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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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62/78

前科62:酒を飲んだ時の方がまともな事を言う人間は実在する。



「っしゃぁッ! 本当に、俺が打ったら千ヶ崎さんとのデートをセッティングして貰えるンすよね!?」


「アタシが約束破った事あったか? 真央ボッコボコにしてでも当日連れてってやるよ」


「人間じゃねぇよアンタ……」


 初夏の東京魔術大学。三限の授業終わり。

 グラウンドで行われていた野球の授業の最後に生徒同士による賭け野球大会が行われていた。

 主に女子と男子に別れての対決となっている。マウンドにはジャージ姿の菊姫梢子。バッターボックスには田所三郎の姿があった。ルールは簡単。菊姫梢子からヒットを打ったら、菊姫梢子が何でも願いを叶えてくれるというルールだ。挑戦料は一打席五千円。男達はなけなしの金をかき集めて列を作っていた。

 

「行くぜ!」


 菊姫梢子の全身に魔術印が光り、大きく振りかぶって投げた。

 田所も全身に身体強化魔術をかけて構えている。だが──視認できない速度で投げられた球はバットを振る間もなくキャッチャーミットに吸い込まれた。唖然とする田所と同時、キャッチャーを務めていた立科麻耶(たてしなまや)は恐怖に怯えていた。

 

(本当に来た……。こんなのくらったら死んじゃう……)


 梢子からは事前に構えた所に絶対投げるからミットの位置だけ動かすなと言われている。

 光栄だった。血反吐を吐くぐらい勉強して入学したこの大学で、トップクラスで誰もが知っている魔術師に声をかけられた時は胸が躍った。去年入学した時からずっと憧れていた。自由で、強くて、とてもカッコいい憧れの魔術師だった。誰にも媚びないその姿勢が素敵だった。あんな魔術師になりたかった。


「ナイスキャッチャー!」


 梢子が親指を立てて称賛してくれた。気さくな先輩だと思う。

 皆は怖くて近寄りがたいというが、血継魔術科は話してみると意外と普通に対応してくれる事が多い。キャッチャーミットの手の感覚がまだ痺れている。──足りない。もっと上位の魔術師になれたら、この球も余裕で受け止められただろう。実際この大学に入ったら全国から集められたバケモノ達の巣窟だという事はこれ以上なくよく身に染みていた。


「くっそおおおおおおおおおおおおお!」


「任せろ田所。俺が必ず打ってやっから──!」


「おっ。次は山崎か。何が望みだよ?」


「俺が打ったら、今度桜子先輩の家に遊びに行く時同伴させてください。──俺一人じゃ、怖い!」


「……情けねぇカス野郎だな。そういうとこだぞマジで。まぁ、受けてやるけどさ」


 あっという間に田所から三振をとった梢子だが、山崎が相手ともなると表情が少しだけ締まった。

 立科もこの一見バカそうに見えるマッチョの優秀さは知っている。授業中寝ている。よく大学でバカ騒ぎを起こしている。だが、同じ身体強化魔術を専攻していると嫉妬の対象でしかなかった。「勘」や「雰囲気」で新しい魔術を作られてはたまったものではない。じゃあ、自分が毎日勉強している事は何なのだ。予習復習、そして専門書まで買っているのに、このバカが生み出す魔術を超えたものは一つもないのだ。


「──憤ッ!」


 鈍い音がして弾が背後へと吹き飛んでいく。──当てやがった。と驚愕に染まった。

 こんな地方出のそこまでの進学校出身でもない男がである。それでいて推薦入学試験に通ったというのだから腹立たしい。東京出身、家は魔術師の家系で親戚内では神童と言われた己ですらこのザマなのに。だが、嫉妬の炎を燃やさている事には気づかず山崎は変形したバットを取り換えて、今度は卑猥な器具を構えだした。死んでほしい。女子も居るのにあんな男性器を模した棒を構えて何になるというのだと立科は怒りまで湧いてきた程だ。


「うおおおおおおおおおおおッッッ!」


 再び渾身の腰の入ったフルスイング。鈍い音を立てて吹き飛んだ打球はピッチャーフライ。

 梢子が少し焦った顔をしながらも何とかキャッチをして事なきを得る。あんなディルドでどうして打てるのか意味がわからないし、傷一つないディルドも怖い。そんな事を考えていると山崎の腕の違和感に気づいた。

