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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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68/78

前科68:めちゃくちゃ地味なお姉さんが反社ってちょっと興奮するよな。




 その街は当時、人の善意と悪意が入り混じる混沌とした街だった。抗争終了から二十年。東京の景色だけはかつての面影を取り戻しつつあった。ほぼ全壊に等しかった東東京の復興が遅れる中、異常な速さで復興が終わりつつあった地域があった。

 


 それが東京都新宿区。

 抗争最盛期、悪党達の避難先となっていた場所。

 混乱状態の行政を囲い込み、己達に都合の良い復興を目論んだ街。当時を振り返り、あの頃は天国だったという者もいれば、あの頃は地獄だったという者がいる。そんな街の片隅では親の目を盗んでは子供たちが繁華街周辺を走りまわっていた。


「せんせー! 終わったよー!」


 復興途中の昼間の町を子供たちが駆けていく。

 国籍も肌の色もバラバラな子供たちだ。近所にある巨大団地、戸山団地周辺に住む子達である。戦災孤児や住居を失ってそこに流れて来た家族の子も多い。

 

「わかった。次は組手にしよう。二人一組を作って」


 団地周りを走り終えた子供たちがわっと広がって二人一組を作って戦い始めた。

 フルコン空手だ。団地の広場で行われているそれは、正式な活動ではない。指導している男もボロ着でみすぼらしい格好だ。この街に流れ着いた浮浪者の一人である。何もかも全てを失ってこの場所に辿り着いた彼が、何かしてやれないかと思いたって始めた事である。こんな場所である。ある日いきなり子供が居なくなるなんて事はザラであった。そしてその中でも特に目を引く子供が二人が居た。


「みれー! 今日も泣かしてやるからな」


「今日こそアイラには負けない」


 アイラと美鈴という子供だった。二人とも普通の人間ではない。魔術の素養が特に強い。

 特殊体質を持つアイラ。そして血継魔術の素養がありそうな美鈴。二人の組手はレベルが違う。魔術を体に纏わせ、普通の子供以上の身体能力を持つ二人は、大人でもおいそれと手を出せない。現時点では年が一つ上で戦災孤児のアイラの方が強い。美鈴は今日も地面に叩きつけられて、ぐずぐずと泣き出した。


「ほらみれー。泣かないの。ただの勝負なんだから」


「……うるさい」


 人種も国籍も違う二人だが、姉妹のように仲の良い二人だった。

 二人とも両親がいないという共通点もある。だが、この二人もそう長くはない事を彼は知っていた。

 先月亡くなった美鈴の母親は名家の出自だったらしくそのまま本家に引き取られる事になったと聞いている。今は彼女の乳母として雇われた人間が、アイラと美鈴の二人の面倒を見ていた。


「──泣いちゃダメ。ほら、笑って」


「アイラが悪いじゃん……」


 アイラが美鈴の頬を優しくつねって口角を上げる。

 彼女がこの団地のリーダー格だった。強くて下の子に優しい。皆の姉のような存在だった。二人はもうすぐ離れ離れになってしまうが、この友情がずっと続いてくれればいいな、と彼は信じたかった。











 美鈴達の戦況は劣勢そのものであった。

 追手は血継魔術師が2人。先程の竜種が八代を倒したらもう完全に勝ち目はない。

 ただ、八代が負けるというイメージは不思議となかった。それは、彼が支配の魔剣の持ち主だからか。

 

 ──否。あのバカがヘラつきながら逃げている様の方が容易に想像できた。

 

 自分にやれる事は敵の撃退しかない。

 一人はタイマンなら勝てそうな所感がある。女の方が未知数で危険だと美鈴は判断した。10秒以内に倒せば何とかなる。抱えていた美晴とまぁたそを着地したビルの屋上に置くと、攻撃態勢に入る。


「観念したカ!」


 意表はつけなかった。鈴々は美鈴の反転を読んでいた。

 作戦を切り替え、拳の爪を射出したが鈴々の血継魔術が発動。重力操作によって全て地面へと叩き落された。美鈴が加速して走るも急に体のバランスが崩れ、宙に浮き上がる。上手く動けない。鈴々が周囲の空間の重力を変えたのだ。これは詰んだ──と諦めかけた時だ。


「────!?」


 鈴々目掛けて銀色の物体が飛んでいった。

 誰も予期していない角度からの攻撃だ。美鈴も完全に予想外の出来事だった。鈴々に迫ったのは小さい鳥を模した形のロボットだ。発射先は、美晴の背負ったリュックの中からだ。

 

(チャンス──!)


