前科67:男は年に数回ぐらいチンコが言うがままに喋っている時がある。
その日、関西発イケイケホストグループAMUTOLUNAは大騒ぎであった。
前日の営業終了明け数時間後の昼間に、店が巨大な氷塊によって叩き潰されたのだ。
店は営業中止。プレイヤーは姫への対応を命じられ、それがひと段落ついたぐらいにまた事態が変わった。店のグループチャットに一枚の画像が貼り付けられた。幹部のアカウント本人による本人が半殺しにされた画像だ。自分達は誰かによって命を狙われている。それがたった一枚の写真でこれ以上なくよくわかった。
「これ抗争になるッスよね」
「だろうな。この街に来た時以来か。その頃、お前まだ社員じゃなかったよな」
「ええ……。でもバックれたらどっちみち半殺しじゃ済まんでしょ。だりぃけどやるしかねーっスよね」
「もう何人か飛ぼうとしてヤキいれたみたいだけどな」
先輩格のホストがスマホに送られて来た写真を表示させた。複数人の男が半殺しにされている。その画像を見て後輩のホストもケラケラと笑った。逃げ癖がついてる奴らはこれだからと嘲っているのだ。男達の表情はリラックスしているが、目は笑っていない。煙草を口に含むふりをして錠剤を口に含んだ。
「こっちも見ろよ。ウケるぜ」
なんて笑いながら画面を見せた画面には「応援呼」と記されている。
その言葉だけで全員の意思疎通が図れた。その瞬間、彼らが居た雑居ビルの配水管が破裂し冷気が周囲へと蔓延する。同時、魔術印を展開するが溢れ出た水が突如として氷柱へと変化し、襲い掛かる。
「っそがぁ!」
「集まれ!」
腹を貫かれた者が倒れ伏すと同時に体が凍りついていく。
魔術印も無しにこんな現象を起こせる答えは一つ。
相手は血継魔術師だという事だ。ドアが音を立てて開く。視線がそちらに集中するも、入って来たのは氷の塊である。意識がそれた一瞬、今度は窓を蹴破って誰かが入って来た。
「こっちでしたー!」
身体強化魔術で強化された蹴りをくらってはひとたまりもない。
入って来たのは在原清春だ。勢いよく吹き飛んでいく男が昏倒したのを確認するとそのまま周囲への攻撃始める。足で地面を叩く。清春の足元からはじけるように氷の塊が溢れだし圧倒的質量で男達の体を圧し潰していく。
「ンだ……この魔術!」
魔術印を展開するより早く氷が全身を侵食し意識が飛んだ。これでひと段落かな、と清春が一息つくと。
「死ね!」
最初に蹴った男が意識を取り戻し、魔導力製のトーチブレードを抜いた。魔術よりも展開が早く速度なら血継魔術と同じぐらいだ。不意をついた一撃の筈だったが、熱線が出ない。それどころか男も動けない。
「やっぱ魔力消費がすげェなこれ」
忌々しそうに清春が吐き捨てるように言うと男の体がそのまま氷漬けとなった。"時間を凍らせる魔術"。五月祭で清春の氷結魔術が覚醒した時に会得した魔術は清春の切り札にもなっている。まだ完全につかいこなせているわけではない。瞬間的な展開。何より魔力の消費量が凄まじい。使った後も頭痛がすると実戦で使うには課題も多い。
(このレベルなら後手に回ってもいけるんだけどなァ……)
相手が自分より格上だった場合、攻勢に転じる事ができるレベルなのかというとまだ自信はなかった。清春が成長したとすれば、格下相手でも惜しみなく血継魔術を使う事。五月祭の苦い記憶は経験へと変わり確実に清春の一つ上の魔術師へと押し上げていた。
「しかしまぁ、なんなんだこいつら」
ホストを締め上げて終わる筈だった。
末端を締め上げているまでは余裕だったが、幹部連中を襲撃し始めてからは手練れの魔術師と戦っているような気持ちだ。ここまで武闘派なホストは見た事が無かった。現に彼らは清春の襲撃を予見し準備していたのだ。そして──
