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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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63/78

前科63:デートに水筒持参はポイントが高いと思うんだがどうでしょうか


 

 

「Oh……!」


 擬音が口から洩れた。目を覚ますと見知らぬ部屋であった。

 白を基調とした部屋だ。大きな窓からは東京の夜景が広がっていた。近くに歌舞伎町タワーが見える事から、この見知らぬ部屋は己が飲んでいた近辺なのだと伊庭八代は気づいた。寝ていた床から起き上がると、ベッドの端に女性の下着。そして誰かがベッドの中で寝ているふくらみが見えた。


「確か……兄ちゃんと飲んでて……」


 何時ものように全裸で前後の記憶があまりない。通常営業だ。

 久しぶりに三男から連絡があって「俺の奢り」の一言で昼から飲んで四件目に突入したまでは覚えている。最後に辿り着いたのが歌舞伎町だった。四軒目のキャバから今に至るまでの記憶がないが頭の痛みで死ぬ程飲んだのだけはわかる。


「まさか……!」


 女性用下着。チャラい三男と一緒にキャバ。これは……。

 集中して周囲の気配を探るも物音すらない。完全に2人っきりという事になる。どうやら記憶がないまま童貞卒業してしまったらしい。何故なら使用済の避妊具まで転がっているからだ。

 

「ご馳走様でした」


 両手を合わせて神と女神に感謝をする。

 僕の運命の相手は誰なのか。そそくさとベッドに近づいてかけ布団をめくった。


 ①和彫り

 ②色黒

 ③パンチパーマ

 ④おじさん


 視界に飛び込んできたのは地獄の四点セットだった。

 流石の八代もこれには悲鳴が隠せない。


「うぎゃああああああああああああああああああああ!?!?!?!」


 何で何でどうして怖いよと頭がパニック状態に陥る。

 八代の悲鳴で反社のおじさんも意識が覚醒したようで一瞬驚いた顔をしながらもすぐに顔が険しくなった。枕元の収納からすぐに拳銃を取り出して八代へと向けた。どうやらここは彼にとって見知った空間らしい。

 

「テメェ、何さらしとんじゃ……!」


「知らないよぉ! 僕の童貞を返して!」


「あァ!?」


 反社のおじさんも顔には出さないが混乱していた。

 男色の気は無い筈だ。おじさんも死ぬ程酔っぱらっていて記憶が定かではない。拳銃を構えながらも必死に脳を覚醒状態に持っていく。どこかで見た事のある金髪の男だった。


「てめぇ、銀泉会の──」


「おじさん。極業会の──」


 二人は同時にお互いの正体に気づいた。

 極業会組長、神東浩二。支配の魔剣、伊庭八代。お互いの関係は最悪に近い。八代は敵対組織の関東銀泉会と非常に近しい立場にある男だからだ。


「やっぱテメェ、銀泉会の鉄砲玉かァ!」


 容赦なく引き金をひく。「ひぃん」と悲鳴をあげて八代が防御魔術を発動して防ぐ。

 銃も魔術師に対してはあまりに弱い世界になってしまっていた。全く効果が無い。銃声を聞きつけて組員達が騒ぎ出した。マンションの隣の部屋からどたどたと音が聞こえる。組員達が異変に気づいたようだ。


「てめぇらさっさと来やがれ! カチコミじゃあ!」


 これには八代も顔を青くした。極業会と揉めるのは本意ではない。

 最近足しげく通っているコンカフェのケツモチは極業会だ。キャストのまりんちゃんには5万も投資している。こんな事で諦めるにはあまりに惜しかった。


「おじさん。──五千円払うから今回の事水に流してくれない? 財布ないんだけどさ」


「……バカかテメェは?」


「じゃあ一万! これ以上は出せないからな! クソが!」


「高校生の喧嘩じゃねェぞコラァ───!!」


 組長が怒鳴ると同時、構成員の怖いおじさん達がドアを突き破ってわらわらと入って来た。

 これはもうダメだと八代も面倒くさくなってきた。()()()()()()()()()()()()、歌舞伎町が歩きにくくなる。真実を知る人間はただ一人。一緒に飲んでいた兄だ。今までの経験から兄にハメられたのだと薄々わかって来た。


「ってい!」


 あいつをボコボコにしてこいつらの前に突き出すしか健全なコンカフェライフは見込めない。

 指を噛んで支配の魔剣を召喚。その禍々しさに組員達が一瞬たじろいだ隙を見逃さず、窓ガラスを剣で砕いてそのまま飛び降りる。


「僕をまたハメやがって! 絶対兄ちゃんに落とし前つけさせてやるからな……!」

 

 夜の歌舞伎町の空を全裸の男が憎悪に顔を歪めながら落ちて行った。












「マジか! あのバカ逃げ切りやがった」


 くはは。と思ってしまい思わず咥え煙草が落ちそうになった。

 あの弟なら皆殺しにするかと思ったが、ここ暫く会わない内に弟も変わったようだと伊庭総司は雑居ビルの屋上で一人笑った。オフィスカジュアルにスニーカー。反社チックな格好の男だ。