 

「ねぇ、山崎! 腕やばくない!?」


 次の球に集中しようとした山崎が立科の声で自分の腕を見る。

 両腕が変な方向に曲がってぷらんと垂れている。ようやく脳がそう認識した時、激痛が走り始めた。梢子の球の威力に負けてへし折れたのだ。「うぎゃあああああああ!」と叫びながら痛みに転げ始めたので、男達は慌てて駆け寄って転げまわる山崎を回収しながら作戦会議を始めた。


「山田先輩のディルドなら耐えれるが、今度は山崎の体が耐えられんか」


「しかしアイツ以上に身体強化できる奴なんて中々おらんぞ。八代はサボりだし」


「ううむ……。これ以上人柱を増やしても死体が増えるだけだ……」


 男達の視線がちろりと一人の男子生徒に集中した。

 ケラケラ笑いながらこの戦いを観戦していた男子生徒だ。先日行われた五月祭で最も株を上げた男──鈴木颯太。立科がずっと視界にすら入れなかった上級生だが、あの戦いを期に学内でも有数の有名人となっていた。


「鈴木先輩。俺達の仇をとって下さい。お願いします」


 男達が全員で土下座し始めた。呆れた統率力というか、プライドの低さであった。

 流石に複数人の男子生徒から土下座されては断り切れない。嫌々といった感じでバットを持って打席に立とうとする。

 

「コレじゃないと死ぬよ」


 山田が颯太にディルドを手渡した。学内でもトップクラスの変質魔術の山田謹製のものともなれば血継魔術科に匹敵する。だが、そのブツは最悪だ。颯太以外の男子生徒はトチ狂っているので、ディルドを持ってバッターボックスに立つという恥ずかしさを理解できない。嫌々といった感じでロングディルドを構えて打席に立つ。梢子の動きが流石に止まる。しばらく「うーん」と考えるとタイムを提案した。


「姫先輩。どうします?」


 立科だけではない。フィールドにいた女子生徒達も梢子の周りへ集った。

 

「颯太はヤベェな。嘉納先生並みだ。流石に本気出せねぇとダメだ。──つーわけで、メンバーチェンジ。美鈴、キャッチャーやってくれや」


 梢子から少し距離をとった先、興味なさげに明後日の方向を向いていた生徒に視線が集まる。

 血継魔術科の一年生だ。立科は梢子の言葉のショックが大き過ぎて上手く言葉が出てこなかった。手加減されていた。見放された。足手まといだった。嫌な思考がぐるぐる回りだす。そんな立科を気遣うように、梢子はニヤリと笑って言った。


「確か立科めっちゃ高く跳べたじゃんな。アタシ多分打たれるから、美鈴の代わりにライト守ってくれよ。──期待してるぜ」


 肩をポンと叩かれて少しだけ正気に戻る。動揺しながらも美鈴にキャッチャーミットを渡すが本人は「どうも」とだけ興味無さそうに返した。一年生にしては随分と可愛げがない。屈辱めいた気分を感じながら立科は自分の守備位置に向かって走り出した。守備位置から見守っていると信じられない光景が見えて来た。先程までの球が遊びに見えるような複雑な軌道と速度で投げたのだ。それを正確に軌道を見抜いて美鈴が受け止めたが、あまりの威力に後ろに五メートル程下がったぐらいだ。


「殺す気かバカ野郎!」


 颯太が怒鳴り声をあげるが口元が笑っている。

 魔力が全身に集中し始め、黒い文様が浮かび上がった。学科対抗戦で脚光を浴びた魔闘術を発動させたのだ。立科にとっては絶対に辿り着けない景色を見ているような気持ちだった。劣等感が強く刺激される。今日もこれか、と。

 無意識にポケットからラムネ菓子の包装を取り出す。()()()()()()()()()()()()()()()を出して口に含んだ。今日、七粒目だ。一限から出席して、自分よりも上の存在に出会う度にこれが止まらなくなってしまうようになった。


「くたばれやああああああああああ!!!!」


「それが球を投げる掛け声かよ!」


 異様な音を立てて投げられた球を颯太が魔闘術で強化した肉体とディルドで迎え撃つ。

 颯太も全力でボールを見据えると思い切りバットを振った。腕が持っていかれそうな手応えだが、構わず振りぬく。力比べは颯太の勝ちだったボールがぐんぐん高く上がっていく。男達が歓声を上げた。