 鈴々の重力制御が崩れた隙を狙って美鈴がいち早く接近。

 強烈なボディーブローから次いで三発の打撃が入った。鈴々の体の骨が折れる嫌な音が聞こえた。ボールのように鈴々の体が吹っ飛んでいくが、既に飛鈴の拳が美鈴まで接近していた。


「──よくも!」


 体勢的に万全のガードはできない。──と思った所で美晴の放ったロボットが美鈴と飛鈴の間に割り込んだ。機械音と共に魔術印が展開。防御魔術が展開し、飛鈴の拳が阻まれた。


「凄い……!」


 魔導アーマーが実用化されてはいるものの、主に用途は軍事用である。ドローンに魔術を使わせる技術すらまだ構想段階だ。これには二人ともたまげた。だが、すぐに飛鈴はターゲットに美晴を含めて拳を放った。


「ひぃ!?」


 鳥型ロボットが自動で動いて美晴を守るように防御魔術を発動させた。一発は耐えられたものの、二発目は魔術印が破壊された。血継魔術師の攻撃に何度も耐えられるようにはできていない。美鈴が牽制も兼ねて魔力の爪を飛ばし、ようやく飛鈴が物陰に隠れてようやく攻撃が停まった。


「美晴さん。助かりました。魔導具ですかそれ?」


「ご、ごめん。使うの遅れて。──これ、前に話した私が大学で研究してる奴で……」


「ああ、あのAIと魔導力を組み合わせるっていう……」


 美晴が魔導力科で研究しているテーマは魔導具とAI技術の共生化技術である。

 子供や高齢者を魔導具でサポートする技術に加えてAIを利用して、所有者の良きパートナーとなる事を目的としている。魔導具と使用者を魔力で繋ぐ事により、ドローンという魔力を持たない無機物で発動しえなかった簡易な魔術の発動を可能にしていた。問題は美晴のような魔術の素養を持たない人間に負担が大きいという事だ。増幅器があるとはいえ、数回魔術を使っただけでもうヘトヘトである。


「ちょっとおおおおおおお!!!! あたしも守ってよおおおおおお!!!」


 ずっと放置されて半泣きのまぁたそが美鈴に飛びついた。巨体なので美鈴どころかそのまま美晴までをも圧し潰してバランスが崩れてしまう。そこを飛鈴が見逃す筈がなかった。拳の乱打が無防備な美鈴達へと迫る。


「女の子の扱い方がなってねェな」


 氷の嵐が飛鈴に降り注いだ。

 何の脈絡もなく、魔術印もなく一瞬だった。

 飛鈴も攻撃を中断し防御態勢に入る。だが、あまりに物量が多い。耐えきれずにどんどん体が凍っていく。美鈴達の近くにどこからかふわりと在原清春が降り立った。絶対的なピンチから脱出し、ぱぁっと三人の顔が輝いた。


「流石ですね! 私、在原先輩だけは違うと思ってました!」


「本当にありがとうございます! ちゃんと服着てて偉いですね!」


「え!? めっちゃイケメンじゃん! りりたんの知り合い!? 紹介してよ!」


 三人娘の反応に満足そうに頷いたが、清春の顔から作り笑顔が消える事はなかった。

 訝し気に思っていると、周囲に人だかりが増えた。子供ばかりだ。おおよそ、成人前。未成年が大半。美鈴が舌打ちし、吐き捨てるように言った。


「やっぱりあの全裸(バカ)のお仲間ですね。いえ、数が先程よりも多い分全裸よりもタチが悪いです」


「服着てるって冷静に考えると当たり前の話だもんね……」


「また顔だけクソ野郎かよ。この街多いんだよな」


 散々な言われようだったが余裕は崩さない。

 清春は逃げながら戦っていたが敵の数がどんどん増えて防戦一方になり、美鈴達の所まで逃げて来たのである。そして、ガチャンとひと際大きな響いて鎧を纏った女──アイラも追いついて来た。

 清春はアイラを指さし、


「あれ、お前の友達っぽいんだ。別に、逃げて来たわけじゃねェぞ? お前に会わせてやろうと思って──」


 言葉が終わる前にアイラが飛び出した。美鈴へと一瞬で迫り、拳を撃ち込んだ。美鈴はそれを素手で受け止める。この突き。そして頭部の装甲の隙間から見える銀髪。それだけで全部わかった。


「アイラ……! 久しぶりだね」


「美鈴! 私達を裏切って出て行ったお前が、今更この街に何の用だ!」


 アイラの口から洩れたのは強い拒絶の言葉だった。

 別れてから数年。本当の姉妹のように仲の良かった二人の壁は、あまりに背負ったものの大きさで厚くなってしまっていた。

 














 ──都内、夜。


 千代田区は麹町にその店はあった。

 夫婦で切り盛りする小さな和食屋である。

 この街に根付いて数十年、大戦も乗り越えた地元で愛される名店だ。

 