 伊庭家の三男。伊庭家の運営側に回っている虎之助と違い、勘当まではされてないものの伊庭家との折り合いはよくない。


「まぁいいか。これで、銀泉会と極業会が和平路線に入るのは遅れるだろうし」


 荒れに荒れている歌舞伎町。誰が敵だか味方かも定かではない。

 そんな中で総司が所属する組織において、和平へと舵を切ろうとしている銀泉会と極業会が結託するのはあまりよろしくなかった。それで関係者の弟を騙して一芝居うってはみたが、中々期待通りにはいかなかった。こちらとしては八代が極業会を()()()にすると思っていたのだ。


「よぉ。こんなとこで何をしてんだ?」


 総司の背後から声が聞こえた。

 カタギには見えない男が何時の間にか背後に立っていた。横には外国人が二人。二人とも白人の女でまだ子供だ。総司の顔がつまらないものを見たかのようにげんなりとした顔になった。


「オマエさんのとこからすりゃラッキーだろ。銀泉会潰せば歌舞伎町はアンタ達が一気に優位に立てる」


「……伊庭総司。テメェ警官なのに何でこんな事してんだ? ()()が違ェだろうが」


 伊庭家を出奔して総司が選んだ就職先は警察官だった。

 しかも高卒。伊庭の直系の魔剣使いで魔術大学へ進学しなかった稀有な進路を選んだ伊庭でも異端の男である。

 

「あっ。俺の事知ってるのね。半グレのくせにやるじゃん。名前なんだっけ?」


 総司は目の前の男を知っていたが名前までは思いだせない。

 元暴走族の現実業家であるぐらいだ。組織においてそれなりの役職者であるが総司にとっては小物だ。総司が知りたいのはこの事件の大本だ。こんな枝のチンピラではない。管轄と言ってきた時点で、総司の事を見抜けてないとわかったからだ。


「フェラ。チオ。やれ」


 男が傍らの少女達に言葉だけで殺人を促した。

 魔術印を発動させる事なく少女達が高速でステップを踏む。──それだけで血継魔術師だと見抜ける。ヤクザが暴対法で弱ってからは半グレの金回りがよくなり、血継魔術師を使役しているのが昨今の情勢である。

 

「可哀想に。センスねーよ。お前」


 総司が腕を一瞬振った。達人の動きのようで一瞬しか見えない。

 だが、少女達の体はそれだけで真っ二つに両断され、その短い生涯を終えた。男の顔が驚愕に染まる。組織の中でも上位の血継魔術師がこの一瞬で二人も殺されてしまった現実が信じられない。幾人もの人間を彼女達を使って殺してきた筈なのに、と現実を受け止めきれないようだ。


「相手が悪かったな。──俺の魔剣は、全魔剣の中で一番速ぇ」


 斬撃や剣の形すら見えなかった。

 まさに神速の技と魔剣である。今度は総司が突くような動作をすると、男の体に無数の穴があいた。血飛沫が飛び散り、男が苦悶の声を上げる。


「マル暴でもねぇテメェがどうして……?」


「オマエ何もわかってねーんだな。それなのに、どうしてお前んとこの組織はお前なんか寄越したんだ?」


「はぁ? ──ッッッ! アイラの野郎糞がッッ!! ハメやがった!!」


 総司の言葉に男が激しい怒りを示した。反応から察するにハメられて偶々現れたのだろう、会話に少しズレがあったのも納得だ。この半グレ組織も一枚岩では無さそうだった。それが救いとも感じる。自組織ですらこの件について情報がほぼ無いのは珍しいからだ。アイラ。名前を覚える。ここから崩していくのがいいかもしれないとほくそ笑む。


「よっしスッキリした。最期に良い事教えてやるよ。──俺の業務は、()()()()()()()()を守る事だ」


「テメェ公ァ──」


 魔剣が振られて言葉の途中で首が胴体から吹き飛んでいった。

 それと同時、魔剣が吹き飛んでどこかへと消えていった。支配の魔剣の能力だと舌打ちする。


「あっぶね……」


 数分八代が使うのが早かったら殺されていたのは自分だ。

 どっと冷や汗が噴き出してきて、総司は力なくそのまま屋上にへたり込んで空を見上げて呟いた。


「そらうちの実家もアイツを殺しにかかるわけよな……」

 




  



 都内でも有名な大病院の夜。

 守衛の前を顔パスで通り過ぎた後、在原清春は何時ものヘラヘラとした表情を崩さず歩いていた。

 立科の情報だけは早々に伝わっていたので伝手を使って、自分の息がかかった病院に運び込んだのだ。手厚い治療の処置を終えて命だけは助かるようではあったが、日常生活に支障が出るほか魔術師としての回復は難しいとの事だった。


「坊ちゃん。お疲れ様です」


 清春が用意した特別室の前に居た付き人が立ち上がって頭を下げた。

 警察内の動きは既に把握している。東京魔術大学での不祥事という事でありとあらゆる勢力が情報統制に走り、それに対抗する警察といった縮図だ。手持ちのスマホに次々と情報が寄せられてくる。在原家とは別の清春のセフレ達で構成された情報ネットワークだ。