「立科ァ!」


 梢子の声が響いた。その期待に応えたい。報いたい。

 身体強化魔術を重ね掛けしていく。薬の効果のお陰で無尽蔵に魔力が湧いてくるような感覚があった。展開。展開。展開。展開。その工程を一瞬で複数編み上げ、立科は全力で走りながら空へと跳躍した。その高さは美鈴が守っていた場合を超えていたかもしれない。

 自分自身今までで一番高く跳べた気がした。魔術師の範疇を逸脱した高さまで跳んでボールをキャッチした立科は満足そうに笑った。

 

「やった……ッ!」


 だが、限界を超えてしまっていた。

 魔力の制御ができない。止まらないのだ。全身から何もかもが抜けていく感覚がする。

 行き場を失ったエネルギーは暴走を始め、バチバチと音を立てて周囲の空間へ破壊のエネルギーとなって爆ぜていく。わからない。どうして。今までこんな事は無かったのに。()()()()()()があるだなんて聞いていない。


「嫌ァ…………! ()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


 小さく最後の恨み節を吐いたと同時、暴走した魔力が爆発を起こして立科の体を呑み込んだ。

















 夕刻。大学も終わり日が陰って来た時間。

 千ヶ崎真央は授業を終えて曙橋付近の居酒屋へと向かっていた。梢子のお気に入りの店があるのだ。女だけで飲もうなんて珍しいと思ったが、八代と清春は今日同じ授業で見かけていないのでどの道こうなっただろうなと思う。店に入るとアルバイトの男の子が顔を見ただけで個室を案内してくれた。梢子と飲む時は大体ここなのだ。


「ごめんねー。遅くなっちゃったー!」


「バカの癖に真面目に授業受けてんじゃねーよ! どうせ教授にまた媚売ってたんだろ!」


「こういう小さな積み重ねが奇跡を生むんスよ姫先輩。来年同級生になったら梢子ちゃんって呼ぶからね!」


 ぐぬぬ、と痛い所を突かれて梢子が黙った。

 ここ最近は頑張って授業に出ているものの、成績は圧倒的に低空飛行だった。真央は提出物と出席が良いのでギリギリ単位を貰える事が多い。去年までは自分の同級生があれこれ世話を焼いてくれたので何とか進級してきたが、彼がいなくなった今、梢子の進級はかなり危うくなってきていた。


「とりあえずハイボールにしようかな」


「もう頼んでおきました」


 メニューとずっと睨めっこしながら美鈴が言った。この面子で外飲みするのは初だな、と真央は気づいた。美鈴が夕飯まで付き合ってくれるのはとても珍しい。いつも自分の授業が終わるとさっと帰るか、最近は友達ができたようで三人でどこかへいく姿も見かけていた。とっている授業が違い過ぎて昼かゼミでしか会えないので、今日は沢山語り明かしてやろうとやる気が出て来た。


「っていうか、今日大学で何かあった? 警察とか救急車来てたじゃんね。八代と清春も見かけないし、あいつらまた捕まったりしたのかな?」


「……いや、違ェよ。ちょっと体育の授業で色々あってな」


「端的に言うと、ドラッグの過剰摂取で魔力が暴走状態に陥った生徒がいたんですよ」


「ああ、何か最近私大の子達の間で流行ってるんだっけ……。」


 私立大学にも魔術科は存在している。しかし、東魔大や京魔大に比べると明らかに質は低い。

 どちらかといえば私立は魔導力に近年力を注いでいるぐらいだ。魔術師が持て囃された時代も近いうちに終わりを告げるだろう。だが、それでも魔術はまだ人類の夢だ。違法な薬を使って魔力や魔術の強化は古の時代から行われてきたが、現代では法で禁止されている。この手のドラッグは魔術師に憧れる一般人に人気な事が多かったが、近年では魔術師界隈にも出回ってきたようである。


「この大学に入っても、そのようなモノに手を出してしまう方がいるのですね」


「アタシ達が居るからね。地方で神童だって崇められた奴らが努力に努力を重ねて入った先に、アタシ達みたいのが居たら自分の努力って何だったんだろう?って思う気持ちもわかるけどな」


