣よりこっちの方が危険視されそうなもんだが。 主に機密の問題で。
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