 これは在原家の情報ネットワークと組み合わせた時の効果は凄まじい。だが、今回は面倒くさい事情がある。


「この案件にこれ以上介入するなと本家から連絡が来ています」

 

 舌打ちをする。予想はしていたが動きが速い。

 父が海外に行っているのでもう少し余裕があると思いきや珍しく動きが速い。そこに疑問が湧いたが答えは既に出ていた。


「薬の出所は、歌舞伎町勢力のどこかって事?」


 普段何をやっても後からカタをつける在原家がこの速さで介入してくるのはそこしか考えられなかった。日本で一番治安の悪い街。東洋の魔都。表向きは歓楽街だが、完全に裏社会が支配する街となっている。三十年前の事件からの復興の裏で、裏社会が新宿区を牛耳るようになってからは歌舞伎町が悪党たちの根城の中心となっている。摘発しようにもそこだけは聖域としてずっと守られてきており、司法の悩みの種になっている程大きくなっていると聞いた事があった。


「さぁ? 私にはそこまでの権限は無いので」


「だよな。とりあえず警察来たら追い返しといて。弁護士も木谷先生に依頼しておいてよ。あいつは中に居る?」


「かしこまりました。中にいらっしゃいます」


 返事を待たずに清春は病室の戸を開けた。

 一日辺り数十万もする病院の特別個室だ。部屋の最奥にベッドがあり、椅子やソファーも並んでいる。そのソファー席には憔悴しきったような女が居た。立科の友人だ。彼女を一先ず無視して、清春は立科の寝ているベッドへとゆっくり近づいていき顔を眺めて声をかけた。


「よォ。しばらく会わない内にお互い変わっちまったな」


 無論返事はない。体中にチューブが刺さっていて痛々しい。

 意識は戻っていない。美人というわけではないが愛嬌のある顔立ちだ。最後に会った時と比べると随分柔和に見えた。清春の知っている立科はエリート思考の並の東魔大生といった感じであった。

 随分伸び悩んでいたところに付け込んでナンパしたのがきっかけだったのでその辺りはよく覚えていた。


「──こんな堅物を絵に書いたような女がさ。どうやったら歌舞伎町になんて辿り着くんだろうな?」


 立科に声をかけたのではない。憔悴しきっている立科の友人に声をかけた。

 一番仲が良いと言っていたのを覚えている。名前すら憶えていないが数回会った事がある。

 女は頭を抱えながら清春の質問に言葉を絞り出し始めた。


「一回だけのつもりだったの……。試験の打上げでホストの初回で遊ぼうって話になって……。立科しっかりしてたし、息抜きも兼ねてねってだけだったの! でも知らない内に通うようになってて。あたしだってもう行っちゃダメって何回も注意したけど! 結局裏で会ってたみたいで……」


「指名してたホストの店と名前教えてよ」


「AMUTOLUNAの夏目諭吉って人。幹部補佐だって……」


「……滅茶苦茶頭の悪そうな源氏名じゃねェか。お前ら正気かよ」


 検索してみるとすぐに出て来た。それなりに売れそうなホストに見える。

 店はまだ営業してそう長くない。関西系グループからの出店との事で関東銀泉会の系列では無さそうだ。この面倒くさい事情の中で、八代みたいなアホの相手をしている暇はない。ケジメをとったらそれで終わりだ。URLと定型文を組み合わせてコピーをして、トークアプリのグループに貼り付けながら清春は言葉を続けた。


「今日はもう帰れ。外の奴が家まで送るからよ。んで、明日以降はうちの弁護士の指示に従って、警察が来ても余計な事は喋るな」


「……うん。清春君はどうするの?」


「お前には関係ねーよ。自分の事だけ考えてろ」


 吐き捨てるようにそう言うと女が下を向いて立ち上がり部屋から出て行った。

 後に残った清春はもう一度立科の顔をじっくりと眺めた。自分でも不思議な感覚だ。半分関係が切れていて特段美人でもない人間にここまで力を貸している事なんか珍しい。弁護士を紹介して見舞金を出すぐらいで丁度いい。


「つまんねェ女だった筈だよな……」


 それなりの家の生まれだった筈だが質素な女だった。

 派手な遊びを好まずデートも大きな公園で二人でとりとめのない話をするか、黙ってお互いのしたい事をするだけだった。彼女の前でも他の女にメッセージを平気で送っていた。向こうも向こうでよく本を読んでいて──


「お前の持ってきた紅茶、意外と好きだったんだよな」


 立科は水筒を常に持ち歩いていて、その中に入っていた紅茶が美味しかったと思いだした。

 水筒を持ってくるだけで評価が上がるなんて、意外と自分も可愛い部分があるなと自嘲気味に笑う。


「きっちり落とし前はつけてくるからよ」


 最後に頬を優しく撫でて清春も部屋を後にした。本心は最後まで言わなかった。

 水筒よりも金がかならない事よりも、あの二人で黙って過ごす時間が意外と嫌いではなかったと伝える資格が己にない事はわかっているからだ。






面白かったらブクマ評価等お願いします。

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私をフォローせずに東魔大のクソどうでも良い話が読めます。

よければどうぞ。

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