「お待たせしました」


 店主が何時もと変わらぬ様子でカウンターの客に水を出した。

 どう見てもカタギではない集団だ。客が入ると困るのか店の前には強面の男達が無言で立っている。勘弁してほしかったが何も言えない。座っているのは三人。その内の一人が、煙草を部下から貰った所で声が響いた。


「禁煙です」


 アルバイトの子が冷たい声でそう言い放った。

 半年前から入った相馬さんという子だ。こんな小さい店に若い子が働きたいというのも珍しかった。時給も格安なのにほぼ毎日シフトに入ってくれている。この店の味が好き、と料理に熱心な姿勢も良かった。妻と良い子が入ってきてくれたね。なんて毎晩のように語っている程だ。


「そ、相馬さん。今日はもう上がって──」


 何とかこの子だけは守ってやりたい。

 だが、強面の男は「そうか。悪かったな」とだけ言うと煙草を部下に返した。それなりの社会性はありそうな男であった。彼女はそれに目もくれず、淡々と注文用の紙とメモを手に取った。


「ご注文は?」


「──"竜"の叩き、一つ」


「12億円になります」


 何の会話かよくわからなかった。

 ふざけているとしか思えなかったが、当人たちは至って真面目である。

 

「なぁ、銀泉会さんよ。本気なのか? ふざけた額だ」


「仕方あるめぇよ。アンタ達の兵に、ウチの魔剣部隊投入したって状況は厳しい。向こうは血継魔術師を多く抱えているんだ」


「あの国のなりふり構わない姿勢には参ったね。俺達が組むなんて事も初めてじゃあないか」


 男達は新宿区を根城にするヤクザのトップ陣だ。銀泉会に加えて、普段は敵対している極業会もいる。今回の件でヤクザ側が負けそうになった為、親組織を通じて合同勢力となった。そして銀泉会はかねてより向こうの最大戦力でもある白龍を排除しようと、殺し屋と交渉していたが金銭面の都合で折り合いがついていなかった。

 だが、合同勢力となればこの法外な金額も何とか払える。それ程までに新宿のヤクザ達は龍頭に押されているのだ。ずっと交渉していた遠野は相馬の実力を知っているが、他の二人はまだ懐疑的であった。


「なぁ、相馬さんよ。なんでこの店で働いてるんだ?」


「花嫁修業です。好きな人がこのお店の料理を気に入ってたんですよ。なら、作ってあげたいって気持ちになるじゃないですか」


「……ちょっとばかし値段も法外じゃねぇか?」


「私、200億貯まったらプロポーズするつもりなんで諦めて下さい。まぁ、まだ付き合ってもないんですけどね」

  

 質問をした全員が何を言っているのかよくわからなくて頭を抱えた。

 遠野は知っていたので頭を抱えずに済んだ。そして、改めて相馬を見る。身長が女性にしては高いのが特徴ぐらいのどこにでもいる普通の女だ。黒いボブカットの髪に、薄いメイク。かといって全く垢ぬけていないわけでもない普通の女。この国最凶とまで言われる殺し屋にしてはあまりにオーラが無かった。


「前金はもう代理人に渡した。──ちょうど今、歌舞伎に白龍が現れたって連絡も来たから受けてくれねぇか?」


「あの街で戦うのですか? 流石に竜種と戦うのであれば、街の事なんか気にしてられませんよ?」


「覚悟の上だ。外国人に全部奪われたってりゃあ、こちらからしたら更地と変わらねえ」


「仕方ないですね……。店長。申し訳ございません。しばらくシフト入れなくなりました」


 エプロンを脱ぎ、相馬は本当に申し訳なさそうに頭を下げて店から出て行った。店主は何も言えない。状況についていけてない。迷惑料も込みで遠野は十万程カウンターに置く。

 

「彼女は一体…………?」


 店主の口から声が漏れた。質問ではない。単純な疑問だけが口から零れ落ちた。

 ヤクザ達も立ち上がって店を出て行こうとする。言っても言わなくても何も変わらない。一般人が彼女の存在を知ろうが何しようが何もできない。だから、遠野は去り際に心の底からどうでも良さそうな口調で呟いた。


「ごっそさん。あいつは"戦争の魔剣"、相馬道征(そうまみちゆき)。この国で一番頭のイカれた殺し屋だよ」




 

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私をフォローせずに東魔大のクソどうでも良い話が読めます。

よければどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 久しぶりなのもあるけど、単純に名前が似てて誰が誰だかわからない… [一言] 支配と戦争、字面だけなら戦争の方が強そうだけど、実際はどうなのか、楽しみにしております
[気になる点] 相馬道征って名前からして女のか?どうしても男の名前ぽいです。 200億稼いでプロポーズ(笑)好きな人が気になるわぁ〜 [一言] 更新ありがとうございます!
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