 梢子と真央が嫌な事を思い出してしまい顔を歪ませた。

 美鈴はまだ入学して間もないが、梢子と真央もそれなりに嫉妬は浴びせられた事はある。彼ら彼女らが血の滲むような努力をしても、正面対決をすれば血継魔術科の足元にも及ばない事が殆どなのである。


「誰しも皆が、この前戦った魔術科の人達みたいに努力が実を結ぶわけじゃないしね」

 

 桜子達とて、血継魔術科には劣るものの東京魔術大学の中でもトップクラスの猛者だ。

 そういう才能のあった人間達が正しく努力を重ねた結果だ。魔術科の普通の生徒が相手ならばあのような接戦になる事はまずありえないのだ。東京魔術に入学し卒業したとしても、大抵の人間が魔術の歴史に名を遺す事なく消えていく。それは血継魔術科に所属できた梢子達も例外ではない。

 

「どういう魔術師で在りたいのか。──多分、この大学生活で一番考えなきゃならねェ部分ってそういうとこなんだろうな。支配の魔剣を持ってたって、暴発魔術が使えたって無力な事もあるし、世間から見りゃ何も偉くなかったりするもんだ。多分、追いつめられるとそこまで頭回らなくなっちまうんだろうなァ……」


 梢子が紫煙を吐き出しながらそう吐露した。

 真央がこっそり耳打ちして「稀にお酒飲んでる時の方がまともな事言うんだよ」と美鈴に教えた。普段からこの調子で酔っぱらってくれればいいのにと美鈴は頭の中で神に祈った。

 

「アタシだって八代やマロ先輩に嫉妬する事だってある。──お前らはあんなモンに絶対手ェ出すなよ。あのヤク絡みで新宿辺りが相当きな臭ェ事になってるみてェだからそっちにもしばらく近づくな」


 珍しく美鈴達を威圧するような口調で梢子がそう言った。

 真央はその梢子の言葉の意味がわかっている。去年、新宿で裏社会と揉めた時の事は忘れていない。

 

「また鈴々飯店の人達?」


「あいつらも相当ケツに火がついてるみてェだ。半グレとマフィアが手ェ組んで勢力図塗り替えようとしてるらしくてな。誰が味方で誰が敵なのかわからねェような感じだってさ。最近じゃ、銀髪の女魔術師が手あたり次第ヤクザぶっ殺してまわってるなんて話もあるぐらいだし……。各国の裏社会に居る血継魔術師大集合らしいぜ」


「銀髪……」


 美鈴の脳裏にかつて新宿周辺に住んでいた頃の記憶が蘇ってきた。

 母が死んで何も言えずに西園寺の本邸に連れていかれてからずっと会っていなかった友人達の事を思いだす。綺麗な銀髪だった。彼ら彼女らは今もあの街で生きているのだろうか。

 西園寺家に引き取られてからはずっと英才教育と全寮制の学校に押し込められていたので今の今までずっと忘れてしまっていたのだ。そんな美鈴の反応に嫌な予感を感じたのか梢子は目を細めて脅すように続けた。


「八代と清春にもしばらく近づくなよ。あいつらもバカじゃねェから学校の奴ら巻き込まねェとは思うけど、八代の身元引受人は関東銀泉会の組長だ。今、あの辺りで一番の的にされてるヤクザだからよ」

 

「清春も何か関係あったっけ? あいつもよくヤクザの女に手を出して追いかけまわされたりしてるけどさ」

 

 真央の疑問に梢子はため息をついて「誰にも言うなよ」と前置きした上で忌々しそうに呟いた。


「──立科は清春の女だったんだよ。あいつが自分の女ヤられて黙ってるわけねーからな。在原家まで絡んだヤバい戦争になるぜ」






第三部始まりました。

面白かったらブクマ評価等お願いします。

Twitterで #東魔大どうでもいい話 で検索すると

私をフォローせずに東魔大のクソどうでも良い話が読めます。

第三部はタグの「東魔大ちょっと昔①~⑥」にて前日譚みたいな話を公開してます。

よければどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました
[一言] 第3部きたあああああああああああ イケメン清春待ってます!!!!!!!!!!!! 八代は脱衣麻雀で破産しててほしい
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