「こんな軍用のトーチまで……」
足でトーチを踏みつぶして壊す。軍用の魔導具だ。
清春の氷結魔術ですらも溶かす熱量を出す。非常に高価なものであり、歌舞伎町のチンピラが所持できるような代物ではない。この分だと裏にかなりの大物が居そうだが、在原家に迷惑をかけれるのも楽しい。父親の命とか狙われないかな、と鼻歌を歌いながら男達を起こそうとする。
「しつれいしまーす。おそーじにまいりましたー」
ドアの隙間からうんしょ、うんしょと掃除機を担いだメイド服を着た少女達が入って来た。
二人組だ。顔の作りがそっくりなので姉妹なのかな、と清春は予想する。十歳前後の子供と中学生ぐらいの異国風の少女達だった。この光景に全く動じる事なく清春の横を通り過ぎていく。そして、倒れ伏した男達の頭に思い切り掃除機のヘッド部分を叩きつけた。──轟音。魔術印はない。魔導力の兵器のようだ。男達の体が肉塊と化し飛び散っていく。それを妹の方が無言で掃除機を起動させて吸っていく。
「……君達、姉妹の掃除屋さん?」
「そうです。ここの後処理をしておけとご依頼を受けました。もう少々で終わりますので」
「おねーちゃん。そこのおにーちゃんも始末しろってゆってたよ」
「お仕事の順番を守りなさい。一つずつ、ちゃんと確実に。アイラちゃんにそう教わったでしょ」
「お姉ちゃんの言う通りだ。オレも煙草吸いたいし、ゆっくりやりな」
ヘラヘラ笑いながら清春が煙草を取り出すと、姉の方がそそそ、と駆け寄ってきてライターを差し出した。気が利く子だな、と思うと同時。この年で仕込まれてしまったかと悲しい気持ちになる。直後、どすりと腹部に違和感。何時の間にか腹にナイフが突き刺さっていた。悲しい気持ちは一気に消えた。
「……顔色一つ変えないのですね?」
「女に刺されたの初めてじゃないんでね」
姉の方がぐりっとナイフを押し込んで捻ろうとしたが動かない。
よく見れば血の一滴すら滲んでいない。服の下で何かが邪魔をしてナイフが刺せないとわかったと同時、後ろに大きく跳ぶ。姉妹の顔に警戒の色が浮かんだ。ナイフが一瞬で凍りついて地面に落ちたからだ。掃除機を握る力を込めたが、地面から突如伸びた氷柱によって吹き飛ばされた。完全に手詰まりとなってしまった。姉妹は身を寄せ合って清春へと敵意の籠った視線を向けた。
「別に殺しはしねーよ。オレこう見えて、男の命なんかどうでもいいが、女の子の命は大事にするタイプだから」
「刺そうとした相手にも、随分とお優しいのですね」
「大体オレが浮気したのが原因だからな。今まで九割ぐらいオレが悪かったんだ。残り一割は誤差みたいなもんだよ」
「はぁ、それで……何が目的ですか?」
「オレはお前らの命と身の安全を保障する。引き換えに、オレの質問に全部答えて貰う」
「……拒否権は?」
「ない。従え。じゃないとえっちな事するからな。R-15タグとかゾーニングとか関係ねェ。いきなり未成年乳首氷責めコースだ。一撃永久BANまでいくぜ」
「言っている意味はよくわかりませんが、うすら寒い物を感じるのでその条件を呑みます」
会話しながら反応を探る。姉はあまり動じないが特に妹の方が言葉への怯えが強かった。それだけでこの姉妹がどんな目に遭って来たのか想像に容易い。条件を呑んでくれた事を顔には出さずに清春は安堵した。
「とりあえず、血なまぐさくてキツいから屋上いかね? 煙草も不味くてしょうがねーわ」
「拒否権はないんでしょう? 行きますよ」
姉妹に先に行くよう促し清春は紫煙を吐き出しながら雑居ビルの階段を昇っていく。
前を歩く姿は仲睦まじい姉妹にしか見えない。この街ではそんな少女達も裏の顔を多く持っている。義務教育すら受けられない子もいるのだ。屋上に出るとようやく血生臭さも消えて煙草も美味く感じるようになった。今日も五月蠅く騒がしい街から目を背けて空を見上げる。
「どこの組織所属なんだ?」
「親組織は"龍頭"。大体それで素性もわかりますよね?」
「大陸系戦災孤児の二世か。ここ最近、歌舞伎町で暴れまわってる新興勢力だな」
「そうです。そこの掃除部門に最近雇われました。他に聞きたい事は?」
「ここのホスト達とはどういう関係なんだ?」
「フロント企業の一つで、一部を足切りするから締めてこいとだけ伺っています。貴方が暴れたからでしょうけどね」
「成程な。オレはじゃあ今、龍頭と揉めてるって事か。やべぇ、面白くなってきた。そら道理で強ェわけだし、親父達も手を引けって言うわな」
海外でも有名な今一番イケイケの組織だ。
何でも有りの最悪犯罪者集団が相手である。国相手でも引かないぐらいの武力を持っているので、魔導具を末端の人間が持っているのも納得の組織であった。
「貴方、血継魔術師ですよね? 会社の人達何も言ってくれなかった。最悪」
「おう、東京魔術大学血継魔術科所属だ」
「全裸じゃないんですね?」
「そいつじゃねェ。一緒にすんな」
バカの悪名が轟いており最悪な気分になった。
あいつは何をやっているんだろうと一瞬気になったが、どうせバカな事やってるんだろうなと結論はすぐに出た。今日もこの街は騒がしい。どこかでドンパチやっているし、魔術印が夜空に煌めく。ビルとビルの間を爆走している女の姿もある。
「あのおっぱい。確か美鈴の友達の──!」
爆走している女が小脇に抱えてる女のおっぱいを見て目ざとく清春は気づいた。抱えている女はどこかで見た事あるが思いだせない。誰かに似ているような気もする。更にもう片方には巨体の女まで抱えているのでどれだけ力持ちなんだよ──とまで考えたところで、
「おねーちゃん。りんりんたちがいるよ」
「話しちゃダメよ。アイラちゃんも言ってたでしょ? あいつらは仲間だけど仲間じゃないの」
姉妹の会話が入ってこない。もう少しで誰だか思い出せそうで──ガシャンと背後で音がした。清春達の近くに誰かが降り立ったのだ。振り向くとメイド姉妹が嬉しそうな声を上げた。
「アイラちゃん。お疲れ様です」
「おつかれさまでーす!」
その異形に全く臆せずメイド姉妹は嬉しそうな顔で声をかけた。
全身鎧のような装甲に覆われている。頭頂部からは長い地毛であろう銀髪が放射状に飛び出していた。二人の頭を優しく撫で、アイラは視線を清春と同じ方向へ向けた。そして、アイラの出した声を清春は聞き逃さなかった。
「美鈴……!」
複雑な感情の入り混じった女の声だった。
昔キメセクした後、包丁振り回しながら自分の名前を叫んでいた女もこんな声の出し方だったなとふと高校生の記憶が蘇ってきた。それはそれとして、ああ、そうだ。眼鏡をかけていないし意味のわからない髪の色をしているからわからなかったがアレは美鈴だと清春もようやく気付いた。コイツと知り合いなのだろうか。こいつからの情報を引き出したいと清春は考えた。
「君どちらさん? もしかして美鈴の友達? よかったらご飯いかない?」
だが、本能には勝てなかった。頭で考えてみたが出て来た言葉は何時もの言葉。
そして、アイラはゆらりと清春に正対し、返事の代わりに勢いよく拳を突き出して襲い掛かった。
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